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第94話 全ての、為

───『ErrorDeleteProgram』

あの時、赤城達を助ける為にたった1機でERRORの巣の内部へと侵入した大和はGATE奥深くにまで来ていた。

もはや脱出は不可能、辺りからは無数の触手が機体に向って伸びてくる。

最初から死は覚悟していたが、いざ死が迫ると悔いは残る、今まで出会ってきた人達の笑みがもう見れなくなる……でも、その笑みを守れるのなら、それでいいのかもしれない。

上空から迫る閃光、武蔵は自分の死と共にEDP成功を悟った。

目を瞑り死を待つ、機体は激しく揺れ、いつ自分が死ぬのか額に汗を滲ませながら待っていた。

……そしてゆっくりと目蓋が開いた、もう死んだのか、それとも死の直前なのか、武蔵にはわからない。よりぼやけていた視界が鮮明に映り、見えていく、自分の機体が凄まじい勢いで触手に引っ張られていく光景を。

「何だ、これは……!?」

急いで機体を動かそうと操縦桿を握る武蔵、だが機体は既に無数の触手に絡まれ身動きが取れない状態でいた。

真っ暗な洞窟の中をひたすら引きずられ続ける大和、武蔵は操縦席に隠してある拳銃を手に取ると、それを自分のこめかみに当てた。

どうせ死ぬ、助かる道は無い。

一度死を覚悟したのだから、引き金だって引ける……武蔵はそう思っていたが、結局大和が止まるまで拳銃を握り締めたまま引き金を引く事が出来なかった。

そして武蔵は見てしまう、洞窟の奥に隠された、ある空間を。

真っ暗だった洞窟を抜けると、そこは血肉の壁と床で出来た巨大な空間が広がっていた。

壁や床にある血肉の塊が赤い光で辺りを照らし、壁や地面には何千本もの血管のような物が伸びている。

まるで生き物の体内かのような場所に、武蔵は口を半開きにし愕然とした表情で固まっていた。

ERRORの巣は一つではない、更に巨大な巣があった事、そしてこの血肉の空間、夢か幻かと思える程の光景……。

(ここは……地獄、か……?)

導かれるかのようにその空間を漂う大和、そして触手が動きを止めた時、大和はある物体の前に連れてこられていた。

機体より数倍大きなその血肉の塊は、目蓋を開けるかのように肉が縦に裂けていくと、そこから巨大な瞳が姿を見せる。

目玉は辺りを見渡すかのように無造作に動き、やがて目の前にいる大和へと視線を向けた。

機体を遥かに上回る巨大な瞳に見つめられ、身動き一つ取れない武蔵……するとその時、機体を固定していた触手が一斉に大和の装甲に穴を開け内部に侵入し始める。

それは触手が操縦席にいる武蔵に辿り着くまであっという間の事だった。

背部、そして目の前から赤く細い触手が無数に現れ、操縦席に座る武蔵の手足や首に次々に巻き付き固定し始める。

握り締めていた銃は足元に落ち、武蔵は両手足や体、頭を固定され、ついに自殺という選択も消えてしまう。

全身を包む恐怖、今から自分が何をされるのか、想像以上の事が待っているに違いない、武蔵と言えどこの状況に立たされ平静を保っていられなかった。

そして首元に何かが触れる感触がした瞬間、針のような物が皮膚に穴を開け体内に侵入してくるのが伝わってきた。

言いようの無い恐怖、逃げ場など無い。

刺された痛みより、首から背中を通り、全身に伸び蠢いていく触手の感触が伝わってくる事に武蔵の恐怖は絶頂まで来ていた。

動けない……気づけば手足の指は完全に動かず、体の神経が一本も反応しない。

何も感じない、熱くも、冷たくも、痛くも、何も。もう体内のどこにまで触手が侵入してきたのかも武蔵にはわからない。

瞬き一つした瞬間、視界が微かにぼやけ、無意識に目蓋が閉じていく。

死が来たのか……今となっては死の恐怖など無く、まるで眠るように武蔵は自らの意思で目蓋を閉じた。


───夢?世界が平和でありますように?

人間の平和は誰の為の平和?人の為の、人の、生き物の命の平和?

存在が、間違っている、そもそも、存在自体が。

何の為の、誰の為の、世界?宇宙、地球、生命体、意味は?存在する、意味は?

