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魔神の使徒(旧)  作者: ドラゴンフライ山口 (飛龍じゃなくてトンボじゃねえか!)
第一幕 初戦
12/68

劣勢を覆す秘策

 複数の勇者がいること、魔族軍が確認しているその勇者の中に日向と外見的特徴が一致する少女がいること、勇者たちの中で聖剣アルフレードを女神より授かりこの戦争を先導している存在、そして彼らの扱う属性魔法やこれまでの魔族軍との戦闘で判明してきた戦力などの情報。

 作戦を建てるにあたりルシファードとベルゼビュートからこれらの情報を収集した俺は、現在起きているこのいずれすり潰されることになるシェオゴラス城の攻防戦における魔族側の劣勢となっている戦況を覆すための作戦を提示する。

 そして魔神クテルピウスがあらかじめ俺が命を賭しても守ろうとしている存在が女神の勇者の中にいることを伝えていたことで、日向に関するこちらの条件の提示は比較的スムーズに行うことができた。魔族軍としてもすでにベルゼビュートを除く三元帥が討ち取られており、勇者の1人を必ず生かすことに同意することで魔神の加護を受けた異世界人が味方になるならば、むしろ願ってもいないとのことであった。

 そして俺が提示した賭けの要素が強いがうまく行けば逆転、戦局を一気にくつがえせる可能性のある各個撃破の戦術案を主軸とした作戦に切り替え、ベルゼビュートとルシファードニモ前線に立ってもらうことを了承させて、さらに日向を危険から遠ざけ、魔族軍の勝利だけでなく当初の目的の1つである先導する女神から聖剣を授けられたという勇者の抹殺を成し遂げるための作戦を立てた。


 日向が光の属性魔法を扱い最速での移動ができる勇者であると知った俺は、正義を追求する彼女が絶対に味方を見捨てず可能な限り助けようとする性格を利用し、主戦場から遠ざけて安全を確保するための作戦を立てる。


 内容は、戦場の中でも主戦場から距離があり、味方との連携に向かない。さらにフラウロス山脈の中でも険しくそしてシェオゴラス城に遠い位置にあることから両軍ともに戦力をあまり置いていない人間軍の左翼の戦場に、彼女をおびき出すというものである。

 勇者と互角以上に戦えて、なおかつ彼女を確実に生け捕りにできるだけの実力を持つ魔族は、単体の戦闘能力ならば魔王をも凌駕する魔族軍最強最後の三元帥であるベルゼビュートしかいない。

 聖剣を振り回す扇動者は俺が相手をするので、日向の相手はベルゼビュートに頼むことにした。


 第一段階として、勇者の本隊が率いる戦場中央をあえて戦力を配置せず空にし、その兵力をベルゼビュートが率いて左翼側に攻撃を仕掛ける。

 左翼には勇者の姿が確認されておらず、大局に影響の少ないこの戦場にベルゼビュートが投入されることを人間軍が想定している様子はないという。

 数はまだ劣るが、ベルゼビュートが出て来れば人間軍は混乱に陥るし、雑兵のみならばベルゼビュートを止められる者はいない。伝令をあえて逃し、左翼に援軍を懇願させれば、真っ先に日向が駆けつけるだろう。

 その間に左翼軍を壊滅させ、この戦場の趨勢を決する。


 援軍にはおそらく勇者のみが来るし、日向の速さを考慮すれば彼女がまず単騎でくる可能性が高い。

 勇者が左翼にも配備される可能性を考慮して、念のためにベルゼビュートが率いる戦力は多めにするが、それでも勇者どものリーダーを名乗る扇動者がいなければベルゼビュートが勝つだろう。

 左翼軍を壊滅させた後、ベルゼビュートは待機。日向を待ち構え、彼女を無力化してからシェオゴラス城に撤退する。増援が早く到着した場合はベルゼビュートの配下を当てて、増援が勇者の場合はベルゼビュートが対応する。この場合は右翼の戦局が決するまでの時間稼ぎを行う。可能な限りベルゼビュートにはこの戦場で持ち堪えてもらう。


