偶然という名の再会
「この宿の2階から私たちのことを見ていたはずだよね。何で?」
遠回しにすることもなく、夜刀はストレートに疑問をぶつけてきた。
兜で声がくぐもっていることもあり、俺が赤城である事は気づかれていないらしい。
………この辺りは本当に鈍感だ。もう慣れている。
その質問に対し、俺は無難な回答をする。
「不愉快な思いをしてしまったのであれば、申し訳ありません。あなた方のような肌を持つ人間が珍しかったものでして」
「………その割に私と目が会うと慌てて隠れたように見えたけど?」
「うっ………! そ、それは………」
上手く躱したと思ったが、夜刀はさらに踏み込んできた。
想定外の追撃に、思わず怪しい反応をしてしまう。
「怪しい………」
「…………………」
「ぶふっ!?」
それに対して夜刀が怪しいと目を細め、夜刀の右隣に座った長髪の女性は明らかに最初から疑っているだろう鋭い視線を更に強くし、夜刀の左側に座った眼鏡をかけている女性はこの反応がおかしいのか噴き出している。
予期せぬ伏兵の反応に、夜刀の意識が左隣に移った。
「ちょっ! 羽風さん、いきなりどうしたの!?」
「ご、ごめんなさい………こんなベタな反応が新鮮で………!」
羽風という眼鏡の異世界人に、困ったようにため息をつきながら頭を抱える夜刀。
こういう雰囲気を壊す存在があるとため息をこぼす癖は変わらないらしい。
「女子の自覚持とうよ………」
「同感だな」
夜刀の言葉に思わず同意してしまう。
しかし、それを聞き逃さなかった長髪の女性が鋭い視線を向けてきた。
「随分と馴れ馴れしいな」
「何のことでしょうか?」
「何のこと?」
「…………………」
咄嗟にとぼけると、わざとなのか、それとも天然なのか夜刀まで首を傾げた。
思わぬ敵に対する援護射撃をする夜刀に、思わず長髪の女性も絶句してしまう。
しかし、俺のこぼした同意のセリフを聞き逃すあたり、異世界に来ても俺に対しては無関心というか鈍感なのだろう。
その反応から、彼女は召喚した何者かに操られているといったことはなく、あの頃と変わらない様子である。
目の前にいることがあの時遭遇した地震で命を落とすようなこともなく、無事であることの証だった。
感じる事は多いが、片思いを抱いている相手の無事が嬉しくて思わず兜の下で笑みがこぼれる。
「随分と親しげな反応だな」
その小さな変化さえ見逃さずにいた長髪の女性が、その目線同様に不信感と敵意を隠そうともしない冷たい声で指摘してきた。
「…………………」
無言で視線を長髪の女性に向ける。
睨みつけてくる女性と視線を重ねる。
警戒心が強い。
天野 光聖の周囲にはこういう人物もいるということなのだろうか。
長髪の女性の方はともかく、俺は警戒というよりも観察の意図が強い視線を向けていただけなのだが、無言で視線をぶつけ合う俺たちの様子に不穏な空気を感じたらしく、夜刀が間に入ってきた。
「いやいやいや、何でそんな不穏な空気なわけ? とりあえず落ち着きましょう」
相変わらず長髪の女性の方は俺を睨みつけてきていたが、こちらが行動を起こさないならば手を出すまではしない様子だったので、視線を夜刀に戻す。
右にいる長髪の女性があからさまな敵愾心を向けていたことで申し訳ないと感じているのか、夜刀の方の雰囲気はいくらか柔らかくなっていた。
「本当は悪い人じゃないから。私が言うのもなんなけど」
「お構いなく。最初に怪しい行動をしていたのはこちらの方です」
「ふーん、怪しい行動をしていた自覚はあったんだ?」
「………っ!」
