第87話 本音、戯言
───「俺の手助けをするなんて尚更信用できねえ、お前の望みは何だ?」
こんな部屋に連れてこられ、散々問題を起こしてきたこの女が突然俺に手助けだと?信用できる訳がない、こいつは人の為より自分の為に動く奴だからな……。
「望み?そうね、貴方が無事過去に戻れる事かしら」
「だからそうじゃねえ!お前の本当の目的を───」
次に俺が大声を出そうとした時、神楽の後ろの影からミシェルを顔を出すと、俺を見た瞬間に笑顔になり駆け寄ってきた。
「ミシェル!?無事だったか!」
ミシェルは笑顔で頷いている、この様子だと神楽に何かされた訳ではないと思うが……。
とりあえずミシェルの体にも爆弾が付けられていないか触って探してみると、ミシェルは擽ったそうに体を反らして俺の手から逃げる。
「あはは、くすぐったーい!」
そんな暢気な事言ってる場合じゃない、まぁ爆弾が付けられてる場合知らない方が気持ちは楽だが。
「神楽、お前ミシェルに何かしたか?」
「いいえ、この子には何もしてないわね」
……この子には?ほぉ、なるほど、つまり俺には何かしたって事か。
「貴方の体は色々と調べさせてもらったわよ」
「はぁっ!?やっぱり何かしたのかよ!」
「あのね、貴方は謎が多いし危険なの、それぐらい当然の事でしょ?」
たしかにそうかもしれないが、しかし。俺に黙って勝手にする事では無いだろ……。
こいつの事だから俺の体内に爆弾とか入れていてもおかしくない、だがそれが無いというのなら本当に俺を助けるつもりなのか?
「もう一度言うけど、私は貴方の敵じゃない。協力者よ、少しは信用してくれてもいいんじゃない?」
怪しさ満点の言葉だが、ここで何時までも言いあってる場合じゃない、それにこいつが本当に協力してくれるのなら色々と役立ちそうだ。
「ああ、まぁ敵意が無いのはわかったよ。それで、これからどうするんだ?」
これから忙しくなるな、過去に戻る為の方法や準備。
それにレジスタルについても色々と話しておかないと……。
「昼食を食べるわよ」
そうそう、まずは飯だよねー。
俺の前に立っていた神楽はそう言い残した後部屋から出て行ってしまうが、本当に飯か?
俺は寝ていた布団から起き上がるとミシェルを連れて神楽の向かった方へ歩いていく。
そこには居間で料理を卓上に並べる神楽がいた、それを見た瞬間ミシェルは笑みを見せると俺の元から離れ神楽の隣に座りはじめる。そんな嬉しそうに並べられた料理見渡して、よっぽど腹減ってたんだな……。
にしても、先ほどの部屋といいこの部屋といい、長閑な所だな。静かだし、外を見れば綺麗な緑色をした草木が並んでいる。
「お前の事だからてっきり要塞みたいな所に住んでると思ってたけど、意外と綺麗な場所に住んでるんだな」
「そんな事言ってると貴方の分の食事出さないわよ?」
「すいませんでした」
目の前に美味しそうな飯が並んでいるんだ、ここまで来て飯抜きは嫌だ。
まぁ毒とかも入ってないと思うし、入ってても死なないと思うし、大丈夫だろう。
にしてもこいつが料理を作れるとは驚いた、一人パソコンの前でカップメンでも食べてそうなイメージあるし。
さて、また変な事口に出す前に飯を食べるか、実際飯を食べてる程暇じゃないがこういう時だからこそ逆に落ち着いて冷静になるのも重要だ。
俺は料理の置かれている机の側に向かうと、畳の上であぐらを掻いて座り並べられている料理を一通り見てみる。そこには米に味噌汁、漬物に煮魚といった『和』を強調した料理ばかり並んでいた
「いただきまーす!」
思えば最後にこんなまともな飯を食べるのはいつだっただろうか、俺が黙って箸を取る前にミシェルは素早く箸を掴むと上手に料理を挟んで食べている。
……ん、箸なんていつ使わせた?元々箸が使えたのか?
