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第89話 普通、約束

───とりあえず町で会話をしていた俺達4人と龍一匹はミシェルが昼寝をしている家へと戻り寛いでいた。

そこで神楽から知らされるNFの核兵器使用の話、神楽の元に来た情報によるとNFの使用した核兵器でERRORの巣とされる箇所が完全に破壊されたみたいだ。

だったらもうそれで全部終わらしてほしいんだが、そういう訳にもいかないらしい、なんでだ?

「貴方が想像してる以上にあの核兵器は特殊で強力なの、広範囲に渡る放射能により辺りは放射性降下物で埋め尽くされて二度と人間が立ちいれられなくなるんだから、ERRORより先に人類が滅ぶわよ?」

「んでもよ、ERRORの巣の位置がわかったんだろ?そこだけにピンポイントで核兵器使用すれば大丈夫じゃないのか?」

俺の質問に答えてくれると思いきや、神楽は目を瞑りため息を吐くと一人部屋から出て行く。

「実際に見せてあげた方が早そうね、ついてきなさい」

見た方が早い、って事で俺は言われるままに神楽の後をついていく、ふと後ろを振り返れば満面の笑みでアビアがついてきていた。

「……お前も来るか?」

「行く〜」

まぁ聞かずともこいつなら勝手についてきただろう、神楽もアビアを気にせず家の中を歩いていくし。

しかし俺達を一体どこに連れて行く気だ?もしかして床下に秘密基地があるとか?

まさかな、幾らなんでもそれは無いか。

……そして、俺達は先ほどいた部屋の二つ隣の部屋に連れてこらると、神楽は何かのスイッチのような物を押すと壁が開き、薄暗い階段が現れた、んで俺達は長い階段を下りて……秘密基地についたわけだ。

「やっぱりお前はこういう所に住んでいたのか!」

俺の言葉を普通に無視して神楽は部屋の灯りを付けると、部屋の片隅に置いてある装置の電源を入れにかかった。

まぁ秘密基地と言っても俺達が来たのは先ほどいた居間とほぼ同じ大きさの部屋がそこに広がっているだけだが。

「無視かよ……まぁいい、それじゃ早速見せてもらおうか。その核兵器の力とやらを」

俺の言葉と共に準備が整ったらしく、部屋の壁に掛けられている巨大なモニターにある映像が流された。

そこには一つの大きなクレーターが現れた、地面を大きく抉り、灰が周囲を漂っている。

「この映像は衛星から撮ったものよ。よく見なさい、灰が急速な勢いで回りに広がってるでしょ」

神楽の言う通り、まるで増殖していくかのように灰が舞い上がり、拡散していく様子がわかる。

「神楽、これはいつまで広がり続けるんだ?何か勢いが増してるようにも俺には見えるんだが」

「そうね、後6時間もすれば収まるんじゃない。その時は私達のいるここも死の灰で消えるでしょうけど」

……6時間?俺はもう一度クレーターの映し出されている映像に目をやると、真っ先に知らなくてはならない事を聞いた。

「神楽……今、俺達はどこにいるんだ……」

「ここよ」

映像が切り替わり、クレーターを中心とした巨大な地図が映し出される。

その図の中で点滅する赤い点を指差す神楽、今いる場所と核兵器が落とされた場所との距離を見て俺は愕然とした。

言葉が出ない俺を見て神楽は歩み寄ってくる、こいつは、この事実を知りながら動揺しなかったのか……?

「これでわかってくれたかしら、残りのERRORの巣に全てあの核兵器を落とされたら、この世界がどうなるのかが」

「ああ、わかった……。だがどうする、この図によりゃあ残り6時間で俺達のいる場所も灰に飲み込まれて使えなくなるんだろ?過去に帰る為の準備はどこでするんだ……?」

「それなら心配いらないわよ、ここじゃなくてもっと良い所を知ってるわ」

さすが神楽、準備は万端らしいな。やはりこの女と協力するのは正解だった。

「既に知ってるとはさすがだな、それで場所はどこなんだ?」

「東部軍事基地」

なっ、東部軍事基地?あそこは既に廃墟同然の場所になってたはずだ、そこで計画を進める気か……?

