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異世界生活始まりました

 レイは生まれた時から知っていた。


 自分が転生者であるのだと。


 まだ生まれて間もない赤ん坊の時、森の中に置き去りにされていたレイは、樵であるじっちゃんに拾われ命拾いをした。


(異世界も世知辛いねー。だけど生まれたばかりの子供を捨てるって、最悪の親じゃん、ネグレクトだよ)


 まさか生まれてすぐに死の危険を迎えるだなんて思わなかったけれど、じっちゃんのお陰でレイは異世界の田舎暮らしを手に入れた。


 それに何でも知っているじっちゃんとの生活は意外と楽しく、前世に夢描いていたスローライフそのもので、前世、都会生まれの都会育ちなレイであっても、順調に適応していけた。


 それは全てじっちゃんのお陰だとレイは感謝している。


 元冒険者のじっちゃんは色んな事を知っていて、何でも自分で出来てカッコ良かった。


 多芸多才とはこんな人を言うのだろうと感心したぐらいだ。


「じっちゃんってマジえぐいよね、中々こんな人いないよ」


「……」


 褒めても表情は変わらないまま、じっちゃんは黙々と仕事を熟す。


 どちらかというとレイの誉め言葉を聞いて困ったような顔をしている、テレなのだろうか? 不思議だ。




 そんなじっちゃんは元冒険者。当然獣を狩ることも当たり前にできたし、庭では様々な物を育て自家製の野菜や果物を作っていた。


「レイが家に来てから作物の育ちが良いなー、やっぱりお前は聖女なのか……?」


「なにそれ、がちチートじゃん、絶対に面倒くさいやつ」


「いや、レイは教えたことは一度で出来るようになるからな、聖女よりも勇者の素質があるのかもしれないな……」


「そんなの絶対無理。自分で勇者とか名乗ったら厨二病まんまじゃん、痛すぎるって」


 レイの言葉を聞き、じっちゃんは深いため息を吐く。


「レイ……お前はせっかく可愛い顔をしているんだ、もう少し言葉使いに気をつけろ」


「大丈夫、大丈夫だよじっちゃん、私、外面は上手に使うからさー、スマイルゼロ円は得意だからね」


「……」


 そんな冗談をじっちゃんと言いながら、一緒に育った野菜を採る。


 前世の事を思うと信じられないほどの幸せな田舎暮らし。レイはこのほのぼのとした空気が好きだった。


 勿論化学が発展していない異世界だ、不便がまったく無いわけではなかった。


 レイが幼いころは水は井戸汲みだったし、トイレはぼっとん便所、その上紙の代わりは葉っぱだったのだ、レイが悲鳴を上げたくなるもの当然だった。


 それに前世から綺麗好きなレイなのに、じっちゃんの家にはお風呂がなく基本水浴び、洋服だって殆ど着たきり雀でオシャレのしようがない。


 ベッドも干し草のベッドだ、絶対に虫がいると分かっていたので気持ちが悪い。


 前世の記憶がじっちゃんとの山での生活を邪魔をするため、どうしても不潔や不便な生活に耐えられず、森にいる聖獣(友達)にお願いして力を借り、色々と現代風に変更してもらったのだ。


