その3
1年半ぶりに、再開!
でも、次で終わるかな?
(私は悪夢でも見ているのか?)
投射魔法隊の隊長は、目の前で繰り広げられる光景に愕然としていた。
彼の率いる中距離投射魔法隊は、国でも屈指のエリートたちの集まりである。
ひとたび彼らが戦場に赴けば、それだけで戦況を覆せるほどの実力を有していた。
その大きな理由の一つに、魔法の『属性』が関わっていた。
この世界の魔法には、大別して4種類の魔法が存在する。
『火』『氷』『風』、そして『雷』である。
この4種の魔法のうち、現代において唯一失伝したとされるのが『雷』属性であった。
失伝した理由は不明なままである。そもそも無名だったからこそ、いつの間にか歴史からその姿を消したともいえる。
しかし、彼らの部隊はその4種の属性を全て使いこなすことができたのだ。
『火』の魔法は単純で強力だが、殺傷までに時間と労力がかかる。
人ひとりを焼き殺すには、実は相当の熱量が必要になってしまうのだ。
『氷』の魔法は手軽に扱える利点があるが、そもそも水か氷る温度でも人間は活動できる。
大勢の足止めには有効だが、殺傷には向いていない。
『風』の魔法は、鋭利な不可視の刃物である。
無差別に大勢を切り刻める特性があるが、生憎と戦場では風を弾く鎧を纏ったものがほとんどである。
その点、『雷』の持つ特性はとことん戦争に向いていた。
光の速さで敵に襲いかかり、回避することは困難。金属の鎧をも貫通し、ほんの数瞬で簡単に心臓を止めることができる。
これほど人を殺傷することに特化した魔法は他にない。
それゆえに、彼ら魔法師団は戦場では”死神”との異名で恐れられていた。
(その我らの魔法が……ことごとくはじかれている……!?)
事実、『雷』の魔法を防ぐ手立ては存在する。避雷針のように、背の高い金属を近くに置くか、あるいはゴムのような絶縁物を身に纏うだけでいい。
ただし、避雷針から漏れてくる電流でも簡単に人を気絶させるくらいはできるし、ゴムと言えどそう何度も雷は防げない。
そういう意味では、彼らもある程度は的に対策されることは想定していたが、今回はそれとはまったく異なっていた。
「隊長!そろそろ我らの魔力も尽きかけています。このままでは……」
「狼狽えるな。我らの受けた指示は、『この町の全ての住民を消す』ことにある。我ら軍人は、その命を忠実に実行することだけを考えればいい」
「しかし、何度打ってもあの男を消すどころか、むしろ元気になっているように見えます……!」
「狼狽えるなと言ったはずだ!こうなったら、他の属性魔法も試すのだ!」
投げやりな指示であっても、練度の高い部下たちは健気に、忠実に実行して見せた。
火の魔法を詠唱する間、標的が肉眼でも確認できるほどの距離まで近づいてくる。
──小柄な男……いや、違う。ひどすぎる猫背で、実際よりも身長が低く見えているだけだ。
(あんなヒョロい男が、本当にたった一人で……?)
伝令では、前衛にいた近距離魔法師団は壊滅したとのこと。
伝令が添えてきた情報には、それをやった相手はたった一人。しかも、全て接近戦で一人ずつ昏倒させていったというのだ。
(絶対に冗談だと……いや、私をハメて魔法師団から蹴落とそうとする何ものかの計略だとすら思ったほどだ。それほどに、バカげた話だ……!この時代に、素手で部隊を全滅させる人間などいるはずがない!)
しかし、隊長の焦りとは裏腹に、猫背の男は間違いなくそこにいた。
前方にいた近距離魔法師団を突破してこなければ、今この場所に男が立っていられる道理はない。
(つまり、なにかしらのカラクリがあるのだ。見極めてやる……我がプライドにかけて……!)
「全体、中距離火炎魔法、発動せよ!」
『ファイア・ストーム!』
隊長の掛け声に合わせ、部隊全員が呪文詠唱を唱和させる。
遠距離戦術魔法は、複数人で構成することで威力がけた違いに跳ね上がる。
それは、呪文詠唱の速度や所作が揃うほどにさらに高まる。
彼の部隊は、この異常事態にあっても一糸乱れぬ見事な呪文構成で極大の火炎流を敵に見舞った。
深紅の炎が、レーザーのように一直線に男に殺到する。
火炎流の熱や光が外に漏れることなく一点に集中していることが、呪文の練度の高さの証であった。
常人であれば、骨も残さずに消し炭になるはずだ。
──しかし、
「た、隊長!?」
「ば、バカな!」
動揺する部下たち。そして、それは隊長も同じであった。
火炎流は、完璧な精度でターゲットを貫いたはずだった。
しかし、そこには火傷ひとつなく、平然とした顔でその場に立つ猫背の男がいた。
隊長が驚いたのは、男が無傷だったからではない。
魔法が激突した瞬間、隊長が見ていたのは"マナ"の流れだった。
魔法の根源ともいえる"マナ"。それを操ることこそが魔法の本質である。
そして、隊長の目にはこの世でも珍しいマナを見る能力が備わっていた。
その目が、魔法の激突の瞬間、恐ろしいものを彼に見せたのだ。
「マナそのものを……打ち消した……!」
「へえ、見える人がいたんだ」
隊長の独白に、猫背の男が感心したような声を上げる。
「魔法ってのは、マナを別の形に変換して放出する術式だから、マナそのものを打ち消してやれば魔法は無効化できる。ま、言うほど簡単じゃないんだけどね」
肩を竦めて、歩みの速度を変えることなく男はこちらに近づいてくる。
まるで、悪夢を見ているようであった。
『アイシクル・ランス!』
続けざまに放たれた大砲のような氷柱は、しかし男がかざした手のひらでものの見事に消えてなくなった。
真っ二つに割かれた氷柱が、左右に千切れ跳ぶ。
「普通の魔法は、マナを外に放出する。そりゃあそうだよね。敵は自分の外にしかいないんだから。でも、俺たちの戦い方はそこが違う」
ニヤリと笑って、男が消える。
その刹那。隊長の目は確かに捉えていた。
通常、人体の外に放出されるはずのマナが、男の体内に集約していくのを……。
「体内でのマナ操作……。まさか、太古に失われたという伝説の……!」
叫び声を張り上げる隊長の耳元で、嬉しそうな声が後を継いだ。
「ご名答。血流に乗せてマナを操るゼロ距離戦闘術。使い方を間違えると全身の血管が破裂するから、良い子は真似しないでね」
鳩尾に差し込まれた手のひらから直接マナを叩き込まれ、隊長の意識は根こそぎ刈り取られ、その場に昏倒するのだった。




