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武田さんのジェンダーチェンジ  作者: 宇佐見イニ
第一章 変化の夏休み編
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第13話 歩美


 「おい夏芽(なつめ)?俺、昨日の電車から今日の朝にかけての記憶が殆どないんだが…?」


 「むふふー、うん?なんにもなかったから安心しなよー。んふふー」


 八月十八日。今日は透里(とおり)の誕生日である。そのため昨日は透里へのプレゼントを買いに東京まで行ったのだが


 (くそ、あの夏芽の反応。やっぱり俺はあの状態になってしまったのか…!不覚!)


 電車内での記憶があやふやになってしまっていた。


 「それでー?にーちゃん、何も買わずに帰ったけど、どうするの?」


 「ふっ、兄ちゃんには考えがある。まぁ、見てろ」


 「ふーん?」


 すると、ぴんぽーん、と家のインターホンが押された。


 「あ?透里さんかな?」


 「ん?もう来たのか、早いなあいつ」


 仁は玄関に向かい、そのまま扉を開ける。


 「はーい、いらっしゃ…、え?」


 そこに立っていたのは、透里ではなく…


 「い、委員長…?」


 かけた眼鏡がいかにも真面目さを滲み出している、髪をポニーテールでまとめた、仁のクラスの学級委員長、佐藤歩美(さとうあゆみ)だった。



            ■



 なんでよりによってこいつが今家にくるんだよ!

 仁は歩美に対して少し苦手意識を持っていた。中学時代同様に、あまりクラスに馴染めていない仁は学級委員長である歩美との関わりを面倒くさく思っていた。

 だってくそ真面目なんだもん、こいつ…。


 「あなたは、武田仁の妹さんかしら?」


 「あ、えっと、はい。そうです…」


 玄関での立ち話もどうかと思い、とりあえず中に入れ、お茶を入れる。

 歩美は仁のことをじーっ、と見て


 「髪の毛、それ地毛なのかしら?染めてるのだとしたら今すぐ戻しなさい」


 鞄から黒染めスプレーをさっと取り出した。


 「じ、地毛です!元々の髪です!」


 慌てて否定する。


 (な、なんだこいつ。日頃からそんなもの持ち歩いてんのか…?)


 ずず…、と茶を啜ってから


 「ところで、武田…、お兄さんは外出中?」


 「えっとぉ、はい、そうですね…。わ、私が伝えておきますよ。用件はなんでしょう?」


 「あの子ねぇ、夏休み中にある登校日に学校に来なかったのよ。サボったんじゃないかしら」


 あ、そんなものあったんだ。知らなかった。


 「あ、そうですか…。因みにその登校日はいつだったんでしょうか?」


 「八月八日ね」


 十日前といえば、あの拉致事件の日だ。どっちにしろ行けなかったこともあるが、その事件が起きてなくてもこの姿ではまず行かなかっただろう。


 「えっと、では委員長さんが来たって兄に伝えておきますね」


 「あら?私あなたに委員長と自己紹介したっけ?」


 (はっ!し、しまった!)


 「あ、その、あ、兄が!委員長さんのことをよく話してくれて!それで!」


 「へぇ?武田は私のことを嫌っているようだったけど、家では私の話をするのねぇ?」


 (そういう所が嫌いなんだって…!)


 「はい、そうですからっ!今日の所はお引き取り下さいっ!」


 「あらそう?じゃあ今日のところはこれで失礼するわ」


 そう言って歩美は玄関へと向かう。

一応玄関までは見送りに行く。


 「では、お邪魔しました」


 「はい、では兄に伝えておきます」


 「よろしくね、武田仁君」


 「えっ!?」


 歩美はそのまま出ていってしまった。

 急いで追いかけるがエレベーターで下に降りていってしまった。階段では追いつけそうにない。


 (ばっ、ばれたっ!?ばれたよな!?)


 まずい。

 …そういえばこれ夏休み中に、まずいって何回言ったんだろ。



            ■



 「にーちゃーん?なんの話してたのー?」


 自室から夏芽が出てくる。

 歩美を部屋にあげる前に自室に戻っておけと命令しておいた。


 「い、いいや?なんでもなかったぞ?登校日来なかったからって注意しに来ただけだったぞ…?」


 「その反応、絶対嘘だね。にーちゃん、嘘つくの下手すぎ」


 「うっ…」


 「それで?何があったのか、夏芽に聞かせて?」


 「委員長にもばれたかもしれない…」


 「はぁ…。やっぱ隠し通すのはにーちゃんの性格じゃ厳しいよ…」


 「うっ…」


 もし本当にバレていたのであれば、新学期から学校へ行こう計画は全て破綻となるだろう。せっかく制服の採寸にまで行ったというのに。


 「あぁぁ、どーしよー…」


 すると

 ぴんぽーん、と再びインターホンが鳴る。

 今度はしっかりとモニターを確認する。映っていたのは透里だ。

 ガチャ、とドアを開け


 「い、いらっしゃい透里…。ん?」


 「ごめんね、着いてきちゃったっ」


 後ろには歩美が立っていた。

 しつこいっ!



            ■



 「えええー!?やっぱりあんた武田仁だったの!?あっははうけるー!」


 「うるせぇ、まじで」


 もうどうでもよくなったから口外しない条件付きで話した。

 さっきまでの口調はどこへやら。ばらした途端にこの変貌ぶり。


 「ごめんね仁、ここに来ようとしたらロビーでばったり委員長に会ってしまって…。何とか誤魔化そうとしたんだけど…」


 透里が深々と頭を下げる。


 「いいや、透里が謝ることはないよ。ていうか、用が済んだらとっとと帰れ、委員長」


 「あらぁ?私にそんな口叩いてもいいのかしらぁ?さて、まずはクラスの皆から武田仁の正体を…」


 「だーっ、わかったわかった!なんだよなんの用だよもう!」


 「起きたらこんな姿になってたんだもんねぇ?いいじゃない可愛いじゃない。私、抱きしめたくなっちゃった」


 えへへぇ、と涎を垂らしながら近寄ってくる歩美。


 「うわぁぁぁっ、来るなぁァァっ!」


 必死に逃げる。最後には自室に閉じこもり出てこなくなってしまった。


 「ほら、委員長。正気に戻って。気持ちはとても分かりますが、帰りますよ」


 透里が委員長を引っ張り出していく。


 「気持ちは分かるって、まさかあなた!あの姿の武田仁を抱きしめたことがあると言うの!?」


 「あれよりもっと可愛い仁を抱きしめたことがありますから!はい、出てった出てった」


 「え、そのこともうちょっと詳しくぅぅ…!」


 ガチャン、バタン。

 外にほっぽり出して透里は部屋の中へと戻る。


 「ほら、仁。委員長は追い出したわよ」


 「もうやだみんなこわい…」


 悩みの種が一つ増えた仁であった。

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