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魔神の使徒(旧)  作者: ドラゴンフライ山口 (飛龍じゃなくてトンボじゃねえか!)
第二幕 邪神族
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シマントガワ草鹿

 グラヴノトプスを乗せた人力車型ゴーレムを引きながら、出発してしばらくの時間が経過したころだった。


 亜人たちの国に入る前に、すでに勇者たちに知られしまっている漆黒の鎧は別の宝物の鎧に変えている。

 暗い緑色と尖った無駄な装飾がない、しかし全身をくまなく覆っており顔も一切見えない、人によっては人型二足歩行の巨大ロボットの量産機に見えなくもない、そんなデザインの鎧である。


 これも属性魔法を消す魔神の加護が備わっており、また錬金魔法の発動を補助する術式が編み込まれていることで、素人の俺でも錬金魔法を自在に駆使することができる特別製の鎧である。


 無論、属性魔法を無効化するだけでなく、鎧そのものの強度も十分である。


 ルシファードに見送られ、同行者である三元帥の1人である鬼の魔族グラヴノトプスを連れ、人間の国に入国するために、亜人の国を目指してシェオゴラス城を発った。

 目的は前回のシェオゴラス城の戦いで傷をつけたものの逃げられてしまった聖剣の勇者、天野 光聖を殺すことである。


 現在、光聖は他の勇者たちとともに人間の国にいるという。

 詳しい情報までは分からないが、未だに回復していない光聖の身辺の警護は、おそらく非常に厳重なものとなっているはずである。


 面は割れていないはずなので、経由地である亜人の国に入ってから登録が最も簡単な冒険者ギルドに入り、ギルド証を入手する。

 このギルド証があれば、人間の国でも魔族の国でも依頼があれば自由に活動できるようになるし、外貨の獲得も容易になる。


 冒険者ギルドに所属してからは、勇者の所在などに関する情報を集めて、その後人間の国に入国。該当箇所にいる勇者たちや人間軍の守備隊をグラヴノトプスとゴーレムを用いて攻撃してもらい、俺は天野 光聖を仕留める。


 大雑把な計画としてはこうなっている。

 天野 光聖がいつ復活してくるか不明な状況なので、なるべく道程は急ぎたい。


 グラヴノトプスを乗せた人力車型ゴーレムを引きながら、景色などは一切見ることもなく雲が降りているフラウロス山脈を下り、陽射しが遮られている薄暗い麓まできていた。


 すでにシェオゴラス城の姿は見えなくなっている。

 さしたる時間も経過していないが、出発してから一言も発していなかったグラヴノトプスが山を降りた頃に声をかけてきた。



「使徒殿、よろしいか」



 方角ならば雲に遮られた薄暗い視界程度で見失うことはない。

 ルシファードとベルゼビュート以外には俺も含めて畏まった態度を見せなかったグラヴノトプスが「使徒殿」などと呼んでくるのは意外だった。

 ともかく、何事かと足を一度止めてグラヴノトプスの方を向く。


 直後、グラヴノトプスが肩に担ぎ構えていた砲筒の弾が至近距離から発射され、兜に直撃した。


 衝撃が兜越しに頭に突き刺さり、爆煙で視界が覆われる。

 しかし普通ならば消し飛んで即死しているような砲撃でも、今の俺にとっては多少のけぞる程度ですむ。

 兜がなければ多少は傷がついたかもしれないが、唐突な奇襲だったため以前のように鎧の展開を解く間もなかった。



「やったか………!」



 グラヴノトプスの声が聞こえる。

 元の世界においてその台詞を言うときは大抵「やっていない」ものだが、これに関しては彼女に説いてもあまり意味はないだろう。


 復讐するのも、不意打ちを仕掛けるのも、砲弾を撃ってくるのも、それはグラヴノトプスの自由だ。止めるつもりはない。


 ただ、今は時間が惜しい。

 何か確認したいことでもあれば別だが、八つ当たりに関しては出来れば天野 光聖を殺した後にして欲しかった。



「………満足か?」



「う、嘘だろ………!」



 煙が晴れた頃を見計らい、一転驚きのあまり甲冑越しでもその表情が読み取れる反応を見せているグラヴノトプスに尋ねる。

 しかし返事はなく、グラヴノトプスは驚いているだけだった。



「チッ!」



 しかしすぐに気を取り直し、砲筒を構える。

 すると、今度はどういう仕組みなのかその砲身から火炎放射器のように炎が発射された。


 この鬼の魔族も錬金魔法に精通しており、一時はベルゼビュートの弟子に入っていたこともあるという。

 戦場でも自在に錬金魔法にて砲弾や燃料、武器を生成することで、歩く補給線としても活躍するなど、彼女の戦場における活躍は目を見張るものがあり、その功績は多くの魔族に信頼されているらしい。