動物、生物、生命体、命……知恵が生まれ、感情が生まれ、知能が発達し、繁殖する……が、それはほんの一握り。

そのほんの一握りの生命体が醜く、世界は汚染され、数少ない世界が身勝手な生物によって、消えていく。

過ち、生まれてきてしまったものの、誤り。

─ERROR─

─ERROR─

─ERROR─

─ERR……


だから削除していく。誤りは全て消し、正常に戻す為、また新たな結果を出す。

それが、私達の役目、なのだから。仕方の無い、こと。これも、平和の、為……。


───「違う……間違っているッ!」

咄嗟に声が出たと思うと、武蔵の目は覚めていた。

そしてその声を聞いた途端、驚いたかのように武蔵の体を取り巻く触手が一斉に操縦席から離れていく。

「全てが間違いだ……お前達のしている事は、この世の道理に反している……!」

巨大な瞳はじっと武蔵を見つめるが、武蔵は臆せず言葉を続けた。

「俺達人間がそんなに醜いか?そんなに汚いか!?人間の存在をこの世の誤りだと勝手に決め付け、罪の無い人々の命を弄び、冷酷に殺していくお前達の方が遥かに醜い生物だッ!」

武蔵が怒りを爆発させた瞬間、血肉の塊は鈍く重い咆哮をすると、全身から触手を伸ばし、その巨大な目を見開き血走った目で武蔵を睨みつける。

だが、そんな威嚇に武蔵は顔色を変えず、真っ直ぐな瞳はじっとその化物を睨みつけていた。

「……たしかに人間は過ちを繰り返し続けてきた。戦争を起こし、空気や水を汚染させ、動物を殺し、草木を枯らす……だが、それは全ての人間か?違う、人は学んだ。そして世界の為に、平和の為に、数多くの命の為に行動する人達もいる!人の過ちを正すのは人、そうやって人類は今まで繁栄し、何千年もの文明を築いてきたんだ。……お前達身勝手な生物に、人類を消されなければならない理由など一切無いッ!」

武蔵は言い切った、その言葉に迷いは無い。

躊躇いもなくこんな事が言えるのは武蔵がこの世界の事をどれだけ思ってきたかがわかる。

武蔵の言葉が化物に伝わっているかすらかわからないが、言いたい事は言えた、それに先程とは違い既に死は覚悟している。

『ふむ……たしかに、あんたの言う通りかもしれん』

「は?」

一瞬呆気にとられた武蔵、機体の目の前には小汚い格好をした白く長い髭をの老人が杖を持ち立っている。

『でも、そうするように私は言われた』

瞬きをすると、機体の目の前に立っていた老人は姿を消し、そこにはBNの軍服を身に纏った一人の女性が立っている。

『だってにんげんはけさないと、きたないいきものだから』

虫取り網を片手に麦藁帽子を被った一人の少年、先程までいた女性はどこにもいない。

『貴方達人間は害を与える生物を殺しますよね。例えばゴキブリ、ハエ、蚊などといった害虫を人は躊躇わずに殺す。それと同じ、我々も害を与える生物を駆除してるだけです』

一冊の本を片手に眼鏡を掛けた青年が笑顔を振るまうと、手に持っている本のページを捲り始める。

『君達人間は動物を食べるよね、牛や豚、鳥に魚、それと同じ扱いを人間にしただけだよ。それを酷いって言うの?仕方ないんだよね、生きる為に食べるんだから、だから俺達が人間を食べたって、たって、たって、たって───いいよね?』

NFの軍服を身に纏う一人の男、伊達武蔵が立っていた、自分と全く同じ姿をしたその男に、操縦席にいる武蔵は唖然としていた。

今目の前で何が起きたのか、理解するまでにそう長くはかからない。

「良いわけ、ないだろ……」

『どうして?人も同じ事をしてるだろ?』

「同じ事?本気で言ってるのか?お前達のしている事と、俺達人間がしている事は、本当に同じ事か?」

その問いに武蔵の姿をした化物の口が止まると、顔を俯かせ寂しそうな表情を見せると、また武蔵の方を見つめて口を開いた。

『平和の為にさ、全ての生物の平和の為に……』

そこで言葉は終わった、まるで何かを理解したかのように、また俯き暗い表情を見せ、武蔵の姿から一変して一人の女性の姿へと変わる。

「なっ!?……あか、ぎ……」

『私はこの世に下りて世界を見てきた、そしてこの世界の中で最も醜い生物は人間だと感じた。それは私だけではない、他の仲間もそう……だけど、私はこの世界の、本当の人間の姿を見てきた』