そんな俺を察してか、俺が神楽に聞く前に神楽の方から口を開いてきた。
「貴方この子にどんな教育してたの?箸の使い方も教えてなかったわよね、今日の朝食食べる時私が教えたのよ」
「そ、そうだったのか。ありがとな、俺は何も教えてねえから……」
やれやれ、ミシェルには柔らかい表情を見せる一方で俺にはまだ硬い。
協力するんならもう少しまともに言えないのか?まぁ飯を頂いている以上今は何も言えないな……。
あんな楽しそうに美味しそうに食事をしているミシェルがいるんだ、この場の雰囲気を壊したくもない。
俺は黙ったまままずは米を食べる、美味い。魚を食べる、美味い。漬物は……野菜だがここで好き嫌いしている場合じゃない、食べてみる。
「うま!……はっ」
その口から零れた言葉に二人の視線が俺に集まった。
いかん!?何だこの味は!この俺が野菜を食べて『うまい』と言いそうになっただと?馬鹿な、ありえん……。
「……赤ちゃんもそんなこと言ってたわよ、私が初めてその料理を出した時」
「へ?」
「好き嫌いしてるようじゃ貴方も子供ね、この子を見てみなさいよ」
言われる通りミシェルを見てみると、俺の大嫌いな野菜を美味しそうに食べている。
だがなんで食べ物の好き嫌いがあるだけで子供扱いされなきゃならないんだ?誰だって嫌いな食べ物ぐらいある。
「俺だってちゃんと食べてるだろ、全く……」
そう言って俺は内心恐る恐るしながら野菜料理を食べていく、これが本当にどれも美味しい。
ミシェルが笑みを見せながら料理を食べている意味がよくわかる。
それから俺と神楽との会話が無いまま食事が終わった。ミシェルは沢山食べ過ぎたせいか畳みの上で寝そべっている。
さて、飯は食べ終えたんだ。そろそろ本題に入るとするか。丁度神楽も食器を全て洗い終えたみたいだ、まくり上げていた袖口を戻しハンドタオルで手を拭きながら戻ってくる。
そして手を拭き終えたタオルを机の上に畳んでおくと、服のポケットから耳掻きを取り出した。
「ミシェルちゃん、耳掻きしよっか」
ミシェルにだけ向けられる微笑み、神楽はミシェルの側で正座をするとミシェルは首を傾げつつも神楽の膝枕に頭を乗せて横になる。
「みみかき?」
「そう、耳の中をお掃除するの。そのままの体勢で動いちゃだめよ?」
「う、うん!」
おいおい、俺との話よりミシェルの耳掻きか?全く、まぁ飯の後ぐらいゆっくりしたいのはわかるが時は一刻を争うんだぞ……多分。
俺の事など眼中に無いように神楽は耳掻きを始めようとする、膝枕をされて横になっているミシェルはその初めての事に緊張して体を硬くしていた。
耳にそっと耳掻きの棒が入っていくと更にミシェルは緊張して体を硬くしていたが、耳の穴の中で耳掻きが動き始めるとその緊張が嘘のように解けていく。
強張っていた顔も段々と緩みはじめ、目をとろんとさせると小さく口を開けて気持ち良さそうな表情を浮かべている。
「痛くない?」
「うん……きもちぃ……ぁ……」
ミシェル、そんな表情で俺を見つめないでほしいんだが……見られてるこっちが何か恥かしくなってくる。
にしても、耳掻きが終わったら今度はこいつ何する気だ?俺に協力するんならさっさと本題の話をすればいいのに……。
「何?そんなに見つめて、貴方も耳掻きしてほしいの?」
俺の視線がどうも気になったのか、神楽が耳掻きをしながら俺の方に話しかけてくる。
「全ッ然、耳の中に爆弾入れられそうだし絶対嫌だ。それに俺はお前がミシェルに何かしないか監視してんだよ」
「あらそう、なら監視を続けてなさい」
な、なんでてめえから命令されなくちゃならねえんだぁ?……こいつ、協力するなら早く俺に協力しろよぉおおお……!!
