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これが現実

「さぁかかってこい。俺がこの世界にこれから誕生するであろうナチュラル勇者を守ってみせる」


 俺は剣を抜き転生勇者と対峙した。

 俺の修行の成果が今ここで発揮される。

 俺が生まれた世界では発揮できなかった力がこういう場所で発揮できるとは思わなかった。

 

「何だこいつ。何だよナチュラル勇者って。とりあえず消えて」


 その時だった。

 転生勇者がちょっと本気で剣を俺に向けて振った瞬間であった。

 音よりも早く斬撃が俺の体を直撃した。

 そして、俺は死んだ。

 ……。

 

【大丈夫です。貴方は無限にやり直せますから。でもチートに勝つのは今の貴方では無理です。だからあの転生勇者の体に触れることだけを考えて下さい。そうすれば貴方に与えられた力を使うことができます】


 そして俺はまた目覚めた。

 すると何故かまた俺は転生勇者と対峙しているところだった。

 俺が奴に『さぁかかってこい』という時じゃないか。

 てか確かに俺はさっきそう声を掛けて、奴の一撃食らって死んだよな。

 何だったんだあれ。

 あれはそうかただの幻だな。

 だって俺が一撃でやられるわけないもの。

 俺は元ナチュラル勇者だぜ? 青春を捧げて辛い修行に耐えてきたんだぜ?

 それが全力でもない剣の一振りで負けるわけがない。

 そうだもう一度だ。


「さぁかかってこい。俺がこの世界にこれから誕生するであろうナチュラル勇者を守ってみせる」


「何だこいつ。何だよナチュラル勇者って。とりあえず消えて」


 その時だった。

 転生勇者がちょっと本気で剣を俺に向けて振った瞬間であった。

 音よりも早く斬撃が俺の体を直撃した。

 そして、俺は死んだ。

 ……。


【何で私の言うことを聞かないのです。時間の無駄ですよ。さぁやり直しです】


 俺はまた目覚めた。

 すると何故かまた俺は転生勇者と対峙しているところだった。

 何だこれさっきとまた同じ場面じゃないか。

 幻にしてはしつこいぞ。

 ……。

 もしかして幻じゃなくて実際に起きたことなのか?


【そうですよ。貴方は無限にやり直せるチャンスが与えられています。だけど今、勝つにはあの転生勇者の体に触れて下さい。そうすれば勝てます】


 俺は絶望した。

 そうか、俺の青春を捧げた修行で作り上げたこの体はあの転生勇者の攻撃にはまったく通用しないのか。

 何ということでしょう。俺の人生とは一体。


【今それを嘆いてどうするのです。貴方にはこの世界のナチュラル勇者を守るという使命。そしてその先にはあらゆる異世界で転生者達を狩るという重大な使命があるのですよ。それでいいじゃないですか。さぁ何とかして体に触れるのです】


 慰めをありがとう。

 俺はあんな奴にまったく歯がたたないという現実にきっとこれから数日間は夢でうなされるであろう。

 しょうがない何とかして体に触れることだけを考えよう。

 しかしどうすればいいんだろうか。

 何とか工夫するしかない。

 

 もしかしたら戦うことを無視して全力で速さを出せば触れることぐらいはできるかもしれない。

 俺は鎧を脱ぎ捨て、剣を捨て下着姿になった。

 

「これならいけるっ!」

「何だこいつ変態か。死ね」


 俺は脱ぎ終わったと思ったら斬撃によりふっ飛ばされた。

 よく考えたらそれもそうだな。

 だっていきなり服を脱ぎ始めてる変態が目の前にいたら俺だってふっ飛ばすわ。

 

【もう一度。何度もでもやり直せますよ】


 しかし何度挑戦してもこれじゃあ同じ結果になる。

 この転生勇者は性格最悪だからすぐキレて攻撃してくるし。

 普通のやり方ではだめだ。


【ヒントをあげましょう。あの者の正確は傲慢で怠惰、そして自尊心に溢れています。だから下手に出てきた者には尊大な態度を取ることでしょう】


 それがヒントなのか?

