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今日も、暑い  作者: 海月水母
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今日も、暑い:桔梗編

 今日も暑い。


 暑い、暑いと思いながらも歩いていた平日昼間際。

 もうすぐ昼なのだからと休憩でも取ろうかと辺りを見回したが喫茶店一つ見つからない。

 駅前まで行けば喫茶店どころかファーストフードだってレストランだって何でもあるのだが、タイミング悪く現在いる場所はどの駅からも20分以上はかかる場所だ。

 こんな事なら意地でも車で出ればよかったなと考えるが、使えなかったものは仕方がない。覚悟して駅前まで行くかと歩を進めるが、今日は本当に暑い。

 せめて木陰でもあれば涼しいんだけどな、と思いつつなるべく建物の影の下を歩いて行っていると、自動販売機と真新しいベンチが目に入った。

 ベンチの後ろには大きな木が影を作っていて居心地悪くなさそうだ。


 歩くにしてもお茶かコーヒーでも飲んで一休みしてから行くか。


 そう思い、自動販売機で適当な飲み物を買い、ベンチに腰掛けた。

 しかしベンチに座った途端、倦怠感が酷くそのまま少しだけと目を閉じてしまった。




「もしもし、あなた大丈夫?」

 揺さぶられるような感触と女性の声がして目を開けると、目の前には年配の日傘をさした女性が立っていた。

「あらよかった、意識はあったのね」

 老婦人が屈んで何かを拾うとこちらに渡してきた。


「ごめんなさいね、何度か声をかけたのだけど反応がないからつい気になって」

 そう言って渡してくれたのは先ほど自分が買った飲み物だ。

 礼を言って受け取ってみるとすっかりぬるくなっている。

 慌てて辺りを見回すといつの間にか辺りは曇り陰っていた。


「大変でしょうけど頑張ってくださいね」

 そう言って老婦人が自分の横に小さな紙袋を置いて行ってくれた。

 紙袋を開くと中にはコンビニの梅おむすびと塩飴が一袋。


 通りがかりの老婦人にまで心配をかけてしまうなんてと思いつつ、袋はありがたくいただいてベンチから立ち上がり大通りへと戻った。


 そうだ友人がきっと心配しているだろう、とポケットから電話を取り出して画面を見ると15:30の文字。

 嘘!?4時間近くあのベンチで転寝してたんだ、と友人に連絡を取ろうと携帯画面を確認すると、友人からの着信履歴が並んでいる。

 それはそうだろう、待ち合わせの時間から3時間以上が過ぎている。

 電話を掛けるとすぐに友人が出た。


「連絡が遅い!…大丈夫!?」

 と慌てた様子の友人の声。

「ごめん」と謝りだるくなってベンチで休んでたらこんな時間になっていた、と伝えると長い溜息のあと「よかった」と安心したかのようなつぶやきが聞こえた。


「それ、熱中症だ」

 友人に指摘され「そうかな?」と半端な答えを返していると、とりあえず急がなくていいから今すぐ水分をとってそれから駅に来い、と叱責された。

 電話を切ってから、自分の買っていた飲み物のことを思い出しそれを飲む。

 大分ぬるいが仕方がない。

 半分ほど飲み干して蓋をすると駅への道を急ぐことにした。


 駅までの道は大通りを進んでいき踏切を一つ越えてその先一つ目の曲がり角を右折して細い道を行けばいい。

 今日は珍しく車もほどんどなく、歩道にも人がいない。

 駅に向かう道なので普段はそれなりに人がいるのに珍しいな、と思いながら歩いていると自分の横を通りがかったタクシーが少し先で止まる。

 運転席の窓が開いて運転手が顔を出して話しかけてきた。

「そこの人、大丈夫?だいぶつらそうな顔しているけど。どこまでか知らないけど、乗っていくか?」

