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2.1 PHYSCO-MAX

「おーい!! オルロ君!! いるんだろう!?」


 シドニアは砂漠を歩きながら叫び続けた。


「お――」


 喉が張り付く。

 ――体力の消耗がひどい。

 この砂漠から出られる可能性はどれくらいだろうか。

 遠くに山脈が見えるが、距離感はまるでない。

 二、三キロかも知れないし、五十キロあるかも知れない。


「くそっ」


 悪態を吐いて両掌を砂につく。砂が焼けるように熱い。

 砂に、自分のものではない人影がおちていた。

 慌てて顔を上げると、自分たちがいた。


「――君らか」

「僕も君だ。僕ら、と言えよ」


 ――コピーか。

 どうやら身の危険を感じた彼は、意図せず『都市』の能力を使ってしまったようだ。それとも確率を計算するためだろうか。

 自分のコピーを全方位に逃す。誰かひとりでも逃れられれば、シドニアにとって世界は続く。

 しかしコピーはたったの五人だった。コピーがコピーを出して倍々でシドニアは増殖できるが、充分な試行をするためには――。


「少ないな。いけそうか?」

「どうかな。酷い有様だ」


 答えた複製も、また疲れ切っているようだった。

 ――くそっ。ぼろぼろのままコピーされるのか。


「こりゃあもうダメかもね」

「今こんな大技を使うのは悪手だと思うよ。少なくとも水が要る」

「なら水を探そう。砂漠から出られないとしても、一息ついて魔力が回復したら動ける」

「ダメだなぁ。闇雲に動くより地面を掘るんだ。絶対に水は出る。湿った土の層まで掘ればそこから――」

「水が出るのと僕らが干物になるの、どっちが早いかだねえ。それより誰か、小便したいヤツはいるかい?」


 待ってくれ、とシドニアは立ち上がる。


「全然意見がまとまらないじゃないか。まぁいいよ。それでこそ僕だ。銘々に、一番いいと思う方法を試せ」

「君はどうするんだ」


 僕――?

 シドニアは思案する。


「歩くさ。君はそこを掘れ」

「掘るさ。誰か手伝ってくれ」

「なら僕は山のほうへ」


 シドニアは歩き出した。

 太陽の方角を見て、ここが中央山脈南側に広がる大砂漠だとアタリを付ける。

 東へ行けばファサ。いやまだファサではあるのかも知れない。


「――待ってくれ」


 背後から声がした。

 振り返ると、自分が何か言いたそうに立っている。


「こんなこと言うのは好きじゃないけど、こういう状況だ。誰かひとり、犠牲になればいいんじゃないか?」

「どういうことだい。まさか――」

「そのまさかさ。僕らの体の中には、血が流れてる。水分もある」

「考えはしたけど――それってどうなんだろうね。『自分を犠牲に自分が生き残る』。矛盾だろう? それも直接的にだ」


 結果に矛盾があれば、結果は予想できない。

 そのときは誰も生き残ることはないかも知れない。ここから脱出できる可能性があったとしてもだ。

 その矛盾を解消するには、全員が死亡する(・・・・・・・)結果があり得るからだ。


「死なない程度に血を流してそれをみんなで飲めば――どうだろう?」

「ダメだね。リスクが高すぎる」


 シドニアたちは顔を見合わせた。


「自力で砂漠から出られる可能性は、もしかするとゼロかも知れない。でも誰かに助けてもらえる可能性はゼロじゃない。『まだヤケになるな』ってことさ」


 そこにようやく結論が生まれる。


「――僕まだ狂ってない。狂ったヤツから試す。それでいいね?」


 無言でシドニアたちは頷きあい――全員バラバラの方向へ向けて歩き出した。




***




 暑苦しいマントで日陰を作り、小高い砂山を登ったり降りたり。小さな岩陰に隠れて一息吐いたり。

 歩けども歩けども砂漠の出口どころか蜃気楼も見えず、太陽すら傾く様子もない。

 夜まで待つ余裕はなかった。夜は冷え込むし、乾きは進む。真っ暗になってしまえば水場も見つからない。

 ――彼らのうち、誰かは水を見付けられたかなぁ?