 てか何でヒントしかくれないんだよ。俺に力を与えるとかさ。

 時間を止めるとかさ。そういうのでいいじゃん?


【それはチートでしょうが】


 はいそうでした。

 ミイラ取りがミイラになるとこだったぜ。

 俺は絶対にそんなインチキはしない。

 ヒントは奴の性格か……。自尊心に溢れて傲慢。

 そうか、そういうことか。

 俺は一つのアイデアを思いついた。

 だがこれを実行するには俺の今までのプライドを捨てることになる。

 これは非常に辛いがやるしかないことは分かっている。


 俺は剣を投げ捨て転生勇者に向かい話しかけた。


「あのぉ。実は貴方の大ファンでして。さっきは変なこと言ってこんなとこまで呼び出してすいませんでした。緊張してしまいまして」

「何だこいつ。いきなり何を言う」

「実はお願いがありまして。握手をしてもらえませんか?」

「握手?」

「そうです握手です。貴方のような偉大な勇者、そして強い男に憧れているのです。だからせめてこの機会に握手だけでもしてくれませんか?」


 どうだこの完全に下手に出ている感じ。聞いた通りの性格ならこれはたまらないはずだ。


「握手か。それぐらいならしてやってもいいんだが?」


 何だこの言い方。マジで糞野郎だな。

 人が下手に出てやってるというのにこの態度。どこまでも似非勇者だな。

 あーイライラする。


【考えましたね。いけるんじゃないですか? 触れたら貴方の勝ちですよ】


 しかし触れたら何が起こるのだろうか。

 もしかして謎の力で転生勇者が爆散するとか?

 それぐらいのサプライズがあるのなら俺は嬉しい。

 飛び散った肉片を見ながら今宵のディナーと垂れ込もう。


「握手してくれるんですか? わぁ嬉しいなぁ!」


 俺は小物臭を漂わせながら小走りで転生勇者の目の前に行き手を差し出した。

 

「これからも俺のようになれるよう頑張れよ。まぁ俺みたいには一生なれないと思うが」


 いちいち余計なんだよクソが。

 お前のようになんかなりたいわけねーだろ。本音と建前ぐらい見破れや。

 だがこれでお前は終わるらしいぞ。ざまぁみろ。


 ギュッ。


 俺は転生勇者の手をしっかりと握った。

 そしてその瞬間に俺へと何かが流れ込む。

 光が俺と転生勇者を包み込み衝撃が走る。


「なんだこれは。お前一体何をした」


 転生勇者が慌てて手を離して後ろへ下がった。

 もう十分だ。何だかしらんがこれで目的は達成したってことだ。

 しかし何が起こったんだ?


【やりましたね。貴方は確かにあの者の体に触れました。ここからは貴方の独壇場ですよ。知恵と工夫を凝らし握手に持っていくのはさすがでしたね】


 転生勇者がブチ切れているようだ。

 これはまた斬撃が来るんじゃないか? おいおいまた俺は死ぬのか。

 普通にさっきと同じ結末になりそうなんだが?


【見ていれば分かります。あの者の本当の力が今分かります】


 転生勇者は剣を握り俺に向け一振り。

 

 ……。


 していない。というか剣すら持ち上げられてない。

 

「あれ? 何だこれ。重くて持ち上がらないよ」


 どうやら剣の重さに耐えられる上に上げることができないため振ることもできないらしい。どういうことだ? 今までは木の棒のように軽々しく振っていたというのに。

 

