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魔神の使徒(旧)  作者: ドラゴンフライ山口 (飛龍じゃなくてトンボじゃねえか!)
第二幕 邪神族
35/68

凝ったサブタイトルつけるのやめようかな………

 グラヴノトプスを連れてくるために、バルドレイとともにギルドを出る。



「俺も一度拠点に戻って準備し直す必要がある。あの支部長、ガルドスっていうんだがあいつの指示を聞いておいてくれ」



「ああ」



 全く想定していた依頼と違う内容の緊急クエストとなったため、可能な限り持ち物などを整えるべく拠点に戻ったバルドレイと別れる。


 ゴーレムを置いてきた場所に向かうと、まだ起きていなかったのか、中から物音は特に聞こえない静かに佇むゴーレムが1台置かれていた。


 しかし、悠長にしてはいられない。

 グラヴノトプスを起こすために、ゴーレムの幕を開く。



「………何だと?」



 だが、グラヴノトプスいたたはずのゴーレムの中は、もぬけの殻となっていた。



「…………………」



 すぐにでもグラヴノトプスを捜し、ギルドの亜人たちと合流するべきである。

 それが最優先事項であることは明白だ。


 だが、頭の中で何かが引っかかっていた。


 何か………何かを見落としている。

 あの殺人事件には不自然な点が多かった。


 それを解決していないのに、何を先走っているのか。

 魔族領の方面に向かうルートに、海魔たちはいなかった。ゴーレムを動員して痕跡を探したはずである。


 犯人があの邪神族だったならば、返り血はどこに消えたのだろうか。

 あの触手に血は付着していなかった。


 バルドレイはギルドで信頼を置かれている実力者である。場数も踏んでいるだろう。

 それならばあの時、まるで的だと言わんばかりに頭を上げたりするだろうか。


 現場には兵士たちのサバトンのものばかりで、犯人らしき足跡はほとんどなかった。

 ………あの血痕の量で、あの舗装されていない地面の剥き出しとなった場所で、あるべきもう1人の足跡がなかった。

 彼は確かに、亜人の側から来たと言い、魔族領へ向かう側に立っていたのに、である。


 どうして、グラヴノトプスの鎧の下が女性であることを知っていた? 【彼女】と称した際に疑問さえ抱かなかった?

 どうして、危険な夜の道を国境へ向かって進んだ? ラプトマで夜を明かさなかった?


 どうして俺は忘れていた?

 ………あの邪神族が飛行する姿は見ていない。兵士たちを触手で串刺しにされたのに犯人の足跡がなかったからという点と、俺の薙刀を躱せなかった点から、死体を調べた結果も含めて飛行能力はないと見ていたはずだ。


 邪神族は、本当の殺人犯が向かったのは魔族側じゃなかった。

 捜査の際に、そのことを伝えたはず。


 それなのに、執拗に急いでここに来るよう誘導してきた。

 –––––––まるで、最初から誘い込むためのように。



「誘い込む………?」



 頭に浮かんだ言葉に、疑問を抱く。

 誘い込む? 誰が? 誰を?


