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魔神の使徒(旧)  作者: ドラゴンフライ山口 (飛龍じゃなくてトンボじゃねえか!)
第二幕 邪神族
31/68

ショッキング秋山

 バルドレイからグラヴノトプスが見えるよう横に逸れて、彼女の方を示しながら今度は冗談抜きで真面目に紹介しようとする。



「彼女は–––––––」



「もういい、引っ込んでろ」



 しかしこれまでのやり取りですっかり信用をなくしてしまったらしく、グラヴノトプスのことをバルドレイに紹介しようとしたが本人に遮られて押しのけられた。

 今回は真面目に紹介するつもりだったが、慣れない冗談を交えたことがグラヴノトプスの信用をなくすことにつながったらしい。


 無理に空気を和ませようとするからだろう。

 慣れないことをするべきではなかった。


 引っ込んでいろと言われては、仕方がない。

 ここは大人しく引き下がることにする。


 グラヴノトプスはバルドレイの前に立つと、2メートルはある巨体の亜人を見上げる。

 将としても有能であり、魔族の元帥の地位を与えられるほどの実力者は、図体がでかい程度では気圧される様子はなく正面から兜越しにではあるがバルドレイと目を合わせた。



「………で、誰だお前?」



 そして、臆することもなくバルドレイに挑発的にも取れる不躾な態度で名前を尋ねた。


 しかしそこはバルドレイがうまくいなす。

 俺の方に一瞬目を向けると、横柄な態度で臨むグラヴノトプスに感心するような目を向け、こう返した。



「そうだなぁ………我輩はゴーレムである。名前はまだない!」



「…………………」



 グラヴノトプスには全く受けなかった。

 一気に兜で表情が見えないのに、グラヴノトプスの機嫌が悪くなるのがわかる。


 呆れたようなため息をこぼし、グラヴノトプスが俺の方を向く。

 間違えなくジト目を向けられているだろうと、確信する。



「伝染してんじゃねーか!」



 直後、砲筒が俺の顔面を狙って投げつけられてきた。


 想定を上回る威力だった。

 思わずバランスを崩し、無様に背中から倒れてしまう。


 グラヴノトプスの後ろでは、バルドレイが腹を抱えて笑いをあげていた。


 当初は背伸び気味にも受け取れるグラヴノトプスの挑発に大人の対応を示してくれるかと期待していたのだが、見事に予想を裏切られた。

 はめられたのは俺の方だったらしい。


 こういうとき、気の利いたセリフを思いつけないが、おそらくこういうのが正しい状況なのだろう。



「やってくれたな………」



 存外、バルドレイも強面に反してお茶目な一面があるらしい。

 つぶやきながら起き上がると、バルドレイが指をさしてきた。



「いや、マジでお前さん面白い! すっかりあんたのことを気に入ったぜ!」



「それは素直に嬉しいことだ」



 他人から向けられるのは、敵意よりも好意の方が素直に嬉しい。

 バルドレイは付き合いこそ浅いが、実直で正義感の強い良い性格の人物であることはわかる。


 ギルドに関する打算的なことがないと言えば嘘になるが、それを抜きにしても彼のような人柄の友人をこの世界で得られたことは良かったと言える。


 砲筒を拾い、グラヴノトプスに差し出す。

 それを兜越しに俺を睨みつけながらも受け取ったグラヴノトプスは、まだ笑いが止まらないバルドレイの方を指差しながらこちらに尋ねてきた。



「で、誰なんだよこいつ?」



 バルドレイの悪ふざけのおかげで、まだ名前もお互い知っていない。


 道中、ゴーレムの中でほぼ寝ていたグラヴノトプスは昨晩に何があったのかも詳しく知らないはずだ。

 そのあたりの経緯も含め、バルドレイを紹介してから説明をすることにした。



「彼の名はバルドレイ。名もなきゴーレムではない」



「そのネタはもういい!」



 再度、砲筒にて殴られた。

 殺意のある攻撃は容易く対応できるのに、ぼけたわけでもないのに受けるツッコミはなぜか対応できない。


 気を取り直して、落ち着きかけていた笑いが先のやり取りで再び止まらなくなったらしく笑いこけているバルドレイに、グラヴノトプスを紹介する。



「バルドレイ、彼女はグラヴノトプス。察しの通り、昨晩は寝ていたため事情を知らない俺の同行者をしてくれている魔族だ」



「おう。ゴーレムじゃねえんだろ?」



「しつこいんだよ! つか、いつまで笑ってんだコノヤロ!」



 グラヴノトプスがバルドレイに向けて砲筒を振り回そうとする。

 だが、振り回す際に手が抜けて砲筒が俺に飛んできた。


 腹部に強い衝撃が走り、この想定外の攻撃を予測できず構えもできていなかった俺は、その衝撃に負けて再び倒された。