「心配ないわよ、あの基地にはERRORの反応も確認されていないし今は無人の基地なの」

「そりゃ良い、さっさとそこに行こうぜ」

「ええ、でもその前に聞いておきたい事があるの、彼女に───」

神楽はその言葉とともに睨むような視線で俺の後ろに立っているアビアに向けた、俺も少し振り返り横目でアビアの方を見たが、いつも通り能天気な態度をしている。

「貴方、どうしてこの男と行動してるの?」

神楽の疑問は俺も抱いている、たしかにアビアの目的が何なのかがよくわからない。

あのテトとか言う男と共に行動し、今度は俺と行動をしている。最初会った時は殺しに来たにも関わらず、俺が強いと知れば急に馴れ馴れしく付きまとってくる。

だが、こいつは俺が死に掛けた時に助けてくれた命の恩人でもある、悪い奴じゃないとは思っているが……。

「えー?アビアの勝手でしょ?」

「貴方みたいにいつもへらへら笑っている人って、必ず何か隠してるものなのよ」

まるでそんな奴を前に見てきたかのような神楽の台詞に俺は言葉が出なかった。そして黙ったままアビアの方に目を向けると、アビアは小さなため息を吐いた後ゆっくりと神楽の方に近づいていく。

「さあ話しなさい、貴方の真の目的を……」

そう言われて神楽の前で立ち止まったアビアは、いつもと変わらぬ笑みを見せながら口を開いた。

「貴方にはいないの?好きな人」

「なっ……」

アビアの意外な言葉に神楽は口を開け微かに反応すると、今度は逆にアビアから神楽に問いかけた。

「だってさー、隠すなって言うけど。好きな人の側にいたいって思うのはふつーでしょ?違う?」

首を傾げるアビアに、神楽は何も答えない。いや、答えられないのか?

恥ずかしい事を平然と言うこの女は、ただ単に天然か純粋か馬鹿のどれかなのだろう。

大体俺の事が好きって何だよ、何気に告白してるぞ。

「そうかもしれない、でも貴方はこの男の力に惚れてるだけよね。寂しい子……」

そう言った後神楽は地下室から地上に戻る階段を上がろうとする、もうこれ以上この場で会話はしなくていい、嫌な雰囲気が漂っている。

穏便に済ませる為にも俺も黙って地上へ戻ろうと一歩足を前に出した時、アビアが俺に寄り添ってくると、神楽に聞こえるような声で口を開いた。

「ふつーに好きな人と一緒にいたり、添い遂げる事ができないなんて。貴方の方が寂しい人だとアビアは思うけどねー」

……アビアの口から出た言葉に俺は一瞬戸惑った。どうしてそこまで反論する、そしてなぜ今この場でそんな台詞を吐くんだ。

いや、前から空気読めないと思ってたよ、思ってたけどさ、どうして俺を巻き込む?