 その最中で、抱いていたはずの疑問が次々と消えていった。


 それが俺の思考を無理やりクリアにして、最初の目的につなげる。



「そうだ。魔族領に侵攻を許さないために、ギルドの力を借りないと。その前に、グラヴノトプスを捜さなければ」



 頭がうまく働いていない気がする。

 まるで、先ほどまで考えていた複雑なことに対して、もやをかけてごまかすように。



「奴らは魔族領に………向かう、はず………だが」



 しかし、その目的を口にするとまるで靄が薄れるように情報が戻ってくる。

 そして、一瞬だが忘れていたことを思い出す。



「………違う」



 違う。これは罠だ。

 犯人の心当たりが、1人の存在を導き出す。


 それがわかった瞬間、奴の策謀だという結論が俺の思考の中で作られ、真犯人の像が確かに浮かんだ。



「あいつは–––––––なっ!?」



 そいつが行った方向に目を向ける。

 直後、背後にあった人力車型ゴーレムが変形–––––––ではなく、その正体を見せた。



「くっ!?」



 とっさに薙刀を宝物庫から召喚して、その触手の奇襲攻撃を防ぐ。

 人力車型ゴーレムは、そこにはなかった。

 いたのは、昨晩対峙したあの海魔と同じ邪神族だった。


 それが答え。

 考えてみれば不自然だ。魔族側が安全ならば、俺に恨みを持つ彼女が与する恩義も理由もない亜人たちに協力などするはずがない。



「やはりそうくるか………」



 答えは出された。


 薙刀を構え、目の前の突如して出現した敵を屠るべく、駆ける。

 多数の高速で迫る触手を薙刀で斬りはらい、間合いを詰める。


 逃れようとする海魔を宝物庫から召喚した鎖で絡め取り、昨晩の戦いで貫いた場所と同じところに薙刀を突き出す。


 急所なのだろう。

 その一撃で海魔の邪神族は沈黙した。



「…………………」



 魔族の側は、安全だった。

 海魔の邪神族が、奴らが向かったのはむしろ亜人の国の側である。


 奴が黒幕となれば俺が招き入れたわけではない。

 だが、グラヴノトプスのことも含め責任の一端はあるのだろう。


 活気と平和が同居していたラプトマの街に、火が上がった。

 そしてギルドの入り口が爆発し、そこからシロクマの亜人が吹き飛ばされてきた。



「っ!」



 とっさに受け止める。

 大柄な見た目通りかなりの重量があるが、異世界人としての超人的な身体能力を持つ俺には受け止めるくらい容易なことである。



「うぐ………! 魔族の青年ではないか!?」



「少し休んでおけ」



 頭から血を流しその毛並みに赤い筋を描いているガルドスを下ろす。


 そして、彼を狙い飛んできた砲弾に立ちふさがり、身を盾にしてガルドスをかばった。



「アカギ!」



 ガルドスの声が聴こえる。

 心配してくれるのはありがたいことだが、俺にそのような気遣いは無用だ。


 爆煙が晴れると、鎧に傷1つ付いていないままの俺が立っているだけで、砲撃は何1つ屠らないままに終わった。



「馬鹿な………! お前は一体………?」



 ガルドスが自身がここまで吹き飛ばされた砲弾の直撃を受けながら、無傷で一歩も動かずに立つ俺に驚いている。


 だが、その疑問の回答はひとまず後回しだ。

 まずは、この街を巻き込むことになったこちら側の落とし前をつける必要がある。


 壊滅したギルドにたちこめる黒煙の中から、姿を消していた彼女は愛用の武器である砲筒を肩に担いで現れた。



「クハハッ………ようやく、お前をブッ殺せる! なあ、使()()殿()?」



 尊敬する上司を女神の勇者たちに殺され、シェオゴラス城の戦いで同じ異世界人である俺を頼る屈辱を受け、崇める神を恨むこともできずその使徒と名乗り魔王が重傷を負うことになった原因を作った存在に怒りをぶつけることに選んだ鬼の魔族。


 新たな三元帥に抜擢された彼女は、決して短慮でも愚かでもない。武勇と知略を併せ持つ将帥だ。

 1人では俺を殺せない。だから、この選択をしたのだろう。


 砲筒を肩に担ぎながら、その特徴的な甲冑姿で現れたのは、紛れもなく今回の旅の同行者となっていた魔族、グラヴノトプスだった。


 ただし、これまで行ってきた単独での襲撃ではない。

 ………その背後に多数の海魔の邪神族と、捕まったギルドの亜人たちを引き連れていた。



「人質のつもりか?」



 俺の問いに、グラヴノトプスは兜の面を外しその美しい顔に凶悪な笑みを浮かべながら答える。



「言葉も交わしていない奴らが人質? 本気で言ってんのかよ」



「お、女………!?」



 グラヴノトプスの素顔にガルドスが驚いている。

 気持ちはわかるが、今はそれどころではない。


 確かに、グラヴノトプスの言う通りだ。彼らは今日顔を合わせたばかり、言葉さえ交わしたことのない間柄の冒険者たちである。

 そんなものたちを人質にとっても、意味はないだろう。


 だが、その言葉と裏腹にグラヴノトプスの表情にはこの手段が有効であることを知っているような嘲笑が浮かんでいた。


 確かに、グラヴノトプスには襲撃されながらベルゼビュートたちよりかばった経緯がある。

 冷徹な印象を受けやすいと言われることの多い俺だが、グラヴノトプスはその性根が日本で培ってきた道徳観念とあの幼馴染の影響を受けたことで、戦の起きているこの世界では情に過ぎる、そのような存在だという認識を持たれているのかもしれない。