「ったく、俺暇だから外行って来る。すぐに戻ると思うからミシェルよろしくな」
「あら、監視はどうしたの?」
「お前がしてろ、んで話があるなら俺を探せ、んじゃあばよ」
こんな胸糞悪い時に話なんて出来るか、外の空気でも吸って落ち着くのが一番だ、そう、冷静になるんだ俺、この女は使えるんだ、散々利用したら後はもう用済みだ。
……玄関にちゃんと靴置いて有るんだな、俺は自分の靴を履くといつもよりゆっくりとした足並みで森の中を歩いていく。
考えてみれば神楽も同じかもしれない、奴も俺が使える存在と知っている、なんたって俺程不思議で謎の存在なんてERRORや神ぐらいだからな、そんな存在が身近にいるんだ、俺に近づいてきてもおかしくない。
……ミシェルも同等の存在だが、恐らく奴はミシェルに手は出さないだろう。手を出すなら俺が寝ている内に何とでも出来るはずだ。
そもそも俺の身を自由にしているということは、奴が何も疚しい事はしていないという証拠だ。もし何か少しでもそんな事をしていれば俺が黙っちゃいない事ぐらい奴も知っているから───。
だー、せっかくこんな良い天気で良い空気が吸えてるってのに俺は何をごちゃごちゃと考えてるんだ、とりあえず俺もミシェルも無事!んで神は殺した!後は過去に帰るだけ!いたって簡単じゃないか。
俺は家から出た後一直線に森をある程度歩いていると急に道が開け、そこには長い石段を延々と伸びていた。どうやら神楽のいた家は丁度山の上にあるみたいだな、石段を降りていくとその山の麓に町があるのが見える、とりあえず俺はこの長い石段を下りてその町に行ってみることにした。
───「誰も……いない……?」
町に来る途中から段々とおかしいとは思っていた、人の姿も無ければ車も走っていない、それに音という音が一切聞こえない町。
聞こえるものと言えば僅かな小鳥の鳴き声と自分の足音程度だ。
人一人いない町なんてどう考えても不気味すぎる、俺は夢でも見せられているのか?
「現実よ、この町の人達は全員避難したからいないのよ」
俺の考えている事をずばり当てた神楽の声に俺は振り返ると、奴はいつのまにか俺の後ろに立っていた。
「お前いつのまに!?って、それよりミシェルはどうした」
「お昼寝中よ、邪魔しちゃ悪いでしょ?」
「監視しとけよ……まぁいい、これでやっと二人きりで話せるんだからな」
「あら、プロポーズでもしてくれるのかしら」
……いいや駄目だ、こいつのペースに巻き込まれるな。
俺は真剣な顔つきで神楽に見つめ続けると、神楽は目をきょとんとさせ首を傾げる。
「そんな怖い顔しないで、冗談よ?」
「もういい、お前から話さないなら俺がちゃっちゃと話しを進める。俺が過去に戻るには二つのものが必要だ、一つは強大な魔力、一つは過去へ帰る方法。この二つだ」
「貴方はその内の一つも持ってないの?」
「……神との戦いで魔力を失った、帰る方法は正直よくわからん」
ここでミシェルが側にいるから魔法が使えない、とでも言えば神楽がミシェルを殺しかねない。例え俺が魔法を使えなくても大量のレジスタルがあれば問題無いし、帰る方法を探す手段なら俺に考えがある。
「それで、失った魔力と帰る方法はどうするの?」
「魔力は俺が神を殺した時に出てきたレジスタルがあるだろ、アレを上手く利用する。そしてもう一つの方法についてだが、SVに行けば何かわかるかもしれないな」
「どうして?」
「SVは他世界から来た魔力を持つ連中だ、過去に行ける魔法に関しての情報を持っているかもしれないからな」
「へぇ、初耳ね……まさかそんな身近に他世界の人間がいるなんて思いもしなかったわ」
さてと、これで神楽には俺がこれから何をするのかが理解できたはず。
俺は教えた、後はお前にも教えてもらうぞ、お前の目的を……。
「神楽、お前は俺を嫌っていたはずだ。だが何故今になって俺に協力すると言いだしたんだ、答えろ」
素直に答えてくれる奴じゃない、だがこういう奴には単刀直入に聞いた方が早い。
というより俺は回りくどく聞くのは苦手な方だからな。まぁ神楽は俺の思ったとおり、少し空を見上げたまま何も話そうとしない。
「言えないのなら俺はお前に協力されたくない、レジスタルを返せ。拒否するなら力ずくで返してもらう事になるけどな」
俺の挑発的な言葉を聞けばこいつも本音を話すんじゃないのだろうか、どうせ表面だけ俺に協力するだけだったと思うし。
「……甲斐斗、貴方には過去に帰ってもらわないと困るのよ」
心地よい風と共に神楽の小さな声が俺の耳に入ってきた、先程までの威勢と態度は何処にいった……?