俺の思った通り階段を上ろうとしていた神楽の足はぴたりと止まった。あーまずい、絶対また何か言ってくるに違いない、頼むから俺を女同士の口喧嘩に巻き込むな。

「アビアの甲斐斗はとーっても強いの、だからずーっと一緒にいられるもんねー」

いつから俺はお前の物になったんだ。っと、言いたい所だが今はもうどうでもいい、お前は喋るな、これ以上この場の空気を重くしないでくれ。

こんな空気では今の神楽に俺は何も言えないし、黙って階段を上りたくても神楽がいて上れない。俺はどうすればいいんだ。

「甲斐斗、その子の監視……頼んだわよ」

「え?あ、ああ。わかった、アビアは俺が責任もって見とくよ」

神楽は止めていた足を踏み出し階段を上がっていく、どうやらこれ以上言い合っても無駄だと思ったのだろう。

しかし、あいつが不機嫌だと何するかわからないからな、それはアビアも同じかもしれんが……。

「アビア、あんまり神楽を怒らせるなよ」

「怒らせる?アビア怒らせるような事言ってた?」

「少なくとも神楽を怒らせるような事は言っていた。面倒ごとは好きじゃないんだ、もう言うな、わかったな?」

「は〜い」

そんな笑顔で返事をするな、本当にわかっているのか心配だ。

ああ、心配事がまた一つ増えた。これから東部軍事基地に行かなくちゃいけないし、ERRORとの決戦に行かなくちゃならない。

NFは本当に全てのERRORの巣に核兵器を落とす気なのか?奴らだって知っているはずだ、核兵器を使っていけばどうなるのかが。

こりゃ核兵器を使わせる前に事を急いだ方がよさそうだ、早くBNやSV、赤城達と合流しないとな……。

俺達は先程ミシェルといた部屋へと戻ると、そこには既に目を覚ましたミシェルがロアと遊んでいた。

「甲斐斗さん、どこに行ってたんですか?」

「秘密基地だ。それと俺達はここから東部軍事基地に移動する事になったからな」

「えっ、出発はいつに……?」

「今すぐにでも行きたい所だが神楽がいないな……」

やれやれ、あいつはどこにいるんだ?もしかして既にここから離れる準備をしているんじゃないのだろうか。

「ああ、神楽さんなら先程花を見に行くと言って外に行かれましたよ」

花を見に外に?あいつ、こんな非常事態に……。

「わかった、もう少しミシェルを頼んだぞ」

すぐに玄関に向かった俺は靴を履き家の外に出た、だが花を見に行くと言っただけで場所なんてわからない。

わからないはずだった……でも、俺は気づけば来ていた、山奥で花畑の広がる場所に。

そんな都合良く見つけられるなんて俺は思ってなかったし、場所など知るはずもない。

体が勝手に動いたというか、森の中を歩いているとこの花畑に来ていた。

そしてそこに奴はいた、辺り一面に広がる花畑の中に、花で作られた首飾りを手に持つ神楽が。

「あら、どうして貴方がここに?」

俺がここに来た事についてはさほど驚いている様子は無いみたいだ、少し横目で俺を見た後すぐにまた視線を花の方に戻した。

「それは俺の台詞だ、東部に向かうんだろ?こんな所で何してる」

それにしても意外だな、こいつがこんな所に来るなんて。しかも花で何か作ってやがる。

「花、見てたのよ」

そう言うと神楽は俺から目を逸らし自分を中心に広がる花畑をじっと見つめなおす。

風が吹き、木々や花々が囁く様に揺れると同時に神楽の髪も靡いていく。

綺麗な場所だ、この世界にもまだこんな綺麗な景色を見れる所があるなんてな。

……でも、その景色を見ている神楽は、何であんな寂しそうな表情をしているんだ。この景色が見納めになるからか?

「後数時間で消えてしまう……この地も、この花も、この空も、すべて……」

神楽にしては意外な事を言ってると思ったがこいつも人間だ、思い入れのある場所だってある。楽しんで笑ったり、悲しくて泣いたり、人を愛する事だってできる。

だから今、こうして神楽はここにいる。あんな寂しそうな表情、俺の前に見せたこと無いくせに何故今になって───。

「甲斐斗、貴方は……人を愛したこと、ある……?」

「はっ───?」

人を、愛したこと?なぜそれを今俺に聞く、何故この場で。

ここは神楽にとって思い出の場所、それには理由があるはず、となると思い当る理由は一つしかない。

───伊達武蔵。奴だ、奴しかいない。

武蔵が死んだ後に確信していた、赤城、そして神楽は武蔵の事を愛していたと。

いや、今でも愛している。それに僅かな可能性も生まれた、武蔵の乗る大和の存在。

ERRORと共に行動する大和は未だに謎だ、謎だが、あの機体に乗っているのがERRORとは思えないし、赤城と神楽は思いたくないだろう。

「わかんねーよ。俺は愛とか無縁だし……」

人の愛し方なんて色々な形や種類がある、愛する事もそうだが愛された事すら俺はわからない。

何をされれば愛された事になり、何をすれば人を愛しているという事になるんだ?

キスをすればいいのか?プレゼントを上げればいいのか?救えばいいのか?助ければいいのか?側にいればいいのか?それらをされればいいのか?……わからん。

「神楽、そんな事俺に聞いてどうなる。お前こそいるんだろ、まだ愛してる人が」

それから神楽は一言も喋る事は無かった、まるでこれ以上の話は耐えられないかのように、唇をかみ締めじっと黙り続ける。

……あの男の代わりをするなんて俺には無理だろう、それにそれを望んでもいないはずだ。

「さて、俺はあいつみたいに気の利いた事は言えないし、そろそろ皆の所に帰る。お前も気が済んだらさっさと戻って来いよ、それじゃあな」

神楽の寂しげな横顔を横目に俺は静かに一人花畑を後にした。

それにしてもさっきから何なんだよ、この胸のもどかしさは。

俺は別にあいつが好きでもなんともない、でもあんな表情浮かべて花見つめてるあいつに、俺は何かしてやれないのか?

