★メイソンとゾーイと護る者
【最終話】
メイソンは騎士一家の生まれだ。
イーター家の名は兄が継ぐため、自身の未来について選ぶ道はメイソンには自由があった。
けれどメイソンは騎士になることを選んだ。
剣を振るうのが好きだったこともある。
体が大きく体力も他の者よりあったことも理由の一つだ。
でもそれ以上にギルフォードを護りたい、という思いがあったのは確かだった。
最初にギルフォードと顔を合わせたのは、メイソン十歳、ギルフォード五歳の時だった。
「殿下、私の息子メイソンです。今日からお傍につきますので宜しくお願い致します」
「……宜しくお願い致します……」
メイソンの父親はエミリ妃の護衛の一人だった。
その関係でか、兄弟とは年が離れていて、これまで大人としか接したことのないギルフォードの最初のお友達にメイソンは選ばれてしまった。
年齢の割に体が大きいメイソンは、十歳の時点で小柄な男性とさほど変わらない背丈だった。
その上喋ることも苦手で大人しい少年だと大人には映っていたようで、メイソンならば大丈夫だろうと勝手に判断され選ばれたのだが、自分自身が弟の立場であるメイソンは、五歳下のギルフォードとどう接していいか分からなかった。
「メイソン、よろしくね、ギルってよんでいいよー」
「……はあ……」
キラキラと輝く淡い金髪に、美人だと評判のエミリ妃に似た容姿のギルフォードは、周りから天使と言われるほど可愛らしく、同じ人間とは思えなかった。
(この子とどうやって遊べばいいんだ? 女の子みたいだぞ……)
転んで傷をつけることも出来ない、何か言って怖がらせてもならない。
メイソンがどうしていいか分からなくなるのも当然で、とりあえず傍にいる。
そんな関係がしばらく続いた。
「ねえ、メイソン、メイソンはまほー使える?」
「魔法? まあ、うん、多少は……」
「僕もね、さいきんセンセーにまほー習って、ちょっと使えるようになったんだよ」
そう言ってギルフォードがメイソンに魔法を披露する。
中庭で小さな土人形を作り上げたギルフォードの魔法力にメイソンは驚いた。
五歳上の自分よりよっぽど魔法の扱いが上手い。
ギルフォードの腰辺りの大きさの人形はトコトコと歩き出す。
「ギル、凄いな」
「ほんと? すごい? 父様も母様もほめてくれたんだよ」
嬉しそうに笑うギルフォードは、兄さまたちの役に立ちたいから魔法を頑張るのだと言う。
勉強も難しいけど頑張って覚えるんだと笑うギルフォードは可愛くて、守ってあげたいと自然とそんな気持ちが沸いた。
だから十二歳になりメイソンは迷わず騎士学校へ入学した。
その間、ギルフォードにはゾーイという遊び相手とフアナという婚約者候補が出来たらしいが、フアナはともかく、ゾーイもまたメイソンに似て無口で大人しい少女だった。
「ゾーイです」
簡潔に挨拶を済ませたゾーイは何を考えているか分からない程表情がない少女だった。
だがテゥーバル家の令嬢なので身体能力が高く、乗馬や剣の稽古を始めたギルフォードについていけているらしい。
つまり他の友人候補よりもその少女が優秀だったということなのだろう。
挨拶のため一度だけ会ったゾーイはテゥーバル家の特徴を色濃く持つ少女だった。
「メイソン、すぐに王城へ行くぞ!」
「父上、どうされたのですか?」
「ギルフォード様がお倒れになったらしい」
「えっ?!」
それは突然の出来事だった。
間もなくメイソンは騎士学校を卒業、そんな時期に事件は起きた。
ギルフォードとその母であるエミリ妃に毒が盛られた。
王城へ駆け込んだメイソンだったが、当然すぐにギルフォードに会うことは叶わない。
毒を盛った犯人は王妃付きのメイドだったらしく、王妃の仕業だとそんな噂が流れだした。
「何故ギルフォードが狙われなければならないんだ……」
常にいい子で兄思いのギルフォードの姿を知っているだけに、画策した犯人には怒りしかない。
そして実行犯が処刑され、周りが落ち着きを取り戻したころ、メイソンはやっとギルフォードに会うことが許された。もう一人の友人ゾーイと一緒にだ。
まだベッドに横たわり窓の外を見つめるギルフォードにそっと近づいていく。
「ギル?」
「ギル様?」
メイソンとゾーイが声を掛けるとギルフォードが振り向いた。
