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魔神の使徒(旧)  作者: ドラゴンフライ山口 (飛龍じゃなくてトンボじゃねえか!)
第二幕 邪神族
36/68

復讐者の本音

 グラヴノトプスが砲筒を放つ。

 どういうカラクリなのか、砲身から出てきたのは極大の光線だった。



「非効率的だ」



 だが、弱い。

 火炎放射器と光線兵器は違う。


 光の属性魔法による攻撃ならばともかく、錬金魔法による産物のレーザーは俺たちの世界の法則と共通する点が多い。

 光線は細ければ細いほどに強力となり、太い光線の場合は威力保持に必要なエネルギーが増大するため非効率的なのだ。


 防ぐまでもない。

 ………そもそも見えた時に当たっている攻撃など防げないが。


 光線に飲み込まれても効かなければ関係ない。

 構わずテーザーをグラヴノトプスに向けて発射した。



「クソったれ!」



 悪態つきながらも、グラヴノトプスは砲筒による攻撃を中断してテーザーの回避を優先させる。

 その着地先を見極め、錬金魔法で石柱を即興で作りグラヴノトプスの体を突き上げた。



「ガッ!?」



 死角からの攻撃に対応できず、直撃を食らう。

 だが、歯を食いしばり空中に投げ出された状態で砲筒を俺に向かって発射してきた。



「…………………」



 空中では姿勢も満足に保持できない。

 その中で砲筒を俺に狙いを定めて撃ってきたのは、さすがだろう。


 だが、狙いがそれている。

 そんなものにいちいち対応する必要などなく、俺は砲弾を無視してテーザーをグラヴノトプスに発射した。



「うがぁ!?」



 甲冑が意味をなさない電撃をくらい、グラヴノトプスが悲鳴をあげる。

 空中に投げ出された際の敵の攻撃の対応が雑だ。


 砲筒には攻撃だけでなく、扱い方を間違えているがまともな回避行動も取れない空中で砲撃の反動をうまく使うことにより自らを移動させる手段としても用いることができる。


 俺を倒すことばかりに目が行き、己の身が敵の攻撃にさらされることを考慮していない。



「クソが………!」



 背中を石柱に打たれ地面に投げ出されたグラヴノトプスは、砲筒を杖代わりにしてゆっくりと立ち上がった。

 隙だらけだ。相手を牽制するために、砲筒は杖代わりではなくこちらに向けておくほうがいいだろう。


 グラヴノトプスの目は恨みと怒りに染まっていた。

 その割に人質を嫌悪する言葉を見せるなど、直情的な手段に訴える搦め手が苦手な様子だが。



「お前は、殺してやる………絶対に………! アポロア様を殺した、お前らは!」



 砲筒を向けてくる。

 アポロアを打ち倒したのは女神の陣営の勇者たちであり俺ではないのだが、逆恨みをする側にとってはそのような都合など関係ないのだろう。


 せめて同じ日に召喚してくれれば良かったが、おそらく召喚を専門としていないクテルピウスだから誤差が出てしまったのだろう。


 砲弾を受ける。

 爆発が巻き起こるが、鎧に傷を与えるには至らない。



「まだだぁ!」



 グラヴノトプスは諦めず、再び砲筒を構えた。



「アポロア様は誇りを持って戦った! それをお前らは踏みにじった! アポロア様の信念を力で握りつぶしやがった!」



 砲弾が撃ち続けられるが、傷1つ付けられない。

 それでも、グラヴノトプスは撃ち続ける。

 肩に担ぐ砲身が熱を帯びても御構い無しに砲弾を練金魔法で作り上げて、何発撃っても無意味だというのに構わず撃ってくる。



「それなのに、王は、なんでお前を呼んだ! なんであいつらと同じ異世界の存在を召喚した! お前が………異世界のお前らがいなければ! アポロア様はあんな目に合わず、王は屈辱と傷を受けることもなく、魔族が戦争に終止符を打って平和な世界を作ったはずだったんだ! お前らがぶっ壊しやがったんだ!」



「…………………」



 いきなり召喚されたものたちの立場にすれば、それは逆恨みでしかない。

 それでも、異世界の存在にいろいろなものを奪われたグラヴノトプスは、俺たちに恨みを向けるしかなかったのだろう。


 それが、彼女が俺に抱いた恨みだった。

 自身の手ではどうしようもない理不尽によって壊されたのだから、理不尽でこの世界に召喚されたとしても壊した相手を恨まずにはいられなかった。


 異世界の存在である俺が魔族の味方に立つことが、どうしても許せなかった。



「…………………」



「だから! 俺様は必ずお前らを皆殺しにしてやる!」



「………そうか」



 彼女の本心は聞けた。

 客観的な立場からしてみれば、魔族が勝利する点からして人間側を考慮せず、異世界人の事情を考慮せず、あげく崇める神と住まう世界の敵と言ってもいい邪神族と手を結ぶなど、はっきり言って逆恨みでしかないだろう。


