第88話 経緯、理屈
リュウさんすいません今日メッセージを読ませていただきました、本当に申し訳ありません。
「最強」を決める、という言葉にとても興味がありましたがメッセージが一ヶ月前と気づき残念です、申し訳ありません。
何やら他の作者が考えた最強の人物同士が戦う作品みたいですね、とても面白そうで興味がわきました、まるで昔の自分を見ているようです。
メッセージの方ありがとうございました、また何かありましたらこれからもよろしくお願いします。
───BNの基地から無事脱出をした赤城達を乗せた戦艦は今、BNの本部に到着していた。
EDP、ERRORとの決着をつける為に本部の基地には数多くの兵士達が集結している。
各BNとSVの基地から集められた兵士達の数、それにこの本部全体の雰囲気に部屋の窓から外の様子を眺めていた由梨音は驚きを隠せずにいた。
「す、すごいですね。各基地からBNの本部に艦隊が集結してますよ!」
そんな由梨音を尻目に赤城は椅子に座りながらコーヒーを飲んで寛いでいた。
「そうだろうな、これからEDPを行なうんだ。それなりの戦力は整えておかなければならない」
戦力を整える、だがEDPを行なう場所は一箇所だけではない、四箇所もある。それがどれだけ絶望的な存在なのか、一番NFが知っていた。
本部が消えたNF、僅かに残っていた基地の兵士達はBNの呼びかけに応じこのEDPに参加する事になっているが、そこに騎佐久達の姿は無い。
「赤城少佐!私達はいつ現地に出発するんですか!?」
「明日だが。それよりお前は作戦内容をちゃんと読んだのか?時間がある内に何度も読み返しておけ」
「はーい、でも私ちゃんと読みましたよ!ERRORが地下から地上に出てくる穴を逆に利用してERRORの巣の中に入るんですよね」
「半分正解だ、我々は地上からBNの開発したレーザー兵器によりERRORのいる地下にまで穴を開けた後その穴に入り内部に侵入、後はELB(電子光化爆弾)を設置した後脱出。幸いにも今回はGATEのような厄介な物は無いからな、場所さえわかればこちらのものだ」
赤城はそう言ってまた静かにコーヒーを飲もうとしたが、由梨音の顔から先程までの明るさが消え、静かにソファに座ると口を開いた。
「赤城少佐……直接地下に行くって。とっても危険な任務になりますよね、もしかしたら、地上に帰ってこれないかもしれませんよね……」
ERRORの巣は地上から約数千メートルも離れた地下にある、BNのレーザー兵器を使えば巣の近くまでは穴を開ける事が出来るが、その後はERRORが掘った穴を使用し最深部にまで向かう必要があった。
ELBを設置した後は地上に帰還するのだが、脱出に関しての詳しい内容は知らされていない。
「……安心しろ、地下に向かうのは精鋭部隊だけだ。私達は地下には行かず地上にある入口を防衛するのが役目になる」
少しでも由梨音を安心させようとする赤城、しかし由梨音はそれを聞いてもなお暗い表情を浮かべていた。
「胸騒ぎがするんです……緊張が解けなくて、全然眠れなくて……」
「これから最後の決戦を行なわれるんだ、皆不安はある。私も不安だ、だがこの決戦に勝たなければ、今度こそ人類は……」
消える、この世界の地上から、何十億といる人間が殺され、消える。
「赤城少佐!」
ソファに座っていた由梨音が突然元気の良い声を上げ立ち上がると、椅子に座っていた赤城の眼の前にまで歩み寄る。
「な、何だ?」
「この決戦が終わって人類がERRORに勝利した後、赤城少佐は何をしますか!?」
戦争が終わった後、そんな事を考えていたのはずっと前の事。
未来は変わり、多くの仲間を親友を失った今、戦争が終わった後のことなど想像もしていなかった。
「何を……?そうだな、この決戦が終わった後、『これから何をするか』を考えるさ。勿論由梨音にコーヒーを入れてもらいながらゆっくりとな」
平和な未来を想像した。だから今、その平和な未来を作る為に動き出さなければならない。
例え外に曇天が広がり、血の雨が降り注ぐとしても。