それから神楽は話し始めた、悲しげな表情を浮かべながら淡々と……。
「神の力によりNFの主力基地は全て壊滅したの、知ってるわよね。これでもうNFの人達が避難する場所は何処にも無いのよ、でもこの町の人達は避難した、何処にだと思う?」
その質問に俺は答えなかった、答えられる雰囲気ではないというか、こんな晴天の下で話しあっているにも関わらず、俺の周に漂う空気の重みは尋常じゃない。
「答えは海底よ。NFが地下都市を作っていた事は貴方も知ってるでしょ?NFは神との戦いに負けた百年前から建設していたのよ、遥か海底の奥底に作る人類最後の逃げ場をね」
そこにNFの民間人は今避難させられているというのか?って事は、つまりNFは……。
「諦めたのよ。NFは……この世界を」
NFが、諦める?この世界を、人類を、全てを?……傑作だな、笑える。
だが俺の顔に笑みなんてものはない、真剣な眼で俺と神楽は互いに見詰め合っていた。
「戦力の激減したNFは恐らく神の力を利用しようと考えてるでしょうね、だから貴方が神を倒した後にすぐ現れ神のレジスタルを奪おうとした」
なるほどな、むしろ神が倒された方がNFにとっては好都合だったのかもしれない。
利用できない神なんてただ邪魔でしかないからな。
「そしてそれは私に阻止されたの、だからNFは最後の手段に出るわね」
最後の手段?海底に逃げる事が最後の手段じゃないのか?
「核兵器を使用しERRORと最後の決着をつける気よ……笑えるわよね。兵器を排除し平和な世界を目指すはずのNFが、この世界を跡形も無く消す程の核を保有してるなんて」
俺は元々NFがそんな平和集団だと感じた事は一秒も無いが、核兵器を使う状況に立たされているという事は本格的にこの世界は終わりを迎えそうだ───。
その時、俺は漸く神楽の目的に気付かされた、神楽が神から出たレジスタルをNFに渡さなかった理由は、つまり───。
「神楽、お前まさか……」
俺に促されるように神楽は溜め息を吐くように煙草の煙を吹くと、俺から目をそらし空を見上げて口を開いた。
「私は諦めたのよ……この世界を……」
……綺麗な青空だ、神楽につられて俺も空を見上げてみたが、こんなにも綺麗な空や景色が広がっている。
そんな景色を目に焼き付けるように神楽はじっと見上げたまま視線を反らさない、最後の見納めとでもいうのか?
こいつが、神楽が、世界を諦める。という事はつまり、こいつは自分がこの先生きていく事も諦めているということだが……信じられない。
「世界を、あの頃の日常に戻すには貴方が過去に帰ってもらわないと困るの、そしてこの世界を───」
「救えって言うのか、この俺に」
たしかに、俺が百年前に帰る事が出来ればこの世界だけじゃなく『ERROR』という化物を何とかできるかもしれない。そうすればこの世界も他の世界も皆救われる、だが……。
「嫌でも救わなくちゃならなくなるわよ、貴方だって過去に戻ったらERRORをどうにかするでしょ?しないとこの世界みたいに取り返しのつかない事になるんだから」
それで人頼みか?ERRORをどうにかするって、俺に全世界を救えって言うのか?
いや、こいつは全ての世界にERRORがいるのは知らないと思うが、ERRORを消すのは絶対に簡単な事じゃない。
「貴方が無事過去に帰れば未来を変えられる、だから私は貴方が無事帰れるように手助けするの。これが私の目的よ」
「じゃあ、お前はもうこの世界に未練は無いって事か?赤城達は今もERRORと戦っているんだぞ……!お前はこの世界の為に何もしないのか!?」
「してるじゃない、貴方を過去に帰せば未来であるこの世界は救われる。最も、貴方が過去に戻りERRORに勝てばの話だけどね」
やれやれ、未来にいても過去にいても、結局俺には戦いしかないのか。
過去に戻れば神との戦いにまた巻きこまれ、更には未知の化物とも戦わなくちゃならねえのか?
いや、百年前に戻ればERRORを根を潰す事が出来るかもしれない。……ERROR、俺は今まで数多くの世界を見てきた、そしてERRORと似た化物は飽きる程見てきた。
だがこの化物だけは唯一次元の違う世界にも現れている、しかもそれが世界全体に。
更には全ての世界が全てERRORに占領され、人間の生き残っている世界はこの世界だけだぁ?
そんな話俺は今でも信じられないし、信じていない。だがERRORがそれ程まで厄介な化物だという事は嫌でもわかる。
「甲斐斗」
久しぶりに神楽の口から聞いたな、俺の名前。
「もうじき人類の命運を懸けた最終戦争が始まる。貴方にもその戦いに参加してほしいの」
「ん?俺がその戦いに参加しなくても過去に帰ればいいんじゃないのか?」
それにその戦いで俺が死ぬ危険があるかもしれないんだぞ、まあ死ぬ気は微塵も無いが。
「貴方の言うレジスタルが必要なの、神から取れた分もあるから大分足りてきたんだけど、もっと必要なのよね。それを破壊された機体の残骸や機体に擬態したERRORから取ってきてもらいたいのよ」
おいおい、あれだけ大量のレジスタルを取っておいてまだ必要だと……?
