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最弱聖剣士  作者: アルケー1号
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テールムのお店

「まったく、何なんですかッ!? あのデカ物。アイル様の素晴らしさに気付けないとは可哀そうな奴ですね」

 独り言をぶつぶつ言うこの女性は昨日、突如俺の仲間になったシャルマだ。

 今はギルドを出て、家に帰っている道の途中だ。

「ていうか、なんでアイル様も止めたんですか?」

 一人で喋るのがつらくなってきたのか、俺に話を振ってくる。

「…………ごめんな……」

「え、えぇっと、そ、そういうつもりで言ったんじゃなくて……」

 このどんよりとした空気を吹き飛ばそうとしてくれたのだろうか。だとしたら、また謝りたい。

 さっき、テレンスに言い返すことが出来なかった事についての謝罪だったのだが、伝わらなかったみたいだ。

「今ここで、力を見せたら注目されるだろ? そしたら動きにくくなるから」

 この状況で俺の力がバレたら、魔玉を取りに行くにも大変になるだろう。

 このままどんよりしていてはいけないと思い、気持ちを切り替える。

「あぁそうですね。よく考えてませんでした」

 てへっというような顔でこっちを見る。この可愛い顔を見てたら気持ちが入れ替わるのも早い。

「とりあえず、今日は早く寝て、明日に備えましょう。万全な状態でデュクファナ火山に挑むのです!」

 これが、初めての「エクスカリバーの意思を継ぐ者」としての仕事だと言わんばかりの勢いだ。

「そうか、明日か……」

 正直な話、忘れていた。様々な事があったため、そっちに意識を持っていかれていたのだ。

「はい! そうです! なので、今日はうんと豪華なごはんにしますよ!」

 材料を何にするか考えているのか、目線を空中に漂わせながら、指を1本、2本と順番に折っていく。

 そして、何か嫌な予感がしてくる。

「じゃ、じゃあ先に帰ってるわ」

 そう言い残すと、材料売り場に向かっているシャルマとは逆の方向。つまり俺の家に向かう。

「待ってください。なんで帰ろうとしてるんですか?」

 どうやら遅かったようだ。

「戻って、野菜やら肉やら買いに行きますよ!」

 俺の体を引きずる勢いで店に向かう。やめてくれー!


 袋を両手に持った俺がいるのは愛しき家だ。ていうか何で俺が袋持ってんの? あんた何も持ってないでしょうに。

 そんな声にならない苦情を何も持っていないシャルマにぶつける。

「やっと着きましたね。あ! ありがとうございました。これ以外と重いですね」

 やっと気づいてくれたか。コノヤロー。と言おうとしたら死を感じ取ったのでやめておく。ヒイィ、殺さんでおくんなましー。

「じゃあちゃちゃっと作っちゃいますので、適当にゴロゴロしていてください!」

 ここ俺の家だよな? と疑問を持ちながら、テーブルの横の椅子に座る。

 俺の家は、靴を履いたまま入る家だ。他の国には靴を脱いでから入るのもあるらしいが、今まで見たことない。おい、そこ友達いないから家に誘ってもらったことないから知らないだけじゃね? とか言うんじゃない。訂正しよう。多分この国にはない。多分な。

 すると、俺の隣の椅子にふっくらとした布団がある。いや、よく見ると毛布を羽織り、くるまって寝ている、キャリだった。

「……明日だね」

 てっきり熟睡していたのかと思っていたが、どうやら起きていたらしい。だが、まだ眠いらしく体は起こさず、声もトロイ。

 明日何かあったっけ、とはならずに魔玉の事だと瞬時に気付く。

「ああ。思えばキャリにあってから色々変わったな。俺がモンスターを倒せるなんて夢にも思っても見なかったからな」

「そうだね。僕もご主人様にあってから色々と変わったよ。今まで一人でゴロゴロしていただけだったからね」

 その一言で初めてキャリと会った「ベアスヘン森林」で聞こうとしていたことを思い出した。

「なあ、キャリ。何であの森に閉じ込め」

「ちなみに明日そんなちんけな装備で挑む気?」

 キャリが食い込み気味に言う。わざとなのだろうか……

 一応返すべき言葉は返していく。

「ちんけって何だよ。ちんけって。でも鎧みたいな装備は持ってないし……」

 今までモンスター伐倒系のクエストをやったことがなかったので当たり前と言えば当たり前だ。

 キャリは考える素振りをすると……

「あ! そうだ! 明日朝一番に装備を買いに行こう!」

 キャリは決定と言うように両手を叩く。

「うん。確かにそうだな。もうちょい丈夫な装備が欲しいな」

 コボルトでボロボロにされた服を見ながら言う。服をよく見ると横腹の所に大きな穴が開いている。その他にも大きな噛みつき痕や、小さなひっかき痕などもある。ズボンも朝は長ズボンだったのだが、右側が短パンになってしまっている。つまりコボルトより強いモンスターがいるなら俺は全裸になってしまうだろう。