───赤城達のいるBNの本部にはSVの兵士達も待機していたが、エコと葵はその基地にある病室で一緒に昼食を食べていた。
「やっぱ栄養バランスしっかり管理されてて美味いな〜」
自分の分の昼食を準備してもらい美味しそうに食べていく葵の側で、エコは食事に手をつけず部屋の窓から見える外の景色を見つめている。
それに気付いた葵は手に持っていたスプーンを食べかけの料理が置いてある食器の上に置くと、外を見つめたまま動かないエコの肩に手をかけ口を開いた。
「エコ、これめちゃ美味いぞ?早く食べてみろって」
「……うん」
笑顔の葵に対してエコは無表情のまま振り向き、小さく頷いた後すぐに料理を食べようとスプーンに手を伸ばすが、その手を葵が掴むと動揺するエコに対し呟いた。
「ごめん、やっぱその前に話してほしいんだ。今の気持ちを……」
死んだはずのエコは生き返り、共に喜びを分かち合った。しかしその後のエコは全く笑みを見せず、何かを考えるようにじっと一点を見つめたまま動こうとしない。
そして、そんな自分を見ている葵は必ず声をかけてくれるとエコは思っていた。
「何でも言ってくれ、俺達はパートナーだろ?」
そう言ってエコの小さな右手を握り締める葵、温かく力強いその手に、エコは葵の方を向くと小さな笑みを見せた。
「うん、ありがとう……」
もう二度とこの温かさを失いたくない、言葉は無くとも互いに握られる手と手で二人は確かめあう。
「葵……私達の信じてた神は、消えたよね……」
強大な力を持つERROR、そのERRORと唯一対等で戦えるはずの神が消えた。
その信じていた神も人類に牙を剥き、この世界の人類の数は確実に減りつつある。
「この世界が、本当に、本当に最後の世界なのかな?……私は信じたい、まだERRORのいない平和な世界が、まだ何処かにあるんじゃないのかな……って」
アルトニア・エデンでの調査によれば、この世界以外は全てERRORの手に落ちていた。
ERRORが唯一いなかった最後の平和な世界、希望を胸にSVが降り立った世界だが、既にこの世界もERRORの侵食が始まっていた。
希望が消え、仲間が消え、そして人類最後の世界が今、消えようとしている。
「私行きたいよ、平和な世界。こんな世界、もう嫌……」
今にも泣き出しそうな表情をするエコ、そんなエコを見て葵は握られている手を力強く握り返した。
その反応にエコは葵の方に顔を向けると、葵はじっとエコを見つめたまま口を開いた。
「俺も嫌さ……でもな、今ここで逃げたら今まで戦ってきた仲間たちの思いや、命が……全て無駄になる、それはもっと嫌だ」
凛々しく、真っ直ぐな葵の瞳、言葉……それを聞いていたエコは葵と見詰め合ったまま視線を逸らすことは無い。
「だから俺はエコと一緒にこの世界を守りたい。神なんかに頼らず、俺達の力で変えていこう。平和な世界が無いならここに作ればいい!そしてこの世界を、人類唯一の平和な世界にしてやろうじゃないか」
葵は真剣な表情を浮かべていたが、その表情がいつもの明るく元気な笑みに変わるとエコが持とうとしていたスプーンを手に取りスープを掬うとそれをエコの口元に近づける。
「その為にはしっかり飯食わないと駄目なんだぞ?ほら、あーん」
いつもなら強引にスプーンを奪い取り一人淡々と食事をするだろう。でも今、葵の眼の前にいるエコは違う。堪えていた涙を零れ落としながら口を開け、照れながらも葵にスープを飲ませてもらっていた。
それはまるで子供にご飯を食べさせてあげる母親のように。
───BNがEDPに向け刻々と準備を進めている中、EDPに参加してない騎佐久達の乗る空中戦艦アルカンシェルは今、ERRORの巨大な巣があるとされる場所の上空に来ていた。
司令室の最上部に位置する場所、その席にはNFの騎佐久が腰を掛け地上の様子を見ていた。
「神が死んだのは惜しいが、遺産は残っている。後でゆっくりと探せばいい」
騎佐久の見渡す地上には無数の穴が空いており、その穴からは次々にERRORが這い出ている。
まるで蟻が巣から出てくるかの如く、先程まで広がっていた地上には既にもう赤く蠢くERRORで溢れかえっていた。
「だから今は……この世界の『ERROR』を削除する」
