二人目の転生勇者
【それでは次の世界に参りましょう。次はすでに転生者が旅を始めています】
なんだって? なら急がないとまずいな。
この世界はもう大丈夫だ。
「ところで名前は何というのじゃ?」
「名前? そういえば名乗っていなかったな。俺の名前は……えっと」
「どうしたのじゃ?」
そういえば元の名前名乗るべきなのか?
俺はもうあの世界の勇者ではない。
だから違う名前で活動したほうがいいのではないか。
【いずれ転生者狩りとして広まる名前です。好きに名乗るがいいでしょう】
そうだよな元の名前は封印しておこう。俺は転生者狩りのナチュラル勇者になったのだ。
「俺の名前は転生者狩りのアルス、アルス・ハンターだ」
どうだいかにも勇者っぽいだろう。
今二秒で思いついた名前だけど。
「アルス、よろしくなのじゃ」
「よろしくアリシアちゃん」
「呼び捨てでいいぞ。アリシアなのじゃ」
「じゃあアリシア。次の世界へ旅立つぞ」
「了解なのじゃ~」
こうして俺達はこの異世界グランナダールを後にした。
次の世界へ転送中。
成り行きで魔王が仲間になってしまったが最初の戦いにしてはうまくいったと思う。
だけどこれは本当に最初の一歩に過ぎないという。
一体次はどんなクズが待っているのだろうか。
俺は考えるだけで武者震いがしてきた。早く転生者を狩りたい。
【その意気ですよ。さぁ着きました異世界アメニアです。この街道にまもなく転生者がやってきます。今回は私は最低限の助言しかしません。自分自身の力で頑張ってください】
いよいよ本番ってわけか。
まぁ頼もしい相棒もいるしいっちょやってやるか。
「ここが別世界か。凄いの~」
頼もしいかどうかはちょっと怪しいところがあるが。
とりあえずまずは転生者が来るのを待つか。
俺達は茂みに隠れた。
すると数分後明らかに一般人じゃない奴らが歩いてきた。
あれは間違いない転生者だ。
今回も転生し勇者になったパターンだな。
「ジャック様今回もカッコ良かったです。本当に尊敬しちゃいます」
どうやら転生勇者の名前はジャックというらしい。
横にいる女の子が勇者を褒め称えている。
ていうか女の子多くないか?
1、2、3、4、4……!?
4人も連れて旅をしているのか?
しかもみんなオッパイがでかい巨乳じゃないか。
「今日はどこへ行くんですか?」
さっきとは別の女の子がジャックに話しかける。
「そうだな近くに温泉があるらしい旅の疲れを癒やそう」
いやいや何で温泉行く必要があるんだよ。
こいつ何考えてるんだ。
「わーい温泉だ~」
「温泉ですか……!? 覗いちゃだめですからね」
「うふふ楽しみだなぁ」
盛り上がる一行。そんな会話を延々としながら通りすぎていった。
恐らくこの街道の先に温泉があるのだろう。
しかしこいつら何て平和な脳みそしてるんだ。
勇者とその一行ならあり得ないだろそんな雰囲気。
仲間として尊敬しあうのはいいことだ。
だが今の会話からそんな事は微塵も感じられない。
まるで世界や人々のことなどどうでもいいような雰囲気じゃないか。
「アリシアは今のどう思う?」
「何だか緊張感がない奴らじゃの~。勇者とは思えないの」
「やっぱ俺と同意見か。元魔王として教えてくれ。この世界にも魔王はいるんだよな?」
「勿論おるのじゃ。強い魔の波動を感じるから間違いないのじゃ」
やはり同じ魔王同士ならそういうことを感じることができるのか。
これは役に立つ能力だな。
もしかして今通ったあいつらはもう魔王を倒した後だと思っていたがそんなことはなかったぜ。
「ところで皆おっぱいが大きかったの。羨ましいのじゃ」
自分の胸に手を当てて羨ましがるアリシア。
俺は激怒した。
「いやいやそんな事言うもんじゃないぞ。大きいのは確かに魅力的だが小さい、薄いだって魅力は有るんだ! 何故そんな事を言うんだ」
「そうなのか? そんなに怒られるとは思わんかったの~」
「すまんな。ついに声が大きくなってしまって。だが知って欲しかったんだ。世の中には色々な人がいるということを。その多様性を許容することが人間という生物の素晴らしいところなんだということをな」
「何だか深いのじゃ」
さてアリシアに説教してしまったところで俺達もあいつらを負って温泉へ向かわなければ。
「すまんがちょっといいか?」
「何だいアリシア」
「さっきの娘達のことなんじゃが」
「巨乳達がどうかしたのか?」
「あいつらの目をよく見たら何か操られているような感じがしたのじゃ」
「操られている? どういうことだ」
「分からんがあのジャックとかいう男からそういう力を感じたのじゃ」
「そうかありがとうアリシア。どうやら本当の仲間とは言えないのかもしれないな」
「どういたしましてなのじゃ」
仮にも勇者を名乗る者が人を操る力など持っているものなのか?
