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シチュー
食べ物を美味しいと感じたのはいつぶりだろうか。その記憶は遠いところで消えてしまったのだろうか。だいだい色の耐熱性のある皿の熱ささえ感じた。
シチューの味が舌にまだ居座っている。目の前に座るおじいちゃんの白髪を視界の端に、ぼけっと虚空を見ていた。
「道流。昨晩はいつ帰ってきたんだい」
昨晩よりむしろ、まだ日も暮れない頃に帰ってきたよ。と僕が答えるとおじいちゃんは安堵したように微笑んだ。
「おじいちゃんは、居眠りしてたよ」
耳を澄ませば、夜明けのオルゴールが流れている。落ち着いてはいるのに、陽気さを魅せる音。
ドアを開けると、うさぎが座って奏でている。
けれど、やはりうさぎは不気味な笑みを浮かべている。生きてはいるのに、生きていない。
おじいちゃんの家のドアには、ステンドグラスが張り巡らされている。白く透き通るうさぎと目が合った。ドアがしまる。深琴はまだ寝ている。