それは初めから決められていた選択肢、迷いも無ければ躊躇いも無い、全ては人類の為、人類だけの……。
「収縮型光学電子パルス砲、発射」
騎佐久の指示の後、空母アルカンティスからは地上に向けて主砲が放たれた。
地上に群がるERROR達は一瞬で掻き消されていき、直撃した地面には巨大な穴を開けていく。
「ERROR本拠地の場所がわかった今。人類に敗北は無い」
主砲が撃ち終わり、地面には巨大な穴を開けたが、まだERRORの巣には届いていなかった。
開けられた巨大な穴から次々に出てくる無数のERROR、それを見て騎佐久は納得したように微笑むと、机の上に付けられているスイッチの安全装置を外し、静かに指を乗せた。
「武蔵、お前が成し遂げられなかった使命。俺がこの手で……成し遂げる!」
スイッチの上に乗せていた指に力を込めると、それは簡単に始動した。
アルカンシェルにある一つの砲門が開くと、一発のミサイルが音速を突き破る程の速さで地上へ発射された。
ミサイルは開けられた穴の中に入っていき、穴から溢れ出てくるERRORを貫きながら最深部へと突き進んでいく、そして上空で待機していたアルカンシェルはミサイルを発射後出力を最大まで高め全速力でその場から離れていた。
地下深くにまで侵入したミサイル、大きな空洞の広がる空間にまで落ちた所で力を失い、その場に停止していた。それを見ていたPerson態はニタニタを笑いながら首を傾げると、落ちてきたミサイルの元へ一斉に集まり始めた。
Person態の他にもHuman態、Beast態、Worm態……それぞれのERRORが落ちてきたミサイルを見て囲むように並び、じっと落ちてきたミサイルの方を向いている。
刻々と時が迫る、ERROR達は声も上げず動きもしない、ただ静かに動くことなく固まっていた。
その時、ミサイルの周りを囲んでいた一匹のPerson態の顔に異変が起きた。
口だけの顔、いや。頭全体に一本の亀裂の様なものが次々に現れ始めると、全ての亀裂が開き、顔全体に無数の巨大な目玉が出始める。
一匹だけではない、その場にいたPerson態の顔には無数の目玉が次々に現れ始め、最初はキョロキョロと動くと、顔中にある全ての眼がミサイルの方へと向けられる。
Person態にいつもの笑みは無い、歯茎を露出させ歯を食い縛り、血走った目玉が大きく見開き一点だけをじっと見つめている。
まるでその光景を目に焼き付けるかの如く。
そしてその瞬間、ミサイルから眩い閃光が放たれると強烈な熱線と共にその場にいたERROR達を巨大な光が飲み込み、その場にある全てのものを掻き消していった。
───地下深くに向けて放たれたミサイルは爆発した。太陽の様な強烈な閃光を放ち、熱線と爆風はその場にものを掻き消し、吹き飛ばしていく。
その爆発の衝撃波は遥か遠くまで避難していたアルカンシェルにまで襲い掛かる、あの巨大な艦が上空で大きく揺れ、更に熱線が艦の装甲を溶かしていく。
想像を遥かに上回る絶大な破壊力、その力に騎佐久は終始笑みを見せていた。
「出来る。この『核』の力があれば、ERRORが消えるのも時間の問題だ」
「しかし、これであの一帯は数百年草木の生えない死の地帯と化した、そうじゃろ?」
騎佐久の後ろから歩み寄る黒髪の若い女性、それは北部最強の肩書きを持つ者だった。
「菊、俺達は本来の使い道、人類の為に核兵器を使用したんだ、何も躊躇う事は無い」
「わかっておる……しかし、後三つ残る箇所にも核兵器を?」
「当然だ、何千何万という人間を失い、数多の弾薬を使用しなくても。たった一発のミサイルで事無きを得る。核兵器こそ人類のみ与えられた最強の力なのだから」
たしかに、ここに来るまでに多少の戦力を消耗したがそれはEDPの時に揃えた戦力の半分以下だけだった。
多くの兵や弾を失わずに勝利する、その勝利を手にする為アルカンシェルは既に別の箇所にあるERRORの本拠地へと向かっていた。
「……心得た。ここにいる兵士達はお主を信じ共に歩むと、そう決めとるからな」