「本当の、姿……?」

『私は仲間が殺してきた人間の死骸を貰い、その人間の脳、記憶を全て見てきた、何人もの人間、子供に大人、他の生物の記憶も見てきた……私は学んだ、そして考えた、人間という生物は、本当に消さなくてはならない生物なのか、と』

赤城の姿をした化物は血肉の上を歩き、ゆっくりと大和の元へ近づいていく。

『それから学び続けた、人間の記憶を辿り、人間という生物を知った。私は、感情や、心というものがどういったものなのか、私だけが理解できるようになってきた』

「私だけ……?」

『他の仲間は違う、人間の心を知り、学んでも。それはいかに人間を利用できるか、使えるか、殺せるか……それぐらいしか考えない、私は違う。私は人間という生物が、この世の誤りなのかどうかわからなくなってきた』


『わからない、先程のお前の戦いを見ていたが、お前は何故自らの命を捨ててまで人間を助けた。私には理解できない、仲間の為に自分を犠牲にする生物の心が、理解できない』

段々とこの化物に対しての恐怖心が薄れていく、このERRORは、他のERRORと違って人語を使い会話が出来る。

今までERRORと対話した事がある人間はいない、そもそも言葉が通じないはずの生物。

だがこのERRORは人間を分析、解析することにより学習した、唯一人間を理解しようと試みたERROR。

『教えてほしい、魂とは何だ、思いとは何だ、情とは何だ、愛とは何だ?私にはあるのか?それがわからない私は、生物なのか?』

まるで自問するかのように赤城の姿をした化物は次々に武蔵に向かって聞いてくる。

「それを教える前に一つ教えろ……お前は、人類の敵か、味方か、どっちだ」

『私は人間を殺したいとは……今は思わない。私は人間が知りたい、人間を理解したい、だからお前をここに連れてきた。生きた人間、私に相応しい人間を───』

触手が次々に大和に絡みつき、先程のように機体の内部に侵入し武蔵の体を固定していく。

『今からお前は私の物、これから私に人間を教えろ、人間の事ならなんでもいい、全てだ』

触手は数を増し続け機体諸共武蔵を包み込んでいく。抗う事は出来ない、受け入れるしかない。

いや、武蔵は既に抗う事を止めて受け入れていた、今ある現実、今いる自分の立場を───。


───「それから俺はERRORの奴隷として生かされ続けてるよ。皮肉だね、命を捨てて消したはずのERRORに、命を助けられるなんて……」

武蔵が長い話を終えた後、甲斐斗と神楽はじっと固まったまま動けずにいた。

明らかにされた新たな真実、人間を理解しようと試みるERROR、ERRORの言う仲間達の目的。

だが深まる謎も大きくなる、ERRORとは何か、どこから生まれたのか、そしてERRORは誰に、何に……人間を消すように言われたのか。

「俺の肉体を勝手に利用し、死のうと思い自殺を試みても体が言う事も聞かず、俺はこの救われた命で何とかERRORを説得しようとこの世界や生物について色々と話し理解してもらおうとした。だが……それはたった一発のミサイルで全て無駄になってしまったんだ……」