いや普通の基準で考えてはならない。
あいつは転生勇者なのだ。
チートを持っているのは間違いないのだから、もしかしたらチートの一種なのかもしれん。
だとしたら俺も操られないように気をつけなければ。
「ところでわしたちも温泉とかいうとこに入るのか?」
「事と次第によってはそうなるだろうな」
「わしは温泉初めてなのじゃ!」
「そうか。魔王城には温泉はなかったか」
「そうなのじゃ~。あったのは血の風呂だけじゃ」
「……怖いからやめて」
街道を歩いて温泉があるという街へ向かった。
直接あいつらに会う前にこの世界の現状と転生勇者の所業について聞かなければ。
とりあえず二人で手分けして情報収集をした。
そして分かったことがある。
俺達は話を整理することにした。
「じゃあまずはアリシアが手に入れた情報を教えて」
「わかったのじゃ! あのジャックという男についてなのじゃ。ジャックは数週間前にこの世界に現れて勇者として旅をしているそうなのじゃ。そしてどんどん魔王軍の拠点を落としていってるのじゃ。その強さはあり得ない強さで魔王軍も全く歯が立たないようじゃ。この国の皇帝にも気に入られており今は皇帝の一人娘を旅に連れているようじゃ」
そうかアイツはやはりチートを持っているな。
その圧倒的な力でまた魔王軍を蹂躙しているのか。
やれやれこの世界にこれから生まれるであろうナチュラル勇者が可哀想だ。
そしてチートの力によってバランスが崩れ始めていることは間違いない。
早く止めないと大変なことになるぞ。
「以上がわしの集めた情報じゃ」
「やるなアリシア。やはりアイツはヤバイ奴だな。チートも前回のニート並には持っているだろうな。よし次は俺だ」
俺が集めた情報を話した。
あのジャックという男が連れている女の子達についてだ。
何故かあのジャックは女にモテるらしい。
確かに転生勇者らしくイケメンなのだがそれ以上にモテている。
しかも連れているのは 騎士団長、エルフと呼ばれる種族の子、魔法使い見習いだということだ。あとの一人は分からなかったがアリシアの情報により皇帝の一人娘だと分かった。
さすがに皇帝の一人娘だということは一般市民には知られていないということだな。
これが俺が手に入れた情報だ。
「よし。二人の情報でだいぶあいつらのことが分かってきたな」
「そうじゃの! しかし解せんの。何故、魔王を倒すための旅にあんな女の子ばかり連れておるんじゃ?」
「それは俺もずっと思っていた。何故だろう」
「普通魔王討伐の旅に出るのなら屈強な男で固めるのは当然じゃろう。よく父上の元へ辿り着いた討伐隊とやらは全員男だけじゃった? みんなマッチョマンなのじゃ」
「やっぱりそうか。元魔王に言われると説得力あるわ」
普通はそうなるよな。実力通りに選んでいたらそうなるはず
筋肉=パワーだからな。
俺みたいにナチュラル勇者以外の人なら筋肉があるマッチョマンを選んだほうが生存確率は圧倒的に上がるし役に立つ。
「アリシア、あともう一つ気になるのがまだ転生勇者が出現して数週間ということだ。数週間であれだけの女の子を仲間にしてあんなに親しくなるのはあり得るのか?」
「怪しいのぉ。やはり操られておるのではないか?」
「うーん。そうなんだろうか。俺が考えるに女の子とあれだけ打ち解けるには最低3年は必要だと思う」
「3年!? それはいくらなんでも長すぎではないのかの?」
「いやかかるだろ。まずは手紙のやりとりで1年。実際会ってタメ口になるまで1年。一緒に過ごせるようになるのに1年」
「……もしかして女の子とそういう関係になったことないのかの?」
「は? いやそういうこと言ってるんじゃないし。違うからまじで。変な事言うなよ。俺はあくまで一般論として答えただけだから」
「そういうことにしておくのじゃ」
「アリシア……」
とりあえず情報も集まったことだし温泉へ向かうことにした。