しかし夜刀の雰囲気が穏やかになっていたことで、口が滑った。
「いや、これは–––––––」
「問答無用! 確保!」
「ぐっ!?」
直後、言い繕う間も与えれずに飛びかかってきた夜刀に捕まり、たやすく組み伏せられてしまった。
腕を極められ、テーブルに抑えつけられる。
派手な音を立てて机に叩きつけられたことで周囲の注目が集まったが、夜刀はお構いなしである。
不幸中の幸いはこの机に料理がなかったことでそれほど散らからずにずんだという点くらいだろうか。
「貴方の正体と目的を正直に吐いて。さもないと、この肩脱臼させるから」
「………ッ!」
さすがというべきか、こちらが油断していたとはいえ、夜刀は完璧に腕を極めており、力でも互角となった今抜け出せそうになかった。
確かに、このままでは肩が外されてしまうだろう。
いくら属性魔法が効かないとはいえ、関節技が効くとなると勇者達との交戦を考え直す必要がありそうである。
肩が外れ腕が折れたとしても、今の俺ならば異世界人の恩恵としてさらに化け物じみた再生能力を得ているためすぐに治る。
腕の一本を犠牲にして、脱出と機会を窺う。
「おっ?」
「何だ何だ? 喧嘩か?」
「良いぞ! やっちまえ!」
周囲の冒険者もはやし立てて騒然となった食堂にて、逃げる機会を窺っていた中、騒ぎを聞きつけた従業員らしき亜人が慌てて割り込んできた。
「へいへいお客さん! なにしてんのさ、喧嘩なら外でやれよ!」
エプロン姿に黄色と黒のまだら模様。
おそらく、ウツボの魚人と思われるそのいかつい外見の大男の登場に、魚人の亜人を見慣れていない様子の夜刀達は、長髪の女性を除いた2人が驚いた。
「うおっ!?」
「きゃあああああああ!? 何何何なんなのよ!?」
眼鏡の方の女性は半ばパニック状態。
夜刀も思わず決めていた手を離してしまった。
その隙に脱出を試みたが、ただ1人ウツボの魚人に動揺しなかった長髪の女性が逃げようとした俺の顎に標的をさだめてハイキックを仕掛けてきた。
「ッ!?」
それを反射的にのけぞって躱す。
躱された蹴りはそのままウツボの亜人の顔面をとらえた。
「ヒデブッ!?」
不運にもそのハイキックを顔面で受けたウツボの亜人は、異世界人の蹴りを食らった衝撃により飛ばされ、2回転ほど転がり壁に激突した。
せっかくの再会だというのに、混沌としたものとなってしまった。
周囲の人達は冒険者ギルドが紹介した宿というだけあり荒くれ者が多いらしく、喧嘩だ喧嘩だと煽り立てている。
羽風というらしい眼鏡の女子はウツボの亜人がよほど恐ろしかったのかやけに縮こまっているし、店員を蹴り飛ばした長髪の女性は蹴り飛ばしてしまったウツボの亜人の容体を確認している。
煽り立てるだけならば、別に構わなかったのだが、それが新たな諍いの火種となっていた。
周囲でも「喧しいんだよ!」だの「ぶつかって来やがったなテメエ!?」だのといった口論が多発し、それが発展して乱闘騒ぎが発生していた。
「………ひとまず収集しましょう」
「そうだね」
肩を回しながら立ち上がり夜刀に事態の収拾を提案すると、彼女も責任の一端があることに責任を感じているのか共闘を呑んだ。
夜刀達の現状は未だにさっぱりわからない。
だが、この場をひとまず鎮めなければまともに尋問を受けることも、彼女達の話を聞くこともできないだろう。
夫婦喧嘩は犬も食わないというが、酒場の荒くれ者の乱闘はネズミにやる価値もないだろう。
そんなどうでもいいことを思いながら、俺は親友と肩を並べて乱闘騒ぎを起こす荒くれ者達の鎮圧を開始した。
鋭いのか鈍いのかわからないヒロインです。




