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魔神の使徒(旧)  作者: ドラゴンフライ山口 (飛龍じゃなくてトンボじゃねえか!)
第二幕 邪神族
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シックスパック伊藤

人力車とか言ってますけど、召喚されたゴーレムは馬車並みに巨大な三輪の車両となっています。

 魔神クテルピウスに貸し与えられている、魔神の宝物の数々。

 その中に【ゴーレムガチャ】なる代物がある。


 この世界の魔族が生み出した錬金魔法の一種に【ゴーレム】という自律機構がある。

 兵器だけでなく、移動手段や農耕など、幅広い分野で活躍する多種多様な存在である。


 この【ゴーレムガチャ】というのは、宝物のから取り出す際に完全な運任せで何らかのゴーレムを製造するという。

 何が出るかは運任せ。

 名前のまんまだなと感じるとともに、魔神クテルピウスがどうしてガチャという言葉を知っているのか疑問を呈したいところである。


 今回はそれを試すことにした。

 うまく移動手段が出ればそれを利用して亜人の国に向かう足に用いるつもりである。


 シェオゴラス城の城門前にてルシファードが遣わすことになっている案内役兼護衛の同行者を待つ間の暇つぶしの一環だ。


 宝物から【ゴーレムガチャ】を取り出すと、取り出す直前にゴーレムガチャがランダムに選ばれたゴーレムに変化して宝物庫から出てくる。

 その結果、なぜか出てきたのは人力車だった。



「…………………」



 移動手段ではあるが、どこに自律機構の要素があるのかわからない。

 作りは何やら黒と赤の塗装が施された金属製だが、明らかに人力車としての機能を備えた車である。

 車輪には自律走行の類は見られない。


 これもゴーレムの一種なのだろうか。

 木製の人力車に比べ、かなり重そうである。

 椅子は柔らかいクッションで、座り心地は良さそうだが、鎧姿で座るのは収まりが悪そうだ。俺は座る気になれない。


 試しに引いてみると、超人的な身体能力もあり見た目の割にずっと軽く感じる。

 誰も乗っていないが。


 自動で動くわけではないならば、どこに自律機構の要素があるのか。

 人力車を見ながら考えていた俺は、ふと思いついたことを試す。



「陽射しが強い」



 そう言って見たところ、客席のところに幕が自動で張られた。

 程よく日差しを遮り、なおかつ通気性もあり快適な涼しさとなっている。

 ………客席が。



「そういうことか」



 なんとなく、このゴーレムのことがわかった気がする。

 動くための引き手が必要だが、客には快適に過ごすための仕様となっている。

 観光地で使えば人気が出そうな人力車型ゴーレムであった。


 防御性などを重視したスピードに劣る車型のゴーレムなどが出てくることがあれば、むしろ足手まといにしかならなかったと思うので、この世界では超人的な身体能力を持つ俺が脚となれる存在だと考えるならばちょうどいい存在かもしれない。


 誰も乗っていないし何も載せていないとはいえ、この世界に来て得られた超人的な身体能力ならば一日中引き回しても息が切れないと思える程度の重さしかないので、運ぶのは難しくない。