 なんて、これじゃあ客引きみたいだな!と笑う運転手に曖昧に笑う。


 見知らぬ人にそう言われるほど酷い状態なんだろうか…とちょっと恥ずかしくなってしまった。

 しかし駅まではあと10分強歩けば着くはずだ。

「大丈夫です」と返事をして手を振ると運転手はにっこり笑って

「そうか、ならいいけど無理するなよ」

 と言ってそのまま走り去って行った。

 わざわざ止まってまで声を掛けてくれるなんて親切な人だなぁ。


 曲がり角まで来て右折した後細い道をまっすぐ歩いていると、その先にうずくまって泣いている子どもがいた。

 迷ったが、近くに親や友達らしき姿もないし、どうにも気にかかってしまい「大丈夫?」と声を掛けた。

 顔を上げた子はまだ幼稚園児、と言う年ごろだろうか?

 随分と泣いたみたいで目元が赤く腫れあがっている。


「…あのね、落としちゃった…」

 その言葉に子供がしゃがんでる足元をのぞき込むと、潰れたおむすびが落ちている。

 おむすびには既に蟻がたかっており、目元の腫れと合わせるとこの子はかなり長時間ここで泣いていたのだろうか?

 どうしようか?この近くにはコンビニとか店もないし、と考えている時にふと思い出した。

 先ほど老婦人からもらった紙袋におむすびが入っていた!

 持っていた紙袋からおむすびを出すと子どもに差し出した。

「梅おむすびだけど、よかったら。梅食べられる?」


 子どもはおむすびを見て「いいの?」と驚いた顔でこっちを見ている。

 まぁ確かに少しお腹が減ってはきているのだが、こんなに泣いている子がいるのに自分が食べるわけにもいかない。

「いいよ」と言っておむすびを渡した途端、タイミングよく自分の腹がぐぅ、と空腹の音を立てる。

 カッコつけたのに…と少し恥ずかしくなってると、子どもがおにぎりを見て

「ぼく、こんな大きいおむすび一個全部食べられないから、半分こしよ?」

 と言ってきた。

 遠慮しようかと思ったが、子どもの視線に若干の申し訳なさを感じ、ここは子どもが罪悪感を抱かせない為にもおとなしく半分こにしてしまおう、とおむすびを半分に割って、半分を子どもに渡す。


 子どもは嬉しそうに「おいしいねぇ」とおむすびを頬張っている。

 頬張りすぎて途中でむせていたので、飲み残していた飲み物も渡すと、それも全部飲み干して「ありがとう!」と嬉しそうに笑った。

 それを見てから自分も半分にしたおむすびを食べる。

 そう言えば熱中症になりかけたかもしれないというのに、水分は取ったものの塩気は取っていなかった。

 おむすびの塩気だけでも十分かもしれないけど、一応塩飴も食べておこうかな。

 と、子どももここで長時間泣いていたのなら、熱中症になるかも?と思い、紙袋から出した塩飴の袋を開く。


 中には4個の飴が入っている。

「これ、食べておいた方がいいよ」と子供に飴を渡すと、きらきらとした目で塩飴を受け取り、口に含む。

「アメなのにしょっぱいね!」と笑う子どもに「これは塩飴って言うんだよ」と言うと「お塩のアメ!?」と驚いていた。


 さて、あまりのんびりとしているとまたしびれを切らした友人から電話が来てしまう。

 そろそろ駅に向かうかと子どもに「じゃあ、気をつけておうちに帰りなよ」と言って立ち上がると、子どもが

「もしかして、駅に行くの?」

 と聞いてきた。

 頷くと子どもが「じゃあいいこと教えてあげる」と言い、内緒話だからね、と耳元でこそこそと囁く。

「あのね、駅のところ、たくさんお店あるんだけど、おいしいにおいがするお店は入っちゃダメなの。ありのみのお店がいいの」

 じゃあね、と子どもはそれだけ言うと走って行ってしまった。


 美味しい匂いに惑わされてはいると美味しくないお店に当たるって事かな?それともつられて入ったら、すっごい高い値段とかかな?