 自分はもしかすると、その誰かにはなれないかも知れない。

 ――オルロ君たちが僕を見付けられる可能性はどれくらいだろう?

 不可能ではないだろう。

 だがもし、部隊が全滅しているのならそもそも砂漠で行方不明の王を探す可能性はゼロになる。

 ――偶然通りかかった誰かに見付けてもらうためには――なんとか体力を回復して、僕のコピーを増やさなきゃ。

 それしかない。

 でも誰かって誰だ。砂漠には危険が多い。環境も殺人的だが、この過酷な環境に潜む危険な魔物もいるため、冒険者以外は許可証が――。

 そのときだ。

 背後から妙な音が聞こえてきた。

 振り向くと、砂煙が立っている。


(砂嵐?)


 そうではない。空はこれでもかというほど晴れている。

 そしてこの低音。これは――。


内燃機関(エンジン)だ)


「おーい!! 助けてくれ!!」


 シドニアは王らしさをかなぐり棄て、マントを振った。

 音は近づいてきた。

 それは三輪バギーの集団だ。内燃機関を乗用にして公道を通行することは、パルマ・ノートルラントでは禁止されている。

 ファサではより厳格に禁止されているはずだ。

 だが今そんなことはどうでもよかった。


「助けてくれ!! 僕は王だ!! 褒美は何でもやるぞ!!」


 近づいてきたバギーの集団が減速した。

 内燃機関の唸りに加え、笛か何かの高音が混じっている。

 ピーヒャラピーヒャラと。

 ――騒々しい連中だ。


「止まってくれ!!」


 ふらふらとバギーの集団の前に躍り出ると、先頭からばらばらと停車した。

 顔の上半分を丸々覆ってしまうほどの皮マスクとごつい丸眼鏡をかけた連中だった。


「なんだオッサン。死にてえのか」

「た、助けてくれ。僕――いや、余はこの先の、神聖パルマ・ノートルラント民王国の民王だ。故あって、この砂漠で遭難している」


 バギーの者どもはへらへらと笑った。

 先頭にいた異常な肩幅の若者は、振り向いて「おい、王様だとよ」と仲間に告げる。


「――聞いたか? 王様が、故だか何だかがあって遭難だとよ。見上げたお公務だ」


 彼らはしばらくへらへらとだらしなく(わら)っていたが、急にシドニアを見る。

 バギーは車高が高い。軽く見下すような形で、若者と思しきバギーの集団はげらげらと嗤った。


「王様なら知ってるな? この乗り物は、この辺じゃ違法なんだ。高貴なお方は乗れねえんだよ」


 シドニアは堂々と両手を広げ、不敵に笑って見せる。


「緊急事態である。内燃機関は魔術式か? 燃料式か? いずれにせよバギーの件は不問とする。手近な町までで善い。余を案内せよ」


 それを聞いて、若者らはまた嗤う。


「聞いたかよ! このオッサンマジでイカレてんな! イカレてんだろ! なぁ!」

「イカレ――?」


 ――僕はまだ狂ってなどいない。


「暑さでやられてんのか? それともマジのサイコ野郎か?」

「サイコ――?」


 ――『サイコ』?

 見ろよ、と若者の一人が、ハンドルを握ったまま顎をくいっと突き出す。


「頭打ったみたいだぜ」

「そのせいですっかりイカレちまったか」


 シドニアは反射的に頭の包帯に手をやる。


「聞け。サイコではない。余は今上民王、シドニアだ。貴公らはパルマの者か? パルマの者なら、貴殿らも選挙で票を投じたであろう。見よ! 顔も見覚えがあるはずだ!」

「生憎だな。俺達にはまだ選挙権がねえんだ」

「あったとしても選挙になんか興味はねえ!」


 興味はねえと叫んだ後ろの車両の若者を、シドニアは指差す。


「選挙権は大事にせよ」

「無えっていってんだ!」


 ヒュッと何かがカラカラに乾いた空を切った。

 トスッと足元に何かが刺さる音。

 見ると、一本の矢が砂に突き刺さっていた。

 ヒステリックに叫んだ若者が、ボウガンを構えていたのだ。


「お前ら! 今日の獲物はこのサイコオッサンだ! 殺したヤツを次の民王にしてやるぞ!」


 イェアーーッ!! と十台のバギーの若者たちは、暴徒のような声を挙げる。

 一台あたりの搭乗者は三名から四名。

 総勢四十人あまりだ。

 彼らがハンドルを握ると、内燃機関が吹き上がる音がした。

 対するシドニアは一人。今のところは。


(くそ――話が通じてない!)