 ゴーレムは魔族の錬金魔法による産物だから、自律走行機能がないのはむしろただの多少おかしい機能のついた荷車程度の認識で済むだろう。

 さすがに人間側も荷車や馬車程度ならば利用しているとのことだから、人間の国に入っても魔族の手の者だと一目でバレることはないと思う。


 案内役兼護衛の同行者もこの中に座らせておけば、おそらく大丈夫だ。

 ルシファードが自身に匹敵するほど人間に近い容姿をしていると自信を待って行っている人物ならば、幕の中に隠して仕舞えば魔族と認識されることはないだろう。


 考えようによっては非常に有用なゴーレムである。

 試しに完全に車内を隠せるか要求したところ、車体の外装が一部移動して車内を完全に隠してくれた。

 それにより後方の荷台との境目がなくなり、車内も一層広くなったことで1人が寝られるようになるという、野宿対応の機能が備え付けられていた。


 他にも機能が備え付けられている様子である。

 それについてはおいおい、旅の中で確認するとしよう。



「使徒殿!」



 ルシファードの声が聞こえた。

 どうやら見送りにまで来てくれたらしい。俺のことを「アカギ殿」ではなく「使徒殿」と呼んでいるので、配下–––––––おそらくは今回の同行者を連れているのだろう。


 振り向くと、こちらに向かって手を振っているルシファードと、その隣をもう1人の見覚えのある魔族が歩いてきていた。


 全身を赤黒い武者甲冑に包み、特徴的な肩に施されたトリケラトプスの頭骨のような三角獣の骨の装飾と、額から伸びている双角。

 空白となっていた三元帥の地位に昇格したと聞いていた、鬼の魔族。



「ご存知かと思うが、新たな三元帥の1人となった将、グラヴノトプスです。鎧でわかりにくいですが、私に並ぶほど人間に近い容姿をしており、なおかつその実力も勇者とさえ戦える強さを持ちます。このものを今回の案内役とします」



 そう誇れる部下を自慢するように、ルシファードがグラヴノトプスを指して言う。

 それに対してグラヴノトプスは無言で一礼をするのみ。

 俺も礼儀として同じく礼を返したが、兜を取る気配もなく表情も読み取れない。


 確かに、三元帥として認められるほどの実績を持つ彼女ならば、実力といい容姿といい同行者として文句のつけようがない。

 俺の命を狙いこの体を傷つけた前科があるが、その件は俺の方でベルゼビュートに頼みルシファードの耳に入れていない。

 多忙につき俺を襲う暇がなかったということもあってか、2度目の襲撃からは大人しくしていたようなので、ルシファードも彼女に任じたのだと思う。


 だが、これほど有能な人材を俺の旅の同行者として出しても良いのだろうか。

 現状の魔族の国は人材不足が著しい。グラヴノトプスほどの有能な将をなくすのは立て直しを大きく遅らせることになりかねない。


 その懸念を伝えたのだが、ルシファードは構わないと言った。



「聖剣の勇者が討たれれば、人間側の戦意は大きく削ぎ落とされ、また強大な戦力をなくします。確かに三元帥の存在は大きいですが、だからこそ確実に勇者コウセイを討ち取るためにグラヴノトプスにこの任務を命じたのです」



 言い分はなんとなくわかったが、グラヴノトプスはどう思っているのか。

 土壇場で裏切りに合うようなことは、せめて天野 光聖を殺すまでは避けたい。

 失敗できないからこそ、不確定要素は可能な限り少なくしたかった。


 グラヴノトプスには、後ほど彼女自身がこの任務をどう思っているのかを尋ねることにする。

 この場はルシファードが与えた同行者を引き受け、気を使わなくて済む場にてグラヴノトプスに尋ね、解答次第によっては突き返すことにした。



「………大変な時期に、俺のわがままのためにこれほどの将を引き抜くような真似をすることになり申し訳ない」



「使徒殿はご自身の役割を果たして下され。吉報を持ち帰っていただければ、我々はそれで満足なのです」



「そうか。では、必ずお前の待つ報告ができるよう、尽力しよう」



 ルシファードと握手を交わす。

 しばしの間とはいえ、親しくなったものとの別れである。素顔で対面したいところだが、グラヴノトプスがいる以上それは難しいため、グラヴノトプスと同じく素顔の見えない全身鎧姿での別れの挨拶となってしまった。



「では、くれぐれも使徒殿を頼んだぞ」



「心得ていますとも」



 グラヴノトプスとも言葉を交わして、ルシファードはシェオゴラス城に戻っていった。

 そして、城門前にてグラヴノトプスと2人きりになる。



「乗ってくれ。時間が惜しい、すぐに出発する」



 主人の背中を見送ってからこちらを向いたグラヴノトプスに、人力車型ゴーレムに乗るように指示する。



「…………………」



 グラヴノトプスは面で表情は読み取れないが、俺をじっと無言で見つめながら人力車型ゴーレムに乗り込む。


 下手に恐縮されたり、いきなり襲い掛かられるよりは良い。

 俺は人力車型ゴーレムの梶棒(人力車を引くときに曳き手が持つ棒のこと)を持ち、そのまま引っ張りシェオゴラス城を後にした。




 ………この先の旅路に何が待ち受けているのか。

 天野 光聖を殺すことしか考えていなかった俺には、この道の先に様々な出来事が広がっていることなど、想像できなかった。

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