たった一発のミサイル、瞬時に脳裏に過ぎる『核』の文字に、神楽の手から拳銃が落ちる。

「ERRORが見た核の脅威、全ての生命を根絶やすその力を見てERRORは恐れ、怒り、人間をこの世界にとって有害と決めた」

ERRORに人間の素晴らしさを理解してもらおうとしていた努力、その武蔵の努力が全てが水の泡に消えた。

いや、消されたのだ。これでまた一つ人類滅亡への加速が進む、唯一のERRORはもう、人類の敵と化しているのだから。

「俺がここに来たのは、一本の刀を取りにきただけなんだ。そこに皆がいるなんて、本当思ってもいなかったよ……」

ゆっくりと席を立ち上がる武蔵、そのまま部屋の出口へと一歩ずつ歩いていく。

「最後に赤城を守れて、神楽が無事でいてくれて、本当に良かった……」

ふと足を止める武蔵、少し横に振り向き机に足を上げて座る甲斐斗を見つめて武蔵は口を開いた。

「赤城の所に行ってくるよ、その後刀を取りにいこうかな───それじゃ」

武蔵はそう言い終えた後、一歩前に踏み出そうと足を上げたが、すぐにまたその場に下ろしてしまう。

動けなかった、後ろから強く抱き締められ、一歩も動かしてくれない。

眼鏡を掛けず、涙で濡れた顔を武蔵の背に押し付け必死に武蔵を止める神楽がそこにいた。

決して放そうとせず、じっと武蔵の背中に抱きついたまま離れない。

「……神楽、俺は行くよ」

「嫌……」

即答された返事、強引に神楽を引き離すわけにもいかず武蔵はもう一度口を開こうとする。

「神楽───」

「嫌ッ!絶対に嫌ぁ!もう放さない、絶対に、絶対にぃ……」

震える腕で必死に武蔵を抱き締める神楽の目からは涙が溢れ出ていた、今まで強気だった神楽が今、一人のか弱き少女に見える。

「せっかく会えたのにっ、伊達君と別れるのはもう嫌……お願い、ずっと側にいて……ずっと隣にいてよぉ……お願いだから……」

今まで武蔵にさえ見せた事の無い神楽の姿、本音に、武蔵は両手を強く握り締め必死に我慢しようとしていた。

武蔵だってそうだ、離れたくない、側にいたい、神楽と同じ気持ちだ。

だがそれは叶わない現実、既に武蔵は人間ではない、ERRORと化し、ERRORに利用される者、人類の敵。

ずっと側にいたくても、それをERRORが許さない。それにもう時間が無いから、自由に動ける、時間が……。

「だから会いたくなかったんだ……。会ってしまったら、二人にまた悲しい思いをさせてしまうから……」

武蔵は神楽の手を掴みそっと自分の体から放すと、すぐさま振り返り涙を流す神楽を優しく抱き締める。

その途端、神楽は武蔵の胸元で咽び、泣き始めた。今まで耐えてきたものが崩壊したかのように、ただ声を上げて泣き武蔵を抱き締め返す。

これで最後、これが最後───神楽はこんなにも自分の事を思ってくれている、神楽を抱き締めていた武蔵の目からも自然に涙が零れ落ち、目を瞑った───。

一部始終を見ていた甲斐斗が席を立つ、両ポケットに手を入れ、無言で出口まで歩いていく。

その甲斐斗の顔は何かを決心したかのような表情だった、目はしっかりと前を見つめ、出口の前で武蔵の横をすれ違う時も、視線が揺らぐ事はない。

部屋から出た甲斐斗には行かなければならない場所があった、そして実行しなければならない。

確かに甲斐斗は受け取った、武蔵の、人間の頃の武蔵の最後の頼み。

部屋を出る前に甲斐斗に向けた視線、その武蔵の視線は甲斐斗に訴えかけていた。

赤城を最後に守れた……武蔵のこの一言が意味する事、今の甲斐斗には簡単に理解できる。

「最後に別れを言いに来たか……わかってるさ、武蔵。お前が刀を取った時、俺がこの手で終わらしてやるよ───」


───その頃、東部軍事基地の格納庫内に止めてあるSVの艦内では、SV親衛隊の隊長の軍服を脱ぎ終えた愁がある部屋で跪いていた。

「全ては俺の責任です、如何なる処分も受けます」

愁の目の前にはアリスが立っており、その横にはシャイラもいる。

そして部屋の奥にはもう二度と動くことないフィリオが花束の中で眠っていた。

既に涙を流し目を赤らめていたアリスは跪く愁を見ても、何も言えずに眠りについているフィリオに視線を向けてしまう。

「俺はフィリオを助けられなかった。そして、あの男が死んだ今、俺にはもう───」

「待ちなさいよ……」

ふと言葉を漏らすアリス、そして次の瞬間力強く愁に歩み寄り胸倉を掴むと、愁に顔を上げさせた。

「このまま逃げようなんてそうはいかないのよッ!?貴方が犯した罪はSVの罪、お姉様を守れなかったのは私達の責任でもあるの!……一人だけ罰を受けて逃げようだなんてそうはいかないんだから……ッ!」