「よし、決まりだね。シャルマも聞いてた!?」

 キャリは料理をしているシャルマの方向を見ながら、問いかける。

「はい! しっかり聞こえてましたよ。トイレは早めに行け! ですよね?」

 駄目だこりゃ。後でもう一回話すか。獣人って耳がいいんじゃなかったのかよ……。

 そう思ったが料理の音で混じったらしい。だとしてもトイレの要素なかったよな。


「アイル様! キャリ様! 準備おっけーですか?」

 朝から元気な声の奴が一人。

「おっけーだよー」

 そしてノー天気な奴が一人。

「ああ」

 そしてここに超絶眠たい奴が一人。

「アイル様、大丈夫ですか? 隈がすごいですけど……」

「あ、ああ大丈夫だ。ちょっとドキドキしてな……」

 昨日の夜は眠ろうとすれば眠ろうとするほど目が冴えてしまっていた。

「今日はまず、装備を揃えたいと思います。なので、私に付いてきてください!」

 装備を買う場所はシャルマが調べておいてくれたようだ。

 シャルマは張り切ってスキップでもしそうな勢いで歩き出す。その後ろに俺とキャリは、付いていく。


 広い道を歩いていくと、右側に「センナコのお店」と書かれた怪しげなお店があった。

 まさか、ここの訳ないよなと通り過ぎる。

「ちょちょっと待ってくださいアイル様」

「なんだよ。まさかここじゃないよな」

 センナコさんが経営していると思われるお店を指差す。

「まさか、こんな所じゃないですよ。私たちが行くのはその上です」

 シャルマの指差す方向。つまり、「センナコのお店」の上を見た。

 そこには「テールムのお店♡」と書かれたもっと怪しい店があった。しかも隣にはメイドのコスプレをしたごついおじさんがニコッと笑いかけているイラストがあるからやばい。もっと言うと、色がピンク一色なもんだからさらにやばい。

「もっとやべぇじゃねーか」

「はいはい、そういわずに行きますよ」

 嫌よ嫌よと言っている俺を気にすることなく、「テールムのお店♡」に続いているであろう階段に向かう。

 中に入ると外よりもっと酷かった。左右前後(さゆうぜんご)全てがピンクという状況になっている。

 だが、武器や装備はちゃんとしたものを作っているらしく、大剣からナイフ。防具も豊富に揃っている。値段はなかなかにお高い。

「こんにちはー!」

 そんな店の雰囲気は気にしていないシャルマは元気よく挨拶(あいさつ)をする。

「あら、いらっしゃいませ。お客様」

 シャルマの挨拶に反応して、店の奥から出てきたのは、小さなリボンを付け、ひらひらとした可愛らしいスカートを履いた黒髪(くろかみ)ロングの、体ががっちりとしたおじさんだ。店の前にあったイラストと全く同じ顔をしている。おそらくこの人がテールムだろう。

「シャルマ、本当にここで買うのか?」

「はいそうですよ。何か問題でも?」

「いや……問題はないけど……」

 俺がそういうと、ならいいじゃないですか、と言い残し武器やら防具やらを見に行く。鎧ばかりのコーナーで見ているため、俺の装備を探してくれているのだろうか……

「ご主人様も見に行こ!」

 キャリもこの店の雰囲気は気にしていないらしく、全然平気な顔をしている。しかも、店長に見られないことを良いことに鎧の中に入ったり、鎧の中から頭を出して、遊んだりしている。頭出すのちょっと可愛いからやめろ……

