第3話 デストライアングル
「に、にーちゃんは家で、ね、寝ています!」
「ほらな、あいつ夏休みに入った瞬間から色々なスイッチ切りやがった」
(まずい…。なんでよりによっていつもはインドアなこの2人がこんなところにいるんだよ)
無事買い物が終わったことは良かった。しかしまさかこんなところでアクシデントが起こるとは仁は思わなかった。実に不運。すると美少女化した仁の存在に気づいたふたりは、
「ん?夏芽ちゃん、この子は?友達?」
「見た目日本人じゃなさそうなんだけど」
と、仁に近寄ってくる。
(大丈夫。バレるわけがない。落ち着け、落ち着くんだ俺っ)
夏芽はどうしようかとあたふたしている。助けは求められそうにない。しかし夏芽を置いてこの場から逃げ出す訳にもいかない。どうしようかと悩んだ挙句、
「そ、そうなんです、夏芽ちゃんの友達やってます、武石仁子ですっ」
仁子て…。
人は焦ると考える能力が極限まで下がることを実感した仁だった。横見るとあたふたしていたはずの夏芽も笑いを堪えている。
今笑ったら怪しまれるだろ!
こうなったら仕方がない。なんでもいいから理由をつけてとっととこの場から去ろう。そう思い顔を上げ、バカ2人の方を見る。裕翔は何やら電話をかけているようだ。
…電話?
はっと思った時にはもう遅く、けたたましい音量でサイドバックに入っていた携帯が鳴る。急いで止めようとバックから携帯を取り出す。しかし焦りすぎたのがいけなかった。仁が取り出した携帯を見るなり、拓は
「ん?それ仁の携帯じゃん。なんで仁子ちゃんが持ってんの?」
(まずった!)
「それに仁子って、んん?」
冷や汗が止まらない。こんなところでこの2人にこの姿がバレたら、一体どうすればいい?思考が鈍ってくる。目が回ってきた。すると夏芽が
「あっ、にーちゃんから盗んだ携帯仁子ちゃんに貸したままだったねっ。ごめんごめんびっくりしちゃったね。あ、お二人さん夏芽たちもう帰るので、お、お邪魔しましたー!」
と、手を引っ張ってその場から逃げ出させてくれた。持つべきものはいい妹。うん。怪しい感じにはなってしまったが、何とか逃げ切れた。もうあの二人には会わないようにしよう。そう思う仁だった。
■
家に帰ってきた。携帯を見るとあの二人からのLINEが大量に来ていた。
「なに妹に携帯取られてるんだよ」
「仁子ちゃんて誰だよ可愛いな。今度紹介しろよ」
「てか、こんな時間まで寝てんなよ」
…。よかったバレてはいないようだ。夏芽も少し疲れた様子だ。やはり外には出ない方が良いのだろうか…。するとインターホンが鳴る。モニターを見てみると、そこに写っているのは透里だった。
なんでこんなに災難が続くんだよ…。
しかし、家にあげる訳にも行かない。バレたら一大事だ。ここは夏芽に頼るしかない。
「夏芽っ!もうひと踏ん張りだ!透里を追い返してくれないか?」
「人使い荒い人は嫌われるよ?」
もう、と言いつつも玄関へ向かう。後でアイスでも奢ってやるか。そう思いつつそっと玄関の近くへ行き、聞き耳を立てる。
「あ、えっとー、に、にーちゃんは出かけていて…、まだ帰ってこないと思うんですね。だから、えっと、今日は帰った方がよろしいかと…」
焦っているのか、夏芽の口調が変だ。
「また遊びにいっているのかしら。まぁいいわ。夏芽ちゃん、私はずっと待っているわ。夕飯でも作ってあげようかしら。上げてちょうだい?」
「え?!えと、あの!」
「どうしたの?」
「あ、いえなんでもありません…。」
おい!諦めてんじゃねぇよ!夏芽ぇ!
「じゃあ、お邪魔しますね」
透里が上がってくる。まずい。とにかく隠れなくては!急いで自室へと身を隠す。しかしあろう事か、透里はまっすぐ仁の部屋へと向かってくる。万事休す。こうなったら仕方がない。
バタンとドアが開く音が聞こえた。ドアの前には透里が立っている。夏芽が後ろで心配そうに見ている。仁はちょこんと、部屋の真ん中辺りに正座をしていた。そしてわざとらしく
「わっ、し、失礼しましたっ。夏芽ちゃんと遊んでいたのですが、もうこんな時間でしたか!し、失礼しますっ!」
と、夏芽の友達を演じ、その場を去ろうとする。しかしすぐに
「ちょっといいかしら」
と、止められた。
「な、なんでしょう?」
「あなた、夏芽ちゃんの友達よね?」
「は、はい」
「なんで仁、この子のお兄ちゃんの部屋にいるのかな?」
「そ、それは…」
「あ、えっと、夏芽の部屋が汚れていてっ、にーちゃんがちょうどいなかったから使っちゃえと思って!」
夏芽がフォローする。
「そう、私お邪魔だったみたいね?」
「あ、いえ、そんな…」
「夏芽ちゃん台所使わせてもらってもいいかしら?」
「え?あ、はい。ちょっと汚いんで掃除してきますね」
夏芽が台所へ向かう。透里はすっと仁のほうを向いて
「綺麗な髪の毛ね」
と微笑みながら近づいてきた。反射的に後ずさりしてしまう。透里はどんどん近づいてくる。やがて方を捕まれ、ふっと笑い、そして仁の耳元で囁くように
「バレないと思った?」
仁はその場に凍りついた
勉強の合間がてら書いてます