 祖父が見れば未熟者と罵るだろう。精進が足りていない。



「ハッハッハッ! お前ら仲良いな!」



「そう見えるか?」

「そう見るな!」



 バルドレイの言葉に、俺とグラヴノトプスは全く同じタイミングで全く異なるセリフを返した。


 俺の方は純粋な疑問だったが、アポロア戦死の件で俺を嫌っているというよりも恨んでいるグラヴノトプスは真っ向から拒否する。

 兜の面に隠れてその表情は見えないが、声を荒げて否定しているところから、心底その推論を嫌悪している表情が容易に想像できる。


 しかし、バルドレイは何をトチ狂ったのか暖かい眼差しでグラヴノトプスを見下ろしながら、見当違いの推測をしていた。



「照れるな照れるな。素直に肯定できねえ好意ってのは、よくわかるぜ?」



「………死にてえのかてめえ?」



 その言葉はグラヴノトプスの怒りを買うのに十分すぎたらしい。

 グラヴノトプスが低く静かで、しかしよく響く声を出した直後、周囲の気温が下がった。


 その眼光と声から完全な勘違いであることを察したのだろう。

 余裕だったバルドレイの表情が青ざめた。



「……………ごめんなさい。撤回して謝罪いたします」



「次はねえぞ?」



 胸ほどの身長しかない相手に、バルドレイは気圧されてすっかり大人しくなってしまった。

 グラヴノトプスに関しては、いじる点を間違えれば命の危険がある相手という認識をこれで抱き、ふざけた推論をするのもやめるだろう。



「………昨夜の件についての話題に移りたいのだが、構わないか?」



 2人の紹介も終わり、笑いが止まらなかったバルドレイもグラヴノトプスの逆鱗に触れて反省し落ち着いた………を通り越して落ち込んだところで、次の話題に移ろうと2人に声をかける。


 グラヴノトプスは殺意が篭った目で睨みつけてきたが、バルドレイはこれ幸いにと話題が移る俺の問いかけに乗ってきた。



「お、おう! 頼む!」



「昨晩………つか、ここどこだよ?」



 グラヴノトプスも興味を抱いたようだ。

 俺に対する殺意しかなかったから、今朝はここがどこなのかという疑問を抱いていなかった様子である。


 バルドレイと亜人の国の国境の砦である現在地で遭遇したこと、邪神族の存在、砦で発見した殺人事件の跡。

 そして、昨晩襲ってきた謎の異形。


 バルドレイとともに俺たちも昨夜の出来事を思い出して行く意味も込め、一通りの経緯をグラヴノトプスに語った。

 それを聞いたグラヴノトプスは、死体は埋葬したが血痕と襲撃の跡が未だに多く残る砦を見渡してから、犯人とみられる邪神族の死骸を確認させるよう要求してきた。


 証拠となる異形の死体は、俺の方で保管してある。

 グラヴノトプスは邪神族の存在を知っていたらしい。


 俺が死体を取り出すと、グラヴノトプスはその死体を調べて魔力の残滓などからこの世界のものではない存在、つまり邪神族であるという結論を出した。



「間違えなく、邪神族だな。こいつは海魔の類に当たる連中だ」



 しかも、バルドレイが見たことも聞いたこともない種だと言っていたその邪神族がなんであるかも知っているようである。



「海魔?」



 言葉から察するに、海にまつわる存在のようだが。

 確かにヒトデ、タコ………表現するとしたら、そんな生物が近いような姿をしているが。


 しかし、ここは陸地で水場などない。

 海に出現するというのが、海魔の類の邪神族の生態だとバルドレイが言う。



「海魔は海に出る邪神族だぞ? 丘の上で生きられるような連中じゃねえ」



「こいつらは例外なんだよ」



 しかし、グラヴノトプスはバルドレイの言葉を真っ向から否定した。

 邪神族に関して無知な俺は意見を挟むことはせず、グラヴノトプスの言葉を聞くことにする。


 バルドレイの反論を切り捨てたグラヴノトプスは、その推測を口にした。



「砂漠で生きる邪神がいるだろ。あいつの眷属なら、こんな緑あふれる陸地くらいならいくらでも活動できるぜ」



「………は?」



 バルドレイは何のことだかわからないらしい。

 首をかしげる巨漢の魚人に、グラヴノトプスが言った。



「【海獣エンズォーヌ】。こいつはその眷属だ」



「エンズォーヌ………?」



 名前を出されても、バルドレイは聞き覚えがないらしい。

 無論俺も初めて聞く名前である。



「………知らねえのかよ」



 そうため息まじりに呟いたグラヴノトプスは、俺たちに対してその【エンズォーヌ】という邪神についての説明を始めた。

この章は長くなりそう。

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