 シドニアは(きびす)を翻して走り出す。

 言語は通じているのに話はまるで通じていない。

 蛮族と言われた山岳部族よりもタチが悪い。

 バギーはエグゾーストを上げて追ってくる。燃料式だ。

 ただ――シドニアは逃げだすとき、足元に刺さった一本の矢を抜いていた。


「逃げろ逃げろ! もっと気合い入れて逃げやがれ!!」


 言われなくたって逃げる。

 シドニアは必死に走ったが、すぐに左右をバギーの集団が追い上げてゆく。

 前方、そして左右。振り返る余裕はないがおそらく後方まで――バギーに囲まれた。

 バギーは車体を弾ませながら砂漠を走る。

 柔らかすぎるサスペンションが派手に車体を揺らせ、そこから撃ちだされる矢はシドニアを外れていたが、次第に狙いが正確になってくる。


(くっ――マジなの? マジで? やる気なの?)


 自分を複製して(かわ)すのは容易い。一瞬のことだ。彼らには何が起きたかなど決してわかるまい。

 だが今は魔力も体力も惜しい。

 右から左から、波のように幅寄せしてくるバギーから離れる。

 だが今度は後ろからだ。

 ばいんとバネの弾ける音、そしてボウガンの矢がシドニアの横スレスレを追い越してゆく。

 次は右と左の前方からだ。

 撃ちだされたボウガンの矢を、走りながらマントを(かざ)して水平に()いた。

 分厚い高級マントに矢が一本刺さっており、もう一本はシドニアを外れた。


(危ないじゃないか!)


 真横に併走しているバギーのうち右側の助手席から、また矢を(つが)えて狙いをつけている。

 迷っている時間はない。

 シドニアは意を決した。

 獲物になった王は、手にした金属の矢を握り込みながら右のバギーへと近づき――。


(恨まないでくれよ)


 並走しつつ、激しく回転する前輪のスポークに突っ込む。

 次の瞬間、バギーは後部を高々と持ち上げて空へ飛び上がっていた。――前のめりに。


「ああっ」


 短い悲鳴は、果たして誰のものだったか。

 放たれたボウガンの矢はシドニアを外れ、左側を併走していたバギーの運転手の、眼鏡の分厚いレンズを砕いて眼に刺さっていた。

 転がり落ちる運転手。操縦者を喪って砂地にタイヤを取られ、激しく横滑りするバギー。

 それを慌てて躱そうと後部のバギーたちが乱れ、互いに衝突し始めたころ――空を跳んでいたバギーが逆様に砂地に叩きつけらる。

 シドニアは、前方に投げ出されたボウガンに飛びつき、砂の上を回転しながら後ろからなだれ込んでくるバギーを躱して身を起こす。

 口の中には砂。

 しかし手にはボウガン。


(いいじゃないか。新型だ)


 銃は好かない。だが矢は大好きだ。この武器はその中間。

 銃弾より遥かにローコストで静か。長弓より小回りが利く。

 火器はその音にこそ真価があるのだと主張する兵士も多いが、音だけなら空気魔術のほうが大きいし、無料だ。

 シドニアは自分が死にかけていることなど忘れて上機嫌になり、走りながら矢を装填しつつ思わず笑みがこぼれる。


「笑ってやがるぞ!!」

「マジのサイコ野郎だ!! サイコキラーだ!!」

「殺せ殺せ殺せ!! サイコ野郎を殺せ(ファック・サイコ)!!」


 ――なんだか判らないけど誤解が深まったみたいだ。

 先に進んだ残る五台のバギーが横滑りしながら方向転換し、こちらを目掛けて走り出していた。

 台数が減ったぶん――速い。殺気立っている。

 シドニアはまた走り出す。バギーたちに対して左へ。

 振り返りながらボウガンを撃つ。

 バギーはでこぼこした砂地を、上下にバウンドしながら迫ってきている。

 的は大きく、また多い。

 シドニアの撃った矢の一本が後輪に命中し、一台が軌道を逸れて横転した。

 最後尾の一台は戦意を喪ったのか、自発的に停止して倒れている仲間のほうへ戻ってゆく。

 残る三台。

 少し先の丘の向こうで、何かが動いた。


(アレは――僕か?)


