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魔神の使徒(旧)  作者: ドラゴンフライ山口 (飛龍じゃなくてトンボじゃねえか!)
第三幕 異界の牢獄
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次の戦地へ

 羽風を無傷で制圧した俺は、意識をなくしたことを確認してから彼女の体を下ろした。



『ば、バカな………!』



 女神の勇者は今回の切り札の1つだったのだろう。

 エンズォーヌの声には驚愕がにじんでいた。


 しかし殺傷を目的とする技術ならばともかく、羽風のそれは護身術に過ぎない。

 厄介な属性魔法を扱う相手ではあったが、それさえどうにかなれば制圧は不可能ではなかった。


 俺が殺意を抱いている異世界人は天野 光聖だけで、彼女に関しては殺す理由がない。


 それに、俺はこれでも日本という世界的に見ても平和で高度な道徳教育がなされている国で育った者だ。殺人という行為には、忌避感を抱いている。


 また、先日会った3人の様子から、羽風は夜刀とそれなりに仲が良好な関係だったようだ。友人を傷つけられるようなことがあれば夜刀の心にも影を落とすことになるかもしれないと思ったから、むしろ敵とみなすには抵抗を覚える相手である。


 相手にされないとわかっているが、やはり惚れている相手には悲しむよりも笑っていて欲しいと考えている。


 冷たいと言われがちであり、実際に俺は冷たい人間なのだろうが、それでもやはり人らしい感情と浅ましさは持ち合わせているのだから。


 さて。

 エンズォーヌは羽風を操り傀儡としていたと言っていた。


 しかし意識をなくせばどうしようもないようである。


 夜刀の友人とはいえ、俺にとって羽風は他人でしかない。


 起きたとしてもまだ操られているのか、それとも寝たきりになってしまうのか。無傷で制圧可能な相手だったから彼女の安全は考慮したが、以降のことまで世話を焼く義理はない。


 立ち上がった俺は薙刀を一旦置いた後、再び岩壁の破壊を再開した。



『って、コラー! この冷血漢、女子を置いてそりゃねえだろ!』



 エンズォーヌに関しては、海魔を集めたりはするものの本体は積極的な妨害もせず今のところ声だけが響いている。


 そのため放置する。



『壊すな! まず壊すな! そしてお嬢ちゃんに謝れ! レディの扱い雑なんだよ! 顔面に容赦なく瓦礫を投げつけるわ、蹴りつけるわ、殺すことを厭わないような攻撃を仕掛けるわ、薙刀で切りつけるわ、鬼畜の所業だろ! 前言撤回だ、お前やっぱモテねえだろ! そして、無視すんなや!』



 理由は明確にはわかっていないが、エンズォーヌはこの岩壁や床を破壊されることを嫌がっている言動が見られる。

 脱出のための何らかの糸口になるかもしれない。



『者共出会えい! 天誅!』



 海魔が召喚される。

 触手が飛んでくるが、壁を破壊して作った破片を投げ飛ばし、蹴り飛ばし、叩き潰す。



『役に立たん雑兵どもだな! あ、俺の眷属かこいつら』



 己の配下に対する評価が冷たい。


 それはどうでも良いので、俺はまた破壊活動に戻る。



『そしてお前はまた壊すのかよ–––––––って、待てい! 頼むから、止めてくれえええぇぇぇ! 同じ冒険者のよしみだろ、な?』



「それ以前にお前は邪神であり俺は魔神の使徒だ。魔族の敵は俺の敵でもある。そしてここに黙って閉じ込められているよりは、抵抗し脱出の糸口をつかむ方が有益だ」



『正論スピーカー!? 確かに事実だがよ、破壊行為に生産性なんてねえだろ!?』



「廃墟の解体には生産性がある。それから農耕地の開拓のための伐採」



『この牢獄は廃墟じゃねえ! あと、森を大切にしろ!』



 エンズォーヌは森を大切にする性格らしい。



「海魔のくせに意外だな」



『似合わなくて悪かったな! あと壊すのを止めろ!』



 俺としては感心したつもりだったのだが、エンズォーヌには嫌味に聞こえたらしい。

 逆上するエンズォーヌ。


 そして壊すなと嘆く主の意思を遂行するべく、さらなる海魔の軍勢が現れる。



「…………………」



 しかし、海魔どもの動きには慣れた。

 その姿が見えている状況ならば、攻撃を見切るのは容易である。


 海魔の触手を回避し、破片や薙刀を用いて瞬く間に再出現した海魔の軍勢を駆逐する。



『我が手下ながら、既に雑魚に格下げとか………え? いやそっちにどうやって手を貸せという気だよお前は! だって、こっちは勇者さんもうやられちゃったもん。むしろこっちに手を貸してほしいぜ!』



 一方で、エンズォーヌは配下が蹴散らされたことにため息をこぼしてから、突然何やら明後日の方向を向いてブツブツと言い始めた。


 姿が見えないのでどこを向いているのかなど分からないはずだが、奴の視線が外れたことは感じ取れた。

 別の場所でも奴の注意をひくことが起きているらしい。


 そういえば、最初にこの牢獄に入れられる際にエンズォーヌはバルドレイの姿で近衛と歩いていた。


 彼女が俺をおびき寄せる罠ではなく、本物だったとするならば、その近衛の姿はどこにあるのかという疑問が起きる。

 ………それに俺をおびき出すためなら、バルドレイの姿となり1人で歩いているだけで十分だっただろう。


 もしかしたら、勇者たちもここにきているのではないだろうか?