「それなら、俺はどうすれば……」

その時、愁の後ろから扉の開く音が聞こえてくると、一人の女性が歩み寄って来る。

アリスが手を放し、愁が後ろに振り向くと、突如布のようなものを投げつけられた。

自分が脱いだはずのSV親衛隊隊長の軍服、それを見て愁は顔を上げると、そこには葵が立っていた。

「決まってるだろ、世界の為に俺達と戦うんだよ。死んだフィリオだって、それを一番望んでるはずだ」

「葵……」

「それに、俺との約束忘れたか?あの時、絶対に帰ってくるって言ったよな」

「そ、それは……」

「何だ?今更違いますなんて言うなよ、俺はしっかりと聞いたんだからな、SVに……帰ってくるって」

跪く愁に手を伸ばす葵、その目には薄らと涙が見えていたが、顔は微かに笑っている。

「おかえり、愁」

そんな葵を見つめた後、自分に出された手を力強く握り締めると愁は立ち上がった。

「ただいま、葵……ありがとう、本当に……」

「おいおい、お礼を言われる事なんて何もしてねえよ。それにアリスはお前にまだ何か言いたそうにしてるぜ」

SV親衛隊隊長の軍服を手に持ったまま愁は後ろに振り向くと、涙を拭き終えた目でアリスがじっと睨みつけるように見つめていた。

「アリスさん、俺はこの軍服をもう一度着ても───」

「さっさと着なさい!」

突然大声を上げるアリス、その命令に愁はすぐさま軍服を身に纏うとアリスは更に言葉を続けた。

「SV親衛隊隊長魅剣愁!貴方はたった今からこの私アリス・リシュテルトの直属の部下になってもらったわよ!だから今から言う私の命令をよく聞きなさい!」

愁はその気迫に押されながらも、しっかりアリスを見つめて頷くとアリスは命令を下した。

「貴方はこれから一生一緒にSVで戦ってもらうから!どんな事が起きても、絶対に生き残って世界を平和にするのよ!わかったわね!?」

我慢していたはずのアリスの目から涙が零れ落ちる、だが決して瞳は揺らがない。

愁の瞳もそうだ、真っ直ぐアリスを見つめたままその場に跪き答えた。

「……わかりました、その命令。必ず達成してみせます」

「絶対何だから、絶対に、絶対に……!それにまだ私の命令は沢山あって───」

アリスの口を塞ぐかのように横に立っていたシャイラが自分の胸元にアリスを引き寄せ抱き締める。

「アリスお嬢様、一人で焦らなくてもいいのですよ。ゆっくり、皆と考えていきましょう、貴方には私達がついております。だから今は───」

自分の胸元で泣きじゃくるアリスの髪を優しく撫でていくシャイラ、そして視線を愁に向けると、愁は小さく頷き立ち上がると、葵と共にその場から立ち去った。

「葵、エコは今どこに……?」

「寝てるよ、言っておくけど今は危険な状態で会いには行けないからな。それと、お前に聞きたい事がある」

葵は足を止め愁の前に立ちはだかると、真正面から顔を覗き込むように愁を見つめる。

「お前、もうERRORじゃねえよな?」

その問いに愁は呆気にとられたものの、小さく息を吐くと止めていた足を動かし始めた。

「……大丈夫、フィリオが力を使い命を懸けて俺を救ってくれた時。全身に感じていた異様な感覚はもう無いよ」

質問に答えたはずの愁だが、その答えが更に葵の疑問を招く。

歩く愁の横に並んだ葵はもう一つ愁に聞いてみた。

「って事は、お前やっぱりERRORになってたのか?」

「わからない、でも俺の肉体がERRORに強化され支配されようとしていたのは確かさ……まさか、そんなERRORまで存在するとは思ってもいなかったけどね」

驚くはずの所だが、愁はやけに冷静な面持ちで話を続けようとするが、愁の代わりに葵が驚きを見せながら話し始めた。

「それは俺も思ったよ、人間に寄生し化物になったERRORは見た事あるが。人間の原型を保ったままERRORになるなんて……これじゃ軍にERRORのスパイがいるかもしれねえって事だよな」

