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第85話 因縁、躊躇い

───基地から脱出したBNの戦艦は市街地に到着し艦を停止させていた。

町には化物に成り果てた人間がさ迷い、次々に逃げようとする人間達を殺していく。

会社でもそうだ、スーツ姿の人間の頭からムカデのような胴体に人間の手足が生えていれば、学校にいる子供の頭が四つに増え顔中口で埋め尽くされている。

突然の出来事に人々は混乱し、人間が化物を殺し、疑心暗鬼にとらわれ人間が人間を殺していた。

助けてくれるはずの軍や警察までもが化物に成り果て、人々は市街地に来た艦へと必死に走り寄って行く。そしてそれを見つけた化物達を艦を多い囲むように集まり始める。

我雲に乗り艦の外で市民達を誘導していた香澄達もその状況と人数に困惑していた。

「早く大勢の人を艦に入れたい、けどもしあの中にERRORが紛れ込んでいたら……」

司令室にいる兵士たちも艦の入口は開こうとせず、市民達が助けを求めて声を上げて必死に艦に寄り添っているのを辛そうに見つめていた。

「歩兵で掃討するにしても数が多過ぎる、だからと言って機体で蹴散らすとしてもこの状況じゃ動けない……」

我雲の足元には逃げ惑う人達で溢れ、不用意に動けば市民に危害を加える恐れもある。また射撃を試みようとしても人間と化物の数が多く撃てば市民に被害が出る可能性もあった。

すると、先程まで閉められていた艦の扉が開いていくのが見える。

「そうね、市民を艦内に入れるのが妥当な案。でもそれじゃ艦自体が危険に晒されるリスクもある……何も起きなければいいんだけど……」

次々に我先にと人を押しのけ艦に乗り込んでいく市民達。皆同じ。死にたくない、それだけだ。

既にそこまで醜い化物が押し寄せてきている、誰もが恐怖を抱き生きる為に必死になるのは当然の事。

香澄の乗っている我雲の足元にいた人達も既に艦へと向かっていたが、一人だけ機体の足元に蹲ったまま動こうとしない少年がいた。

「何をしてるの!?早く逃げなさいよ!」

香澄が機体から少年に呼びかけるものの、少年は恐怖で震え、苦しそうな表情を浮かべながら跪き動こうしない。少年の近くには既に化物が歩み寄り近づいてきていた。

すると香澄は機体を屈ませると少年の眼の前に機体の手を広げ指示を送る。

「そこに乗りなさい!早く!」

言われるままに少年は機体の手の平に乗ると、我雲は少年を落とさないように機体を安定に保ちながらその場を離れていく。

「こちら香澄、民間人を一人保護しました。一度艦内に戻ります、あとこの子もERRORの可能性があるから十分に注意して!」

艦の格納庫に入っていく我雲は真っ先に手の平に乗っている少年を下ろしにかかる、周りにいた兵士達も皆銃を構えながら恐る恐る少年に近づいていく。

だが少年は何の抵抗も見せず、少年は兵士達に腕を掴まれると避難所にまで連れて行かれる。

その様子を見た後我雲が艦から出ようとした時、レーダーに一体の機体が反応した。

「NFの機体?それも基地方面から……?」

香澄の乗る我雲が艦から出ると、艦の周りいる機体達は皆停止しその現れた機体の方に体を向けた。

長刀を背負い、腰には二本の鞘が付けられており、右肩には巨大な大砲が付いてある機体……。

「大和!?どうしてここに……!」

他の兵士達も皆同様していた、我雲、ギフツ、そしてアストロスも大和に武器を構えたまま様子を見ていた。

すると大和の右肩に付いてある大砲の先端が光り輝き始めるのが見えた瞬間、その場にいた兵士達が一斉に動き出した。

「LRC!?全機散開しつつ大和の動きを止めてッ!艦に撃たれたら終わりよ!」

香澄の声に周りに立っていた我雲達が銃を構え大和に向けて一斉に射撃を開始する。

すると大和は高層ビルの間に隠れ銃弾を避けると、溜めていたLRCを発射した。

眩く巨大な閃光はビルを貫通し攻撃してきた我雲達を飲み込んでいくが、LRCの射線上には艦の姿は無かった。

間一髪LRCから逃れた戦艦、だが周りにはまだ助けを求め近づいてくる民間人達で犇めき合っていた。一刻も早くこの場から退避したいが、今艦が動けば回りにいる民間人に被害が出る。