 そんな疑問が浮かぶ。


 とはいえ、今は関係ない。

 再度壁を殴り壊す。



『そこ、レッドカードだ! ちょっと目を離すと破壊活動再開するのはやめろ!』



「レッドカードならば退場だろう。出せ」



『分かった、今すぐ退場に–––––––って、するかアホ! うまい返しだが、そうはいかんぞ!』



 エンズォーヌをうまく誘導したつもりだったが、ノリツッコミで乗り切られた。


 ならば実力行使で抜け穴を見つけようと、壁をさらに殴る。



『壊すなや! いや、待て! だから勇者さんはもう倒されたって! おいこら、魔神の使徒、壊すなつってんだろうが! ………え? いやそれも無理なんですわ。俺の眷属はかなり削られたんだよ、だからもう無理! 自分でどうにかしろ! そして、お前は壁を殴り壊すのをやめろ!』



 エンズォーヌがおそらく近衛か夜刀がいるのだろうと思われる、もう片方の場を気にしながら忙しそうに喚いている。

 壁を殴り壊す度にツッコミを入れてくるならば、向こうに集中すれば良いと思うが。


 海魔の邪神族をけしかけるならばともかく、ツッコミだけならば俺は手を止めるつもりはない。



『少し待ってくれ、こっちも忙しいんだよ! お前は壊すな! この牢獄を造る苦労も知らないくせに壊すな!』



「知る必要を感じないな」



『必要ないなら全部切り捨てか!? この冷血漢! モテたければもうちょい温かみを持てよ、俺みたいにな(キラッ)』



「善処しよう」



『善処するならまずは殴るのを止めろ! 矛盾してるぞ!』



「…………………」



『どうしてそうなるんだよ!? そしてお前は無視か!』



 エンズォーヌと行動を共にしていたことを考えると、近衛も既に傀儡にされている可能性が高い。


 前回会った時には何事もなかった様子だった。

 今朝の食堂にもウベワースはおり、あれから夕刻まで勤務していたことを考えると、3人が俺と別れてから接触を図った可能性が高い。


 ヘラトリウスは冒険者ギルドが仕事の都合上遠出をしたり情報を持つことが多い冒険者たちを紹介している宿だ。情報収集をするにはかなり都合の良い場所だろう。

 ウベワースの性格を考えると、冒険者たちにも早く打ち解けて、勇者たちの宿を聞き出していたとしてもおかしくはない。


 寝込みを襲われたと考えるのが妥当だろうか。

 その場合、夜刀も傀儡にされている可能性が高いだろう。


 だが、エンズォーヌは現状羽風しかけしかけてきておらず、別で誰かが戦っているのかそちらを気にしている様子がある。


 そこで戦っているのが近衛と夜刀だとしたら?


 ………仮に別の誰かが勇者たちと交戦中であると考えるならば、傀儡とはいえ勇者という強者が敵として立ちはだかっているとなると相手は手加減のしようがないだろう。


 もし2人がエンズォーヌの傀儡にされているとすれば、かなり危険である。



「チッ………!」



 迂闊だった。

 脱出を優先するあまり、本来取るべき優先順位を違えていた。


 すぐに壁を殴り壊すことを中止し、薙刀を拾い上げる。



『な、なんだと………!? お前が殴り壊すことを止めるとは!?』



 衝撃を受けているエンズォーヌは無視して、倒れている羽風に近づく。

 彼女が起きた時、敵のままか元に戻るかは不明だが、放置するわけにはいかない。


 幸い、今着用している障壁の能力を持つ鎧には、もう1つの特別な機能が備え付けられている。


 障壁を応用する機能で、この鎧に展開される障壁の内側、つまり鎧の中に他者を取り込むことが可能という機能である。


 本来は障壁を利用した封印の用途で使われるもので、使用者の魔力がある限り機能する障壁の力により鎧の中に取り込んだ存在を外の世界と隔絶させるというものだ。


 一応、取り込まれた相手の生体機能は維持できるようになっているので、誰かを守るときにも利用できる。


 これを使用して、俺は一旦真紅の甲冑の中に羽風を取り込んだ。



『ホワッツ!? お前、とうとうやりやがったな!』



 エンズォーヌは無視する。


 羽風を取り込んだ後、耳に意識を集中して喚くエンズォーヌの声以外の物音を探る。



『お、おお!? ………なんでそっちも負けてんだよ!?』



 エンズォーヌが一度黙った時、距離があるが金属がかち合うような音と、雷鳴らしき音、そして岩が破壊される音が聞こえた。


 方角は見つけた。

 雷鳴はいずれかの属性魔法によるものだと推測できる。たしか、ルシファードから聞いた話によると雷の属性魔法を扱う勇者がいたはずだ。


 俺は急いでその方向へと向かい走り出した。



『あ、やべ。見つかった! そっちに行くぞ、俺は知らんがな!』



 エンズォーヌの反応から、その方向で正解のようである。



『あいあい、もう分かったっつの! こっちも忙しいんだからな!』



 だが、それを阻まんとする者がいる。

 閉鎖された異界の牢獄にて、俺はもう一度やつと対峙することとなった。

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