★お土産の行方
王都から戻った翌日、元気なレイは友人に会いに出かけた。
何故かレイの屋敷に一緒に戻ってきたギルフォード、メイソン、ゾーイは元ビアス領の領主邸に足を運ぶことになった。
そして冒険者仲間より辺境伯の側近のようになっているケン、カークも一緒だ。
今後そこがギルフォードの家となるため早速確認に向かったのだ。
補佐官のオルトとも顔合わせもするし、急に領主が変わって困惑している屋敷の者たちにも声を掛け、安心させてあげなくてはならない。
「もしかしたら今日は帰れないかも……レイ、大丈夫かい?」
王城で貰った? 豪華な馬車に乗り込んだギルフォードが、窓を開け心配げな様子でレイに声を掛けてきた。
(全然大丈夫って言わない方が良いよね?)
一日ギルフォードに会わなくてもレイはなんの問題もないのだが、そこは空気を読んで笑って誤魔化しておく。
寂しくないようにドルフさんに声を掛けておくから! と過保護なギルフォードにそう言われてしまったらレイは何も言えない。
それにドルフにもお土産はある。
なので一緒にいるのは問題ないし、ドルフとの会話は結構楽しいので好きだ。
「みんなー、気を付けてねー、イッテラー」
「レイー、良い子にしてるんだよー」
手を振りギルフォードたちと別れ、まずはジェドのいるオブリ馬屋へ来たレイは、旅の疲れなど全く見せず元気いっぱいにジェドに声を掛けた。
「ジェドさーん、おはようございまーす!」
「レイ坊ちゃん! おはようだす、今日も早いだすねー」
レイが帰ってきたことを昨日のうちに知っているジェドは朗らかに声を掛け、レイに優しい笑顔を向けてくれる。
「今日はどうしただすか? まさか仕事ではないだすよね?」
王都から帰ってすぐ仕事なんて! とジェドが心配げな顔になる。
「えへへ、うん、私は今日はお休みだよ。仕事は明日からかなー。今日はね、王都のお土産をみんなに渡しに来たの、ジェドさんにもあるんだよー、今渡しても平気?」
「王都のお土産ですか、それは楽しみだすね。だば、あっちさ行くだすか、お茶を出すだすよ」
「ジェドさん、有難うー」
レイが仕事ではないと聞いてニコニコ顔になったジェドと共に、オブリ馬屋の従業員休憩所に向かいお茶を出してもらう。
温かいお茶はジェドのように優しい味で、レイの心がホッとする。
「はー、美味しい。このお茶ほうじ茶みたいな味がするねー」
「ほうじ茶だすか? これはメルーダの街の知り合いに貰ったお茶だす。今度お茶の名を聞いとくだすね」
「有難うー、ジェドさん。メルーダかー……他には何があるんだろう?」
ギルフォードの領地になるメルーダには、ほうじ茶に似たお茶がある。
領主の友人である自分なら (タダでもらえるかも) とレイは悪どい顔で笑う。
そして表情を整え、レイはジェドに王都であった話をし、年の近い友達が出来た話をした後は、レイ自慢の王都土産を披露した。
「まずはー、王都で有名なお菓子屋さんのお菓子ね、これはねアンジェリカ様に紹介してもらったお店で買ったんだー」
「アンジェリカ様?」
「そう、お友達なの、今度ルオーテの街に来るからジェドさんにも紹介するねー」
「そうなんだすか? 楽しみだすね」
「うん!」
やめてあげた方が良いようなことを提案しながら、レイは次のお土産を出す。
下町で買った面白い色のお菓子や、小物。
それからギルフォードお勧めで買った馬の置物もジェドに渡す。
レイにくれた猫ちゃんの置物を買った店で購入したものだ。
人参を咥える馬の置物を見て、ジェドは良い笑顔で喜んでくれた。
「それからね、これは私が王都で買った生地で作った上着なんだけどーー」
「上着だすか?」
「そう、スカジャンをイメージして作ったの、ジェドさんのスカジャンには馬の刺繍入りだよ、カッコいいでしょう?」
「おお! これは凄いだすねー!」
でしょうでしょうと自信気に頷くレイ。
レイがジェドに作ったスカジャンは、王都で買ったくず宝石も散りばめてありキラキラと輝いている。
作品として考えれば今時点でレイしか作れないものなのでかなりの値段となるが、それにジェドが気づくことはない。
「ギルフォードさんたちにはちょっと違うものを作ったんだけどね、ジェドさんは普段使いにするならスカジャンが良いと思ったんだ」
ギルフォードには夜会服の裏にジュリエッタの刺繍と宝石を入れてあげた。
メイソン、ゾーイ、ケン、カークの物は護衛服に各自の愛馬と、アーブの刺繍を入れてあげた。
けれど皆なぜかまだその服を着てくれない。
ルオーテでは冒険者であるので仕方がないかもしれないが、領主邸に行く今日なら着ても良かったような気がする。
宝石入りで出来ているからか? それとも愛し子の刺繍入りだからなのか?