だが動かなければ艦自体が危い、そしてそれはもう既に起きていた。

LRCで吹き飛ばされた高層ビル、下の階を吹き飛ばされビルはBNの艦に向けて大きく倒れ始める。

「そんなっ!?」

轟音と共に艦の方に傾き始めるビルに、周りにいた機体達は何もする事が出来ない。

あと数秒もすれば高層ビルは完全に艦の方に倒れ、簡単に艦を押し潰して破壊するだろう。

絶望的な状況の中で刻々と迫る時間、逃げる事も助ける事も出来ず、覆いかぶさるようにビルがこちら目掛けて倒れこんでくる。

『全兵装攻撃を開始します』

スピーカーから聞こえた女性の声と共に、艦の甲板に立っている一体の機体が倒れてくるビル目掛け一斉に攻撃を始める。

両肩のレーザー砲に両腰に付いてある砲身、更に背部からは無数のミサイルが飛び出し両手に持っていた機関銃を発射していく。

ビルは爆煙を上げながら崩れ落ち、一瞬にして辺りを灰と塵で飲み込んでいく。

だがBNの艦に覆いかぶさる箇所だけは的確にアストロス・ガンナーが全て掻き消していた。

『艦の被害は抑える事が出来ました、しかし周りにいた人達が……』

艦に大きな被害はでなかった、だが艦の周りに集まっていた人達は皆瓦礫に埋もれ今は見る影も無い。

その光景を見て悔しがるシャイラに、SVのアリスは無線で声を掛けた。

『シャイラ!貴方がいなければ私達は死んでいたのよ……助けてくれて、ありがとう……!』

『はい、お嬢様。ありがとうございます……しかしここはまだ危険です、早く安全な場所に避難して───ッ!?』

辺りは煙に包まれ視界は0のはず、だがレーダーには我雲やギフツの反応が次々に消えていく。

兵士達は悲鳴も何も上げる事なく次々に機体を破壊されて死んでいく、状況がわからぬままどうしていいのかわからず佇む機体達に、大和は容赦などしない。

急いで艦が後退していくと、残っていた機体達も煙の中から出ようと一緒に艦の元に後退していく。

「た、助かった……雪音、そっちは大丈夫?」

香澄も何とか煙から逃れ艦と共に後退していくと、雪音の乗った我雲もまた艦と共に後退していた。

「は、はい。何とか無事です、でも民間の人達が……」

今にも泣きそうな表情の雪音に、焦りと緊張、そして危機感に香澄の顔は強張っていた。

「私達は出来るだけの事はした……だから雪音、私達は今から全力で艦の護衛するのよ、それが私達の役目であって、私達にしか出来無い事だから……!」

心強い香澄の励ましに、雪音は何かに気付かされたように目を見開くと、急いで目元の涙を拭うとしっかりと操縦桿を握り頷いてみせた。

「はい!頑張ります……!」

艦の周りにいた機体達が皆銃を構え引き金に指を掛ける。レーダーに反応有り、煙の中から颯爽と現れたのは二本の刀を握り締める大和の姿だった。

『全機攻撃を開始、大和を艦に近づけさせてはなりません!』

シャイラの命令にアストロス達は一斉に大和に向けて射撃を開始する、それに合わせて我雲、そしてリバインもまた大和に向けて引き金を引いた。

十機以上もの機体に一斉射撃をされる大和、だがそんな攻撃を建物の影に隠れながら避けていき着実に艦へと近づいていく。

それに焦ったSVの兵士達は銃をアストロスの背部に仕舞いLRSを抜き取ると、迫ってくる大和目掛けて突撃していく。

「射撃で奴の動きは止められないのなら近接戦闘に持ち込むまでだ、全機大和の四方を囲み突撃せよ!」

四機のアストロスが横一列に並び大和へ近づいていく、そして三体の機体が大和を囲むように移動していく。

