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魔神の使徒(旧)  作者: ドラゴンフライ山口 (飛龍じゃなくてトンボじゃねえか!)
第四幕 勇者と使徒と邪神と
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目覚め

第4幕の開幕です

 ………あれからどのくらいの時間が経過したのか、闇に沈んだ意識の中ではわからない。

 だが、やがて海中なら浮かび上がるように上に輝く光に向かって進み、それに照らされたとき深い闇に沈んでいた頃の記憶が消えて意識がはっきりとしてきた。



「…………………」



 最初に感じたのは、ひどい倦怠感と寒気だった。

 痛みがないのは俺の異世界人としての力によるものである可能性が高い。傷の類は既に治癒しているのだろう。


 重い瞼を開くと、兜の隙間から外の情景が映し出された。


 そこは、夜の森らしき場所だった。

 高層ビルに匹敵するのではないかと疑いたくなる、上の見えない巨大な木々が乱立しており、それが朽ちて倒れたらしき巨大な幹に背中を預ける形で俺は座っていた。


 夜中の森でありながら、どうしてそれが判別できたのかというと、俺から見て2メートルほど手前の地面に焚き火があったからである。

 それが周囲を照らしていたことで、ここが夜の森であると一目で見て判別できた。


 フレイキュストやその周辺ではないらしい。

 焚き火の前には、外見がわからない全身を包む大きなローブとフード姿で座っている人物と、焚き火を挟んで向かい側に狩人らしき毛皮の軽鎧に身を包み肩に猟銃らしき武器を担ぎながら枯枝をくべている一目でいうとセイウチの亜人らしき人物が座っていた。


 俺が目を開けたことに気づいたのか、セイウチの亜人が顔を上げる。



「お、やっと起きたか、魔族さんよ」



 セイウチの亜人の言葉につられ、もう1人の全身ローブ姿の人物もこちらを向く。

 しかし、馴れなれしい笑顔を向けるセイウチの亜人に対し、ローブの人物はフードの下にわずかに覗く口元しか見えない。


 しかし、この際ローブ姿の人物はどうでもいい。

 それよりも、俺はセイウチの亜人の声と口調に聞き覚えがあった。



「………今度は狩人に扮しているのか? エn–––––––」



「馬鹿、やめろ! ここは穏便にするところだろうが!」



 すかさずセイウチの亜人の姿に扮したエンズォーヌが、俺がその名を出すのを妨害してきた。


 姿形を変えようが、なんとなくだが感じ取れるようになってきた魔力の質、そしておなじみの口調と声がその正体を即座に暴いた。

 なぜセイウチの亜人に扮しているのかは不明だが、遮った時点で自白したようなものである。


 セイウチの亜人は、姿を変えたエンズォーヌだった。


 突然大声をあげたエンズォーヌに、ローブ姿の人物は驚いたのかエンズォーヌの方をビックリした様子で振り向く。

 そして自白同然の遮りをしたエンズォーヌは今頃になってとぼける逃げ道をふさがれたのか、「やってしまった………」という表情になっていた。



「………適当な表現は【考え無し】が相応しいか」



「全身鎧の冷血魔族が何ぬかしよるか! バカなのは否定できないが、これでもてめえよりは温かみがあるマシなやつだよ!」



 俺の一言にすかさずツッコミを入れてくるエンズォーヌ。

 そのやり取りを見ていた全身ローブ姿の人物が、つぶやきを漏らす。



「………初対面ではなかったのですか?」



「初対面でありたかったよ!」

「多少の親交と因縁がある関係だな」



 ローブ姿の人物の問いかけに、俺とエンズォーヌはほぼ同時に答える。

 どうやら、エンズォーヌは俺との関係を見知らぬ他人ということにしたかったらしい。姿を変えれば絶対にばれないという自信があったようだ。

 3度目ともなればあえなく見破られる結果となってしまったが。


 ローブ姿の人物は声から見て女性のようである。

 そしてエンズォーヌはローブ姿の人物に俺とは見知らぬ他人とでも説明していたようだ。


 今から言い繕っても、もはや信用されない。

 フードでその目は見えないが、肩をすぼめるエンズォーヌを見る限りローブ姿の人物に白い目を向けられているようだ。



「いや、違うんだよ………これには深い訳というか、何というか………」



「…………………」



「………本当に申し訳ありませんでした! 知らないというのは嘘です! 俺はそこの魔族のことを知ってます!」



 理由は大体察しがつくが、エンズォーヌは先ほど遮ったことから考えると自身の正体がローブ姿の人物に露見するのを良しとしないらしい。


 確かに、この世界にとって敵対関係にある、特に亜人たちにとっては彼らの信仰する龍神の方針により討伐対象としている邪神であることを知られたくはないだろう。

 エンズォーヌの名は知られていないはずだが、足跡もつけたくない様子である。もしくはリスクを恐れているのか。


 エンズォーヌがセイウチの亜人の姿のまま土下座をしている。

 それを見下ろしているローブ姿の人物は、エンズォーヌに向かい合う位置に移動してその場にしゃがみ込んだ。



「顔をあげてください」



「許してく–––––––ベェッ!?」



 そして土下座しているエンズォーヌに穏やかな声で顔を上げるよういうと、許してくれると思ったのか笑顔になって顔を上げたエンズォーヌの顔面にビンタを食らわした。



「嘘つきはお仕置きです」



「…………………」



 平手打ちにしては、擬態しているとはいえ明らかに体格で勝っているセイウチの亜人に扮したエンズォーヌの身体を1発で後ろの倒れている大木に叩きつけるほどに飛ばすという過剰な威力を見せた代物だった。