 あとありのみの店って何だろう?

 有りのみ?有りの見?蟻のみ?蟻の身?

 良く分からないな、と思いつつ再び駅へと向かい始める。

 足元のおむすびはいつの間にか蟻に運ばれたのかすっかり無くなっていた。


 駅前に着いたのだが、驚いた。

 賑やかな色合いの店が立ち並び、すっかりと様子が変わっている。

 以前来た時はもっと田舎の町の駅、って感じで駅前にはチェーンのお店が二~三軒ある以外はバス停ぐらいしかなかった気がするのに。


 どうも食事関連の店が多いらしく、そこかしこからいい匂いが漂ってきている。

「いらっしゃい!飯を食べるならここ、「隠れ屋」でどうぞ!美味しい料理をたくさん用意しているよ!」

「弁当ならうち、「神上げ」!安くてボリュームのある弁当を多数用意しているよ!」

「帰寂、帰寂の料理は天下一品!セットメニューにすると更にお得だよー」

 大きく賑やかに客引きをする声を聞いているだけでお腹が減ってくる。


「お、腹減ってるか?よかったらうち寄って行かないか?」

 色々な店の人が声を掛けてくれて迷ったが、先ほどおむすびを少し食べたおかげで空腹感はまだない。

「人と待ち合わせているので」と断ると、「残念!よかったらその人と一緒に寄ってね」と言われ、「はは」と笑ってごまかして店の並ぶ道から離れて駅舎に向かう。


 まずは待ち合わせている友人を探さないと。

 あれ?でも駅のどこで待ち合わせたっけな?

 駅構内だっけ?いやホームだった…?

 えっとそもそも今日は友人と待ち合わせてどこに行くつもりだったっけ?

 確か途中で花を買う予定になっていて…。


 そこまで考えていた時にふと「梨屋」と言う声が耳に飛び込んできた。

「あ!」

 そうだ思い出した!「ありのみ」って「有りの実」で確か「梨」の事だ!

 何だっけ?梨=無しに通じて縁起が悪いとか何とかで言い方を変えたとか聞いた事がある。


「梨屋」と聞こえた方を見ると、まるでそこだけ時間が流れていないかのような、古い日本家屋が立っている。

 木製の看板に墨で「梨屋」と書いてある。

 店の入り口には長い暖簾がかかっているのだが、その暖簾の向こうに見覚えのある姿が一瞬見えた。

 間違いない、友人だ。


 もしかして長く待ちすぎてお腹が減って店に入っちゃったのかな?と申し訳ない気持ちで「梨屋」の暖簾をくぐると、いくつかの提灯の灯りのみがある薄暗い店内に「準備中だったかな?」と足を止める。

 しかし奥から「いらっしゃいませ」と声が聞こえた。

「失礼しまー…す」

 一応声を掛け遠慮がちに足を進めると、店には花束が並んでいる。


 花屋だったのか、と並ぶ花束を見ていると奥から見覚えのある老婦人が出てきた。

「あらまぁ、あなた…」

 向こうも覚えていたようで、「先ほどはありがとうございました」と改めて礼を言うと、老婦人は嬉しそうに

「無事でよかったわ。それよりも、お花をお探しかしら?」

 そう言われると何の店か分からずに入ったとも言えず、「ええと」と迷いながら店内を見る。

 その中で、ふと桔梗が目に入った。


 そう言えば友人は桔梗が好きだったな。

 年寄りみたいって言われるけど、紫色で星みたいなあの花が好き、と言っていたから遅れたお詫びに花束を買っていこうか。

「あら、そのお花にするのね?」

 声を掛けられ「はい」と返事をして鞄から財布を取り出そうとすると、老婦人がそれを止めた。

「お代はいいわ」と言われそんな訳にはいかないと、言ったが老婦人は首を横に振る。

「その代わりね、お願いがあるの」

 そう言って組紐の先に楕円形の紫の石が付いたループタイを差し出してきた。


「これをね、あの人に届けて欲しいの。そしてね伝えてちょうだい、『まだ会いに来るのは早いわよ』ってね」

 お願いね、と言われて受け取ったのはいいが「あの人」とは誰だろうか?