方法や手段は違っても別としても間違っていようとも、全ては同じ目的の為に人類の勝利の為に、全世界が動き始めている。
ERRORの本拠地とされる箇所は残り三つ、それはEDPの準備を進めていたBNの本拠地にも既に情報が行き渡っていた……。
BNの本部にいる紳達、神楽と共にいる甲斐斗達、そしてNFの東部軍事基地を拠点としている者に。
「所で、先程からカイトの姿が見えんのじゃが」
「アステルのことかい?彼なら俺の指示で単独行動してもらってるよ」
「何ぃ?こんな大事な時に何故じゃ」
「大事な時だからこそ行動してもらってるのさ、どうやらこの世界の敵はERRORだけじゃないみたいだからね、そっちの処理を任せてる」
「まさかお主、あの機体を使わせるつもりか。あれはまだ未完成のはず、危険すぎる……」
「危険は彼も承知の上さ。それにあの機体の戦闘データをとりたいからね、神楽が発明したあの力を……」
───「どうやら……NFが核兵器に手を出したみたいだね」
薄暗い一室で椅子に座りモニターを見つめるテトがそこにはいた。
全ての世界の情報をたった一人で観察し、楽しむ。それがこの世界での楽しみ方。
テトは後ろに振り返りベッドの上に座っているフィリオに目を向けるが、フィリオは俯いたまま一人で自分の体を抱き締めテトと目を合わせない。
「ん、どこか体調でも悪いのかい?」
そう言ってテトは手を向けると、フィリオの意思とは無関係に体が勝手に動き始める。
「うっ、ぁ……」
強制的に両手を広げさせられ、顔を上げるフィリオ、その目には微かに涙で潤んでいた。
「お願いします……やめて、くださぃ……」
掠れたような声で助けを求めるフィリオに、テトは笑みを見せると席を立ち彼女の元へ歩み寄る。
テトの力により体の動かせないフィリオは視線さえ動かす事が出来ず、ただじっとテトを見つめさせられていた。
「どうしてこんな、こんな事を───っ!?」
喋ろうとするフィリオの口を塞ぐようにテトは自分の唇をフィリオの唇と重ねてくる、フィリオは目を瞑り口付けが終わるのを待ち続ける。
そしてようやくフィリオから口を離すと、テトは笑みを浮かべながらフィリオの耳元でゆっくりと囁いた。
「君が求めているからさ」
「なっ、何をそんな……!」
慌ててテトを突き放し距離を取るフィリオ、その時自分が自由に動けるようになっていた事に初めて気付いた。
「キスをした時僕は君の拘束を解いていた。本当に嫌なら僕から逃げてたと思うけど?」
「そ、それは気付かなかっただけです!」
「そうかい、でも……それを誰が信じてくれるのかな?」
必死に反論するフィリオをテトは面白そうに見つめる、するとテトの後ろにある装置から突如警報が鳴り響いた。
すぐに振り向き装置を弄り始めるテト、その装置のモニターには砂塵を上げながら一直線にこの東部軍事基地に向かってくるアストロス・アギトの姿があった。
「僕の居場所がよく分かったね……。おめでとうフィリオ、君の騎士が助けに来てくれたみたいだよ」
「愁が……ここに……!?」
愁の名がフィリオに一筋の希望の光を齎す、今までじっと耐えてこられたのは、きっと愁達が助けに来てくれると信じていたからだ。
やっと終わる……この長く続いた苦しみも、今日で……。笑みが零れるフィリオだが、それはテトも同じだった。
「ここまで自分の思い通りに事が進むなんて本当に面白いね。さてと……後はフィリオ、君の結末を見るだけさ」
今までもそうしてきた様に、今回も実行する、そうして自分の考えが正しいという事を立証してきた。
「結末を、見る……?」
怯えるフィリオを余所にテトは机の引き出しを開けて中から二つの手錠を取り出す。
画面には既に基地の手前まで来ているアギトが映し出されている、それでも焦る様子は一切無いテトは、フィリオの目を見つめて口を開いた。
「そう、愚かな希望に縋る者の……最期をね」
その瞬間、今までに見せたことの無い笑みにテトの表情は変わっていた。
見納めになると思っている、もうこの世界はERRORの手に落ちるとテトは確信しているから。
そして小さな期待もしていた、『奇跡』というものが、本当に起こるものなのかと───。