1/11
接触と神聖
僕の住む街にとても美しい黒猫がいる。
艶々とした綺麗な毛並みと大きな瞳は、まるで闇夜に浮かんだふたつの満月。
一目見た時から僕の心は彼女に囚われていた。
ある日、勇気を出してみることにした。
見ているだけでいい、不可侵の女神。
初めはそう思った。
遠くから見つめるだけで心は満たされていた。
でも…。
彼女の名を知りたいと思った。
彼女の笑顔を見てみたいと思った。
そしてなにより、あの身を震わせるほど美しい瞳の中にうつる僕をみたいと思った。
欲望とは果てしないものだ。
薄汚い溝鼠が高貴な黒猫とお近づきになりたいだなんて、身の程知らずなのはわかっている。
それでも――