小店
なぜ、僕は彼女を誘ったのだろうか。僕に見られていることにも気付かずに、好奇心に満ち溢れていることを隠せていない目の色をしていた。
この店は、郊外にぽつんとあるおじいちゃんの家から徒歩三十分約の小店だ。
中でも深琴の気を一心に感じとられるのは、アクリルカップ形状のキャンディーボックス。彩り豊かでカラフルなキャンディーの詰め合わせは、たしかに女の子の気を惹きそうではあった。
「それが、欲しいの? 」
「・・・・・・いいえ」
僕がそう問いかけると走って逃げてしまった。なぜあんなにも逃げるのかと、内心彼女を疑った。ただ子供みたいだなと、おかしな気持ちにもなった。おかしいと言っても、決していやらしい感情はない。・・・可愛いと、思っただけだ。
見え見えな彼女に歩みを進めると、後ろの方から笑い声が聞こえた。深琴ではない、もっとしわがれた声だ。
「なぁに、今日は龍が涙を流すかな」
ほっほっほと高笑いするこの老人は、この店の主人だった。慣れた顔であるから、慣れた口ぶりにもなる。
龍が涙を流す、という言葉はこの地域の独特ないい表しだ。この地域には古代から伝わる伝説があって、その中で龍はとても貴重な存在だった。
そんな龍が涙を流すのをめでたいと言われてきたのでこの言葉だ。
「トメお婆さん、僕に龍が涙を流すなんて贅沢な言葉は似合いませんよ」
そういうと、「こら」と頭を手で叩かれる。
「謙遜しろとは言うが、自分を卑しめなどと言うのは言ったことがないぞ」
わかったかと言われて、わかりましたと答えた。たく、親でもないのに。