 手を振るのは先ほど別れた自分の複製だ。


(おい、馬鹿、僕。姿を見られるな!)


 丘に身を隠しながら「こっちへ来い」と合図している。

 シドニアはその丘へ向かった。

 走る。

 全速力で丘を登りながら、自分にもゴンドワナ族のような土魔術が使えればよかったのにと思う。

 ピーヒャラと派手な音を立てて、バギーが迫ってきた。

 必死に丘を登りきると、頂上を越えた反対側の斜面に転がって身を隠す。

 そこにはもう一人の自分がいた。


「隠れるんだ!」

「こっちのセリフだよ!?」


 頭の上を、丘の頂上を越えて勢いよく三台のバギーが飛び出していった。

 バギーの飛んだ先に――巨大な蟻地獄があった。

 さら砂の流れ落ちるその漏斗状の地形に足をとられ、バギーの着地姿勢は崩れた。


「お――おい!!」


 横転したバギーから暴漢たちが投げ出される。

 彼らは砂まみれになって巨大蟻地獄の砂をよじ登り始めた。

 それを横目に、走ってきたシドニアは隠れていたシドニアに言った。


「なんてものを見つけたんだ。水を探すんじゃなかったのかい?」

「でも、お陰で助かっただろう? これが本当の幸運ってやつ」


 最悪でもバギーが手に入った。

 水も持っているかも知れない。

 走ってきたシドニアは砂丘を滑り降り、直径十メートル級の巨大蟻地獄の縁まで近寄った。

 背後からもう一人のシドニアが呼び止める。


「そいつら、危ないんじゃないのかい? せっかく助けてやったのに無駄に死ぬなよ!」

「バギーは拾った。あとは操縦者が要るだろう!?」


 三台のバギーは砂に呑まれつつあった。

 若者らが脱出しようと滅茶苦茶に暴れているからだ。


「動くな少年たち。大人しくするなら手を貸してやらぬでもない」


 ひぃっと声を上げつつ、若者たちはまだ戦意を喪っていなかった。

 ボウガンに矢を番えようとしつつ、足元が滑るのを押さえるのに必死のようだ。


「ざけんな!! そこを動くんじゃねえぞオッサン!! ぶっ殺してやる!」


 おやおやとシドニアは肩を竦めて見せた。


「蟻地獄は巨大だが――知っているかね。この蟻地獄の主はジャイアントイーター。ウスバデカゲロウとして知られておる。カゲロウの大型種だが、名前に反して――それほど大きくはない。小型犬ほどだ」

「――」


 若者らは一瞬、呆気にとられた。

 咳払いしてシドニアは続ける。


「ならばなぜこれほど蟻地獄は巨大であるか? ここは巣だ。一つの巣に、少なくとも二十から四十のウスバデカゲロウが潜む。貴公らのすぐ背後の、巣の中心の下でな。砂が落ちると、それが『餌の時間』の合図だ。巣のウスバデカゲロウが一斉に――」


 バキャリと凄惨な音が響いた。

 蟻地獄の中心に落ちたバギーの金属フレームが拉げる音だ。

 巨大な二本のハサミ、それが砂中から無数に突き出して、バギーを喰いつくしてゆく。


「説明は以」

「助けてくれ!!」


 甲高い悲鳴と助けを求める声が王の宣告を遮った。


「暴れると飲み込まれるぞ。今日、貴公らは二つの教訓を得た。ひとつ、このような危険がある故に、砂漠は立ち入り禁止にしておる。冒険者以外にはな。ふたつ、砂漠で出会う隣人には紳士的に接するべきである」

