決別と宣言
今日こそは彼女に伝えよう。
自分にないものを欲しいと嘆いても、それは栓のないこと。
僕は僕。それ以上でもそれ以下でもない。ルナのことが大好きなだけ。
うん、それだけでいいんだ。
この溢れんばかりの想いを知ってほしい。
ただ、気がかりなのはラスリのこと。
あれから何事もなかったように接してくる。
けど、元気なように振舞っているだけ。それくらいはお見通し。
ふと視線を感じて顔をあげると、切ない表情でこちらを見るラスリと目があった。
すぐに逸らされるけど。
こんなギクシャクしたままは嫌だ。
―久しぶりに散歩に行こう。
誘ったはいいが来ないと思っていた。
ラスリも照れ屋だから僕と二人きりになるのは避けるだろう、って。
「グレイ…、お待たせ」
でもラスリは来てくれた。
「来ないと思った」
「せっかくの夜のデートのお誘いを断るわけ無いでしょう」
笑いながら冗談を言うラスリに少しホッとした。
「よし、行こうか」
僕らは並んで森へと歩き出した。
「この木じゃないっけ、ラスリが落ちて怪我したの」
「あ、そうね。この傷は私の爪の跡だもん」
「無理だって言ってるのについてくるからだよ、ばか。落ち葉がいっぱいあったから擦り傷程度で済んだんだよ、ばか」
「ばかとはなによ!そもそもあれは、置いてきぼりにしたグレイが悪い」
そんな思い出を語りながらゆっくりと歩いた。
「ねえラスリ、僕は君が好きだよ」
見開いた目がこちらを向いた。
「守りたいと思う。幸せになって欲しいと思う」
「だったら…っ「でもね」」
まっすぐ、逸らさずに見つめる。
「ルナは『僕が』幸せにしたいんだ。いや、一緒に幸せになりたい。
確かに僕はねずみで彼女は猫だ。彼女にも、彼女に言い寄る猫たちにも、体だって力だって僕のほうが弱い。
でもルナが好きって気持ちは誰にも負けない、…負けたくない。
それしかないけど、それだけは誇れる」
ラスリは黙って僕の話に耳を傾けていた。
「君のことは好き。家族として、妹としてすごく大切だよ。だからこそ幸せになって欲しいと思う。
でもルナに対する好きとは違うんだ。わかるかい?」
涙をいっぱいに溜めた目はグレイの胸を締め付けた。
「グレイなんか眼中にないわよ、だって食べ物だもん。グレイはチーズに恋愛感情を持てる?無理でしょう」
そう言われてしまえばその通り。
短い人生を子孫も残さず、チーズと添い遂げるなんてばかな話だ。
でも。
「それでもいいんだ。傍にいられれば彼女が僕を伴侶としてみていなくてもいいんだ。
僕がルナを好きだから。それだけでいい」
切なげに語るグレイは全てわかっていた。
わかった上で結論を出したのだ。
苦しいと知っていながら選んだ道を、ラスリはもう否定出来なかった。
「…わかった、応援する。でもこれだけは言っておく。
前にも言ったけど、これから先もグレイ以外のオスなんて興味ない。
私は貴方だけを見て生きていくわ」
―拒否はできないわよ、私の勝手だもの。
そう笑うラスリはもう守るべき妹から卒業したように見えた。