1/28
瞳
鬱蒼とした波が打ち際に迫っては退くを繰り返し、ざわめく水の流れは彼方先の暗鈍とした地平線に呑み込まれては消えて行く。陶器のようなさめざめとした月は雲に覆われて、どこか僕のわからない所で呻き声をたてていた。灯台の光が孤独にも海に浮かんでいる。
僕の中に意思はなかった。そこに棒立ちになったままで、瞬きもせずに見ていた。闇に紛れたその塔は、鋭い光に時折浮き彫りにされる。
突然、炎のような淡い灯火が顔を出してまた引っ込んだ。息を呑んだのを拍子に、周りの景色が現実味を帯びる。
声が聞こえた。さっきまで遠くの存在だった塔が聳えていた。その小さな窓から見てくる瞳は、閑静、そして青かった。
「危ないです!ただちに迂回してください! 」
大海に包囲されている僕は逃げる場所はない。
「無理だ! 」
雨雲が雷を落とす。彼女の白い肌が、か細い腕が、美しい顔が暗闇に映えた。