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跋 あきのよに


「もう少しで満ちる月が、もっとも美しい」


 瑠璃の杯を傾けていた主が、ぽつりと呟いた。

 宝珠皇宮の最奥部、晶峰山の迷い獣と主従の他は、知る人もない小さな庭院にわ


 あと一筋で満ちる待宵月を見上げ、従う男も頷いた。


「たしかに。今宵の月は見事でございますな」

「……これは余の言葉ではない」

「は?」

「余はこの言葉に、衝撃を受けた」


 誰の言葉、とは言わない。しかしこの主の心を動かすことができる人物は、ただ一人しかいない。


「余はそれまで、満ちた月が一番美しいと思っていた。でもそれは、周囲がそう言うからそう思っていただけだったと気付いた。幼い頃より満月は美しい、満月がもっともきれいだと聞かされて、深く考えもせずに月と言えば満月だろうと思っていたのだ」


 なるほど、と男は思った。

 あたりまえだと思っていることが真実とはかけ離れているということ。

 それは気付くことの難しい、けれどもとても大切なことなのではないか。



「腐った朝廷を立て直すため、余は一つの物事を多様に見ることを心掛けてきたが、いつもあれには驚かされ、教えられ、動かされた」


 主は亡くした妻を心から愛し、今も愛し続けている。


「今宵の月のように、不完全でいて完全を想像させるもの。周囲に大きな希望を抱かせるもの。そうあってほしいものだな」



 誰に、とは言わない。しかしこの主が案じ、期待をかける存在は、二人だけ。



 その二人が今頃、翡翠の瞳をした子猫にちょっかいを出していないことを男は月に願う。そのために子猫には仕事を押しつけてきたのだ。

 あの珍しい子猫は文句を言いつつも、ちゃんと仕事をやってくれているだろう。


 主から拝受した瑠璃の杯に口をつけ、男は気持ちよく深呼吸した。



――待宵月が願いを半分しか聞いてくれていないことを、男は知らない。




~おわり~




ここまで読んでくださった皆様に、心からの感謝をm(__)m

ありがとうございました♪



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