 それを聞こうとした矢先に後ろから肩を叩かれ、振り返ると友人が立っていた。

「心配ばっかかけて!」と泣きそうな顔でこちらを睨んでおり、「ほんと、ごめん」と謝った。

「じゃあ行こうか」と友人に手を引かれ店を出たが、先ほどのペンダントの事を聞いてないと「待って」と声を掛けたが友人は聞いてないとばかりに自分の腕を引っ張ってどんどん駅に向かう。

 仕方が無い、あとであの店にもう一回聞きに行けばいいかと諦め引っ張られるままに歩を進める。


「お、さっきの人じゃないか。待ち人と会えたんだね、一緒に食事どうだい?」

 と声を掛けられたが、友人が足を止める様子が無いので、「また今度」と断った。

 非常に残念そうな店の人の顔に申し訳なく思ったが、今は心配させてしまった友人に従おうと、駅からそのまま改札を抜けホームへと入った。


「あ、そうだこれ」

 友人に桔梗の花束を渡して改めてもう一度謝った。

「心配ばっかりかけてごめん」

 花束を受け取った友人は目を真ん丸にして花束を見つめている。

 直後、ホームに電車が入ってきた。

「~~行、発車いたします、お乗りの方はお急ぎください」

 雑音交じりの案内が聞こえたので「行こうか」と電車に乗ろうとするのを友人の手が止めた。


「ダメ、この電車じゃない」

 そう言って友人は走り出した。

 虚を突かれて呆然と見送ってしまったが、階段の上へと友人の姿が消えた頃にやっと友人を追いかけ始めた。

 階段をのぼり、連絡橋に出ると、向こうのホームに降りる階段の前で友人が駅員と何か話している。

「なるほど、分かりました」

 駅員がそう言って道を開けると、友人が自分の方を見て「早く」と声を掛けてきた。

 友人に駆け寄り、一緒に階段を下りると、向かいのホームと違ってこっちには人の姿がほとんどない。


「まったく、いつまでたっても落ち着きが無い」

 突然説教を始める友人に驚いたが、そのまま友人は続けて話す。

「ぼーっとしてるし、倒れかけるし、のんびりしすぎだし心配で目を離せない!」

 返す言葉もありません、と俯いてると友人の「ふふっ」っと笑う声がした。


 ホームに電車が入ってきた。

 電車の扉の開く音がする。

「~~行、発車いたします、お乗りの方はお急ぎください」

 雑音交じりの案内の声が響く中、友人が口を開いた。

「でもさ、心配だけどやっぱり連れては行けないや」

 そう言った友人の手に突き飛ばされた。

 勢いよく倒れ込んだ先は電車の中。

「ドアが閉まります」

 案内の声と共にドアが閉まり、友人はホームに取り残された。


 慌てて立ち上がって窓から友人を見ると、友人はなぜか慌てる様子もなく花束を抱えたままホームで立っている。

 その顔は笑っているのに泣いているような、そんな表情で。

「ありがとう、さようなら」

 友人が手を振ったところで電車が走り出した。

 電車が揺れた勢いで窓枠にしたたかに頭を打ち付けてしまい、意識が遠くなる。




「………か、あなた……だい…ぶで…もし、あなた大丈夫ですか?」

 目を開けると、目の前には青い空と心配そうな男性の姿。

 自分が何をしていたかを思い出せない。


「…!」

「大丈夫です」と言おうとしたが、喉がひりついて声が出ない。

 身を起こして立ち上がろうとすると、ふらついてしまう。

「急に立ち上がらないほうが良いですよ」

 男性が体を支えてくれたので、その場にあったベンチにまた腰を下ろす。

 落ち着いた様子の、白髪の老人は「何かあったかな」と自分の持ち物を探っている。


「余り物で申し訳ないのですが、よかったら飲み物代わりに」と彼が差し出してくれたのは、梨だった。

