転生勇者とかいうクズ
「典型的な異世界でこれから転生勇者が暴れまわるであろう異世界があります。貴方はまずはそこへ行きなさい。実際にどういう人間が転生し勇者を名乗っているか見てみなさい。そして貴方にはそのような転生勇者を狩るための力を与えました。使い方はその時が来れば教えます」
何故か得た二度目の生。
ひたすら鍛え続けた俺の力はそこら辺の奴には負けない自信がある。
力なんて与えてもらえなくても俺の剣技があれば十分だぞ。
大体何が転生勇者だ? なめてんのか?
勇者ってのは自分のプライベートを犠牲にして、青春を捨てて、世界を救いたい、人々の笑顔を守りたいという信念がないと務まらないんだよ。
それをぽっとでの転生者が勇者をやるだ?
いいか、勇者ってのはそういうもんじゃねぇ!!
ふざけるなよマジで。俺の人生を返せよ。
俺は怒りに震えていた。今すぐにでもさっきの俺の死因となった転生者をぶち殺してぇ。
母さん泣いてるだろうな。ごめんよ母さん。俺はもうその世界には戻れない。何せそっちの世界では死んでしまった扱いなのだからな。だけど安心して何故かここで生きてるから。
もし俺の思いが通じるのなら俺の死因である心不全の原因となったあの似非勇者をぶち殺してくれ。
「いつでもいいぞ。怒りが溢れそうだ。さぁ早く転送してくれ」
「分かりました。今回に限り私がサポートしましょう」
「おう」
俺は光に包まれ転送された。
【目覚めなさい。ここは異世界グランナダール】
頭の中に声が響く。うるせぇ静かにしろ。
ちくしょう何で気絶しなけならないんだよ。もっと普通に転送しろよ。
「起きたぞ。で、勇者はどこだ」
俺が目覚めた場所は大きな城の門の近くだった。
ここが俺がいた世界とは異なる世界。
なんだかあんまり変わらねーな。異世界ってどこも同じ風なんじゃないの?
なんか拍子抜けしたわ。
【まもなくここに転生勇者が参ります。その姿をその目で見るのです】
「分かったよ。とりえあずどんな奴か確かめてみるわ」
俺はしばらくその場で待った。
するとある男が門へと近づいてきた。
【見なさい。あれがこの世界に転生したばかりの自称勇者です】
ほうどれどれ。いったいどんな姿をしているのかな?
俺はこっちに歩いてくるそいつを凝視した。
何だこいつ……。めちゃくちゃじゃねーか
そいつは鎧の着方も、剣の差し方がめちゃくちゃであった。
とても戦い慣れている着方ではない。
しかも歩き方も音を立て過ぎだ。
あれじゃあすぐに敵に見つかって殺されるぞ。
初歩中の初歩じゃないかこんなことは。いったいどんな教育受けてきたんだ?
【貴方の言いたいことは全て分かります。あの者は貴方のように辛い修行や下積みを経験してはいません。戦ったこと、剣を握ったことすらなかった者なのです】
「一体どういうことだよ? そんな奴が勇者名乗ってるってのか? マジでバカか? あんな奴外へ出たら2秒で殺されるぞ」
俺は天の声に不満が爆発した。
だって許されないだろこんなの。俺の動作と比べてみろよ。
俺は絶えず緊張の糸を張り巡らし、いつ襲われても対処できるようにしている。
寝る時も絶対にそれは解かない。
俺はそう教えられて育てられた。もはや染み付いていることだ。
【もっと近くに来ますよ。顔も確認しなさい】
俺は顔に注目した。
何というイケメン。こんなイケメンは見たことがないぞ。
俺だって容姿には自信がある。
勇者足る者ブサイクであってはならない。人の顔は第一印象に直結する要素だと教わった。
なので表情筋を鍛えたりだとか色々やってるんだぞ。
「転生者ってのはあんなにイケメンなのか?」
【大体イケメンに転生してます。何故か。でもよく見てご覧なさい。その顔で作られる表情を】
「表情?」
顔の作りではなく表情に注目してみた。
……。
何という力のない間抜けな表情をしているんだ。
あれは間違いなく世の中をなめている顔だ。
あんな世の中ナメ郎見たことがないぞ。
あんな顔をしたまま城へ行き王様と会うのか?
ふざけるな!
俺のように意思をしっかりと持った表情を作れよ。
そんな顔じゃこの先戦えないぞ。一回ぶん殴らせろや。
そして俺の目の前へとそいつは来た。
【話しかけてみなさい】
話しかける? 俺がか?
別に話したいことないんだけど? いきなり「世の中ナメ郎」って言っていいのか?
いやそれはさすがにマズイな。ここで殴り合いになってもしょうがない。
まぁそうなっても俺ならこいつを一発でKOできる自信があるけどな。
俺は定番パターンで話しかけた。
「こんにちは。もしかして貴方がこの世界を救ってくださるという勇者様ですか?」
普通俺がこう話しかけられたら丁寧な対応を取る。
だってきっと藁にもすがる思いで話しかけてきているのだから。
人は救世主を求める者だ。
そんな弱き人達を無碍に扱ってはならない。これも勇者道として教わったことだ。
だがそんな俺の考えはすぐに打ち砕かれてしまうことになった。
「へ? 誰すか。俺はちょっと王に用事があるんで急いでるんで」
ああ?
ふざけるな!
