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魔神の使徒(旧)  作者: ドラゴンフライ山口 (飛龍じゃなくてトンボじゃねえか!)
第二幕 邪神族
33/68

シュトラバーゼ島村

 ラプトマの街は、1時間ほどで見えてきた。

 身体強化の魔法を駆使する亜人であるバルドレイは、異世界人の恩恵として超人的な身体能力を持つ俺と並んで走り続け、息切れの1つもせずにここまでたどり着いた。

 グラヴノトプスを乗せた人力車型ゴーレムを引いていた分の差があるとはいえ、魔族の正規兵たちよりもはるかに勝る身体能力である。


 ラプトマは外区と内区と呼ばれる区画に分かれている街で、外区には穀倉地帯が、内区には商業地区や居住地区がある、平原にある国境沿いということもあり物流の活発な街だという。


 日が昇ったことで往来も増えている。

 事故を避けるために街道から逸れた草原地帯を突っ切り、走り通してラプトマを目指し進むと、草原を抜け手入れの行き届いている穀倉地帯に差し掛かった。

 そして、その街の姿も確認できるようになってきた。



「あれが、ラプトマか?」



「ああ。魔族との国境沿いでは1番デカい街だぜ」



 穀倉地帯の中心部に、無数の建物が立ち並ぶ街が見える。

 穀倉地帯では農作業に勤しんでいる人々が多数見受けられ、街を中心に八方に伸びる街道は多くの人々が行き来していた。


 その中には魔族領に向かう、つまり殺人現場となった国境の方に向かう街道を歩いていく亜人の姿も見受けられる。


 多種多様な外見の亜人達が往来を、穀倉地帯を、街を行き来しており、ラプトマの街は活気にあふれていた。


 目的がなければ、観光を楽しみたくなる街だっただろう。

 だが、今の俺にその余裕はない。



「………急ごう」



「そうだな」



 俺とバルドレイは、ラプトマの街につながる街道へと進んでいった。




 外区の穀倉地帯を抜け、内区の街の入り口に差し掛かる。

 門番を務めている2人の犬耳の亜人、国境の砦にて殺害されていた兵士達と同じく鎧に身を包んだ亜人の兵士達が呼び止めた。



「止まれ! いかなる要件でこの街に来た?」



 バルドレイというよりは、人力車型ゴーレムを引いて歩いている全身甲冑に身を包んだ俺の方を警戒している。

 俺はその場に止まり、前に出たバルドレイに任せることにした。



「ヴァンキンス、フロッド。そう、いきり立つなよ。別に怪しいもんじゃねえって」



 街の衛兵に随分とフランクな態度で話しかけるバルドレイ。

 名前を知っているということは、顔見知りのようである。


 バルドレイの顔を見た2人の衛兵は、その表情を緩めた。



「バルドレイか………依頼は終わったのか?」



 2人の衛兵の1人が、そう問いかける。

 俺と出会う前は邪神族の討伐に向かうために魔族領の国境の砦まで来ていたのだから、想定より早い帰還だと思ったのだろう。



「あー、それな。ギルドで話す」



「失敗したのか? さてはサボッ–––––」



「んなことより! んなことよりだ」



 バルドレイはその質問をかなり雑にはぐらかす。

 そして俺たちを2人の衛兵に示した。



「あいつは冒険者志望でここに出てきた魔族で、アカギっつうやつだ。あんな成りしてるけど、見た目にそぐわず良い奴だぜ。信用できる相手なのは俺が保証する」



 2人の視線がこちらに向くのに合わせて、頭をさげる。

 バルドレイは衛兵から信用されているらしく、彼の紹介ならばと警戒は解かれ予想よりもはるかにすんなりと街に受け入れられた。


 警戒されていたので一悶着あるかと思った分、拍子抜けしてしまう。

 面を見せなければ信用できないなどと言われた場合には、おそらく魔族でないことがばれてしまっていただろう。

 そうなれば、俺は嘘をついていたということになり、バルドレイからもグラヴノトプスからも信用を失うことになる。


 グラヴノトプスに関しては、失うような信用があるとも思えないが。

 彼女の場合は、敵である人間たち、仇である異世界人たちと同じ種族だということが知られるため、再び怒りに身を任せて襲撃してきた可能性が高い。


 制圧は可能だろうが、すでにバルドレイに対しては魔族として名乗っているし、街にも被害が出る可能性が高い。

 危険な賭けであることに変わりはないが、なんとか衛兵だけに顔を明かすかしてごまかすという手段を講じる必要があった。


 結果的には問題なく街に入ることができたので、文句を言うつもりはない。


 バルドレイの手まねきに応じて、人力車を進ませる。

 警戒を解いて態度を軟化させた衛兵たちに、街に入るための手続きとして入国者の名前を兵士の持ってきた紙に書き、税となる金銭を納める。



「先輩らしくここは俺が払ってやっても良いが、これって徴税というより身元の確認としての意味合いが強いからな。俺みたいにギルドに所属している奴ならともかく–––––––」



