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エターナル・ハローワーク

 圧縮された転生勇者のダイジェストを俺は体感した。

 そして分かったことがある。

 こいつは本当に酷い人間であった。

 ついでにこの転生者の元となる人間が存在するこの日本という国についても学んだ。

 非常に豊かで平和な国だ。魔王も存在しないという。


 俺は転生勇者のある日の生活の一部を覗き見ていた。

 こいつは一人暮らしをしているのだが毎日働かずにゲームと呼ばれる遊びをしたりして過ごしている。

 どうやら生活に必要な金は親からの仕送りをもらっているようだ。

 そして驚くべきことにこいつは28歳。

 俺より余裕で年上であった。

 なぁいくらなんでも酷すぎないか? 

 こんな奴が存在するなんて思いもしなかったよ。


【これはこの世界ではいわゆるニートと呼ばれる存在です。働こうともせず、学ぼうともせずただ惰眠を貪る者のことを言います。こういう存在が元となっている転生者が非常に多いのです。もはやニート=転生者と考えてもいいぐらいに増えました】


 こんな存在がどんどん異世界に送られているなんて世も末だな。

 そりゃあ異世界が荒れるわけだわ。


 男は今日もただゲームをしているだけであった。

 前日夜更かしして昼まで爆睡。そして起きたらすぐにゲームを始める。


「何か腹が空いたな。コンビニ行くか。面倒くせぇなぁ」


 どうやら食料を買いに行くようだ。

 それも外に出るというのにだらしない格好のまま。

 

【これからこの者が転生者となった原因が分かりますよ】


 ここからそんな展開になるのか?

 俺には全く想像できないな。

 

 どうやら買い物を済ませて外へ出てきたようだ。

 早く家に帰りたいのか走って横断歩道がない道路を渡ろうとした。

 

 その瞬間であった走ってきたトラックがちょうどタイミング良く通過しようとした。

 もうブレーキは間に合わない。

 これは確実に死ぬな、と思ったのだが当たる瞬間に光がニートを包み込んだ。

 そして次の瞬間にはもうニートの姿は消えていた。

 

【見ましたか? これが一般的な転生者のパターンである『トラック転生』です。多くの転生者が何故かトラックに轢かれることになりその瞬間に異世界に転生するのです。何故このような事が多いのかは私にも分かりません】


 トラック転生とは奇怪な言葉だ。

 あのトラックと呼ばれる存在は荷物を運ぶためのものだという。

 その存在が何故それほど異世界転生に関わっているのだろうか。

 うーんわからん。まぁ誰にもわからないことを俺が考えてもしょうがない。

 そういう事なんだと無理矢理理解した。


【どうでしたか? これが今回の転生勇者が異世界にやってきた原因です】


 こんなニートとかいう奴が勇者をやっていたとは思わなかったよ。

 通りであの体と表情をしているわけだ。

 そりゃあこんな生活をずっと続けていたら赤ちゃんみたいな顔になるし、言葉遣いや礼儀も身につくわけがない。

 太陽の光にもあまり当たらないのだから白い肌にもなるわな。


【無論このままの姿でそのまま転生したら勇者など務まるわけがありません。だから何者かによってチートを与えられて、姿までも変えて転生するのです】


 つまり本当の姿じゃなく偽りの姿で転生するということだな。

 これは許せないな。

 大きすぎる力をこんなニートに与えてはだめだろ。

 一体何を考えてるんだこいつを転生させた奴は。


【さぁ戻りましょう。戦いはまだ終わっていませんから】



 そして再び元の異世界に戻った俺。

 相変わらず目の前には転生勇者の姿。

 だが何故か姿がさっきの姿じゃなくあのイケメンな勇者姿に戻っているではないか。


【どうやらチートが回復したようですね】


 おいおい一時的とは言ってたけどこんなすぐ回復しちゃうのかよ。

 俺また一撃で殺されるのか?

 勘弁してくれどうすればいいんだよ。


【貴方にはもうひとつの力があります。転生者狩りとは心を摘む戦い。落ち着きなさい】


 あんなにのたうち回っていた転生勇者に余裕が戻っていた。


「なんだか調子がおかしかったがもう治ったぞ。これが本当の俺だ。よくも邪魔してくれたな。覚悟はいいか? 全力の一撃で完全に消し飛ばしてやる」


 本当の姿はさっきの赤ちゃんフェイスだろうが。

 何言ってんだこいつ。

 とも言えないレベルで力を剣に込めている。

 

【だいぶキレているようですね。でも大丈夫。貴方は一度体に触れました。それにより使えるようになった力があります。今から言う言葉を唱えて下さい】


 また何か必殺技みたいな言葉があるのか?

 もう触れるのは困難だぞ。


【エターナル・ハローワーク】


 何だそれ永遠のハローワーク?

 ハローワークってなんだ。

 ええい迷ってる暇はない。

 とりあえず唱えてみるしかない。もうどうにでもなれ。


「エターナル・ハローワーク!!」


 そして転生勇者は紅い炎と共にどこかへ転送されたようだ。

 いったいどこへ?

