転生者は詰んでしまった 3
「ふーん、それで悪役令嬢は断罪されるのね」
「あぁ」
現在目の前に座っているのは金髪碧眼の王太子。もとい取引相手。
なんの取引かというと、王太子を助ける代わりに乙女ゲームの知識を教えて貰うって取引。ちゃんと契約書を使ったね。
「それで、使えるのはヒロイン誘拐事件についてくらいなのね」
「ゲームは殆んど終盤だもんな」
私が得た知識は、ここが乙女ゲームの世界だってことと、男爵令嬢や王太子達の設定。そして、これから起こる誘拐事件と断罪について。
「誘拐事件は、卒業パーティーに向かうヒロインが、悪役令嬢に雇われたゴツロキに誘拐される、だっけ?」
「そんなかんじ。本当は結婚式で断罪する予定だったけど、ヒロインが誘拐されて断罪を卒業パーティーの時に早めたってかんじだな。」
「それって、誘拐されなきゃ結婚式で断罪されるってこと?他国の重要人物の前で!?」
「…正直乗り気だったけど、今思うと恐ろしい」
この国は1人の女の子のために、スッゴく重要な結婚式をブチ壊すんだよ〜って言ってるようなものだしね。怖い怖い。
「でも、俺が止めても今更断罪は止められない。」
「部下を止められないなんて、大丈夫?」
「自業自得だが、アレは部下じゃない」
今まで王太子、お前のことは部下だと思ってない、学園では対等だって言いまくってたからね。側近とは友人感出してたし。そんなんだから男爵令嬢は忠告を無視すんだよ。
「それで、私に泣きついたってことね」
「あぁ、あいつらは俺の言葉なんか聞いてくれない」
王太子は苦虫を噛み潰したように言う。
つまり悪役令嬢に泣きついたのは、部下達じゃ使い物になんないから。もし私が記憶を思いだしてなかったら…なんてこともあるけど。てか、思い出したとしても悪い人かもしれないしね。
「で、どうする?貴方は廃嫡されたくない。私は死にたくない。でも結婚式をブチ壊されたら国単位でヤバい」
「でも、断罪を早めるには誘拐が必要。…やるか?」
「いやよ。何が楽しくて誘拐事件なんて起こさなきゃいけないの」
そう、このままだと結婚式で断罪が起きて、他国にこの国はバカだって思われる。それは困る。でも、断罪を早めるには私が誘拐事件を起こす必要がある。
「ねぇ、誘拐事件って証拠は出るの?」
「いや、ゴツロキの証言だけだ。君に雇われたって言う」
「そう…」
誘拐を依頼するしかないか…でも、あまりリスクは犯したくない。殺人未遂という前科もあるし。
「要するに、君は危険だって錯覚させればいいんだろ?」
「…あそっか、じゃあ誘拐以外にも方法はあるし、側近どもに思い込ますだけでもいいってことね。」
ということは、私が彼らを脅すだけでもいい。もしくは、王太子に何かしたと思い込ませればいい。
「貴方が、昨夜こいつに脅されたとでも言えば、側近達は動く?」
「間違いなく動くな。君がヒステリックに叫んでいた、ヒロインの身に危険が迫るかも、とか上手く断罪に誘導すれば十分だろう。」
よし、これで断罪はパーティーで行うことができる。大体、王太子がここへ自ら来ることはおかしい。私が呼び出したと考える方が自然だろう。側近達なら尚更だ。
「だが、問題は俺の廃嫡だな」
「俺たちのじゃないのね」
「俺だけは助かる」
こいつ仲間見捨てたよ。ま、そうなるでしょうけど。あいつらは使い物になんないからね。
「ラノベとかじゃ、悪役令嬢がざまぁするってのはあるけど、ヒロインに攻略された奴とっていうのは…」
「どうした?」
「…あるかも、しかもこれだったらこの国はバカって思われるわけじゃない!」
「マジか、どんなの!?」
「それはーー」
果たしてこれは吉と出たのか、凶と出たのか…
興奮する私達は作戦を立て、明日に向け眠ったのである。