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第83話 革命、故

───神と甲斐斗の戦いを見ていたアビアは、モニターの電源を消した後満足そうな笑みでベッドの上で横になるが、すぐさま起き上がると突然服を脱ぎ始める。

その唐突な行動にソファに座っていたロアは顔を赤らめ慌てて後ろに振り返る。

「あ、アビアさん!?突然なんですか!」

「甲斐斗に会いに行く前にシャワー浴びなくちゃねー」

慌てふためくロアを尻目にアビアは椅子に掛けていたタオルを手に取ると、アビアは一人浴室へと向かっていく。

部屋の扉が閉まる音を聞いてようやく振り返る事の出来たロアだが、目の前には先程までアビアの着ていた服が散乱しているのを見てまた慌てて後ろに振り向くと、そっと溜め息を吐いた。

「あの力はたしかにすごかった。けどあの力があればERRORに勝てるとは思えないし、まだ安心できない……」

そう思ったロアは今自分がこの場にいていいのか疑問に思った。

こんな場所でのんびりしている場合じゃない、何かERRORに繋がる情報が欲しい、誰かの力になりたい。

その為には行動しなければならない、この世界にERRORがいる時点で平和な世界ではない、逃げる事が出来ないなら立ち向かうしかない。

ソファから立ち上がるロア、そのまま部屋から出ようと扉に向かおうとした時、部屋の扉が自動で開くとそこには一人の青年が立っていた。

「おや、アビアが男を部屋に連れてくるなんて珍しいね」

青年はそう言うと部屋の中に入りアビアを探すかのように見渡すが、部屋に落ちていた服を見て理解できた。

「またシャワーか。じゃあ君、お楽しみの前に今から僕が言う事をアビアに伝えておいてくれないかい?」

平然としたテトの態度とは裏腹にロアは身動き一つ取れないでいた。

言い様のない気配と雰囲気、明らかに普通の人間とは思えない程の何かが漂っていた。

「ああ、わかった……それで、何を伝えたらいいんだ?」

「うん、それは───」

……ロアに伝える事を伝えた後、テトはアビアの部屋を後にする。

そして自分の部屋に戻ったテトは、まるで何かを楽しんでいるかのように微笑んだままでいた。


───BN軍の基地で会議をしていた紳達、甲斐斗の勝利により一時騒然となっていたが更にNFの戦艦の登場と羽衣の出現に困惑していた。

だが紳はモニターに映っていた映像を消すと、一人立ち上がり話を始めた。

「NFが何を企んでいるのかわからないが、神も消えた事でERRORとの戦いに専念するはずだ。これで少なくとも人類同士での争いは消える」

「後はもう一つの脅威、ERRORだ。奴等を絶滅させない限り人類に光は無い」

甲斐斗と神との戦いを映し出していたモニターには今まで調べてきたERRORに関する資料が映し出されていく。

「奴等の数は未だ不明、軍の保護していない町は次々に侵略をされ、それが終わるとまた地下に戻っていく。奴等の巣は地下にある、それは皆も分かっている思うが。NFとSVが前にEDPを開始しERRORの本拠地とされている場所を完全に破壊したはずだった。しかし未だERRORの数は減る事無くむしろ増え続けている、これにより奴等の巣は一つではない事がわかったが、問題はその巣の位置、そして数だ。これを把握しておかなければERRORとの戦闘は厳しくなる……が」

モニターに映し出されていた映像が切り替わると、世界地図が映し出され、その図に無数の赤い丸印が付いていく。

「逆に言えば、その二つを把握していれば我々はERRORに勝利する事が出来る」

勝利……そう、人類はERRORに勝利しなければならない。敗北は人類の絶滅を意味する。

考えた事があるだろうか、人類が滅亡する瞬間を。それも生物の手によって、人間がこの地上から一人残らず消える光景を。ERRORに敗北するという事は全ての人間がERRORに殺されるという事だ、この地上にいる何十億という人間が、全員惨殺されていく、そしてそんな想像もつかないような事が、すぐそこまで近づいてきている。

「この赤い印は今地中にあるERRORの巣だと思われる箇所だ、人工衛星と地中探査艇の協力で漸くここまで絞り込む事が出来た。小さな赤い印のついている箇所は軽く五百箇所を超えている。恐らくこの箇所はERRORの基地といったもんだろう、各地に素早く向かう為の寝床のような所だ。だが我々が攻める場所はここではない、ERRORが生産されている箇所を重点的に叩く。ERRORの繁殖を阻止する事が我々人類が勝利に近づく一番早く効果的な対策だ」