「あれあれ? どうしてだ。重すぎるだろこれ」


 いや別に重すぎるってことはないだろ。

 見た限り普通の剣だ。俺が使っているようなロングソードと変わりはない。

 極めてオーソドックス。

 これが振れない奴は本当に子供、女、老人ぐらいだろ。

 たぶんこの世界の一般市民の男なら余裕で振ることができるぞ。


【あれが本当の力です。まだ現実の自分の力を受け止めきれていないようですね】


 いまいち意味がわからない。

 うーんと考えていたところで転生勇者は何を思ったか俺に向かって何かを呟いている。


「剣は調子が悪い。だが俺の拳であんな奴一撃だ」


 たしかに剣じゃなくても拳も脅威だ。

 俺は目をつぶりまた死を覚悟した。

 

 でもおかしい死を覚悟する時間がないほど奴は速く動けるはず。

 目を開けて見ると、転生勇者は子供の徒競走並のスピードで俺に駆け寄ってきた。

 そしてパンチを俺の胸のところへ一発。

 

「これでどうだ!」


 ……。

 全然痛くない。

 というか痛くないというレベルじゃない。

 何も感じないというレベルのパンチ。

 これはそもそもパンチなのか? 母さんの張りてはもっと痛かったぞ。

 

「何がしたいんだ? さっきから」


 俺は軽く転生勇者を小突いた。

 そしたら今度は転生勇者が吹っ飛んだ。


「ぐわああ」


 地面に高速で叩きつけられてのたうち回る転生勇者。

 おいおいさっきまでの無敵モードはどうした。

 これまでどんな魔物に攻撃されてもまったく痛がりもせず吹っ飛びもしなかったじゃないか。


【説明しましょう。貴方が触れたことにより転生勇者は『転生する前の元の自分の力』に戻ったのです。つまり今の転生勇者はタダの人。チート能力は一時的ですが今はなくなっています】


 そうかそういうことか。

 だから俺が軽く小突いただけであの吹っ飛び具合とリアクションだったのか。

 しかしそれを考慮してもいくらなんでも弱すぎないか?

 俺が鍛えていてナチュラル勇者だった考えても弱すぎるだろ。


【ふふ。外見も元へ戻しましょう。私が今から言う言葉を唱えて下さい】


 外見を戻す?

 転生前はあんなイケメンじゃなかったということか?

 まぁそれはその言葉とやらを唱えれば分かることか。


【ザ・リアル(これが現実)】


 俺は転生勇者に向けて静かに唱えた。

 

「ザ・リアル」


 すると再び転生勇者を光が包み込む。

 そして見る見るうちに姿形が変わっていくではないか。

 

【今、本当の姿へ戻りました。これが現実です】


 転生勇者は驚きべき姿になっていた。

 体は細く、肌はあり得ないほど白い、そして髪の毛はボサボサ。

 あの装備も消え去っており、着ている服はダボダボでだらしがない服に。

 あんなに着古した服は見たことがない。

 そして顔もイケメンなどではなくなっていた。

 非常に気持ち悪い顔をしている。

 ようは幼いのだ。赤ちゃんみたいな顔をしている。

 その顔が大人の体についている違和感がヤバイ。

 

「これが現実だと? あんなだらししない顔の奴がさっきまでの転生勇者なのか」


 俺はまた思わず声に出てしまった。

 そしてその声を聞いたのか転生勇者も驚いたようだ。

 それもそうだ自分の顔までは見えないからな。


「ほらよ」


 俺は手鏡を投げて渡してやった。

 さぁ現実に震えるがいい。


「これが俺!? 何でだよ! これは転生する前の俺じゃないか!」


 かなりショッキングだったようだな。

 まぁ今までのイケメンが嘘だったような酷い顔だからな。

 そうか、だからこいつの顔は信用できなかったのか。

 顔のパーツがいくら変わっても元々の顔があれじゃあ表情に違和感が出るのは当たり前だったんだ。

 

 しかしどうしてこんな男が転生し勇者に?

 俺は疑問でならなかった。

 もっとマシな奴がいるだろう。


【そうなんですが何故か異世界に転生する者は大体クズなのです。そうだこの者のこれまでの人生を体感してみますか?】


 面白そうだ。

 俺は迷わずOKした。

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