 ベルゼビュートは二つ返事で承諾した。

 中央の戦場を空にするのには驚いている様子だったが、総兵力で勝る人間軍でも大きく4つに分割されている個々の戦力は決して多くはない。

 そこにつけ込む奇襲と各個撃破の戦術の有用性には、その作戦が思いつかなかったとはいえ魔族を統率してきたものたち、ルシファードとベルゼビュートはすぐに気づいてくれた。


 最大戦力である人間軍の本隊は、できれば勇者と分断するまでは当たるのを避けたい。

 中央軍だけで突出してシェオゴラス城に殺到する可能性もあるが、勇者の性格を考えれば両翼の戦況が崩れれば中央軍の進撃も止まらざるおえなくなり、戦力を分散するだろう。


 そこで、次は右翼の戦場である。

 シェオゴラス城には俺が勇者を待ち構えるとして、人間軍の戦力は可能な限りこちらの戦場に釘付けにしたい。

 右翼の軍勢にも勇者が数名いるが、その戦力は本隊には劣る。

 後方や中央との連携ができる近い位置にある戦場だが、その距離はゼロではない。


 そこで、この右翼に魔王ルシファードと残る魔族軍の全戦力を投入し、数において上回る状況を作り上げ、人間軍の右翼を撃破する。

 勇者にはルシファードが対応し、人間軍にとっては想定されていないだろう数に勝る魔族軍の増援を当てれば、奇襲により混乱に陥った人間軍は戦線を早々に崩壊させることになる。

 個々の能力では、雑兵でも魔族が人間を上回っているので、数で優勢となれば魔族軍が確実に撃破できるだろう。


 当然中央や後方の戦力も援軍に向かう。

 右翼が壊滅する前に援軍に向かわなければと全力疾走して駆けつけたとしても、この2つの軍勢もまた、一対一では右翼に投入される魔族軍に対して数で劣る。

 通信手段が伝令の世界なので、連携をとることは難しい。

 待ち構える魔族軍は、走ってきたことで少なからず疲労しているだろう人間軍の増援を随時飲み込んで行けばいいという寸法だ。


 これにより、人間軍は総兵力で勝りながら、その数の優位を活かしきれずに分割していた軍勢の隙を突かれることとなり、各部隊は各個撃破され撤退せざるおえなくなる。


 正義の追求を続ける幼馴染が歴史好きになったことで得られた、先人の編み出した数の劣勢を覆す戦術だ。



「これは………まさかこのような戦い方があるとは! さすがはアカギ殿!」



「あれだけ苦戦していたのが嘘のようですね。盤上の空論だというのに、こうして言われてみれば試す前から魔族軍の勝利がこの目に見えてきます」



「まだ勇者の存在がある。敵の対応が早ければこの戦い方は崩壊しかねない上に、城から王を含めた全軍を投入しなければならない。右翼の戦場が上手くいかなければ、終わりだ」



 目を輝かせていた2人の魔族は、俺の言葉に気を引き締めた。

 この戦術は賭けの要素が強い。うまくいく確率も高いが、足を止められて仕舞えば、または大きな戦力として合流されれば一気に不利に傾く。

 それに、勇者の存在もある。まともに勇者と戦える将をあてているが、それでも中央の勇者たちの戦力は計り知れない。

 それを魔王のいないシェオゴラス城におびき寄せる算段が必要だ。



「勇者という一騎当千の戦力を軍勢から引き離し、シェオゴラス城にて迎え撃つためにもう一計を案じる。俺の外見だけならば人間そのものだから、人間軍の伝令に偽装して勇者にシェオゴラス城がカラである情報を伝え、勇者だけを城におびき出し俺が迎撃する」