そして世界地図に映し出される巨大な赤い印、合計で四つの印が均等な位置に付けられている。

「そして今印のついた箇所、この箇所こそがERRORの生産されている場所だ、この四箇所だけは他の箇所は比べ物にならない程地底深く、巨大な空洞が広がっている」

紳の説明に会場内がざわつき始める、無理もない、これだけの情報をいつどこで、どうやって得たのか。そしてその情報の信頼性と確実性に誤りはないのか、そして一番の驚きは、ERRORが生産されていると思われる箇所がたった四つ程しかないということ、皆が抱く疑問に逸早く紳に問いかけたのは羅威だった。

「紳、その情報はたしかなのか?俺には信じられない、あれだけの数で増え続けるERRORがたった四箇所から生まれてきているのか?」

会議場にいる全員から紳に注目が集まるが、紳は堂々とした態度のまま説明を続ける。

「四箇所しかないのには理由があるはずだ、でなければ今頃人類は滅亡している。恐らくERRORを生み出せる何かが四つにしかないのだろう。生命体か、又は装置か……何かがな」

モニターの映像が切り替わると、今度はこの星の断面図がCGで映し出される。

「ERRORのいる地下内部構造は樹木と似ている、四本の巨大な洞窟を作り世界各地へと枝分かれをするかのように小さな空洞が広がっている。枝を折った所で樹木は枯れない……根こそぎ灰にしなければな。よって、今から我々NF、SV、BNは格箇所に別れEDPを行なう」

EDPを行なう、そう言い切った紳だが。その言葉を聞いたSVのアリスは徐に立ち上がると声をあげた。

「待って、簡単にEDPと仰いますけど。EDPを行なうには相当な戦力を整えなくてはならないのよ?それを今からだなんて無理よ!」

アリスの言う通り、現在EDPを行なえる程の十分な戦力を揃っていない。

前回のEDPでの傷跡はまだ癒えず、ERROR・人類同士の戦い、そして神の攻撃により戦力は削られ続けてきていた

赤城も静かに話しを聞いていたが、アリスの言葉を聞き口を開く。

「口を挟んですまないが、今EDPを始動するのなら何か考えがあっての事だろう?まだ私達は具体的な作戦内容も聞かされていない、一体どうやって地下深くにあるERRORの巣を破壊しに行くつもりだ?」

赤城の疑問、恐らくそれはこの会議場にいるほとんどの人間が抱いていただろう。

「ああ、その事についてだが───」

紳は手元にある装置を捜査しモニターの映像を切り替えようとした時、突如会議室内に警報が鳴り響いた。

すぐさまモニターに司令室の映像が映し出されるとオペレーターが現在の状況を説明しようとするが、音声からは同時にノイズや銃声も聞こえ通信状況が不安定だった。

『風霧総司令官、現在基地内部にERRORが侵入しています!今部隊の人達が迎撃していますが、今までに見た事の無いERRORが……!』

銃声の次は爆音が鳴り響き映像が大きく揺らぎ一瞬オペレーターの姿が消えるが、数秒した後映像が再び映し出される。

が……その映像を会議室で見ていた人は皆愕然とした。

オペレーターはまた状況の説明をしようと口を開こうとした時、愕然とした表情で紳が呟いた。

「誰だ、お前……」

先程のオペレータと同じ服を来た生き物はそこにいたが、それは人の形をしてはいなかった。

頭皮を破り脳味噌がはみ出ている頭、顔は赤黒い血管が何本も浮き出ており、眼球が明らかに飛び出していた。

「きゃぁあああああ──────!!」

会議室内で女性の悲鳴が響き渡る、映し出されていたはずの人間は化物に変わり果てぐちゃぐちゃに崩れた口元から液体が漏れ始める。

『ERRORが……出て……ERROR、が……ERROR……』

そこで映像は消えた、と同時に会議場の椅子に座っていた穿真達は懐から拳銃を取り出し安全装置を解除する。

「おいおい何だよ今のは!?人間が化物に変わって───!?」

その時だった、唯の後ろに立っていた兵士の頭に亀裂が走り赤黒い塊が蠢きながら出てくると、顔から一斉に触手が飛び出てくる。

触手は目の前にいた唯目掛け伸びていくが、唯の側に立っていた紳が一瞬でサーベルを抜き取ると、触手を斬りおとし首を吹き飛ばす。そしてダンが取り出した拳銃を化物に向けると胸部と斬りおとされた首目掛け引き金を引いた。

