こんな夢を観た「ゾンビ狩りに参加する」
真夜中、人気のないビル街。わたしは銃を構え、獲物がやって来るのをじっと待っていた。
「こちらむぅにぃ。異常なし、どうぞ」ハンズ・フリーの無線機で、相棒に連絡を入れる。
「こちらも、まだ動きなし。さらに待機を続ける」レシーバーから返ってきた。
その時、地下駐車場から、いくつもの人影がゆらゆらと現れる。わたしは慌てて、無線機のコール・ボタンを押した。
「さっきの報告は撤回。出たよっ、それもぞろぞろと!」
この日、わたしは友達の木田仁に誘われて、「ゾンビ狩り」に参加していた。
「ゾンビぃ……? 何だか生臭そうでやだなぁ」初め、わたしは乗り気じゃなかった。前に参加したっていう人の話では、2週間もの間、肉の腐った匂いが体から取れなかったという。
「大丈夫、大丈夫。今回のは、そんな『生肉ゾンビ』じゃないから。連中、なんたって、賞味期限が短すぎるんだよな。いくら、肉は腐りかけがうまいって言ったって、期間の終わりに参加するなんて、あり得ないだろ」木田は言う。
「ゾンビって、種類があるもんなんだ」意外だった。ゾンビと言えば腐った肉ばかりだと思い込んでいたからだ。
「そうさ。明日のは、『スイーツ・ゾンビ』なんだぞ。おいら、今、甘い物に凝っててさ、もう、楽しみで楽しみで」そう言って、木田は舌なめずりをする。
「ふうーん。臭くないんなら、行ってみようかな」
「臭いことなんてあるもんか。しかも、明日は初日だろ? 賞味期限だって、ばっちりさ」
わたしの傍らに、木田が滑りこむようにしてやって来た。
「いっぱい出てきたなあ。こりゃあ、倒し甲斐があるってもんだ」木田が言う。
「どうする? 拳銃を使う? それとも、ショットガンでまとめて吹飛ばしちゃう?」
「うーん、手始めにナイフで行かないかい? 連中、とろいし、大した攻撃力もないんだから」
「了解っ。じゃあ、行くよっ」
木田とわたしは、ナイフを振りかざして飛びかかった。
わたしは、サラリーマン風のスイーツ・ゾンビの胸目がけて、一突きする。ナイフは深々と刺さり、白いワイシャツがたちまち赤く染まった。
ナイフを引き抜くと同時に、ゾンビは痙攣しながら膝を地に着く。辺りにはバター・クリームとジャムの香りがぷーんと漂う。
「バター・クリームかぁ。クリスマスの安っぽいケーキを思い出しちゃうな」わたしは屈んで、その胸もとから溢れ出るジャムを指ですくって舐める。
木イチゴのジャムだ。なかなかおいしい。
「おいらの倒した学者っぽいのは、モカ・ロールとビター・チョコレート製だったよ。このほろ苦さがたまらない。いかにも学術的じゃないか」木田は、倒れた学者をナイフでえぐって、貪るように食べている。
「後っ、気をつけてっ!」わたしは叫んだ。OLの格好をしたスイーツ・ゾンビが、木田に襲いかかるところだった。
木田の拳銃が火を噴く。額にぽっかりと風穴が空き、ピュアレイヤーの髪がふわっと巻き上がった。中から、黄色い塊がボトリ、ボトリとこぼれる。「ふっ、モンブランか。どれ、一口。うん、悪くない味だぞ」
遠くから、銃声や爆発音が聞こえてくる。別の区域でも、派手にやっているらしい。
「おいら達も、そろそろどーんと行こうか」木田は背中の荷物を下ろした。「いいもの持ってきたんだ。ほら、グレネード・ランチャーだぞ。一気に片づけてやろう」
小一時間ばかり、わたし達は盛大に暴れまくった。
次から次へと湧いてくるスイーツ・ゾンビを、わたしはショットガンで出迎える。
木田なんて、しまいにはRPGまで持ち出してぶっ放し始めた。1度に数十体ものスイーツ・ゾンビが粉々に砕け散る。
「あーあ、もったいない。レアチーズもティラミスも、みんなごちゃ混ぜになっちゃってるよ」わたしは残念がった。
「でも、きりがないからね。じき、夜が明けるから、ゲームもおしまいさ。倒せるだけ倒しとかなくちゃ」
うろついている数体の生き残りを、木田とわたしで手分けして片づけると、ちょうど空が白んできた。
「ずいぶん、やっつけたね」わたしは辺りを見渡しながら言う。至るところ、折り重なるようにしてスイーツ・ゾンビが横たわっている。
「そうだね。そして、たらふく食ったよねえ」木田も満足そうに腹をさすった。
もうしばらくすれば、町内の清掃車がやって来て、きれいさっぱり始末してくれる。
「今夜も来るかい、むぅにぃ」木田が聞く。
「うん。チョコレート系のゾンビが、もっとたくさん現れるといいなぁ」
わたしは言った。