なのでジェドにはその部分は秘密にした。
レイの手作りだとそこだけ伝えれば、ジェドは良い笑顔で受け取ってくれた。
「レイ坊ちゃん、大事に着させてもらうだすね」
「うん、気に入ってくれてよかったよ。じゃあ、ジェドさん、私他の人にもお土産渡しに行ってくるね」
「ああ、だすだす、レイ坊ちゃん、気を付けて行くだすよ。それと貰ったお菓子は従業員皆で食べるだすよ、沢山有難うございましただす」
「はーい」
あとでキラキラ光るものが宝石だと気づき、腰を抜かすジェドに別れを告げ、レイは冒険者ギルドへ向かう。
レイの知り合いが多いのはやっぱり冒険者ギルドだ。
友人には礼儀としてちゃんと 『帰ったよ挨拶』 をしなければならない。
レイは元気いっぱい冒険者ギルドの扉を開け、総合受付へと進んでいく。
「エイリーンさん、ただいまー」
「あら、レイ君、お帰りなさい。王都は楽しかった? あら? ちょっと見ない間に背が伸びたかしら? 大人っぽくなったように感じるわー」
「ええー、そうかなぁー、だったら嬉しいけどー」
エイリーンに「背が伸びた」 「大人っぽくなった」と言われ、デレデレし始めたレイの後ろ
「そんなわけねーだろう」
と酷い突っ込みが入る。
「ドルフさん……」
口の悪い巨人族第二号を睨み、レイは口を尖らせた。
「レイ、帰ったか。お前、お世辞を信じるなよなー。安心しろ背は全然伸びてないから、行く前と一ミリも変わってないぞ。いや、お前、なんか縮んだか?」
「……」
ドルフの酷い言葉にムッとしていると、エイリーンの目が泳ぐのを見てしまう。
どうやらドルフの言葉こそ正しいようだ。
レイは地味にショックを受けた。
「エイリーンさん、これお土産です……」
「あら、お土産? こんなに沢山良いのかしら?」
「はい、友達お勧めのお菓子とか、私が作ったカチューシャとかも入っているので、エイリーンさんとお友達の皆さんとで分けてください」
「まあ、レイ君有難う!」
「いいえー」
レイ手作りのカチューシャは王都で買った布で作ったものだ。
そこにもクズ宝石をちりばめ、女性受けするように作ってある。
きっと綺麗なもの好きなエイリーンならば気に入るだろう。
昼休みにお土産の包装を解き、友達皆で豪華すぎるカチューシャを見てエイリーンたちが驚き震えることになるのだが、この時のレイは気づかなかった。
「エイリーンさん、ギルド長にもお土産渡してもらえますか?」
「ええ、勿論よ。でもレイ君が自分で渡さなくてもいいの?」
「はい、まだ行くところもあるので、お願いしたいです」
「分かったわ」
エイリーンの下を離れ、レイはドルフにもお土産を渡す。
ドルフのスカジャンには鮭を咥えた熊さんを描いてみた。
ギルド長用のスカジャンの竜もお気に入りだけど、この熊さんはボウロを描いたので一番のお気に入りだ。
ドルフも「カッコいいな」と珍しく笑顔で喜んでくれた。
「モーガンさーん、戻りましたー」
「おう、レイ、お帰り、元気そうで安心したぞ」
「はい! 元気いっぱいです!」
「そうか、それは良かった」
モーガンがレイの頭を撫でてくれる。
安定の優しさだ。
モーガンを見ると冒険者ギルドへ帰って来たと思うのだから不思議だ。
エドガーよりもずっと頼りになる気がする。
「モーガンさん、これ、王都のお土産です。良かったらどうぞ」
レイはモーガンにもお土産を渡す。
紙袋を受け取ると、モーガンは苦笑いになった。
「……レイ、この紙の袋がお土産じゃないよな?」
「はい、その紙袋の中身がお土産ですね」
「……四つあるが……」