 まさに転生チート。


 レイは生活向上のためなら妥協はしなかった。


「……レイ、その力は外では絶対に内緒にするんだぞ」


「分かってるって、じっちゃんは心配性だなー。能力知られたら面倒になるのは鉄板だからね、こんな神がかり過る能力、絶対知られたら足枷にしかならないでしょうー」


「……」


 じっちゃんに当然のことを言われ、レイはうんうんと頷く。


 せっかくスローライフができる異世界に転生したのだ、目立つ力を使って勇者や聖女といった面倒なポジに身を置くつもりはない。


 生きて行くために最低限稼いで、後は自分のやりたい事(趣味)をやって生きる。


 レイが今世で目指すところはそこであり、国家の社畜(勇者)や王家の飼い犬(聖女)になるつもりなどさらさらないのだった。


「じっちゃん、大丈夫だから心配しないで、上手くやるからさー、どこの世界でもスローライフしか勝たんしー」


「……」


 にっかり笑ってきっちり宣言をすれば、じっちゃんは何故か目頭を押さえていた。


 ちゃんとやると言っているのだけど、レイの軽口を聞くとじっちゃんは不安しかないようだ。


 今世のレイは前世の記憶持ちのせいか、この世界では珍しい黒髪黒目だ。


 それが理由で山に捨てられたし、目立つなといっても無理がある。


 けれどそこは帽子を被ったり眼鏡をしたりで誤魔化すつもりだ。


 じっちゃんにサムズアップをし、心配ないよと伝えたのだが、「俺の育て方が悪かったのか……」と、じっちゃんをかえって落ち込ませてしまった。何故だろうか、不思議だ。


 元冒険者のじっちゃんは世間の荒波に揉まれてきたからか、やたらと孫に過保護すぎると思うのだ。


 いやこの場合孫への期待度が大きすぎるのか、レイがやることなすこと心配で仕方がないようだった。


 これでも前世では成人していたレイだ、今は多少子供っぽいかもしれないけれど、大人だったころの記憶だってちゃんとある。


 だから無難にやり過ごすことなど余裕だと、笑顔を作り心配するじっちゃんに堂々と胸を張ったのだった。




 そんな異世界生活を送り、レイは遂に十二歳を迎えた。


 心配性のじっちゃんは昨年レイの将来に不安を抱えながら亡くなってしまった。最後まで気をつけろと言っていたのでこの異世界はやっぱり世知辛いようだ。スリや置き引きには気をつけなければと心を引き締めなおした。