「奴は例えERRORでも大和……単機決戦が不利なら数で押すまでだ、各機俺に続け!」

「了解ッ!」

大和の四方を囲むアストロス達、全機がLRSを構えると同時に出力を上げて大和に飛びかかった。

……ふとその時、一瞬大和の刀が動いたような気がした。微かにブレるように動きだが、瞬きをすれば何も動いていないように見える。

誰もが不思議に思い自分の眼を疑っただろう、大和の四方を囲み突撃したはずのアストロスが大和に掠る事無く擦れ違い、地面に崩れ落ちる。

大和は何事も無かったかのように艦へと近づいてくる、崩れ落ちた四体の機体は火花を上げると同時に爆発を起こした。

……今、何が起きたのか。わからない、だがアストロス4機が一瞬で破壊されたのは事実。

「これが……大和の力だって言うの……?」

『いや、あれは大和の力じゃない』

目の前で4体の機体が破壊された事に驚きを隠せない香澄、そんな香澄の口から零れた言葉に一人の女性が答えていた。

艦から出撃する一体の赤いリバイン、盾を持ち、LRSを構え、甲板の上に着地する。

『伊達武蔵……奴の力だ』

一部始終を見ていた赤城にとっては十分な情報だった、後は互いに刃を交えれば自ずとわかる事。

『全機撤退しろ、ここは私が食い止める』

その赤城の無茶な発言にその場で機体に乗っている兵士達も困惑した表情をみせた。

「な、何言ってるの!?相手はあの大和なのよ、一人で勝てる訳が無い……!」

香澄の言う事は恐らく誰もが思っていただろう、先程の光景を見ていたら尚更だ。

『かもしれん、だが……お前達が束になってかかっても大和に勝てないのは確かだ、恐らく傷一つ付ける事も出来まい』

その挑発的とも言える赤城の発言に香澄が眉を顰めると、此方も同様に挑発的な態度で言葉を返した。

「豪く自信があるわね……いいわよ、それなら勝手にすればいい。私達は艦の護衛をしつつ大和から離れるわよ!」

由梨音の乗るリバインが甲板から路上に降りると、赤いリバインとリバイン以外の機体は全機艦と共に後退していく。

『感謝する……由梨音、お前も艦の護衛に回れ。ここから離れるんだ』

赤城の呼びかけに由梨音の乗るリバインは動こうとしない、それ所か背部から銃を取り出し赤いリバインの横に並ぶと大和目掛けて照準を合わそうとする。

『い、嫌です!私も赤城少佐と一緒に戦います!』

赤城の命令を拒否する由梨音、その震える手で操縦桿を握る姿に赤城は声を上げた。

『馬鹿な事を言うなッ!お前は知っているはずだ、奴の強さを』

NF、そして武蔵と同じ部隊に所属していた二人は知っていた、武蔵の尋常じゃない強さ、恐ろしさを。

東部最強の男、恐らく本部にいればNF最強と謳われていただろう。真の英雄……。

『だからこそ赤城少佐を一人で戦わせたくないんです!赤城少佐はいつもそう、危険な時があるといつも私達を守ろうとする。でもその気持ちは……私だって同じなんです!』

幾度と無く助けられてきた由梨音にはこれ以上耐えられなかった、非力な余りいつも赤城に助けられ、守られていく事に。

『私も役に立ちたい!私だって赤城少佐守りたいんです!だから───っ!』

大和の実力を知っているはずなのに、それでも由梨音は逃げようせず立ち向かおうとしている。

それは赤城の後姿を見たからかもしれない、たった一人で大和に立ち向かう無謀とも思える姿を。

『由梨音……すまない』

小さく呟いた後、赤城の乗るリバインはLRSを振り上げ横に立っているリバインの銃を斬り落とすと、LRSを背部に仕舞い由梨音の乗るリバインの背部からLRSを抜き取る。

