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異世界へ転移した男による恩返し  作者: 皐月 Show
第一章
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第4話:言葉が通じない状態でのコミュニケーション

 魔女が手に持っている筆記用具とインクを胸元まで上げる。


 これを使って会話をします。

 そんな事を言ったのだろうと、混乱から抜け出せない聖志にも分かるのであった。

 彼女が話す言葉は分からなくても、状況が物語っているのである。

 一つ頷き、頭を下げる聖志。

 それを見た相手は微笑み、紙に筆を走らせていく。

 まず歪んだ帽子が描かれ、輪郭が追加され、彼女の着ている服が装飾された。


「ヘタクソだな」


 紙に描かれた、魔女本人らしき絵面を見ての第一印象であった。

 彼女はしきりにその絵を指差しては己を指し示しつつ、何かを繰り返し喋る。

 絵心が無いのに上手く描こうとして、微妙な絵になる。

 そんな経験を、聖志もしたことがあった。

 男が抱いた感想が表情に出ていたからか、先程より慌てて、何度も話していた。


 ――ラヒアルーン、か?


 彼女自身の名前を説明しようとしているのは分かった。

 思っている事をそのまま口に出した聖志。


「……! ……んー」


 正解! と言いそうな喜びの仕草を一瞬見せたが、すぐに表情を曇らせる魔女。

 何かが違うのか、通じるかは聖志には分からなかった。

 だが、人指し指を立て、もう一度、と頼み込む。


「ラフィアルーン」


 無事に通じたと彼は判断した。

 絵を指差し、己へ手を向けながら、彼女は再度名乗った。


「ラフィアルーン、な」

「!!」


 今度こそ歓喜の表情を見せる女性。

 それから、ラフィアルーンは体全体と併せて物凄い勢いで語る。

 とにかく喜んでいる様子を受けた彼は、言葉は分からずとも正解に辿り着けたことを安堵した。


 次はそっち、というような動きをしながら、再び筆を手に絵を描いていく。

 顔を描こうとしているのか、何度も彼女の紅い目と視線が合った。

 睫毛まで金色なんだな、と感慨に浸りながら、聖志はその容貌を眺めていた。

 しばらくして、出来た! とばかりに筆を置いた彼女。

 観察されていた男が、改めて絵を見る。

 画力の無い者が写実的な絵を描こうとした結果が、そこには表現されていた。


「ヘタクソだな」


 自分の事を顔が整っていると評価したことは、聖志には一度も無かった。

 だが、描き上げられた絵を見ると、不格好にしか見えない顔と感じたのであった。

 妙にリアルで、しかも微妙に似ていない。

 というか、どことなく不気味さを聖志に訴え掛ける絵が、そこにはあった。

 男から見て容姿の優れたラフィアルーン。

 聖志の目の前に居る本人と、先程描かれた彼女の絵。

 それらを比べてみても、フォロー出来ない芸術センスの無さだと彼は感じた。


「……聖志」


 この残念な絵が己を表しているのだと思うと、聖志は認めたくはなかった。

 が、このままでは会話が進まないと判断の下、彼は仕方なく受け入れ、自らの名を名乗った。


「セイジ?」


 瞼を広げ、これで合ってる? と言わんばかりにリピートする。

 もう一度だけ自身の名前を言い、相手が繰り返したのに合わせて頷いてみせる男。

 この首肯する動作も、文化が違えば意味も変わるのではと考えたが、通じたようであった。


「セイジ」


 目を細めて嬉しそうに発音する。

 母音の形に合わせて、真っ白な歯を見せながら笑っていた。


 それからは、この世界の言葉の説明を兼ねて、日常会話についての質問と解説が続いていった。

 発音は異なるが、前の世界と同じ意味を持つ単語。

 発音は同じだが、前の世界と異なる意味を持つ言葉。

 発音も意味も、前の世界とは全く関係の無いフレーズ。

 例えば、男性と女性。発音そのものから独特で、口にしたところでセイジの違和感は拭えない。

 だが、言葉が持つ意味の差は、かつて話していた言語の派生形のように、一部分が同じ発音なのであった。


 ――文法も似ているようで違う。でも全く違う訳じゃないんだな。


 語られる単語と意味に集中しながら、セイジはそういった感想を抱いた。


 ラフィアルーンの口頭説明と、紙に描かれた絵による授業。

 家の中を貼り紙だらけにしながら解説する魔女。

 徐々に楽しくなってきたのか、彼女の表情が豊かになっている、とセイジは気付く。


 彼が箪笥に目をやると、目玉の絵と骸骨マーク付きで怒るように説明されたのであった。

 牛歩のような進歩具合の言葉の講義は、彼らが空腹を訴えるまで繰り広げられた。

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