 だが、俺には彼らに対してなんの義理もない。

 彼らは魔族のために立ち上がってくれたが、立ち上がっただけでまだ何もなしていない。


 そのため、人質に使えるようなものたちではない。

 犠牲を可能な限り減らしたいというのは俺の考えではあるが、早期解決を図る必要があるならば見捨てる選択肢も取るつもりだ。



「言葉と裏腹に、彼らを盾にしているようだが?」



 なにか他に手札を用意している可能性もある。

 探りを入れるためにグラヴノトプスに指摘をすると、逆にこちらを挑発してきた。



「そう思うなら撃ってこいよ! こっちも元から盾くらいにしか考えてねえんだからよ!」



 撃ってこい、か。

 彼女としては単純な挑発のつもりで言ったつもりなのかもしれないが、俺にとっては思わぬ拾い物になった。


 邪神族だからと言って、わざわざ殺す必要などない。

 早期制圧を目的とするならば、この方がよほど効率的である。


 宝物庫より、旅に出る前に錬金魔法を使いこなせるようになるためと用意していた非致死性のテーザー銃を召喚する。

 改良を加えており、発射するのは電極針ではなく邪神族の表皮にも弾かれずにつくよう接着型の弾にしてある。



「はぁ!?」



 人質がいる中で銃を召喚するのが予想外だったのか、それまで余裕の笑みを浮かべていたグラヴノトプスが驚く。

 その隙に、テーザーを海魔の邪神族たちに向け発射した。



 –––––––––––––––!!



 電撃は海魔たちにとっても有効だったらしい。

 運悪く当たってしまった亜人たちとともに、悲鳴をあげて次々に倒れていく。


 同時に、召喚したゴーレムの歩兵を用いて人質たちをグラヴノトプスが驚いている隙に随時確保する。


 気づいた時には、人質はすべてこちらに保護されていた。



「〜〜ッ! クソガァ!」



 グラヴノトプスが激怒する。

 砲筒をこちらに向け、砲弾を放つが、薙刀で砲弾を斬り伏せられる。

 もちろんゴーレムの守備がついた亜人たちに被害はない。



「話が違えぞ、あのクソ海魔………!」



 俺、ではなく黒幕の方に対する怒りを口にするグラヴノトプス。


 一方、俺はゴーレムの兵士をさらに多数召喚し、街で暴れている海魔たちの対応などをさせるために散開させた。



「次はどうするつもりだ?」



 グラヴノトプスに尋ねると、殺気を隠そうともしない鋭い双眸を向けられた。

 単純に次の手段があるのかということを尋ね、なければ降伏勧告をするつもりだったのだが、グラヴノトプスは完全に挑発として受け取ったらしい。



「温いくせに………! クソが!」



「犠牲は可能な限り避ける主義だが、怪我が残らなければ関係ない」



 この辺りの認識も、俺が冷徹な印象を与える原因の1つなのだろう。

 主観的な観点を取るのが苦手だから、心の傷には鈍感だ。



「人質なんざ、まどろっこしい………! ぶっ殺してやる!」



 こういう点はまだ精神的に若い分、未熟なのかもしれない。

 海魔との連携はするつもりのようだが、利用できるものを知るために周りを見ようとせず力ずくで強者に立ち向かおうとする。


 正攻法でも騙し合いでも今回のような人質でも勝てないと、知っているはずだが。

 グラヴノトプスは懲りずに力ずくでどうにかしようと立ち向かってくるつもりのようである。


 一度敗北を教えて、勝てない相手に力押し以外の手段を考えさせるといった事柄に関する彼女の成長を促せば、魔族にとっても有益なこととなるだろう。


 その結果俺がより恨まれることになっても、いずれこの世界から出て行く身なので魔族の誰かにこの恨みが向くよりはいい。



「来るがいい」



「死ねえ!」



 薙刀を手に、俺はグラヴノトプスを迎撃する。

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