何だこいつの態度は。
人が下手に出て話しかけてやったというのに。
まずは「こんにちは」と返すのが礼儀だろうが!!
社交辞令というものを知らないのか?
あ~イライラするぜ。
マジで今すぐ殺していいかな。
【だめです】
さすがに今すぐ殺すのはだめらしい。
でもむかつくんだが?
まぁここは水の心を持って怒りを沈めよう。
水の心、水の心。
「俺の力なら魔王なんて一発だろうなぁ~」
そうつぶやきながらそいつは俺の横を通りすぎていった。
なんだそのつぶやきは。
やはり世の中ナメ郎だなこいつ。
魔王がそんなに弱いわけないだろ。魔王だぞ魔王。分かるか? 魔族の王ってことだぞ。 人を苦しめ平和を乱す者達の王のことを魔王って言うの。小さい子でも知ってることだよね?
なのになんなんだその余裕は。
頭のネジが全部吹っ飛んでいるのか?
脳みその代わりに水でも詰まっているのかな?
【転生勇者はみなこのような余裕を持っています。さぁ追いかけましょう。貴方の姿は見えなくしておきました】
透明にできるなら最初からそうしろよ。
そしたら後ろからぶん殴ってやったのに。
あと余裕ってなんだよ。余裕って。
ただの無知と無謀なだけだろ。
余裕とは真の強者だけが持つことを許される物だぞ。
あー殴りたい。
俺は声に言われるがまま城の中へついていった。
本当は俺だってこんな風に王様と謁見して色々話を聞いて世界を救う願いを受けたりするはずだったんだぞ。
それが心不全で死亡したせいで全部パァ。心不全だぞ心不全。
俺はデブのオッサンじゃねーっつーの。血圧も心臓も正常だったのに。
あんなショックがなければ、あんな奴が世界を救ってなければ俺は俺は。
【いつまで悔いているのです。もう死んでしまった事はしょうがないでしょう。その怒りはこれから転生者たちにぶつければいいのです】
ああそうだった。
俺の役割は以前とは違う。
そうだ転生者に全てぶつければいいんだ。
待ってろ転生者達。真の勇者の俺はお前たちを決して許さないからな。
俺の怒りは地獄の業火よりも熱いぞ。
謁見の間で転生勇者は王様と話をしていた。
その様子を見て俺は驚いた。
「で、俺がどうすればいいんだ?」
「実は魔王を倒してもらいたいのです」
「そうか」
この会話を聞いて何かお気づきだろうか。
いや普通に気づくよな。
何でタメ口なんだこいつ。
相手は一国の主だぞ? 王様だぞ?
その王様相手に普通にタメ口で会話してるお前は何様なんだ? あ?
しかも普通に直立してるってなんだよ。
跪けや。王の御前であるぞ。
腕を組むな腕を。
俺はこういう場所での礼儀作法もきっちり叩きこまれている。
何度も何度もシミュレーションした。
【まだここで斬ってはだめですよ】
またすぐに注意が飛んできた。
いやごめん普通に斬るつもりだった。
俺は剣から手を離した。いったいいつになったら俺はこいつを斬ることができるんだ。
我慢の限界は近いぞ。
そんなこんなで何とか怒りを抑えながら聞いていた。
「よし俺にまかせろ。魔王なんて一撃だ」
「心強い。頼みましたぞ」
「おう」
結局最後の最後までタメ口+直立。いい加減にしろや。
で、結論としてはどうやら転生勇者は魔王を倒しに行くらしい。
いきなり一人で行って戦えるのか?
大体一撃で倒すってなんだよ。
魔王ってのはそういう雑魚敵みたいな存在じゃないんだよ。
いいか? 魔王を倒そうと人々がどれだけ苦労しているのかお前に分かるのか?
俺の世界でも数百年に渡り戦いは続いていた。
そんな戦いを終わらせるために俺は勇者として育てられた。
そういうもんなんだよ魔王ってのは。
間違っても一撃で倒すなんて冗談は言っちゃいけない存在なの。分かるかね?
お前のその装備と力と態度で倒せるのか?
何度も言うが世の中を舐めるな。
【貴方の言う事はごもっともです。ではその疑問の答えを見つけるために旅も後ろから見学しましょう】
こうして俺は透明のままこのタメ口糞野郎の転生勇者の旅に同行することになった。
その旅はスタートからまたも驚愕の内容であった。
まずろくな準備もしないという点に驚いた。
本来魔王へ挑むわけだから万全な体制を整えていくべきなのにこいつときたら別に特段準備もせず身ひとつで旅を開始。
これは確実に死ぬ。毒とか麻痺とか使う敵がいたらどうするんだ。薬がないと治せないぞ。
そもそも長きに渡る旅に準備は不可欠。戦う前に厳しい自然に勝たなければならないのだ。
自然に打ち勝つためにサバイバル術を身につけるのも勇者の仕事だ。
だけどどうやらこいつはそんなのなさそう。
ナイフの使い方すらわからないんじゃないか? 基本の基本であるナイフが使えないと食事もできないぞ。
【確かに貴方はそれらの技術を努力により全て身に付けています。だけど転生勇者にはそのような努力、技術は必要ないのです。彼の旅を見れば分かるでしょう。実は転生勇者達が何故か転生直後から持っている強力な力があるのです】
「持っている力? なんだそれは」
【それはチートと呼ばれる力です】