 とりあえず俺は助かったようだが。


【ふふふ。やりましたね。転生勇者はエターナル・ハローワーク、永遠のハローワークに飛ばされたのです】


 永遠のハローワーク?

 永遠は分かるとして、ハローワークとは何だ?


【ハローワークとは職業安定所。転生勇者がいた日本にある仕事を求める者が集う場所です】


 え? そんな所のことをハローワークと言うのか?

 なんかいい場所じゃないか。

 仕事が見つけられるならそれが一番では?


【そうそれが正常の感覚。しかしニートは違います。働きたくない、働きたくないのです】


 そうかニートであった。

 働きたくないオーラだけはすごかったからな。

 俺の世界ではそんな奴は存在しなかった。

 皆それぞれの仕事をして生活をする。当然の義務だ。

 いや義務であることすら認識してなかった。

 それが当然過ぎて自然だったのだ。


【しかもエターナル・ハローワークは普通のハローワークではありません。トラウマを刺激する過酷なる地獄の職業安定所。もはやそれは精神の拷問。見てみますか?】


 ぜひ見てみたい!

 あいつが苦しんでいるのを見てみたい。

 俺を何度も殺し異世界を荒らした奴の苦しむ姿を見たい。


【分かりました。では見てみましょう】



「今まで何してたんだ?」


 壁で囲われた小さいスペースの中で転生勇者と中年のオジサン、恐らく職員が一対一で話し合いをしている。

 職員が転生勇者に質問していた。

 

「いやそのあの。えっと」

「職歴のところが何もないんだけど? 高校を卒業して何をしてたのかな?」

「いやその……」


 言葉に詰まって何も答えられないようだ。

 脂汗も出ている。


 普通の質問をされているだけではないか。

 これが精神的拷問なのか?


【そうです。あの反応を見れば分かるでしょう。今恐らく今まで経験したことがないほどの心への攻撃を受けていることでしょう】


 これがニートという者のメンタルか。

 何というひ弱なメンタル。

 28歳という大人の男がこれなのか。

 

 どんどん職員が質問を続けている。


「君さぁ。28歳だよね? 何かバイトとかぐらいはしたことないの?」

「……」

「だからさぁ黙ってちゃ分からないんだよね。君さぁ人と話す時は目を見て話そうよ!」

「……ああああああ!!!」


 どうやら発狂してしまったようだ。

 人と話す時は目を見て話す。

 受け答えをしっかりする。

 こんなこと子供ですらできることじゃないか。

 偽りの姿の時は礼儀がめちゃくちゃで傲慢な態度とはいえちゃんとした話し方はできていたのにな。


【所詮は偽り。本質が変わったわけではないのです。借り物の力でいくら威張ろうとも意味はありません】


 そのとおりだな。

 しかしまさに拷問とはこの事だな。ここまで効くとはね。

 

【どうやら発狂してしまったようですね。しかしこれだけでは終わりません。もうチートを使い勇者を名乗ろうと思わないほどに徹底的に心を折ります。折れるまでこのエターナル・ハローワークの地獄は続くのです】


 何と恐ろしい力を俺は手に入れてしまったのだろう。

 恐らく転生者にしか使えない力だがここまで強力とは。


【さぁもういいでしょう。ここの時間軸はまったく違う軸になっています。永遠とはそういうことなのです】


 そして俺達はエターナル・ハローワークを後にした。

 そして帰ると目の前には完全にのびた転生勇者がいた。

 どうやらエターナル・ハローワークで心が完全に折れたようだ。


【さぁチートを没収しましょう】


 俺は再び体に触れた。

 そしてチート能力を回収した。


【これでこの者は完全にただのニートに戻りました。もうチートも発揮することはできません】


 そして転生勇者はニートへと姿が戻った。

 もう偽りの姿に戻ることもないという。

 

【これが転生者狩り。どうでしたか?】


 いやはや凄まじいな。

 今まで俺が経験したことがない戦い方であった。

 一撃で俺を殺すことができる相手との戦い。

 こんなこと考えたこともなかった。

 そして転生者という一癖も二癖もある存在の難しさ。

 これからの狩りは下手したら魔王討伐よりも大変だぞ。


【この転生勇者は本当に量産タイプと言えばいいでしょうか。それほどまでに一般的なタイプの転生勇者です。これから貴方が狩る相手はもっと手強く、そしてクズな転生者がたくさんいるでしょう。貴方にそれを相手にしていく覚悟がありますか?】


 俺はもう迷わない。

 これが俺の仕事だ。やるしかないぜ。


【分かりました。あらゆる転生者を狩り尽くし、そして転生者を送り込んでいる存在を突き止めた暁には貴方に本当の幸せが訪れるでしょう。それをここに約束します】


 本当の幸せ?

 いったいなんだろうか。

 まぁ狩り尽くすなんてまだまだ先の話過ぎて実感が沸かない。

 とりあえず目の前の壁を越えていくだけだ。


 ところでこれからこいつどうなるんだ。


【それは……】


 その時だった。

 辺りが暗くなり俺達の背後からある者が歩いてきた。


「もう終わったのか。どけ、後はワシがやる」


 そう魔王であった。

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