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ロッキングチェア
ロッキングチェアに揺られながら、窓からの風を受けて眠っている。側の木目調のデスクには万年筆。紺碧色のインクが沁み込んでいる。僕はそれを当たり前のように知っていた。
「おじいちゃん、疲れて寝てしまったんだ」
とりあえずと、僕はコートを脱いでおじいちゃんに掛けた。そして部屋のシェードつきのランプを消して、ランタンの蝋燭に明かりを灯す。丸いサイドテーブルに置かれたカップにフタを被せた。
深琴は手持ち無沙汰のようすで突っ立っている。僕はその手を繋いで、おじいちゃんの右側から本棚の後ろに入った。本棚で仕切られている僕の部屋だ。とりあえず声をかける。
「ここに座ってね。そしたら、僕は食べ物を持ってくるよ」
彼女はまた頷いた。まるで意識がないように従順の体を見せている。そういうところを不気味に思っていたけれど、自分の頬に手を当てる。まだそこには彼女の温もりがあった。そして、その体温に自分の冷感があった。