転生者は詰んでしまった 1
あ、これ詰んだ。
そして同時に思い出す前世の記憶…
「え、これテンプレ?悪役令嬢に転生しちゃったやつ??」
自室で独り混乱しているのは私、アナスタシア・フィエルテと日本で生きたと思われる普通の女子高生の…融合体?精神統一??
まぁともかく身体はワタクシ、心はわたし、合わせて覚醒した公爵令嬢ってとこ?
「スラムの住民とか飢えに困る家が転生先じゃなくて良かったけど…完全に悪役令嬢だわこれ」
覚醒前の私は THE悪役令嬢…我が儘・バカ・傲慢と三拍子揃った公爵令嬢だ。
「お父様とかお母様は私に甘いけど…甘やかし過ぎて、なんでも権力でゴリ押しする我が儘令嬢になっちゃったのね。」
ただの我が儘だったらまだいい、宝石やドレスを買うのだったら他の貴族もやってる。
…問題なのは、私が一目惚れして権力でゴリ押しした、哀れな婚約者…
「キラキラ王太子…しかももう直ぐ、いや明日婚約破棄されそうって」
事の発端はある男爵令嬢だった。
彼女が現れるまで、ワタクシは宝石とドレス、そして(見向きもしない)王子と結婚する未来があった。…多分
でも彼女…学園に男爵令嬢が現れたことで全ては変わった。
王太子が男爵令嬢に惚れたのだ。最初は悪役令嬢に味方してた人々も、純粋な男爵令嬢、そして王太子と側近達味方するようになった。
というか元々私は好かれてなかったから。男爵令嬢の味方に早替わり!
そして明日、多分悪役令嬢は断罪される。
罪、それは男爵令嬢を虐めた罪だ。私は王太子から男爵令嬢を引き離すため、典型的な虐めをした。
現代日本じゃ今時やるか?男爵令嬢が失敗した時取り巻きとコソコソ笑ったり、朝机に落書きしたり、ノートをビリビリに破いたり…という古典的な方法だが、貴族社会ではよくある事だ。
マズいのは、今回断罪で使われるだろう切り札、私が男爵令嬢を殺しかけた事だ。
「マズい、非常にマズい」
これが学園に通っていない平民だったらまだ良かった。でも、相手は男爵令嬢とはいえ貴族…そして王太子のお気に入り。
「そしてさらなる問題は、明日が断罪される日だろうってことよ」
明日は卒業…そして、その次の日は私と王太子の結婚式。チャンスは卒業パーティーがある明日。
「あーもう!どうしよう!!」
よくある乙女ゲーとかの展開じゃ、断罪後は国外追放、平民落ち…処刑!!
「覚醒後直ぐに死にたくない!」
果たして、ベッドで高速ゴロゴロする公爵令嬢なんているのだろうか?…多分私だけだろうな。
ぐちゃぐちゃの格好の私は、ため息をつきながら考えた。断罪後、追放されたとして国外じゃそもそも言語が分からない。この国で平民落ちしたとしても、貴族が生きていける訳ない。死刑だったら石を投げられ罵倒をされ…考えたくもない。
「王太子に直談判…出来るわけない。てか、出来たとしても味方になんかつけっこない」
そう、今の私には味方がいない。いや、両親は味方だけど、明日は馬車でこっちまで来るから入れ違いになる。
「あ、欠席すればいいのか!」
そうだ、パーティーに仮病で欠席しちゃえばいいんだ。幸いこっちは公爵令嬢。体調の悪い公爵令嬢を無理やり出席させようとするなんて、そんなことしたら不敬罪だ。私ってば天才!
「よーし、これで断罪パーティーは回避!…待つのよ私、本当にそれで大丈夫?」
…あ、結婚式があった。ここで断罪することも出来るんだ。王太子の結婚式を涙ながら見守る男爵令嬢に颯爽とプロポーズ。でもって他国の貴族が来る大々的な結婚式を、私が欠席するわけにはいかない。
「…詰んだ、完全に詰んだ!!」
もう、どうしたらいいっていうの?このままじゃお先真っ暗、一寸先は闇!
また高速ゴロゴロをする私の部屋に、メイドのノックが鳴り響いた。
「お嬢様、お客様です!」
私を呼ぶメイドの声は、妙に焦っている気がする。確かに、もう日が沈んだこの時間に客が来るなんてことはほとんどない。
「って、髪がぐちゃぐちゃ!どうしよう!?」
これが、私の人生を大きく変えるとは、焦る私には想像できなかった。
ここまでご覧いただきありがとうございました!誤字脱字がありましたらご報告くださいm(_ _)m
とりあえず、一週間以内にまた投稿出来るように頑張ります!