ああ、俺だってわかっている。あいつの日ごろの強気は全部作り物だって事ぐらい。

武蔵が死んでからも人に弱みを見せず、今一人でここまで来た。神楽も、何か約束をしたのだろうか。あの花畑の上で、あの男と、約束を……。


───甲斐斗達が東部軍事基地に行く準備をする中、NFの核兵器使用の情報が入ってきていたBNの本部には激震が走っていた。

従来とは異なる異質の核兵器は、ERRORの巣とされている箇所四つの内の一つが消したが、その威力と効果の力がとどまる事を知らなかった。

随時送られてくる核兵器の被害状況、それを基地内に止めてある戦艦の一室で見ていた赤城は頭を抱えていた。

「あの、赤城少佐……コーヒー買って来ましたよ」

そう言うと由梨音は手に持っていた缶コーヒーを差し出すと、赤城は由梨音の方を向くと差し出された缶を受け取った。

「すまないな、私の分まで頼んでしまって」

「いえいえ!こういう事は全部私に任せてください」

赤城は受け取った缶コーヒーを飲もうとせずに机の上に置くと、また一人PCの方を向き考え始めた。

それを見ていた由梨音も缶を開ける寸前に手を止めると、赤城の見ているPCを覗き込み口を開いた。

「核兵器……ですよね、私も最初はびっくりしましたよ!でも、その兵器のお陰でERRORの本拠地とされてる場所を一つ消す事に成功したんですよね、すごいじゃないですか!」

そう言って笑顔で振舞う由梨音だったが、次の瞬間赤城が両手を振り上げ机に向けて振り下ろした。

その咄嗟の出来事に驚き由梨音は手に持っていた缶を床に落としてしまうと、由梨音の顔からは先程までの笑顔が消えた。

「驚かせて……すまない……」

由梨音の落とした缶を赤城は素早く拾うと、驚いたまま固まっている由梨音の手に握らせる。

そこでようやく由梨音が我に返ると両手で缶を握り締めたまま赤城の前で大きく頭を下げ始めた。

「す、すいません!私もあんな事言ってしまって……」

「いや、いいんだ。お前の言う通り核兵器の力でERRORの巣を消す事ができた。だが、これ以上核兵器を使わせてはこの世界が持たない。何としてでも私達は騎佐久達より早く現地に向かい核兵器の使用を止めさせなければ……」

「その為に今私達はERRORの巣があるとされる場所に移動してるんですよね!」

「ああ、だがその前に少し寄り道をするらしい」

「えっ?どこにですか?」

「東部軍事基地だそうだ、何しろあの場所はあの件以来誰も近づいていないからな、まだ機体や弾薬が格納庫に残っているからそれを回収しに行くみたいだ」

そこでようやく由梨音の買ってきた缶コーヒーを手に取る赤城、すぐに開封すると静かに飲んでいく。

それを見て由梨音もジュースを飲もうと手に持っている缶を開けた瞬間、床に落下させた時の衝撃により缶の口からは大量のジュースが噴き出した。

「ひゃっ!?あーっ……すいません、赤城少佐……えへっ」

そう言って可愛らしい笑みで首を傾げる由梨音だが……。

「そうか、じゃあ減給だな」

そんなものジュースまみれになっている赤城には無意味、というよりも更に怒りを倍増、加速させるにすぎなかった。


───BNの本部から二手に分かれた三つの勢力、その中でもNFとSVは戦力が低下している為に二つの勢力で現在ERRORの巣に向かい、BNは本部に集ったほぼ全ての戦力でERRORの巣へと向かっていた。

この作戦はどちらとも必ず成功しなければならない、まだERRORの巣が一つ残されているからだ。

それとも四つの内一番巨大な巣、この巨大な巣は今人類が向かっている二つの巣を消し終えた後、NF、SV、BNの全戦力をもって挑む事になっている。

計画と準備は整った、後は実行に移すのみ、そして結果を出すしかない、成功という名の結果を───。

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