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魔神の使徒(旧)  作者: ドラゴンフライ山口 (飛龍じゃなくてトンボじゃねえか!)
第三幕 異界の牢獄
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異界扉

 異世界人たちがエンズォーヌによって異界の牢獄に閉じ込められ、内部で傀儡魔法により邪神軍も交えて衝突していた頃、フレイキュストは混乱の渦中にあった。


 牢獄の崩壊とともに、突如としてフレイキュストの東西南北四方に巨大な黒い穴が出現し、そこから邪神テュイタリニアの配下である大量の亡者の邪神族がフレイキュストの外壁に襲来したのである。

 すぐにアトラナートの指揮のもと、フレイキュストにいた冒険者たちは衛兵らと協力し完全包囲されてしまった街の防衛線に発展したのである。


 増援を求めるための伝令を飛ばそうとしたが、邪神軍の包囲があまりにも重厚であることから、街の外に出られない状況となっていた。


 フレイキュストは消耗戦に陥っていた。

 それも、異界の扉を通じて無限に湧き出す圧倒的な物量を誇るテュイタリニアの邪神軍を相手にした、負けが確定し戦いだった。



「西門が破られた! 増援を!」



「南門も破られました!」



 フレイキュストにおいて冒険者たちが利用する宿屋ヘラトリウスの主人であるアマガエルの亜人シュガールと、フレイキュストのギルド副支部長である片眼鏡が印象的な人間ハンツマンは、もともとこの街の孤児院出身の冒険者コンビであり、支部長であるアトラナートの元で修行したフレイキュストを代表する冒険者だった凄腕の2人組である。


 彼らの活躍もあり何とか凌いでいたのだが、邪神軍の攻撃と数が最も多い北門を守備していた彼らの元に南と西の門が抜かれたという報告が入ってきた。


 北門の戦況が少し落ち着いてきた頃だったこともあり、2人は互いの視線を合わせてすぐに動いた。



「よし、南はこっちが受け持つ!」



「頼みます。私は西に」



 2人の冒険者たちが直ぐにそれぞれの突破された門へと向かう。

 それにより北門の戦力が減った隙を突くように、北門に対する海魔たちの攻撃が激化した。


 東門も同規模の敵がきているという話が聞こえる。それが気になるが、北門に対する攻勢の激化を凌ぐのに手一杯のアトラナートに東門の戦況を考える余裕はなかった。



「くっ………! 勇者殿が行方不明な時に合わせるように来るとは………!」



 勇者がいつのまにか不在になっている。

 その隙を突くように襲来したテュイタリニアの軍勢。

 アトラナートには、偶然とは思えない状況だった。



「だが、今はとにかく持ちこたえるしか無い………!」



 いつまで持ちこたえられるかはわからない。

 それでも、フレイキュストを守るために邪神軍をしのぎ続けることしか彼女にはできなかった。






 一方、東門では北門を上回る規模の軍勢が殺到していたが、そこを1人で守る鬼の魔族の姿があった。



「邪魔だオラ!」



 その手に持つ砲筒を振り回す度に、亡霊甲冑の死者の兵士たちが蹴散らされていく。

 閉じた門の前に陣取るたった1人の魔族に、万にのぼる邪神軍は殺到し続けるが、離れれば砲弾に、近づけば砲筒にと、次々と蹴散らされていた。


 魔族の三元帥の地位にその若さで登りつめた実力は、伊達では無い。

 亜人の冒険者たちよりもはるかに強いグラヴノトプスは、自分自身の武器を魔神の使徒のおかげで本当の意味で信頼するようになり、そして彼から砲筒の扱い方をより学んだことで、以前よりも技術の面と心の面においてさらに強くなっていた。


 魔力は精神である。

 それが鍛えられれば、自然と総量も増えていくもの。

 先天的な才覚も必要だが、後天的な成長というのも決して小さいものでは無い。


 それに、グラヴノトプスの背中には黄金に輝くゴーレムがいる。



「見えてんだよ、ボケ!」



 そのゴーレムが背中の死角を補ってくれていることにより、グラヴノトプスは全方位からの攻撃に対応できていた。


 グラヴノトプスが異変を感じたのは、フレイキュストに警鐘が鳴り響いた時である。

 熟睡していた彼女がその鐘の音を聞いて飛び起きると、すでに開いた異界の扉よりテュイタリニアの邪神軍がフレイキュストに襲来していた。


 おまけに、アカギの姿はヘラトリウスどころか街のどこにもない。

 勇者がいないという話を聞いた彼女は、アカギの身に何かがあったことを察知して、彼の残していたゴーレムを通じて持ち主の生存を確認したのち、彼が帰ってくるまでこの街を守ることを決意した。


 そこからのグラヴノトプスの行動は早かった。

 亜人たちが重厚な包囲に救援要請を出せないことを知ると、赤城の造っていた蜂に模した偵察用のゴーレムを駆使して魔族領とラプトマの街に救援を求めるメッセージを携えさせて飛ばしてから、ゴーレムグソクムシとともに東門に向かって救援が来るまでの籠城戦に参加した。


 後は、アカギか援軍が来るまで持ちこたえるのみ。

 曇った復讐心を晴らしてくれた魔神の使徒に全幅の信頼を寄せているグラヴノトプスは、この絶望的な戦況であってもどこかで彼が戦っていると思えば、絶対に勝てると信じていた。



「かかって来いや、邪神ども!」



 どれだけ数が沸こうとも、勇者という絶対的な存在との戦いを経験した彼女には、こんな雑兵ごときで膝を折るほど弱い心はもう持ち合わせてはいない。

 兜の下で闘志みなぎる瞳を輝かせて、グラヴノトプスは砲筒を振り回す。






–––––––



「………回収完了」



 気を失っているが、傀儡魔法は解けていない。

 女神アンドロメダの加護を授かった異界の勇者。手駒としては上等である。



「…………………」



 暗闇の中、羽風を肩に担いで消える1つの影があった。

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