「せ――説教なら後にしてくれ!!」

「後? 後があると思うか? 余はこのまま、この場を立ち去っても構わん」

「人でなしかよ!!」

「人でなしでも殺人狂でも、何とでも呼べば善かろう。魔物の餌の戯言に過ぎぬ」

「た――助けてくれ!! 悪かった!! あんたのことは見逃す!!」


 見逃す? とシドニアは首を傾げた。


「どの高さから言うておるか知らぬが、余は今、貴公らを見下げておる」

「取り消す! 何て言ったらいいかわからねえだけだ!」

「他に言葉を知らねえんだ! それだけだよ!!」


 嘘ではないだろう。

 彼らの必死の形相――頭に被った巨大なゴーグルでその形相は半分しか見えないが、それでも必死なのは明らかだ。


「助けてやるのは(やぶさ)かではないが――余も喉が渇いておってな。まずは水をもらおう」

「あんた王様なんだろう!! それでも王様かよ!!」


 ――そうだった。


「そこの貴公、歳はいくつか」

「は――はぁ? じゅ、十七だ! そっちのは十八!」

「お、おれはまだ十五だ! 助けてくれ!」


 シドニアは諦めたように笑い、屈んで手を差し伸べた。


「さようか。改選時には有権者であるな。応援をよろしく」




***




 最後の若者がバギーの下から助け出された。

 どうやら生きているようだ。

 砂の上に、天日干しのように見渡すと若者らが寝かされていた。


「よし。生きてはおるな。死んだ者もいたが――」


 見ると、右目に矢が刺さった若者がむっくりと上半身を起こすところだった。


「――死者がなくて幸いである。貴殿と貴殿は医者にかかったほうが善い」


 若者らは武器を渡して完全に降伏していた。

 シドニアは革袋から水を飲み、ようやく人心地つく。


「貴殿らは、どこから?」

「セティから」

「おれはペニンシュラから」

「アレンバランから」

「ふむ。皆、ファサの出であるか」


 シドニアはそうまとめようとしたが、若者たちの反応は微妙だった。


「――どうした。ファサの者であるのだろう?」

「生まれはポート・フィレムだ」

「おれはルセットから。親はロードリンってとこに住んでる」


 ここからポート・フィレムもロードリンも遠い。

 何か事情がありそうだ。

 事情は道々訊くことにした。


「バギーは何台かお釈迦になったが――詰めれば全員、砂漠から出られるであろう。余も連れていけ。それだけだ。砂漠への許可なき立ち入りと、禁止区域でのバギー乗用、不敬と暴力行為は不問とする」

「あ――あんた、本当に王様なのか? パルマの新しい民王?」


 知らぬのか、とシドニアは首を傾げる。


「よ――よくは知らねえけど、民王は死んだって聞いたぞ!」

「死んだ?」

「あ、ああ、シド――なんとかって名前だ。蛮族がノートルラントに攻めてきて、深追いして山で死んだと」


 馬鹿な。

 よくある誤解だと、シドニアは思った。

 だが待て、と考え直す。


「その話はいつ聞いたのだ」

「せ、先週だ。先週の頭だから――月曜か火曜」


 ――なんてこった。僕は一晩しか経ってないと思ってた。

 実は一週間以上、意識がなかったのだ。


「で、どうなんだ? あんたはその、死んだはずの王様なのか」


 若者らがそうせっついて、シドニアの思考を妨げる。


「ならさっきのは影武者ってヤツか? 本当にいるんだな」

「見た見た。そっくりだった」


 ――まずい、しっかりと見られていた。

 それになにより、よく考えてみると民王が若者相手に大立ち回りをしたとあっては風聞が善くない。


「何言ってるんだい、王様なんて冗談に決まってるだろう?」


 シドニアは急に物腰を変え、手を叩いて笑った。

 若者らはきょとんとしたが、すぐに「そうだよな」と釣られて笑い始めた。

 ただ何人かは――硬直した表情でシドニアを見詰めていた。


「ならよ、あんたは何者なんだ? 態度といい、普通じゃねえだろ」

「余? いや僕? ええと、僕はその、通りすがりの――」

殺人狂サイコキラー?」

「そう、それ、サイコキラーだ。僕は通りすがりのサイコキラーさ」


次回更新は未定です。ブクマなどしてお待ちくださいますと幸いです。


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