 どこに行けばいいのか分からず、うろうろしていると話しかけられた。

「お客様、何かお困りでしょうか……」

 そう、このお店の店長テールムだ。いや、やめてくれ上目遣いは……

「い、いや装備を購入したいのですが、装備のことは全く分からないので……」

 想像以上の上目遣いの破壊力にやられそうになりながらも、何とか言葉を絞り出す。

「そう! なら、これなんかはどうでしょうか?」

 自分の売っている物の場所は全部把握しているのか、後ろにあった立派な装備を手に取り、渡してくる。

 反抗することすら、許されず思わず手に取る。ずっしりとした重たい鎧だ。何の素材を使っているのかは知らないが、とても高価な物だということは分かる。

「これは、ちょっと自分には重すぎますね」

「ふーん。あ! じゃあちょっと待っててね」

 テールムはそう言うと、何かを探しに行った。

 ここでいっそ逃げ出してしまえばいいんじゃないかとも考えたが、それはあまりにも酷いのでやめておく。

「お客様。これはどうでしょうか?」

 持ってきたのは、さっきのゴツゴツの前衛が着る鎧ではなく胸当てや籠手などの小さい装備だ。

 それを手に取ると、見た目とは裏腹に重い。だが、持てないほどではない。

「おぉ! ……これって試着とかって出来たりするんですか?」

「はい、あちらに試着室があるので行きましょうか」

 テールムに付いていくと、個室のような物が2、3部屋あった。一番手前の個室に入る。

「では、何かあったら、お伝えください」

 ドアを閉めて、上の服を脱ごうとすると上から「うっふん」という奇妙な声が聞こえた。声の方向を見ると、ドアの上の隙間から見下ろすテールムがいた。

「うわッ! な、何をしてるんですか?」

「あら、いけなかったかしら?」

 キョトンとした顔をしながら、首をかしげる。

「いけなかったかしら、じゃないですよ。ほら見ないでください」

 そう俺が言うと、渋々(しぶしぶ)と居なくなった。

 これで一安心。と息を吐くと、上を脱ぐ。そして、膝あても付けるべくズボンも脱ぐ。すると、今度は下から「あっはん」という奇怪な声が聞こえた。

 まさかと思い、声がする方へまた視線を向ける。そこには、頬が硬直した店長改めテールムがいた。

「わあッ! どうしたんですか? さっきから」

 パンツ一丁のまま、ドアを開ける。

「大丈夫、もうしないから」

 何が大丈夫なのかと聞きたかったが、それを言う前にどこかに行ってしまった。

 流石にもうないだろうと思ったが、怖かったので、脱いだ服でドアの隙間を塞いだ。すると、ドア越しにため息のようなものが聞こえた。

 恐怖を感じたので、急いで試着を終わらせようとドアとは逆の方向。つまり、壁の方向を向く。だが、目の前には壁ではなく、何か服のような物が目に入った。そこには、声を出さないように口を抑えたテールムがいた。

 刹那(せつな)、目が合う。

「うわーーーーーーッッ‼」

 装備屋から聞こえるはずのない声が店中に響き渡った。

 目の前の恐怖(テールム)から逃げるため、籠手を着けただけのパンツ状態で個室を出た。

「ど、どうしたんですか? アイルさ……キャーーーーーーッッ‼」

 俺の声に反応して駆け付けたのか、シャルマは両手に装備を持ちながら走ってきた。

 そこに俺のパンツ姿があったので、驚いたのだろう。

「キャーーーーーーッッ」

 新たな声が追加された。それは俺の声だ。シャルマにパンツ姿を見られると思っていなかったので声が出てしまった。


「すいません。お客様があまりにタイプだったもので……」

 このテールムの謝罪によって事件は解決された。俺の心の傷を残したまま……

 さっきテールムにおすすめされた装備を買い取り、出口の前にいるというのが今の現状だ。

「え?」

 というか、俺がタイプって言った? テールムの方を見ると頬を朱色に染め、それを隠すために両手を頬に当てながら、チラチラとこっちを見ていた。

「今日はありがとうございました!」

 シャルマは何事もなかったかのように振る舞う。

「はい! また来てくださいね」

 店長がウィンクしながら、こっちを見てくるんですが助けてください……

 頭を深々と下げるのを見ながら、階段へと向かう。


「いやーいい買い物でしたね」

 今回俺が買ったものは金属を打って作られた胸当てと膝あて。あと片手剣だ。あんな店でもしっかりとしたものを作っているらしく、しっかりとした重さを持っている。だが、機能を重視したせいか、銀色だけの単調な色となっている。

「俺は裸見られたけどね」

 俺がそういうと何かを思い出したのか、頬を赤く染め上げる。

「でも、テールムって人良い人ぽかったよね」

「あぁなんか分かります」

 ここら辺にいるということは俺の事は知っているはずだ。なんたって最弱で有名なアイルさんだからな。なのに、あんなに優しく、楽しくしてくれるのは心の底からのああゆう性格なのだろう。

 俺は今まで誰にもあんな風に楽しく接してもらった事が無かった。だが、それは俺が見ていなかっただけなのでは……と思い始めてきた。

 だから、なんかの機会があれば顔を出そう。狙われない程度にな。

 そう誓ったアイルだった。

テールムカワユス

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