 だが、復讐心など総じて独りよがりなものでしかない。

 ならば、納得いくまで相手をする。刃を持って、諭すとしよう。


 薙刀を振り払い、巻き起こった風圧でグラヴノトプスを押し倒す。



「っ! こんなの–––––––なッ!?」



 しかし、グラヴノトプスはすぐに立ち上がってきた。

 そして、薙刀の刃を向けられた、つまり初めて彼女にたいしてこちらから向けた明確な敵意を受けたことにより、シェオゴラスで対峙した勇者たちのように怯んだ。


 グラヴノトプスに刃を向けながら、宣告する。



「お前の本音は聞かせてもらった。だが、この命をやるつもりない」



 俺にはまだ、この異世界でやるべきことがある。

 逆恨みだろうが正当な報復だろうが、抵抗せずにくれてやるほど安い命は持ち合わせていない。


 それに、新たな三元帥、未来も広い若いグラヴノトプスに歪んだ復讐心にとりつかれた一生を送ってほしくはないとも思っている。

 倒すのではなく、諭す。


 敵に情けもかけられない奴が、正義を語る資格はない。

 敵と断じる相手の全てを自己の都合でしか解釈せず、その全て認められないなどというのは独裁者の主張である。それは決して正義ではない。


 グラヴノトプスに言う。



「勝ち取ってみせろ」



 命を、勝利を、そして復讐を、と。


 その一言が、怯んだグラヴノトプスの闘志に火をつけた。



「………ぶっ殺してやる!」



 砲筒を手に、グラヴノトプスが殺意をむき出しにして駆け出してきた。

 それに対し、俺の方も薙刀を手に、グラヴノトプスの方に向かい駆け出す。


 薙刀と砲筒が交差する。

 それぞれが踏みしめた地面にヒビが走る。



「お前らは絶対許さない! 1人残らず惨めに殺してやる!」



「ならば可能であることを証明してみせろ。お前1人の手には余る存在だ」



「黙れぇ!」



 グラヴノトプスが力を込め、押し込んできた。

 二歩押されるが、そこでこちらもさらなる力を込めて止める。



「ぐうぅ………!」



 なおも押し込もうとしてくるグラヴノトプスだが、強化魔法を使えない魔族の彼女では異世界人に力で対抗することができず、そこからは一歩も押し込めなかった。


 薙刀を左腕だけで支え、右手を離す。



「テメェ………!」



 片手でも押し込めないことを見せつけられていると判断したのか、グラヴノトプスが押し込もうともがく。

 だが、一歩も進めなかった。



「力で劣る相手に正面からつばぜり合いを仕掛ければこうなる」



「クソが………!」



 押し込むこともできず、しかし現状では引くことも許されず、俺を睨みつけるしかないグラヴノトプスに、自由となっている右手に魔神の宝物の1つである短剣を召喚する。



「防いで見せろ」



「うるせえ!」



 短剣を振り下ろす。

 それをグラヴノトプスは砲筒を自身に引くことで俺のバランスを崩し、短剣を奪った。



「てめえが防いで–––––––はぁ!?」



 それを首に突き刺そうとするが、宝物庫に短剣が消える。

 突然のことに戸惑うグラヴノトプスに、薙刀を突きつける。



「驚いている間があればその拳のまま殴るか、砲筒で殴ることだ。敵は待ってくれないぞ」



「ッ! クソがぁ!」



 その言葉にすぐに立ち直り、砲筒を向けてくる。

 その砲撃が撃たれる直前に砲身を持ち上げて軌道をそらした。


 砲弾は明後日の方向に消えてしまう。



「この至近距離で撃つのは己を傷つけることになる。殴るか間合いを取ることだ。隙がなければ何かを使って隙を作れ」



「クソッ………! 黙れ!」



 グラヴノトプスが足を振り上げ、顎を蹴りつけてくる。

 それを受けて仰け反りながら砲身より自然に手を離したところに、グラヴノトプスがガラ空きとなった胴部を砲身で殴り飛ばした。


 耐えることはせず、衝撃に身を任せて飛ばされる。

 空中で体勢を立て直して着地したところに、グラヴノトプスが砲筒を向けてきた。



「死ねぇ!」



 飛来した砲弾を薙刀で両断する。

 声を出すのは敵を萎縮させたり己を奮い立たせるためのものだ。火砲を扱う際に大声を出しても役に立たず、むしろ攻撃のタイミングを相手に知らせかねない。



「武器の利点を理解して扱うことだ。砲撃に際し大声を出す利点がどこにある?」



「バカにしやがって………!」



 グラヴノトプスが歯ぎしりをしている。


 街の防衛はゴーレムを散会させて対応している。

 様子を窺っているのか、奴はまだ出てきていない。


 今回の件、場合によっては敵に回る可能性もある亜人たちの介入は避けたい。


 グラヴノトプスと対峙するのは、この無意味な復讐から魔族のための将帥としての力と技を得てもらうためだけではない。

 奴が手を出してこないのは好都合。被害の拡大を抑えられつつあるならば、早期決着よりもグラヴノトプスを優先させるとしよう。



「絶対ぇ、負けねえ! テメエをぶっ殺す!」



「………その意気だ」



 なおも屈することなく立ち向かうグラヴノトプスの気迫に、兜の下で笑みを浮かべながら俺は薙刀を構えた。

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