「妻の好物だったんですよ。買いすぎて余っちゃって」

 手を付けていませんので、どうぞ。

 そう言って老紳士が渡してくれた梨にかぶりつくとひりついていた喉を水分が潤していく。


「…すいません、ありがとうございます」

 やっと声を出せるようになってお礼を言って顔を上げると、老人の後ろには「梨屋」と墨で書かれた看板。

 そこには何故か見覚えのある古い日本家屋が立っている。

 店の入り口には長い暖簾がかかっているのだが、その暖簾の向こうに先ほどまでは色とりどりの花があったはず。


「…あの、梨屋さんて花屋さんではなかったですっけ?」

 恐る恐る聞いてみると、老人は驚いた顔で答えた。

「ええ、以前は花屋を営んでおりました」

 ただ、少し前に妻が無くなりまして、それでなんか店をやる気も亡くなってしまって…。

 寂しそうな横顔に「余計な事を聞いてしまった」と申し訳ない気持ちになる。


「すいません…」と言いながら立ち上がろうと手を付いた先に、何かの感触がする。

 手のひらには塩飴が二つと、紫色の石が付いたループタイ。

「あれ?こんなもの持ってたっけ…?」

 呟いた声に気が付いた老人がそのループタイを見て息をのんだ。

 その表情は窺うまでもなく驚きに満ちており、目に見えて狼狽していながらも声を掛けてくる。


「あの、そ、そのループタイは」

 聞かれても自分自身何故こんなものを持っていたのかを思い出せない。

「それ、その石のところがロケットになっていませんか?写真が入っていませんか?」

 老人に言われて紫色の石を触ってみると金具があり、開くようになっている。

 言われた通りロケットになっているようだ。

 のぞき込む老人の前でそのロケット部分を開けると、右には今目の前にいる老人の写真。

 そして左にはにこやかにほほ笑む老婦人の写真。


「そうだ、これだ。これが何故、ここに。妻に先立たれた時に、もう私も墓に入ってしまいたいと、骨と一緒に納めたはずなのに」

 うろたえる老人を前にしてやっと思い出した。

 あの、見覚えがあるのに見覚えのない、今考えると不思議なあの町。


 老人にループタイを差し出し、老婦人の写真を指差して伝える。

「あの、こちらの方から伝言を預かっています」

 老人が息をのむ音が聞こえた気がした。


「…『まだ会いに来るのは早いわよ』だそうです」

 確かに、お伝えしましたよ。

 この方はきっと今までと同じように、かわらず「梨屋」の名前でお花屋さんを営んでおられました。

 呆然としていた老人が泣き笑いのような表情になる。

「そうか、まだ早いか…ふふっ、そうかぁ」

 老人は目元に涙をにじませながらもすっきりとした面持ちで立ち上がり、頭を下げてきた。


「ありがとう、もう少しこちらで頑張ってみるよ」

 そう言って老人が立ち去った後、自分もベンチから立ち上がり、細い通路を抜けると、その先にある霊園へと向かう。

 ずらりと並ぶ墓石の間を抜けて、今日の目的地である墓石の前で足を止める。

 その墓の前には既に桔梗の花束が置いてあった。

「心配ばっかりかけてごめん」

 そう言うと、両の目から涙があふれてくる。

 連れて行ってもよかったのに。

 でも。

 きっと今の自分は、あの時ホームで見送ってくれた友人と同じような顔をしているだろう。


「…助けてくれてありがとう」


 昼を大きく過ぎたとはいえまだまだ太陽が照り付けている。

 ポケットにあった塩飴を口に含むと、足早にその場から立ち去った。


 ああ、今日も、暑い。

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