「たしかに、一人一人肉体を精密検査をする必要があるね。でも、その前に……」

SVの艦内にある部屋へと辿り着いた愁は足を止めると、扉の横についてある小さな装置を操作し扉を開ける。

「俺は一人知っているんだ……人の姿をしたERRORを」

愁が開けた部屋の中には一面銃や弾薬が綺麗に整頓され仕舞われていた。

「えっ?」

そんな武器庫の中に愁は入っていくと近くにあった拳銃や小型ナイフを軍服の内側に仕舞い、更には数多くあるマシンガンを手に取って見定めていく。

「それって、まさか……」

葵がはっとした表情で愁を見つめるが、愁は一人黙々と戦闘の準備を整えていく。

手榴弾を腰に着け、マシンガンのマガジンを装備していく愁、机の上に置いてある拳銃を拾うとそれを取り横にいた葵に差し出した。

「伊達武蔵、あの人は……ERRORだ」

愁は戦場にいた時から感じていた、武蔵から感じる人間とは違う別の気配を。

まるでERRORだった時の自分のような似た雰囲気、言葉では上手く言い表せないものの愁は確信していた。

「そんなっ……助けられないのか!?」

「わからない、でも実際俺は助かったんだ。あの人にも助かってほしい……」

愁は準備を整え部屋から出て行くと、葵もまた手渡された銃を構え部屋から出て行く。

「それでこの武装かよ、まぁ無理もないか……わかった、俺も行く。とりあえず身柄を拘束すればいいんだよな?」

「うん、その後軍で検査してもらおう。そうすれば助けられるかもしれない……尤も、素直についてきてくれるとは思えないけどね……」

愁と葵、既に互いの決心は出来ていた。

二人は銃を構えSVの艦から降りると、事前に甲斐斗から聞かされていた部屋へ向かいはじめた。


───東部軍事基地にある会議室で、武蔵と神楽は涙を流し抱き締めあっていた。

部屋には二人を除いて誰もいない、辺りは無音の状態……。

ふと、神楽は武蔵を抱き締めながらも武蔵に気づかれないように片手を自分の着ている白衣のポケットに入れると、前にも使用した事のある小型の麻酔銃を取り出した。

もう二度と離れたくない……その思いは決して揺るぐ事は無く、力ずくでも武蔵を止めるしかない……。

気づかれないよう、ゆっくりと麻酔銃を武蔵の首元に近づけていく神楽、そして銃口が武蔵の首元に触れようとした時、武蔵は抱き締めていた腕を放し神楽から距離を取ると、神楽の手にしていた麻酔銃を取り上げ瞬時に背後に回った。

神楽の首に触れる冷たい銃口、今引き金を引けば極小の麻酔針が出て簡単に神楽を眠らせる事が出来る。

「お願い待ってッ!」

涙を零しながら神楽が叫ぶ。

離れたくない、終わりたくない……側にいてくれるはずの武蔵ともう二度と会えなくなる……絶対に嫌だった。

「ごめん、神楽……これも君の為なんだ……」

神楽の震えは止まらない、大切な人を失う恐怖を前に味わっているから、余計に恐怖が増して怖くなる。

武蔵との思い出が神楽の脳裏に浮かび上がる、幼き頃から一緒だった武蔵、いつも一緒、いつも側にいてくれた武蔵が、今まさに消える、消えてしまう。

「約束を果たせなくてごめん、ずっと側にいてあげられなくて……ごめん……」

こんなにも愛しいのに、こんなにも必要としているのに、それが叶わない、叶えられない。

なんで……どうして……どうし、て……っ……。

「……さよなら、神楽」

夢なら覚めてほしい、覚めてまたあの頃に戻りたい、皆と一緒にいた日々に、側にいて、共にいて、笑っていた、あの日々に……。

「愛してるよ───」


───引き金を引き終えた麻酔銃が手から零れ落ちる。眠りについた神楽をそっと抱き上げる武蔵は、近くの椅子に神楽を座らせると、涙で濡れた自分の顔を軍服の袖で強く拭った。

そして安からに眠る神楽の頬が涙で濡れているのを見て武蔵はその涙を優しく拭ってあげると、ゆっくりと後ろに振り返り歩みはじめる。

その行く先は勿論赤城の元、神楽の思いを身に受けた武蔵は必死に涙を堪えただ歩き続けた。

最後の別れを、最後の思いを……赤城に告げる為に。

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