「その大量のレジスタル、俺が過去に帰る為だけに使うもんじゃなさそうだが……まぁいい。俺もSVに行って情報収集がしたかったし、それついでに戦いに行ってやるよ」
ふう、神楽の本音も少しは聞けたことだし俺も何か安心できた。
にしてもついに始まるか、人類とERRORの最後の戦争が。
NF、BN、SV……ERRORとの戦いに、勝てるのだろうか?まぁ俺には関係の無い話だな、俺は過去に帰る、それだけを考えればいい、それだけを───。
───「やっほ〜」
この能天気な声を聞くまで俺は忘れていた、そして今思い出した。この世界はそんな単純なものだけじゃない、醜く濁り、捻れ蠢いている、何が起こるかわかったもんじゃない。
敵はERRORだけか?違う、人間同士の争いはそう簡単に終わらない、終われない……!
「あれれ〜?甲斐斗私に内緒で他の女とデートしてたのー?」
「そんな訳無えだろ……アビアッ!」
桃色の髪を靡かせ俺と神楽との間に舞い降りる一人の女、それだけじゃない。アビアの登場と共に上空から龍に跨ったロアまで降りてきた。
「お久しぶりです!甲斐斗さん!」
「ロア!?久しぶりだが、どうしてお前がここにいる、それにどうやって俺の場所を……」
ふと俺の視界に入った神楽、きょとんとした表情で目の前に立っている龍を見つめている。
「驚くのも無理は無いな、ちなみにこいつ等は俺達の敵じゃないから変な事はするなよ」
「何もしないわよ、それよりこの龍の血を採りたいんだけどいいかしら?」
さすが神楽、目の前にこんなおっかない化物がいるっていうのに平然としていられる。
というかなんで血を採るんだよ、十分変な事じゃないか。
「甲斐斗ー!神との戦いに勝ったよね〜!すごーい!!」
「お、おい!抱きつくな!離れろ!」
既に俺が神に勝った事を知っているのか、全く、こんな所に来たって事はそんなに俺と会いたかったのか?
とりあえず抱きつくアビアを俺から離すと、アビアはニコニコと笑みを見せながら俺の方を見てくる。
すると突然何かを思い出したかのように手を叩き口を開いた。
「あ、そうだった。テトから伝言預かってきたよ〜」
なっ、あの男から伝言だと?聞いてやろうじゃねえか、俺が神に勝った事で奴も悔しがってるんじゃないのか?奴の顔が見てみたいものだ。
「Deltaプロファイル」
「……Deltaプロファイル?」
その言葉、たしか神も言っていたな。だが今になってはどうでもいい言葉だ、神が消えた今、何の意味も無い。
「それは第三の選択。君は近いうち知る事になる……そしてそれを知り絶望する君の表情を見に行くから待っててね。だーってさ!伝言おーわり!」
そう言ってまた俺に抱き付こうとするアビアを必死に突き放す俺。
第三の選択?俺が絶望?あの野郎、何を企んでいやがるか知らねえが、過去に帰る前に一番殺しておきたい奴だな。
とりあえず聞く事も聞いたし、ミシェルの元に帰るか、一人で寝かせていたら不安でしょうがない。
「神楽、とりあえずミシェルの所に戻ろう。そこで俺達はこれからの事についてもっと話し合わないとな」
「こ、これからの事って。甲斐斗、やっぱりあの女と……」
「だから違うっての!お前もロアもとりあえず来い!詳しい事情はそこで全て話す!」
先程までの重い空気はそこには無い、俺も少しは気が晴れたが、やはりあの男、テトの言葉がどうも気に掛かる。っま、何れ分かる事らしいし、自分から無理に頭突っ込んで知る必要も無いだろ。
……人類の存亡を懸けた最終戦争、それに俺は生き残り、過去に帰る。
過去に帰れば神楽の言っていた通り、何とでも未来を変える事が出来る……まぁそれは俺が変えたらの話しだがな。
赤城達は未来を変える為に行動し、俺達は過去を変える為に行動する、面白いな。
例え目的が違おうとも望みは一緒だ、それに俺は赤城との約束を忘れたわけじゃない。
それまで何としてでも生き残れよ、赤城。