「はい、一個が下町のお菓子で、一個がアンジェリカ様お勧めのお菓子で、一個が王都で有名な小物屋の置物で、一個が私が作った上着です」
「……最後のだけお土産には可笑しい気もするが?」
「王都で買った生地で作った服なので、王都土産で問題ないと思いますよ?」
「……そうか、有難く頂戴するぞ。レイ、服は明日着てくるからな」
「はい! あ、モーガンさんの服には狼を描いたので是非その匠の技をみて欲しいです」
「……狼か……分かった、見るのが楽しみだな」
「はい!」
嫌な予感しかしないモーガンの前でレイはニコニコと笑う。
モーガンのスカジャンに描いた狼は聖獣アセナをモチーフにしている。
カッコいいモーガンには絶対に似合う。
レイ自慢の一品だった。
「モーガンさん、ロブさんは今日はお休みですか?」
「ああ、休みだがどうした? なんか用事があったか?」
「はい、ロブさんに頼まれていた王都の春画本をロブさんに渡したくて」
「……ロブに頼まれていた春画本だって……?」
「はい、絶対に買って来いってロブさんに頼まれていたお土産の春画本です!」
「……あいつ……」
レイは子供に春画本を買わせようとしたロブへの仕返しを決行する。
上司であるモーガンの前でその罪を露にし、賑わうギルド内でロブの名と春画本を連呼する。
それも純粋な子供を演じながら、大声でだ。
これで受付嬢たちからの冷ややかな視線がロブへ向けられるだろう。
その上上司からのお小言も付いてくるはずだ。
レイの後ろに立つドルフも「あの野郎、コロス」と呟いているので、ロブはドルフからのお叱りも受けるかもしれない。
未成年にあり得ないお願いをしたロブへのささやかな仕返しは、十分に効力を発揮するようだった。
「これが王都の春画本です。ロブさんのために詳しい人に聞いて沢山買ってきました。中身はどんなものか分からないけれど、店主のお勧めの春画本らしいです。残念ながらまだ子供な僕には見せてもらえなかったので……」
レイはワザとらしくシュンと肩を落とす。
申し訳なさそうにすればするほどモーガンとドルフの怒りのバロメーターが上がっていくような気がして面白い。
(ぐふふ、ロブさん、ご愁傷様です!)
表では大人しい子供を演じながら、レイは心の中で笑う。
未成年者にあり得ないお願いをしたロブに教育的指導が出来て大満足だ。
「そうか……分かった、しっかりロブと話して渡しておくぞ、俺に任せておけ」
「はい、モーガンさん、よろしくお願いします!」
春画本をモーガンに託し、レイはドルフと一緒にサラ商店とマルシャ食堂へも行ってお土産を渡した。
皆レイが無事に戻ってきたことを喜んでくれ、お土産もありがたく受け取ってくれて、渡したレイとしても大満足だ。
(はー、やっぱり私の住む街はルオーテなんだね、皆と会うと戻って来たって感じがするよ)
お土産を渡し大満足なレイは明日からいつもの日常に戻る。
本人的にはのんびりスローライフなのだが、また忙しい日々が待っている。
ただしお土産を受け取った者たちは別だ。
レイの友人たちはそのお土産の価値の重さに頭を悩ませることになる。
そして問題児ロブはモーガンだけでなく、ドルフやギルド長、そしてギルフォードからもお叱りを受け、受付嬢たちからは総スカンを受けることとなるのだが、この時はまだロブはそんな目に合うことを知らない。
「なんじゃ、こりゃー!」
その上レイから渡された春画本は男性同士のものだった。
なのでロブは怒られ損となるのだが、王都の春画本を受け取り浮かれているロブは自宅に戻るまでそのことに気が付かないのだった。
やりたい放題なレイです。




