レイの友人たち
レイは結局、楽しみにしていたワンホールケーキ食いを達成することは出来なかった。
すき焼きでお腹が一杯だったこともあり、デコレーションケーキの半分まで行くと、もう胸がむかむかして気持ち悪くなり始め、初めてのワンホール食いはそこまでで終了となった。
ギルフォードは恐る恐るといった様子で残ったケーキを食べ始めたけれど、一口食べるとその美味しさが分かったようで「お腹いっぱいなのが悔やまれる」と涙を流しながら、ショートケーキ一個分ぐらいのケーキを食べていた。
その後、レイの渡した果実酒で酔い始めたギルフォードを客室に連れて行こうとしたけれど、「やだやだーレイと寝るー」と子供のような我儘を言い出したので、仕方なく抱き枕となりつつ一緒に寝ることにした。
ギルフォードは通常でもうざい人だけど、酔うとそれ以上にうざくなる人だと学んだレイは、この人には酒は厳禁だと抱きしめられながら学んだのだった。
深夜になりギルフォードが大きなイビキをたて始めたころ。
レイは友人が訪ねてきたことを察知した。
ギルフォードに絡まれた腕を外し、そっと自身の寝室を抜け出す。
そして玄関から庭に出てみれば、懐かしい友の顔がそこにはあった。
「ハヌゥ、アセナ、ボウロ、ステゥム、みんな久しぶり、来てくれたんだね」
レイが声をかけると、友人たちがレイのもとに近づいてくる。
レイはそんな友の体に抱き着き、そのモフモフ感を堪能する。
ハヌゥは猿型の聖獣。
この世界の南の地方を守っているらしく、その熱い地を表すような赤茶色の毛色だ。
そしてレイが抱き着いたアセナは狼型の聖獣。
北の地方を守っているらしく、白のような薄い水色のような色合いの毛色を持っている。
そして一番体が大きいボウロは熊型の聖獣。
西の地方を守っているらしく、火山があるからか墨色の体で、初めて会ったときは前世のあの有名キャラをちょっとだけ思い出した。
そしてステゥムは鳥型の聖獣。
東地方を守っていて、森が多いからか濃い緑色の体に尾羽の方は赤い色が混じっているとてもきれいな鳥だ。
レイに東の国オーストの品をいつもプレゼントしてくれるのもこのステゥムなのだ。
前世の記憶持ちとしてはそのことには感謝しかなかった。
「レイ、おめでとう、また大きくなったな」
ハヌゥがレイの頭を撫で、祝いの言葉を掛けてくれる。
レイの体が光り、また一年の加護をもらえたことが分かる。
ハヌゥは火の魔法持ちだが、体も丈夫にしてくれる。
お陰でレイは風邪など引いたことはない。
病気知らずは有難いことだった。
「レイ、おめでとう、一年無事でよかったわ」
アセナがレイの頬をぺろりと舐め、お祝いをしてくれる。
レイの体が光り、ハヌゥの時と同様に加護をもらったことが分かる。
アセナは水の魔法持ち。
今年はレイに素早さをプレゼントしてくれたようだ。
これで臭い魔獣からも完璧に逃げ切れるだろう。
レイは安心した。
「レイ、おめでとう、これは祝いの品だ」
ボウロが大きな魚を空間庫から取り出し、レイに渡す。
その大きさに思わず後ろに倒れそうになったけれど、レイは意外と力持ち、大切なマグロを地面に落とすはずがない。「ありがとう」ときちんと礼を言って自分の空間庫にしまった。
「レイ、おめでとう、これは私からよ」
ステゥムはいつものごとく様々な食材をレイに渡してくれる。
醤油もそうだし、味噌もそうだ。
ステゥムがいなければこの異世界がすぐに嫌になっていただろう。
ある意味ステゥムは食の恩人でもあった。
「みんな、有難う、すっごく嬉しいよ」
一年ぶりに会えた友人たちにレイは心からお礼を言う。
彼らも守る土地があるのにレイの誕生日には必ず会いに来てくれるし、困ったことがあれば必ず駆けつけてくれる。
じっちゃんが亡くなった時も皆すぐに駆け付けてくれて、レイが落ち着くまで傍にいてくれた。
精霊王の愛し子同士の仲間は、いわば兄弟のようなものだった。
「レイ、おめでとー」
「レイ、おめでとー」
聖獣の眷属である妖精たちも、レイの傍に飛んできてお祝いを言ってくれる。
今日はギルフォードが遊びに来ているから皆嫌がって森から出てこないと思ったけれど、聖獣が来て安心したのかやっと顔を出してくれた。
