遊びに来るそうです
「いやー……まさかレイが馬に乗れないとはねー。馬を買いたいって言うから、てっきり乗馬は出来るものだと思っていたよ、アハハ」
「……」
ギルフォードの案内でオブリ馬屋に行ったレイは、十六番という仮の名のついた黒毛の馬を気に入り購入することを決めた。
「名前はアーブにします!」
名前を決め、ジェドにレイの馬だと登録もして貰い、いざアーブを連れて帰ろうとしたところで「そう言えばレイは馬に乗れるんだよね?」とギルフォードに聞かれた。
目を見開くレイ。
だってレイは馬に乗った事がないからだ。
というか、今世で馬に会うこと自体初めてだ。
乗馬などしたことがある訳がない。
正直に馬に乗ったことは無いと話せば、ギルフォードもジェドも驚いた顔をする。
「えっ? 馬に乗った事がないのに馬を買おうと思ったの?」と驚かれ、あり得ないだろうと笑われる始末。
「うん、分かった。教育係として、僕がレイに乗馬を教えてあげるよ。その代わり乗馬の練習日は僕には無料でお弁当をくれるかな? それでどうだい?」
え? そんな事で良いの? と思ったが声には出さずレイは頷く。
「じゃあ、一ヶ月でどうにか形にしようか、あんまり待たせるとアーブが可哀想だからね」
「はい、ギルフォードさん、ありがとうございます」
「アハハ、僕とレイの仲だろう、ギルで良いって言ってるじゃん」
「……」
ギルフォードとジェドと話し合い、街に来る予定であるお弁当販売日の午前か午後に、乗馬の練習をオブリ馬屋で行うことになった。
アーブは少しがっかりしていたけれど、『人参持ってきてね』とおねだりされ、練習日は必ず持ってくるし、出来るだけ早く迎えに来るからねと声を掛ければ納得してくれたようで、大きく首を振って応えてくれた。
「良し、じゃあ、今日は僕と一緒にジュリエッタに乗ってみようか、レイの家まで送っていくよ」
「えっ?」
「乗馬、早く上達したいんでしょう?」
「……」
仕方なくギルフォードの手を借りジュリエッタに乗せてもらうと、嫌だけど家まで送ってもらうことになった。
「レイは初乗馬だから、ゆっくり走るからね」
ゆっくりと走れば家に着く頃には夕方になるだろう。
そうなると送って貰った手前、レイの家に寄って貰い、ギルフォードにお茶の一杯も出さない訳にはいかなくなる。
それにジュリエッタにはお水と飼葉を出して上げたいし、果物ももう少し食べさせてあげたい。
だとすると、ギルフォードはレイの家に泊って行くのだろうか。
前世の記憶持ちとしてはおもてなしをしなければいけない気分になる。
レイはそんな嫌な予感がしてため息が出そうだった。
「レイ? お尻、痛くない?」
「はい、大丈夫です」
ギルフォードは悪い人ではないし、まあ、なるようになるかとレイも開き直る。
それに今日はレイの誕生日。
いろいろとご飯は準備してあるので急な来客にも対応できる。
出来るだけ面倒臭い事からは避けていたいが、レイはこの世界で友人をつくらないと決めているわけではない。
あの子達が認めるならば、ギルフォードともう少し打ち解けても良いのかもしれない、そう思った。
「それにしても、レイは乗馬したことも無かったのに、どうして馬を買おうだなんて思ったのさ」
道を進みながら、また同じ質問をされる。
さっき答えたのに冗談と思われたらしい。
「さっきも言いましたけど、馬には乗ったことは無かったけど、熊と狼には乗った事があったので、乗れるかなーって思ったんです」
「いやいやいや、熊と狼に乗る方があり得ないでしょう? そんな冗談僕は信じないからねー」
「……いえ、ウチではそれが常識なんで」
「アハハ! 流石S級冒険者ロビン・アルク! 面白い子育てしてるねっ!」
馬が欲しかった理由は森から街まで歩くのが面倒だったからだし、熊と狼に乗った理由は別にじっちゃんの指導でもなんでもないのだけど、違うと言ってまた質問されても面倒なので、S級冒険者であるじっちゃんの子育て術だと勘違いさせたままにする。
「それにしてもなんか森が静かだよね……普段なら魔獣の一匹どころか十匹ぐらい出ても可笑しくないのにさー……ここはもうスピアの森だよねー?」
「……」
ギルフォードの独り言にレイは無言を貫く。