『あ!?赤城少佐ぁ……そんなぁッ!』

両方の武装を失うリバインに、赤いリバインは一歩前に踏み出した。

そして赤城は無言で通信を切ると、迫り来る大和目掛けて発進する。

『ああ……私だって、赤城少佐を守りたい……それなのにぃっ……!』

悔しがりながら震える手で操縦桿を握り締める由梨音。いつも守られてばかりで、いつも助けられてばかりの赤城に、新たに支給されたリバインでやっと役に立てると思えば、結局いつもと変わらず。赤城はそんな気持ちを抱く由梨音を知らない、嘗て自分も同じ立場だったにも関わらず……。


───赤城の乗るリバインは既に大和の前にまで来ていた、大和は二本の刀を握り締め身構えると、リバインも同様にLRSと盾を構え大和を迎えうつ。

そして次の瞬間リバインと大和が擦れ違い様に互いは刃を振るい駆け抜けた。

『……やはりな』

振り返るリバインは無傷でその場に立っていたが、同様に振り返る大和もまた無傷のままだった。

『SRC、癖までも似るとは流石だ。更に私の癖も把握済み、つまり───』

再びLRSと盾を構え体勢を立て直すリバイン、大和も同様に二本の刀を握り締め身構えると、リバインは勢い良く大和向けて発進する。

『その機体に乗っているのは貴様なんだろ、武蔵ッ!』

大和目掛けて振り下ろすLRS、すると大和はほんの少し刀を動かしただけでその攻撃を難なく弾く。

弾かれたLRSだがリバインは刃先の向きを変え今度は大和目掛けてLRSを突き出すが、大和は片方の足を一歩下げると、機体擦れ擦れの距離で攻撃をかわしてみせる。

『答えろ!』

その言葉と共に左手に持っていた盾を大和にぶつけるが、大和は微動だにしない。

だが完璧に間合いに詰め寄っている赤城は盾を放した後すぐさま左手で背部にあるLRSを抜き取ると、それを大和の右肩目掛け振り下ろす。

すると大和はそれを右手に持つ刀のほんの刃先で払うと、一瞬にしてリバインの左肩を斬り落とした、だがそれだけではない、赤城の注意が左肩に向けられた時を見計らい大和は左手に持つ刀を振るいリバインの右肩を斬り落としにかかる。

更に右手に持つ刀はリバインの左肩を斬りおとしたと共に刃の向きを変え振り上げるようにリバインの胸部を斬りかかろうとすると、赤城はリバインの右足を上げ、勢い良く大和の腹部目掛けて蹴りを入れた。

