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木枯らしの後
木枯らしも昨晩で消え去ったようだ。窓に貼り付いた新聞紙の破片を剥がして丁寧に丸めてゴミ箱に捨てた。
おはようと、先程までシングルベッドで寝ていた深琴に微笑む。深琴はそんな僕を見て、哀れみのような表情をした。その彼女の頬に手を当てる。やはり、温かい。
「深琴、君は。君は、最初からそんなだったの? 」
森の茂みのように荒んでいたはずの深琴の瞳は、空のように澄んだ青になっている。
「・・・・・・わかりません」
そう言ってまた小さく微笑むのだ。人形のように見えていた彼女が。まるで母性に溢れた顔をする。焦燥感が襲う。頬まで伸びてきた手を片手で受け取って、テーブルの前の椅子に座らせた。
「木枯らしはどこかに行ってしまったよ。下を見てごらん、人がちらほらと歩いている。」
彼女の瞳が疎ましかった。そんな哀れみの瞳で僕を見ないで。昨夕の僕の頬の冷たさを忘れられない。