 記憶を弄ったのかもしれないが、それにしてもよくもまあ道行先の相手とここまで仲良くなれる者である。

 あの程度でくたばる存在でないことは承知の上なので、俺はエンズォーヌに対して心配することはなく、そのコミュ力に感心していた。


 そして、容赦無くエンズォーヌをビンタで飛ばしたローブ姿の人物に対しても、その状態にある程度の察しがついた。


 魔力をその身に纏っていた。属性魔法でもなければ錬金魔法でもないそれは、おそらく亜靭帯が扱える気力と魔力を合わせた魔法である強化魔法というものなのだろう。


 強化魔法は亜人の魔法。

 フレイキュスト、正確にはフレイキュストに展開されたエンズォーヌの作った牢獄の中で意識をなくしたのが最後の記憶なので、亜人の国のとしであるフレイキュストの位置などから察するに、ローブ姿の人物は亜人なのだろう。


 エンズォーヌの前に移動するために一度立ち上がった時に確認した身長や、フードから覗く口元の肌の色から考えると、シロクマの巨漢の亜人であるガルドスや蜘蛛の亜人と思われるアトラナートとは違う亜人のようだが。


 姿を隠しているというならば、全身を未だに真紅の甲冑で包んでいる俺も似たようなものだが。


 そして自身の甲冑まで考えが及んだところで、ようやく気付いた。

 そういえば監獄の中で捕らえた女神陣営の勇者たちがいたことに。

 ………そして、今甲冑の中には夜刀しかおらず、羽風の姿がないことに。



「…………………」



 一応、本人が強く願えば外に自由に出られるようにはなっていた。

 深手を負っていた夜刀は未だに意識が戻っていないようだが、羽風の方はほとんど傷になるものは与えていない。


 自身がどれほど意識を失っていたのかわからないので、いつのまにか出て行ったとも考えられるが、牢獄に閉じ込めた張本人であるエンズォーヌがいる状況で姿を消すだろうか?


 ………俺だったら消すだろう。牢獄に捕らえた輩と、甲冑に捉えた輩。監禁した相手が揃って意識をなくしていたと考えれば、そんな場所からは早々に立ち去ることを選択するのが賢明である。

 エンズォーヌの様子を見る限り、羽風が消えたことには気づいていないかもしれない。


 牢獄の崩壊に巻き込もうとして、足止めに近衛を使ったけど、自分までその崩壊に巻き込まれ気絶。傀儡魔法が解けた隙に、ふたりの勇者が自力で離脱を図ったと考えれば、一応のつじつまは合う。証拠は一切無いが。


 エンズォーヌは邪神であり、魔神の宝物庫の性質にも精通していたから、それらを一度に封印できる牢獄で強力な駒を用意し迎え撃ってきた。

 狡猾な面がある。傀儡魔法が解けている勇者が行方をくらませれば即座に気づいて妨害を試みたはずだ。



「嬢ちゃん、本気で殴ること無いでしょ〜よ〜。顔腫れたらどうすんのさ? 俺、結構男前だっている自負があるんだぜ!」



「もう1発、食らいますか?」



「………どうかご勘弁を」



 ………あの様子を見ると、勇者の存在を忘れてしまっていたとしてもおかしく無い気がする。

 気絶しているうちに逃亡されていたとしても、何の不思議も無い。むしろ有力な説に思えてきた。


 すると土下座から顔をあげたエンズォーヌと目があった。



「………おい、魔族さんよ。何だ、その目は? バカにしてんのか!」



「………いや」



「目ぇ逸らしただろ! 絶対内心バカにしてるよな!」



「………ああ」



「開き直るな!」



 目があっただけで威嚇してくる。

 ニホンザルみたいな習性を見せるエンズォーヌだが、その底の知れない実力に反して頭の中身が残念という印象が強くなってしまっているせいか、威圧感を感じない。


 いつものことながら、エンズォーヌはローブ姿の人物を「嬢ちゃん」と評した。

 声の様子から見ても、十中八九女性で間違えないらしい。

 起きてから俺にとどめをさすのも忘れて偶然近くにいた彼女をナンパでもしたのか、それとも別の事情があってこの場にて一緒になったのか。


 ローブ姿の人物のことを探るため、俺はエンズォーヌたちの会話から遠ざかり様子を伺うことにした。

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