「偽伝、ということですか?」



 ルシファードの言葉に頷く。

 この世界は種族が違う者同士で争っているため、敵軍に偽物として紛れ込むのが容易ではなく、偽伝の概念は薄い。

 当然ながらそれを使われた事のない勇者ならば簡単に騙せそうだし、多少の矛盾があるのも混乱する戦場の中であれば信じこませやすくなる。

 このために魔王をシェオゴラス城から出撃させるわけだが、右翼からの伝令が魔王の存在を伝える前に勇者にこの偽伝を流せるかというのが大きなカギとなる。


 一度勇者を信じ込ませれば、彼らの超人的な速さについてこれる者は人間軍にはいない。罠と気づかれた時には、もう勇者は釣れた後ということだ。



「俺としては日向の命が保証されるなら、いくらでも協力を惜しむつもりはない。この作戦ならば、勝機はあるはずだろう」



「はっ! 必ずや、勝利してみせましょう!」



「使徒殿の婚約者殿は、私が必ず確保します。決して傷つけないようにいたしますので、お任せください」



 2人の魔族のトップの了承も得た。

 ベルゼビュートがどこかの親友のような勘違いをしているが、この際その解釈をしてもらって結構である。いちいち訂正するのも面倒だ。

 その日のうちに中央の魔族軍を撤退させ、明日の決戦に備えて動き出す。

 俺もまた人間軍の伝令の装備に身を包み、明日の決戦に備えた。




 ………そして、開幕した。


 伝令に扮して勇者を誘導し、俺自身は魔神の宝物の1つである疾駆の甲冑を使ってシェオゴラス城に先回りする。


 左翼の戦場ではベルゼビュートが予定通り日向を迎え撃ち、右翼の戦場では先日の戦闘にて戦死したという三元帥次席の副将たちの獅子奮迅の働きもあり、勇者から想定以上の打撃を受けながらも戦況を五分にまで持ち込んだ。


 左翼は壊滅。右翼も軍としての機能を失い潰走。中央の本隊はベルゼビュートの配下と遭遇戦に発展し、勇者不在もあって数で勝りながらも足止めされることになり、後方の予備軍だけが右翼の戦場に駆けつけてなんとか戦線を支えている。

 このままいけば、人間軍は撤退に追い込まれるだろう。


 そして、その戦局を覆せる最強戦力は、俺の偽伝によりここまで来たことで足止めを食らうことになる。


 伝令の姿から、漆黒の甲冑姿に変わる。

 魔神の宝物であるこの鎧は、なんでも女神の加護を受ける者を威圧し、弱い者に関しては戦意をくじく効果があるという。


 その効果と思われるが、シェオゴラス城にたどり着いた勇者たちは1人を除いで全員が気圧され、残った1人が腰に差す剣を抜いて戦えなくなった面子を守るように俺と対峙した。


 赤と白の軽鎧に身を包み、赤地に金の獅子の刺繍が入ったマントをなびかせ、蒼い炎を剣の刃に纏う、まさに勇者と呼ぶにふさわしい出で立ちをしている。

 黒い瞳は剣を抜いた瞬間から宝石のように青白く輝く瞳に変わり、決して決意したことを捻じ曲げない、そんな感情を表すような力強い目つきをしている。


 聖剣アルフレードは蒼き炎を持つという。

 おそらく、対峙するこの男が女神から聖剣アルフレードを授けられた勇者たちの扇動者なのだろう。


 女神アンドロメダとの間に何があったのか、どうしてこの異世界の人間に自分たちの命をかけてまで味方することになったのか、俺は詳細を知らない。

 勇者の扇動者が女神の要求を安請け合いし、仲間たちを扇動して戦場に駆り立てたというのも、あくまで魔族軍に伝わっている噂でしかない。


 異世界の勇者たちを戦いから下ろせば、それで魔神クテルピウスの条件である魔王ルシファードを異世界の勇者から守ってほしいという内容は完遂する。

 俺も、そして聖剣を携えるあの男も、言葉を発し言葉をかわす人間だ。殺し合いの前に説得を試みる。

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