蹴り飛ばされた大和は後方に少し飛ばされ体勢を崩すと、その隙を狙いリバインが残った腕でLRSを振り上げる。

だが倒れた大和は咄嗟に大砲がリバインに向け榴弾を放つ、だが赤城は攻撃を読んでいたかのように華麗に榴弾を避けると、倒れる大和の懐に入り剣先を胸部に突きつけた。

……互いの機体は先ほどの荒々しい戦いを感じさせない程静止していた。

倒れた大和は胸部にLRSを突きつけられ、またリバインも突きつけたまま止めを刺そうとしなかった。

『武蔵……なのだろ?』

赤城の呟きに大和は動かぬまま何も答えない、それを見るに見かねて赤城は更に言葉を続けた。

『どうして答えないんだ……違うなら違うと言えばいい。だが、武蔵本人なら何故名乗らないッ!』

声を出せば出す程感情が高まり涙が込み上げて来る、今まで溜め込んでいた気持ちが爆発寸前にまで膨れ上がっていたのだから無理もない。

『答えられぬか?ならば力ずくでも確かめさせてもらうまで……!』

そう言うとリバインはLRSをの刃先を大和の胸部に近づけていくと、ゆっくりと胸部に穴を開け始めた。

だがその瞬間大和の目が強く光ると、素早く胸部に突きつけられたLRSを振り払い、一瞬で立ち上がると共にリバインから離れた。

大和の突然の動きにリバインはすぐさまLRSを構えて見せたが、その大和の異様な様子に赤城は目を見開いた。

両手から刀を落とし、頭の痛みに耐えるかの様に手を当て苦しむ大和。

リバインはLRSを構えたまますぐに近づこうとしたが、その瞬間大和は頭から手を放すと、地面に落ちた刀を両手に吸い寄せ体勢を立て直した。

……既に先程とは何かが変わった大和がそこに立っていた、先程の明らかに違う雰囲気に赤城もすぐに理解できた。

そう、人としての感情は何も伝わってくる事が無く、そこにはもう目の前の敵をただ斬るだけの敵が立っているだけだという事に。

『赤城少佐ぁッ!逃げてぇえええええ────!!』

由梨音の叫び声、そして距離を置いていたはずの大和は既にリバインの眼の前にまで接近していた。

『なっ───』

大和相手に腕一本では如何する事も出来ない、だからと言って今背中を見せれば確実に殺される。例え抵抗しても結果は同じ、今の大和には倒すことも、逃げることも出来ないと悟った。

『だが……しかしッ!』

ここまで何もしてこなかった訳ではない、武蔵の動きを計算、予想、研究し続けた赤城にとって、今この時を逃すわけにはいかなかった。この期をだれだけ待ち望んでいた事か、そして武蔵と出会える事をどれだけ願っていた事か……。

『私は───』

片腕だけでLRSを構えるリバイン、その余りにも無謀な行動を読んでいたかのように由梨音の乗るリバインが2機の間に入ると両手に持っている手榴弾を大和目掛けて投げ込む。

『生きていれば必ずまた大和と会えます!でも、今ここで死んじゃったら絶対に会う事は出来ません!』

手榴弾が爆発すると同時に由梨音の乗るリバインが赤いリバインの腕を掴むと、強引に大和から引き離していく。

『だから赤城少佐、今は未来の為に……逃げてください!』

目先の事だけには囚われてはいけない。

生きる目的は今の為じゃない、明日の自分の為だ、由梨音の言葉に赤城は少し俯くと操縦桿を素早く動かし由梨音の乗るリバインの手から離れると、自らの意思で大和から離れていく。

『お前に気付かされる時が来るとはな……礼を言うぞ、由梨音』

爆風の中から現れリバインに接近する大和、すると2機のリバインは息の合った動きで跳び上がると、左右にかく乱しながら共に後退していく。

『艦からは大分引き離す事に成功した、後は我々が大和から逃れるだけか』

『でも、大和との出力の差は大きいです。どうやってあの大和から……』

町中に立ち並ぶ建物の間をすり抜けていく二機のリバインに、大和は思うように近づけずにいる。

『二機逃げ切るのは難しい、だが一機だけなら……』

『それなら私が囮になります!だから赤城少佐は───!』

後方から放たれる砲弾を間一髪で交わすリバイン、そのまま注意を引きつけようと赤城の乗る赤いリバインから離れようとした時、赤城は何かを思いついたかのように小さな笑みを見せた。

『囮か……わかった、その手を使わせてもらう』


───大和をかく乱する二機のリバインだが、二人の動きは長くは通用しなかった。

徐々に大和に動きを見切られていき、僅かな隙を逃さず接近してくる。すると二機のリバインは町の中心に聳え立つ一本のビルに向かっていくと、由梨音の乗るリバインが両手に二つずつ握り締めている手榴弾をビルの中に投げ込んだ。