以前よりぐっと痩せ、顔色も悪いギルフォード。
だけど浮かべる笑顔は綺麗なもので、貴族のお手本のように美しい。
「メイソン、ゾーイ、来てくれて有難う……僕はもう大丈夫だよ……」
全然大丈夫だとは思えない笑顔を浮かべるギルフォードを見て胸が痛む。
母親であるエミリ妃が亡くなったことを知っているのだろう。
無理矢理作った嬉し気な笑顔とは反対に、悲し気な青色の瞳を見ればそれが分かる。
友人として過ごした日々がそのことに気づかせてくれた。
それから数日後に、ギルフォードは王城を出て王家が持つタウンハウスで暮らすことになった。
王妃の悪事は結局証拠は見つからず公に出来なかった。
また同じようなことがあってはならないと、陛下がギルフォードをタウンハウスへ送ったのだが、そこへメイソンも護衛として住み着いた。同じような事件を起こさないように自分から願い出た。
ゾーイも一緒に住みたいと申し出たが、まだ子供なゾーイは許されなかった。
騎士学校を無事卒業したメイソンには近衛隊への入隊の話も合ったが、ギルフォードの傍にいることを選んだ。
それは同情ではなく、ギルフォードの傍に居たいと、必ず守りたいと、本気で思ったからだった。
「メイソン、僕、冒険者になろうと思うんだ……」
学園に通いだし、卒業も近くなってきたころ、ギルフォードがそんな言葉を吐いた。
魔法使いとしての才能が有り、見た目も良く、学力も高いギルフォードは、本人の望まぬ道を周りから期待されることが多くなった。
その上、王妃であるアンジェリカの素行の悪さも第一王子や第二王子の足を引っ張っていた。
あの母親を持つ王子に次期王は任せられないのでは?
そんな話もメイソンに入ってくるぐらいなのだ、ギルフォードの耳にも当然届き、兄たちの足を引っ張りたくはないと、そんな気持ちが芽生えたようだった。
それに国王であるギルバードの執着が年々重いものに変わっていた。
学園を卒業したら自分の下で学ぶべきだと、議会を通さず王太子になる道を示唆する。
兄たちを思うギルフォードはそれに耐えられなかったようだ。
「母上のいとこがルオーテのギルド長の妻なんだ……だからそこを頼って冒険者になろうと思う。S級冒険者になれば国王と同等の立場になれるらしいんだ。そうなれば兄上たちの応援が出来る。母上に毒を盛った犯人も糾弾できるかもしれない……だからメイソンはーー」
「俺も行く」
「えっ……」
「俺も冒険者になる」
「ダメだよ、メイソンは騎士なんだ、冒険者になんかなっちゃダメだ、王城で兄上の護衛としてーー」
「俺はギルの護衛だ」
「メイソン……」
「それに俺は騎士も辞めるつもりはない」
「えっ……」
「大体あの陛下が護衛もなくお前を遠くへ送る訳がないだろう。俺は連絡係で報告係だ。それなら騎士で冒険者でも許される、違うか?」
「メイソン……」
母の死でも涙を見せなかったギルフォードの目が潤む。
だけどグッと堪え、いつもの笑顔を浮かべる。
こんな時ぐらい王子であろうとしなくてもいいのに、ギルフォードは王城から逃げたいと思っても、王子であることを捨てきれない。
父親のことも同じだ。
執着を振り払いたいけれど振り払えない。
同じ愛する人間を失った故なのだろう。
心根が優しすぎることも原因だ。
「メイソン、有難う……」
「俺の望みだ、ギルに礼を言われる筋合いはないぞ」
「うん……」
器用に何事もこなすギルフォードだけれど、家族間のことに対してはどこまでも不器用なようだった。
そしてギルフォードはルオーテの街を中心に冒険者として活躍していく。
メイソンは出来るだけギルフォードの傍にいて、その活動を見守った。
数年後には学園を卒業したゾーイも加わり、ギルフォードの冒険者活動は活発になっていく。
その華やかな見た目から最初は揶揄われたり、貴族らしい言動や品のある仕草から笑われたりもしたギルフォードだったけれど、実力でそのような輩を黙らせ、A級冒険者の地位に上り詰めた。
「あともう少し、あと数年でS級冒険者になれるかもしれない……」
夢が現実になりそうで、ギルフォードの依頼を受ける姿勢にもますます力が入る。
実際は国を救うような功績を上げなければS級冒険者になることは難しい。
それでも可能性はゼロではない。