「レイ、貴女十二歳になった途端に番を見つけたの? まだあなたの幼さだと子供は出来ないと思うけれど?」
「番?」
番って誰のこと? と考えるレイの前、レイの部屋の窓をステゥムが意味深な表情で見上げる。
「ふむ、俺と同じ土を使える魔法使いか、レイ、中々いい相手を選んだじゃないか」
ボウロが何故か自慢気に頷く。
魔法使いと聞いてこの屋敷にいる人間はギルフォードしかいない、皆の言っている番がギルフォードのことだと分かる。
「でもアレは王家の血が流れているわ、レイを王家に搾取されるようなことがあれば私が許さないわよ」
アセナがツンとした様子で答える。
土魔法使いが気に入らないのか、それともこの国の王家が気に入らないのか、ギルフォードがレイの番では納得いかないようだ。
「番はレイを守れる奴じゃないと俺は認めないぞ」
腕を組みフンッとふんぞり返ってハヌゥが答える。
ハヌゥはじっちゃんと一番仲が良かったので、じっちゃんよりも強い相手でなければレイの番とは認めないのだろう。レイは一生結婚できないのかもしれないと思うが、まあ別にそれはそれで構わない。結婚自体が面倒だからだ。
「あのね、みんなガチで勘違いしているけど、ギルフォードさんは私の番じゃないよ、冒険者の先輩、ただの指導係だよ」
「指導係?」
「そう、冒険者のこと教えてくれるんだって」
ふーんといった様子で皆がレイの部屋へと視線を送る。
ギルフォードがぐっすり寝ていてくれてよかった。
聖獣からの視線を一身に集めたら生きた心地がしなかっただろう。
「だが、あれはレイよりも弱いだろう? 指導できるのか?」
「強さはかんけーないんだって、冒険者の心得? とか、行動を教えてくれるんだよ」
「ふむ、そうなのか、だったらまあ、許してやってもいいが……」
親目線なのかハヌゥが目つき鋭くレイの部屋を見つめた。
ギルフォードはうざい指導係だけど、ギルフォードといて今日一日レイは楽しかった。
だからだろうか、つい擁護する言葉が出てしまう。
「それにね、ギルフォードさんは馬の乗り方も教えてくれるんだって」
レイがマイ馬を欲していたことを知っているだけに、皆「そうか」と納得してくれたようだった。
「あ、そうだ、ギルフォードさんに私が精霊王の愛し子であることって言ってもいいのかな?」
冒険者ギルドで水晶が表示したのだ。
それほど重要ではないと思うが念のため皆にレイは相談をする。
「別に良いのではないか? 愛し子など別に珍しいものでは無いだろう」
ボウロの言葉に皆うんうんと頷く。
ここにいる全員が大精霊の愛し子である。
これほどいるのだ別に隠すことでもない。
彼らの感覚ではそれであり、レイはレイで水晶に映し出されるぐらいなのだから別に大きな問題ではないだろうとそう思っているが、じっちゃんが居れば止めるレベルの大事だった。
レイは相談する相手を間違えたともいえる。
「なら良かった、友達には出来るだけ秘密は作りたくないからね」
自宅に泊まりに来たギルフォードはレイにとって指導係ではあるけれどもう友達だ。
一緒にいる時間が長くなれば誤魔化しも利かなくなりボロも出る。
何でも話せることは有難かった。
「レイ、そろそろ夜が明ける、部屋に戻れ」
闇夜が明るくなり始め、ハヌゥが心配げに声を掛けてくれる。
「うん、みんな元気でね、また遊びに来てね、絶対だよ」
「ああ」
「もちろんよ」
「必ず来る」
「お土産をたくさん持ってくるわ」
ちょっと寂しいけれど仕方がない、彼らには守る土地がある。
レイの我儘でここに縛り付けるわけにはいかない。彼らには彼らの大事な物があるのだから。
「じゃあね、部屋に戻るね」
寂しさを隠しレイは笑顔で皆に手を振る。
一年後に会えるのを楽しみにしているよ。
そんな気持ちを込めて。
「うむ、レイ、ではまたな」
「レイ、無理をせず、ちゃんと体を休めるのよ」
「レイ、次はもっと大きな魚を届けに来るからな」
「レイ、寂しくなったら遠慮せず呼びなさい、私たちはすぐに飛んできますからね」
皆の温かい言葉にレイは「うん」と頷く。
去っていく友人たちを見送りながら、レイは異世界での生活を楽しむことを、改めて心に誓ったのだった。
こんにちは、夢子です。
ブクマ、評価、いいねなど応援ありがとうございます。
レイの中でボウロはくま◯んのイメージ。笑。