「身分の証になるものを持たない相手の場合は、肩代わりすることは許されない」



 バルドレイの説明を税を受け取った兵士が継いで答えた。

 そして、真面目そうな厳しい表情を崩し、ラプトマの入り口を開いた。



「ようこそラプトマへ。バルドレイの紹介なら、信用できる。故郷と種族を違えようとも、君たちを街は歓迎しよう」



 衛兵の名前は、ヴァンキンスというらしい。

 彼の開いた門をくぐり、バルドレイとともに街へと足を踏み入れた。


 その間、グラヴノトプスは人力車ゴーレムの中にこもったまま出てこなかった。

 彼女は激しやすいが利口なので、問題をこの場で起こすとは思わないが、不用意な詮索をされて今朝のバルドレイのように逆鱗に触れることになる可能性はあった。


 全身甲冑姿であり、性別は外見からだと分かりにくいかもしれないが、バルドレイに紹介する際には【彼女】と言っても疑問も抱かれなかったので、亜人ならば簡単に女性であることを見抜くかもしれない。


 からかわれることに関して俺は別に構わないが、グラヴノトプスはおそらくだが冗談とわかっていても構うだろう。

 彼らのノリと人となりをある程度把握するまでは、ゴーレムの中で過ごしてもらうとしよう。


 ………兜の面で声がくぐもってしまうし、口調もかなり粗野なので、俺も素顔を見るまでは気付かなかった。

 バルドレイが何で気づいたのか、後ほど尋ねてみることにしよう。

 答えを得られれば、方針も立てやすくなるはずである。



「とりあえず、まっすぐギルドに向かおうと思うが、どうする? 軽く何か食っていくか?」



「いや、あの邪神族に関する情報を伝えるのは早いほうが良い。先に冒険者ギルドに向かってくれ」



「そうか。まあ良い、こっちだ」



 バルドレイは迷いのない足取りでラプトマの街の中心部の方へと歩いていく。

 それについていくと、住宅街を抜けた先に広場が見えた。


 中心部には噴水があり、市場が広がっている。

 石造りのベンチがいくつか見受けられ、街に住んでいると思われる魔族よりははるかに人に近いがそれでも人間とはやはり違う亜人たちが行き来していた。


 全身を甲冑に覆い、人力車型ゴーレムを引く俺はかなり浮いた存在らしく、人々の注目が集まってきた。



「こっちだぜ。あれが冒険者ギルド【ラプトマ支部】だ」



 しかし、それを気にすることもなく、バルドレイは広場の反対側に見える一際大きな建物を指して歩いていく。


 警戒、興味、嫌悪………少ないが軽蔑しているような視線も感じる。

 とはいえ、立ち止まっているわけにもいかないので、バルドレイについていき冒険者ギルドだという一際大きな建物前に向かった。


 そこで人力車型ゴーレムを止め、グラヴノトプスに降りるよう促す。



「グラヴノトプス、降りて–––––––ん?」



 しかし、ゴーレムの中を覗くと、出発してから静かにしていたのでいつからは分からないが、いつの間にか眠ってしまっていたグラヴノトプスの姿があった。


 甲冑姿のままだが、表情を見なくとも小さく聞こえてくる規則正しい寝息の音で寝ていることはわかる。



「仕方がない。遮音しておけ」



 叩きおこすのは気が進まないし、悠長にしている時間もない。

 邪神族による殺人事件の件をバルドレイとともに先に報告し、冒険者ギルドと亜人たちにエンズォーヌの対応のための援軍を要請してから、冒険者ギルドの登録を行うことにする。


 ゴーレムに防音を施すように命令し、眠っているグラヴノトプスを残して俺はバルドレイを追って冒険者ギルドに向かった。


 ギルドに入ると、入り口にバルドレイが待っていた。

 俺が1人で来たことに、グラヴノトプスの所在を尋ねてくる。



「ん? あいつは?」



「後ほど連れてくる。急ぐべき案件を早めに片付けたい」



 グラヴノトプスがどこにいるかを明言したわけではなかったが、ゴーレムの中に残っているということは察したらしい。

 その理由はグラヴノトプスの名誉のためにも明かしたくはなかったが、バルドレイも何を優先すべきかは判別しているらしく、詳しくは突っ込まなかった。



「そういうことなら………分かった。登録は後回しで良いだろ?」



「ああ」



 バルドレイとともに、ギルドの奥の方に見られる受付の職員たちがいるカウンターの方へ向かう。

 周囲のギルドに属していると思われる亜人たちから値踏みされるような視線が集まってきたが、無視する。


 バルドレイが幾つかあるカウンターで空いているところに来ると、そこを担当している兎耳が頭に見られる受付嬢の亜人が若干驚きを含む視線をバルドレイに向けてきた。

 その視線は、何やら含むものがある様子。


 衛兵たちの時もそうだったが、バルドレイは町の人々と仲は良いようだがサボりぐせがあるという認識を受けているらしい。

 その割に俺をすんなり通せるなど信頼されているようだから、本当は頼りになるのだろう。



「バルドレイさん、昨日出発したばかりじゃなかったですか? またサボり–––––––」



「いや、今回はガチで真面目な事情だぞ! 別件の問題が起きてな。急いでギルドの方に知らせる必要のある案件だ。支部長に継いでくれ」



 受付嬢から早々にサボった疑惑をかけられたバルドレイが、慌てて訂正を求める。

 バルドレイの言葉と態度からただならぬものを感じたらしく、受付嬢も真面目な顔になって頷いた。



「分かりました。少々お待ちください」



 受付嬢がカウンターの奥に向かう。

 彼女は俺にも気づいていたようだが、優先順位は承知しているのだろう。



「呼んだか、サメ男」



 そして、受付嬢がカウンターの奥に行ってから1分ほど後。

 そのカウンター奥からバルドレイに匹敵する巨大な体躯のシロクマの亜人が現れた。

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