そんな段階にギルフォードは上り詰めていた。
それも自身の力のみでだ。
「では、ギルフォード様、王都へ行って参りますので、くれぐれも一人で依頼は受けないようにお願いしますね」
「はいはい、分かったって、メイソンは心配性だなー、ってかこの僕に何かできる人間なんてもうこのルオーテの街にはいないんだから安心していいよ」
確かにその通りだがその油断が心配で仕方がない。
隣に立つゾーイが呆れ顔で呟いた。
「傲りですね……人格的に問題ありではA級冒険者として相応しくありません。王城に報告しなければなりませんね」
「いや、いや、ゾーイ、やめてね、それ冗談にならないから」
「慢心は危険だな、新人からやり直しさせるようギルド長に伝えるか」
「メイソン、それも止めてね。あのバカ力親父の相手は大変だから、命がいくつあっても足りない状態に陥るからね」
揶揄えば応えるギルフォードは面白い。
自分たちが無口な分、ギルフォードはお喋りになった気がする。
依頼主と円満な関係を築くために学んだ術なのだろうが、生き生きしている今のギルフォードは今までで一番自分らしかった。
「じゃあ、僕はギルド長のところへ行って次の依頼の様子とか聞いてくるから、二人とも気を付けてね」
手を振り冒険者ギルドへ歩き出したギルフォードの背中を見つめる。
もう折れそうな様子の王子様はいない。
しっかりと自分の足で立つ冒険者の後ろ姿がそこにはあった。
頼もしくなったものだ。
「これであとはギルの妻になってくれる心が強い女性が見つかれば万々歳なのだが……」
「フアナ嬢では難しいでしょうね、冒険者の妻など彼女は嫌がりそうです」
婚約者候補の令嬢であったフアナの名が出てメイソンは顔を顰める。
美人だが自意識過剰な彼女はメイソンもギルフォードも苦手だ。
絶対に結婚は考えられないだろうとそう分かる。
「いや、その前にギルフォードが嫌がるだろう、あの令嬢はちょっと色々と酷いからなー」
「フフッ、私は大事な教科書を彼女に破られたことがありますよ」
「そうなのか?」
「はい、なのでお礼に彼女の教科書には潰したGを挟んでおいて上げました。泣いて喜んでいましたよ、面白かったですねー」
「ゾーイ、お前……」
「大丈夫です、見つかるようなへまはしていませんので、これでも私はテゥーバル家の者ですからね、隠密は得意なんです」
「……」
突っ込むところはそこではないが、メイソンは無言で頷くに留めた。
Gをどこから調達したのかとか、どうやって潰したのかとかは考えない。
フアナ嬢の教科書にGの卵がいることを想像してしまうからだ。
「心も体も強く、それでいて他人にも優しい女性と出会えればいいが……」
「そうですね。ギルフォード様がギルフォード様らしくいられる方と出会えるといいですね」
メイソンとゾーイの願いを神が聞き届けてくれたのか、この後ギルフォードは運命の相手になりそうなレイ・アルクと出会うこととなる。
そしてギルフォードがS級冒険者になる道がレイによって開けることになるのだが……
この時の幼馴染たちはそんな未来が待ち受けていることをまだ知らないのだった。
おわり
こんにちは、夢子です。
ここまでの三か月、夢子とレイにお付き合いいただき有難うございました。
皆様からの応援はちゃんと届いたおりました。
それがあっての完結です。
本当に有難うございます。
それと完結後三話もお話を追加してしまい、申し訳ありません。
九月十五日から投稿を始めたので十二月十四日まで続けたかったという私の勝手な我儘です。
閑話も読んでくださった皆様有難うございました。
ちょっとでも面白かったと思って頂けたら作者としては嬉しさしかありません。
それとこの後書きを読んで感想やポイントを下さった皆様、本当に有難うございました。
優しい読者様に応援していただけている、そのことが実感できてとても嬉しかったです。
インフルエンザやコロナなど、体調を崩されている方も多いと思いますが、皆様が良い年末を送り良い新年を迎えられることをお祈りし、ここで一旦お別れさせていただきます。
続編を書く気満々になっておりますので、今しばらくお待ちいただけたら嬉しいです。
では皆さま、良いお年をお迎えください。
2025年12月14日、夢子でした。