 そんなじっちゃんを無事天国へ送ったあと、レイは森の中で一人一年間頑張って生きて来た。


 いや、街へ出るのが面倒で、一年間好きな事だけして家でのんびり過ごしていた、というのが正しいかもしれない。


 けれど遂に今日街へ行く。


 十二歳になると冒険者登録ができるとじっちゃんに聞いていた。なのでレイは十二歳になるこの日(誕生日)を楽しみにしていたのだ。


「ふっふー、今日は私の誕生日と引きこもり脱却記念日だからねー、ケーキとか準備しちゃうもんねー」


 レイにはじっちゃんの残してくれた家もある、街に出て買い物をしなくても食材が豊富な森に住んでいる。


 だけど流石に無職の引きこもりは自分的にも辛い。


 前世だったら十二歳はまだ子供で学生だけど、レイは立派な社会人だった記憶もあるし、十二歳はこの世界では十分に働き手になる歳だ。


「自分が楽しめる仕事をしてー、最低限の収入があればいいよね。後は旅行をしたり料理とか趣味を楽しんだりして、今世は自分の生活を満喫した楽しい生活を送りたいなー」


 だからこその冒険者登録だ。

 今のレイには身分証がない。

 つまり身を保証してくれるものが何もない状態、不審人物に近い。


 取りあえずじっちゃんの冒険者証を持って来たので、それを見せながら自分も冒険者登録をして、いずれは色んな場所に遊びに行こうと思っている。


「馬も買いたいし、オシャンティーな服も買ってみたいなー」


 今世、移動は基本歩きのレイは乗り物に憧れがある。

 前世でも電車通勤だったレイは車など持っていなかった。


 なので今はマイカーならぬマイ馬が欲しいし、自作の洋服ではなく誰かが作った洋服を着ることにも憧れている。


「仕事は自宅で出来るものが良いなー、オンラインはないけど在宅ワークは何かあるかなー、内職とか? えっ、異世界の内職ってなんだろう、えー、傘づくり? とかー?」


 街へ向け歩きながらひとりごちる。

 異世界での自由自適な生活への夢は膨らむばかり。

 妄想が楽しくって仕方がない。


「ペットも欲しいなー、うーん、やっぱり猫か犬かな? うん? 異世界ってペットって売ってるのかな? うん、そこも誰かに聞かないとだよねー」


 じっちゃんの残してくれた家で、レイは今一人暮らしだ。


 たまに聖獣たちが遊びに来てくれて、その眷属である精霊たちが唯一の話相手だろう。


 出来れば毎日「おはよう」と挨拶が出来て、一緒に暮らしていけるお友達が欲しい。

 それがもふもふなら最高だし、ぎゅっと抱きしめて堪能できたら幸せだとも思う。


「あ、街の入口が見えて来た、やったね!」


 朝から歩くこと数時間、やっとルオーテの街の門が見えて来た。


 レイは入門の列に並び、チェックの順番を待つ。


 前世の遊園地での手荷物検査のようで気分は最高潮だ。




「こんにちはー」


 片手を上げ、元気いっぱいに挨拶をする。

 子供であるレイが一人で並んでいる姿を見て、門番の兵士二人が目を丸くした。


「ぼ、坊主、まさか一人なのか? 父ちゃんか、母ちゃんは?」


 女の子のレイは自衛の為男装をしている。

 まあ、男装と言ってもこの世界、ズボンを履いていればそれだけで男とみられるので、簡単な変装なのだが、レイはその上男の子用の帽子も被っていて、女の子ではありえない半ズボンも履いているので尚更だった。


 前世だって学ランを着ていたらそれだけで一瞬でも性別を誤魔化せただろう。

 今のレイは男子の基本帽、鳥打帽を被っている。

 ある意味それは学ラン&坊主に見えるということ。

 つまりレイの変装は完璧だった。


「父ちゃんも母ちゃんもいないんだ。一緒に暮らしていたじいちゃんが死んじゃって僕一人なんだよ。だから今日は冒険者ギルドに登録に来たんだー」


 レイは兵士の質問に答えながらじっちゃんの身分証を出した。

 キラキラと金色に輝く身分証を見て兵士たちは驚いていたが、初めての街に興奮気味のレイはそんな様子に気付かなかった。


 兵士はじっちゃんのカードを水晶らしきものにかざす。

 ふむふむああやって確認をするのか面白いと、レイはここでも興味津々だった。


【カード所持者ロビン・アルク。家族、孫レイ・アルク】


 じっちゃんとレイの名前が水晶に映し出され、レイは「おお~」と声を上げ拍手を送る。

 異世界の生活はローテクなのに、ここだけはハイテクなのかと感動しかない。


「ねえ、ねえ、お兄さん、僕、もう中に入って良いの? あ、そうか、入るのには入場料がいるんだっけ?」


 他の人よりレイの検査には時間がかかっている気がして、痺れを切らしたレイは兵士に話しかける。

 お金を使うのも初めてでドキドキするが、街へのワクワクも強く、早く財布を出そうと鞄をごそごそと探り出した。

 


「あ、ああ、勿論良いぞ……えっと、坊主は金は要らん、今回は無料だ。この身分証があるからな、大丈夫だ」


「えっ? そうなの? でもこれじっちゃんのだよ、いいの?」


 ちょっとお金を使ってみたかっただけに残念だ。

 この街への入場は銅貨五枚、前世額でワンコイン程度。

 子どものお小遣い程度だけにちょっと支払をしてみたかった。


「ああ、この金のカードは特別なんだ。お前のじっちゃんは凄い人だったんだぞ、坊主。だから絶対にこのカードをなくすんじゃねーぞ、分かったな」


 おお、どうやらじっちゃんは特別仕様のカードを持っていたようだ。


 もしかしてこのままじっちゃんのカードを使い続けることが出来るかなぁ?


 そう思ったのだが兵士のおじさんには成人したら無理だと言われ、どの道身分証は必要だと理解をした。


「そうなんだ、じゃあ予定通り冒険者ギルドでカードを作るよ。おじ、じゃない、お兄さん、有難う。それとじっちゃんのカードは特別なプラチナカードなんだね、初めて知ったよ。うん、僕、絶対になくさないように気を付ける、じゃあ、ありがとうねー」


 手を振り兵士たちと別れ、レイは街の中へ進む。


 その背後「あいつ何カードって言ってたんだ?」とそんな会話をする兵士たちの声には全く気付かないレイだった。

皆様、初めまして夢子です。

新連載、初めてのファンタジー物です。

皆様が少しでも楽しんでいただけるよう投稿頑張りますので、どうぞ宜しくお願い致します。

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