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転移してきたら、拾われました

 そよぐ風。


 青い空。


 柔らかい芝生。


 心地よい木陰。


「ってあれ、ここって天国かなんかか?」


 自分に突き刺したはずの包丁も、傷もどこにもない。暴行を受けてあざになっていた腕も治っている。どうしたんだ一体。


「誰もいない……」

 

 いよいよここは天国なのかもしれない。ただ近くに川も無ければ門も無い。

 

「はぁ……ほんとに何も無いな」


 天国って待ち時間みたいなの、あるのかな。少なくとも僕の想像してた天国はすぐ裁かれるみたいなやつを考えていたんだけど。

 もしくはここは死後の世界なのかもしれない。死んだら望んだ場所に行けるみたいな感じで。


「やることないし、寝るか……」


 肩の力を抜いたらどっと疲れがやってきた。数分、いやここの謎世界に来る前までに自分の胸に包丁を突き刺したんだ。気合い入れないと出来ない事だし、ものすごい体力使ってるはずだ。ここでやることもないんだし寝ても寝んでも変わらんでしょ。


 寝て少し経った頃だろうか、もしかしたら1日かもしれない。


「ちょっと!もしもーし!」


 こっちは疲れてるんだ。寝かせてくれ……


「ほんとに倒れてるのかな……寝てるようにも見えるし……」


 寝てるんだわ。起こさないでくれ。


「こんなとこで倒れてると、魔物の格好の餌じゃない。さすがにどうにかしないと……」


 え?魔物?っていうか、魔物って?ファンタジー系で出てくるような凶悪なモンスターとかクリーチャーとか、ゲチョゲチョしたやつかなにかか?


「うーん、私ひとりじゃ担げないし、引きずってもいいけど……」


「いや、引きずるのはやめてくれ、普通に痛いんだ」


「うわ、しゃべった」


「あ、心の声が」


「……とりあえず歩けそう?それならさっさと街の方まで歩きなさいよ」


 そういえば、僕の住んでた土地にはこんな草原なかったな、というか、テレビでしか見たことないような草原だし。

 というか、この女の子の服装、一体何百年前だ??タイムスリップかなにかか?


「ってその服、血で汚れてるじゃない!?しかも服の切れ目から見て、切られたか刺されたのね。良く胸のあたりに受けて生きてるわね。」


 いや、刺されたんじゃなくて、自分で刺したんすよ……こう、グサッと、肋骨の隙間に。


「彼の者に救いの御手を。」


 何言ってんだこい……いや、違う、刺傷は元から治っていた、いや治っていたのでは無く、なかった。そうでは無い、寝起きでだるかった気分が普通に良くなったのだ。

 これはつまり、魔術とか魔法とかそういう類だろうか。


「い、今のは?」


「回復魔法よ、まぁ、私は低いレベルしか扱えないからかさぶたを治す程度にしかならないだろうけどね」


 ま、魔法。この世界には魔法なんてものがあったのだろうか。

 

「って、傷なんて元からなかったのね、損した気分だわ。」


「ご、ごめんなさい……」


「いやいやいや、これぐらい常識だから」


「常識……」


「そう、これぐらい当たり前なの、そんなことより、日が暮れる前に街に行かないと」


 街って言われても、ここがどこで、どんなところかも分からないんだけど……

 そもそも標識もなければ車も走ってないし。


「……あなたここの人じゃないわね」


「ここってどこ……?」


「どこって、アルドリーナ帝国のカルタ・グラヴィーナですけど……」


「ってどこだよ!?僕の知らない国でも出来てたりしたっけ?いや、最近アフリカに新しい国が出来たとか聞いたけど、アフリカと言えばサバンナな感じだし?こんなに草原でヨーロピアンな地形なわけがないでしょって!」


「あふ……?よーろ……?」


「こ、心の声が……」


 あれだ、これはつまり、あれだ。

 つまりは転生ってやつだ。

 知らない土地に勝手に生まれ変わったんだかなんだかで記憶と体がそのまんまこっちに来て、ってことだ。


「と、とりあえず落ち着こうよ!私、ちゃんと話聴くからさ!」


 初対面なのに、随分優しい女の子だ。ただ、この言い方だと、僕は完全に精神をやってる異常者扱いだな。


「いや、まぁ……なんと言いますか……別の世界から来たと言いますか……」


「別の世界って?」


「何はともあれ、ここの世界の当たり前とか、なんも知らないと言いますか……」


「ふーん、怪しいけど、確かに別の世界から召喚で人を呼び出してるって話も聞くし。嘘ではないとは思うのよね。」


 あれ、この子、信じてくれるのか。初対面の薄汚い男の言うことを、こんなにも簡単に。


「ごめんなさい、それしかわかってなくて」


「いいのいいの、元はと言えば私がここで倒れてるあなたを見過ごせなかったのが原因だからさ!」


「……優しいんだな」


「そんなそんな、みんな助け合って生きていかないと生きていけないんだから。少なくともこの世界じゃね。」


 確かに、魔物とか物騒なワードが出てたけど。それ以前に人間なんて1人で生きていけるほど高性能じゃないからな。


「とりあえず、街に案内したげるから、付いてきなさいな。」


「……ありがとう」


「ど、どういたしまして?」


 なんか、せっかく生まれ変わったんだし、せめて頑張ろうかなって思ってみちゃう自分が情けない。なんたって、あの時刺した傷がないのだから。




「ここがカルタ・グラヴィーナの門だけど、衛兵に自分を示す書類か何かある?」


「うーん、ない。」


「でしょうね、さてどうしたものか……」


 何か問題でもあるのだろうか。まぁ、出入国にはパスポートとか必要だし、身分証明書の役割を果たす何かは必須なのだろう。


「魔法は……いや、さすがに危険すぎるし、直接話せばわかってもらえるかな……?」


「あの……ここまでしてもらう義理はないと思うんですけど……」


 見ず知らず、ましてや素性も分からない人を助けて何になるのだろうか。今はただの足枷にしかならない邪魔者だぞ。


「まぁ、それもそうだけど。私、あなたが気になるのよね。」


 気になる、そうか気になるのか。

 他人に興味を持たれるのは初めてのことかもしれない。生前は自分のことで精一杯で他人のことなんて興味もなかったし、どうせ持たれてなかっただろうしな。


「は、はぁ……」


「何はともあれよ、理解のある人だと信じて行きましょ!」


 性善説ってやつだっけ、違ったか。


名前?名前って?

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