ビル内部で爆発する手榴弾、投げ込まれた階の柱は爆発により吹き飛ばされ瞬く間にビルが崩れ落ちていく。

煙に埃、塵などが一斉に舞い上がり、周辺の建物を次々に飲み込んでいくのを見た大和は、大砲を崩れ落ちるビルの方に向けると眩い閃光と共にLRCを発射した。

目の前に広がる塵や煙を掻き消していくLRC、視界が開けていくとそのビルの残骸の上にはLRSを握り締めた赤いリバインが立ちはだかっていた。ふと周りを見渡すが由梨音の乗るリバインは見当たらず、大和は赤いリバインの方を向くと刀を構え体勢を低くする。

すると赤いリバインも同様にLRSを構えると、まるで大和を頃合を見計らうかのように動こうとしない。

互いの機体が睨み合い、刀を構える様子……何の前触れも無く大和は発進すると見る見る赤いリバインとの距離を縮めていく。

そして大和はリバインと擦れ違い様に刀を振るい機体を止めた。

大和の攻撃に何も出来ず赤いリバインは斬られ、閃光を放ちながらその場で爆発を起こすが、大和は刀を鞘に納めようとはしなかった。


───その頃、既に大和とは遠く離れた場所に由梨音の乗るリバインがBNの艦にまで向かっていた。

「どうやら作戦は成功したみたいですね、赤城少佐」

そう言って由梨音は顔を横に向けると、その狭い操縦席の隣に赤城が立っていた。

「ああ、奴の事だ。恐らく私が囮になり部下を逃がす事は読めていたはず、それを逆手にとらせてもらった」

「でも危なかったですよ。AMOSを入力する時間、それに一歩間違えていれば赤城少佐がこのリバインに乗る姿を見られていたかもしれませんし……」

手榴弾でビルを崩壊し大和の視界を奪ったのには理由があった、一つは由梨音の乗るリバインを逃がす事、そしてもう一つはタイミングを見計らい由梨音のリバインに乗り込む事。

後は赤城が機体設定をAMOSに入力したプログラム通りに機体を動かすだけだった。

「まあな、だがこれを成功させなけれ私達が逃げる事は難しかった。幸いにもLRSを構えるプログラムが何とか作れたから良かったがな。今頃大和は私の狙いに気付き私達を探していると思うが、既に手遅れさ」

二人が安心して小さく息を吐いた矢先、突如レーダーに機体の反応が示される。

一瞬警戒し身構える二人だったが、二人の前に現れたのは紳の乗る白義だった。

「大和はどうした、お前たちが囮になっていると聞いたが……?」

「なっていたさ。今は大和を振り切り艦へ向かっていた所だ、早くこの町から離れなければまた大和に見つかってしまう、その前に早く町から離れなければ……!」

「わかっている、今は戦う時ではない。……ついてこい」

純白のマントを靡かせながら艦にまで向かう白義、その後ろを二人の乗るリバインがついていく。

赤城の脳裏にふと映る大和の姿と、おぼろげに映る武蔵の笑顔。何故武蔵は自分達の前に立ちはだかるのか、何故ERRORと共に行動しているのか、考えれば考えるほど悪い方向へと流れていく。

「赤城少佐」

その不安を晴らすように由梨音が優しく赤城の名を呼ぶと、笑みを見せながら口を開いた。

「焦らず一緒に頑張りましょ、私はずっと赤城少佐の側にいますから」

戦場で見せる由梨音の温かい笑みに、赤城は微かに笑みを見せると由梨音の肩にそっと手を置いた。

「言ったな?約束だぞ、ずっと私の側にいてくれ、ずっとだ」

「はい、約束です!」

赤城の言葉に由梨音は嬉しそうに頷き答えるが、赤城の方は少し深刻な表情で由梨音の横顔を見つめていた。

考えたくなくても考えてしまう、戦争が長引いていけば何が起こり、何を失うのか。既に肌身で感じている赤城にとって、決して他人事では無い───。

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