これはよくある断罪劇 4
「どうしたの?いきなり」
私の言葉に疑問を感じるセオドリク。私も正直分からない。貴方の隣になりたいなんて告白紛いなことを言ってしまうなんて。
「…なんとなく言ってみただけ」
「そっか」
即興した言い訳は、どうやら受け入れてもらえたようだ。でも、追求してこないのが少し寂しく思える。
…なんでだろう?
別に私はセオドリクのことなんて好きじゃないし、むしろ人のことを言えないけど残酷だとも思えてしまうほどだ。
ウンウンと唸る私は、結局結論が出ないないまま馬車に乗ることになる。今日は彼とお別れだ。
「じゃあ、また明日」
「明日からよろしく」
学園を卒業した学生は、パーティーのあと家の迎えが来る。貴族は基本領地に屋敷があるが、学園がある王都にも屋敷を持つのがほとんどだ。
だから、私も王都の屋敷に一旦帰ることになっている。
ふと、これからのことを考えた。この国で王妃になる、これからだ。
この国では、初代国王は女性だった。そのことから女性の地位は他の国よりも高く、特に王妃は政治に関わることが出来る。
そして、関わらない王妃はあまりいない。
つまり、私は王妃になったら政治に関わらなけれだいけない。じゃなきゃ家の面子が大潰れよ。
「問題は、私が政治なんか出来るか…」
出来ないだろうな〜地理は四大国しか憶えてないし、歴史は世界大戦時代ら辺しか…あれ、これってその辺の小ちゃい子と同格?むしろそれ以下?
「ちょっと待てちょっと待て…ワタクシって勉強したことあった?」
…多分。
もしかしなくても私、バカ?これ、王妃ならなきゃいけない身としては詰んでる??
「うわー、バカって言った方がバカって、あながち間違ってないね(笑)」
あははーセオドリクにバカバカ言ってたからかな?
…ハハ、私王妃になんてなれんのかな?歴代王妃って大体才女よ?
「待てよ、現代知識チートっていうか、学校で公民は習ったよね?多分、きっと、私の頭は悪くない!」
王国とか王政の知識は全くないけど。
…それでもそこは、セオドリクがカバーしてくれるはず!そう、彼と私は夫婦だし。やばくなったら助けてくれる!
でもそれには問題がある。
「…でも私、いまいち信頼出来ないんだよね。」
思わず溜め息を吐いてしまう。
私は正直セオドリクが信じられない。あっさりと仲間を見捨てたからだ。
それは多分、夫婦になっても変わらない。私が使えなくなったらすぐに切り捨てるだろう。
「私がそうさせたのかもしれないけど…」
計画を立てたのは私。実行したのは私達。だから、実質断罪したのは私だ。
「…あぁ、今日何回目?」
何回も何回もそんなことを思ってしまい、なんだか自分に苛立ってくる。
だって、分かっていたはずなのに、今更嫌悪感が湧き出てくるんだもん。セオドリクにも、自分にも。それが嫌になる。
謝ることなんて出来ないし、今更悔やんだって、された側はふざけんなって思うだろう。
私だってそう思う。だから、私に苛立ってしまう。
「…これはよくある断罪劇だから」
これから私は嫌でも人を断罪する。誰かを絶望させる。…だから、悲しいけどよくある断罪劇で立ち止まるわけには行かないんだ。
それはとっても孤独なことだけど、信じられる人なんていない。セオドリクさえ信じられないから。
「…おかえり、アナスタシア」
優しい笑顔の父の顔が見える。どうやらいつの間にか屋敷に着いていたらしい。
「ただいま、お父様」
「あら、私にも挨拶をしてちょうだい。アナスタシア!」
「ごめんなさい。ただいま、お母様!」
「おかえり!」
両親は、やりすぎだけど私のことを溺愛している。それは、母に子供が出来にくかったからだろう。
確かに、分からなくもない。社交界で不仲やら不妊やらと好奇の目で見られた最中の子供。そりゃ可愛がるだろう。…その結果が勉学もろくに出来ない我が儘娘だけど。
でも、だからこそ罪悪感がある。
今日起こってしまった断罪劇、両親にとってあれは、我が子が我が子を断罪してしまったという悲劇だろう。
「アナスタシア、執務室に行こう」
「え?」
急にお父様に話しかけられてびっくりした。てゆうかえ?執務室?私をあそこに呼ぶって…今夜のことかな
「ふふふ、今のうちに話しておきなさい」
「…はい」
なんだかよく分からないまま返事をして、よく分からないままお父様に着いて行ってしまった。流される人間ってこんな感じだろうか。
執務室に着いて行くと、お父様が真面目な顔をして言った。
「さぁ、アナスタシア…今夜のことだが」
「!」
やっぱ、聞かれるよね。
「姉弟喧嘩をしたんだろう?」
「してい、げんか?」
「アナスタシアは頑固だからね。僕がこう言わなければ仲直りをしてくれないと思って」
「仲直り…」
一瞬、何を言われたか分からないくらい衝撃的だった。あの断罪を、一体どういう風に捉えたらこうなるのか。スケールが一気に小さくなったではないか。
「…ねぇ、アナスタシア。」
いきなり、お父様がまた真面目な顔になった。
「君は王妃になって、沢山人を断罪するだろう。」
「!?」
「それは公爵である僕くらいに」
「…お父様は、辛くないのですか?」
「辛かったよ、妻が…家族がいないと壊れてしまいそうだった」
「…」
お父様でもそう思うんだ。
「だからね、僕はアナスタシアを支え、支えられるような人がいてほしいと思う」
セオドリクの顔が頭をよぎった。…頼れる人は彼しかいない気がしていた。
だって、覚醒してから彼だけが味方な気がしたから。同郷で、旦那でーー共犯者。
「そして、僕たち家族でもいいんだよ、それは」
なんだか、その言葉に救われたような気がして、涙が落ちてしまう。