 大きな実績を成し遂げ三元帥の地位にまで上り詰めながらも、まだ若い彼女が元帥になりながら魔族軍内からほとんど反対意見がなかったのはそれだけ活躍を通じて多くの信頼を勝ち得てきたからだろう。


 ベルゼビュートの弟子であった時期があったから、勝気な性格のグラヴノトプスがルシファード以外で唯一、あの魔族には敬意をもって接していたのだろう。

 怒ったベルゼビュートにあれだけ怯えていたのも、師弟の時代に何かがあったからかもしれない。


 それはともかく、そんなグラヴノトプスの多彩な攻撃だが、残念ながらそれも俺にはほとんど効いていない。

 貫けないなら燻り殺して仕舞えばいいという着眼点は悪くないが、火力不足である。



「…………………」



 立ち止まっていても、天野 光聖が復活するまでのタイムリミットが減るだけである。

 気が済むまでと言ったら俺が死ぬということになるので、ここはグラヴノトプスの魔力が尽きるまで付き合うことにして、そのまま人力車を進め始めた。



「なっ………効いてねえだと!?」



「…………………」



「クソが………! こいつならどうだ、オラァ!」



 最初の砲弾よりもより強い衝撃と爆音が響き渡る。

 さらに爆発と同時に、砲弾の中に仕込まれていたのだろう、殺傷能力を高めるための金属片らしきものが飛び出し鎧に突き刺さ………ることはなく、弾かれた。


 そして、そんなものを至近距離で使えばどうなるか。



「クソがぁ………! 何で、効かねえんだよッ………!」



 痛みに呻きながら悪態つくグラヴノトプスの声が物語っている。


 冷静さを見失うのは、あまりよろしいことではない。

 文字どおり身を以て実践してくれたのならば少しは利口になってくれると思ったが、グラヴノトプスは諦めなかった。



「無視すんじゃ………ねえッ!」



 これも錬金魔法による代物なのだろうか。

 人力車の席から身を乗り出して、ワイヤーらしきものを俺の首にひっかけてきた。



「これで、どうだぁ!」



 そしてそのワイヤーを全力でひきしぼっている。


 ………頑張っているところ申し訳ないので指摘を口にするのは控えるが、鎧に阻まれているので俺の首には何の圧迫もかかっておらず無意味な行いである。


 俺は別にグラヴノトプスが襲ってくること自体を止めるつもりはないが、襲撃してくる手段が無意味なものでもいちいち口を挟むことをするつもりもない。

 気が済むまで引っ張らせることにした。

 その間、俺は人力車型ゴーレムを引くことに専念する。



「ぐぬぬぬ………ッ!」



「…………………」



「まだだぁ!」



「…………………」



「何で効かねえんだよ!」



 無反応の俺に対し、グラヴノトプスがワイヤーを引く手を離して砲筒で兜を殴ってきた。

 殺意からくる攻撃ではなく、それはまるでツッコミをかますような一撃だったが、俺はボケをかました覚えはない。



「…………………」



「聞けよボケ!」



「効けと言われて効くものでもない」



「その意味でも効いて欲しいところだが、そういう意味じゃねえ!」



 歩みを一度止める。

 何か話があるらしい。

 グラヴノトプスの方を振り向くと、聞けと言いながら言葉の前に砲弾を飛ばしてきた。


 着弾し爆発を起こすも、最初に撃ってきたこの砲弾が効かないことは判明している。

 当然のように無傷で立つ俺に対し、2発目の榴弾により甲冑にいくつもの破片が突き刺さっているグラヴノトプスは肩に構えていた砲筒を下ろした。



「………クソッ」



 悪態つき、視線をそらす。

 軍の統率者としての面も持つグラヴノトプスは、決して愚か者ではない。

 俺は別に魔力が尽きるまで八つ当たりをしてもらっても障害ではないのだから一向に構わなかったのだが、無駄なことで魔力と時間の浪費をするのは止めたようだった。



「………用が無ければ出発させて貰うが?」



 さきほど「聞け」といってきたのも、俺の気を引き付けるためのものだったと思う。

 目線をそらして舌打ちをしてから、一向にこちらも目を合わせようとしないグラヴノトプスからは返事もない。


 時間が惜しいので追求することはしない。

 再び人力車を引き始めると、グラヴノトプスはそれ以降すっかり大人しくなった。

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