初乗馬に集中していると思っているのか、ギルフォードも答えを欲しい訳ではないようだ。
それにあの子たちの許可が下りるまでは、レイは自分のことはなるべく話さないようにしようと決めていた。
「そういえばレイが街まで来る時は歩いてきたんでしょう? 魔獣に出くわさなかった?」
「……全然……自分、魔獣除けの薬草玉も持ってたんで……」
「そうなんだ。でも今は焚いてないよね? それに魔獣除けの薬草玉も完璧じゃないんだけど、スピアの森で魔獣に会わないだなんて不思議だよねー」
「……あー、じっちゃんに教わって作った薬草玉は完璧なんで……」
「うわぉう! S級冒険者ロビン・アルク! どんだけだ凄いんだよ!」
薬草玉を持っていることは本当だし、最初はじっちゃんに作り方を教わったことも本当だ。
だけど今はお友達にお願いをして、レイには魔獣が近づかないようにして貰っている。
だって魔獣って臭いし涎垂らすし目は血走っているし汚いしで、良いところが全くないから出会いたくないのだ。
「あ、ギルフォードさん、家が見えてきました」
「お、どれどれどれー?」
歩きやすいように舗装された道が出て来たところから、じっちゃんがレイに残してくれた土地となる。
青く尖った屋根に煉瓦で出来た外壁、ウッドデッキに大きな窓、それに広く整理された庭に、近くには小さな小川もあるレイの自慢のお家。
自分の家が見えてきたレイは、初めての街へのお出かけの疲れもあったのか無意識にホッと息を吐いた。
「……ねえ、レイ、なんか、あの家、異様に大きくない? 小さい目のお屋敷? じゃなくて、森小屋、なんだよね? それに窓も、あんな大きな硝子、僕、王都でも見たこと無いんだけど……」
家に近づくにつれ、ギルフォードから疑問が投げかけられる。
これだから人を家に招くと面倒くさい。
レイの秘密も話せないとなると、尚更面倒でしかたがない。
「それに、なんか、あの家可愛くないかな? 英雄の家っていうより、妖精の家って感じ……えっ、あれがロビン・アルクの家だよね? お隣さんとかじゃないよね?」
ギルフォードは疑問が全て口に出るタイプのようで、ジュリエッタの上でぶつぶつと五月蠅くて仕方がない。
レイは面倒くさいと思いながらも、簡単に答えを出す。
「……あー、色々カスタマイズしたんで、原型をとどめていないんですよねー。前の家だと全然ばえなかったんで」
「えっ? かす? ばえ? なんだって?」
「だからじっちゃんの家を私好みにリフォームしたって事ですよ」
「りふぉって、ねー、レイの言ってる事全然わかんないんだけどー」
カスタマイズもリフォームも伝わらないとは、本当に面倒くさいなこの男。
ちょっと黙っててもらえないかなぁとそんな酷いことを考えていると、健脚なジュリエッタが無事にレイの家に到着した。
「ジュリー、有難う、凄く助かったよ」
『あら、これぐらいは何でもないわぁ、気にしないで』
レイは今日自分用に馬を買おうと思っていたので、既に屋敷内には馬小屋の準備が出来ている。
なのでここまで頑張ってくれたジュリエッタを先ずはそこに案内し、お水と飼葉と果物をプレゼントした。
ジュリエッタが水を飲み、落ち着いたところでレイは勇気を振り絞ってギルフォードに声掛けをした。
「えーと、ギルフォードさんも、お茶でもいかがですか?」
断ってくれないかなと思いつつ、そんな声をかけをする。
けれどレイの気持ちはまったくギルフォードには伝わらなかったようで、いい笑顔で頷かれてしまった。
「うん、せっかくだからお邪魔させて貰おうかなー、喉も乾いたしね」
「……」
家の中を見たいと目をキラキラさせているギルフォードを前にして、送って貰った手前、すぐに帰れとは流石のレイだって言えない。
「……あー、散らかっていますが、どうぞお入りください」
「うん、全然気にしないから大丈夫! ありがとー」
いやそこは気にしてくださいよ!
心の中でそう突っ込みながら、レイは仕方なくギルフォードを家の中に招き入れることにした。
こんにちは、夢子です。
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レイの自宅に到着です。
小さなお屋敷のような可愛いお家です。