何が起こったのかわからない唯は後ろに振り向こうとしたが、紳はサーベルを鞘に戻すと振り向いた唯の目の前に立った。

「お、お兄様……?」

戸惑うまま唯は紳を見上げるが、紳はいつもと変わらない冷徹な表情のまま立っていた。

「振り向くな、前だけ見ていろ」

紳の囁きに唯はすぐに振り向くのを止めたが、回りにいる人達は皆紳に視線を向けている。

「一部始終見ていたならもうわかると思うが。ERRORが人間に擬態、又は寄生している事がわかった。この基地はもう長くない、全員先程乗っていた艦に戻ってもらう。羅威、艦までの護衛はお前に任せた」

「あ、ああ……わかった。聞いての通りだ、皆ついてきてくれ」

紳の的確で冷静な判断と行動力に羅威達は動揺を隠せないまま席を離れ動き始める。

BNの兵士を率いる羅威達が会議室の扉を開けて辺り安全を確認すると、合図を出しNFとSVの兵士達を誘導していく。

「ダン、お前も唯と共に艦に戻れ。艦に戻ったら発進し基地から出ていろ、街もERRORで溢れかえっているはずだ」

紳の命令にダンは煙草を吹かしながら聞いていると、ご自慢の拳銃に弾を詰めながら口を開いた。

「それで、お前さんはどこに行くんだ?」

「司令室に向かう、その後隙を見て基地から脱出する。問題は無い」

「周りが今どのような状況になっているのかもわからず行くのか、無謀だな。それに脱出すると言ってもお前の機体は艦の中だぞ」

「それなら司令室に機体を持ってこい、出来るな?」

紳の要求にダンは白い煙の混じった溜め息を吐くと、吸い終えた煙草を携帯灰皿に仕舞う。

「やれやれ……無茶振りが多過ぎるだろ、上乗せが条件だからな」

そう言ってダンは渋々歩き出すと、唯はどうしていいかわからずただ突っ立っていたが、紳が唯の手を握ると会議室の外まで連れて行く。

「お前はダンから絶対に離れるな」

「はい……でもお兄様、やっぱり一緒に逃げて───きゃっ!」

今度はダンに手を引っ張られ半ば強引に連れて行く唯、それを見ていた紳は表情を変えないまま一人別の通路を歩いていった。


───羅威と穿真を先頭に格納庫へと向かう兵士達、通路には血の跡が所々ついているが死体が全く見当たらない。その時、エリルは何かを思い出したかのように後ろに振り向くと、それに気付いた穿真が咄嗟に声を掛けた。

「おいエリル!何ボサッとしてんだよ!」

「愁はまだ部屋に監禁されたままなの、助けに行かないと!」

エリルは今来た道を戻ろうとしたが、それを止めようと穿真はエリルの腕を握り締めた。

「放してよ!愁を見殺しにするの!?」

掴んでいる手を振り払い拳銃を片手に愁のいる部屋へ行こうとすると、穿真も拳銃を握り締めながらエリルの横に並ぶ。

「する訳無えだろ!俺も行くんだからな、羅威!後は頼んだぞ!」

羅威の返事を聞く前に走っていく穿真、エリルも穿真についていこうとした時、ふと横を見ると一緒にエコもついてきていた。

「貴方も愁を?」

「うん、仲間……だから……」

それだけ呟くいた後、無言で穿真についていくエコ。それを見ていた葵も一緒に行こうとしたがゼストがそれを止めに入った。

「な、なんだよ!俺は愁を助けに行っちゃいけないのか!?」

「三人で十分だ、今はアリスの安全確保しろ」

「あんたがいれば十分な気もするけどな……まぁ、わかったよ」

渋々行くのを諦める葵、丁度その頃先頭に立って皆を誘導している羅威達は仲間の部隊を見つけていた。

兵士達も羅威に気づくと、少し安心した表情を見せて近づいてくると、一人の兵士が羅威に話しかける。

「羅威!一体この基地はどうなってやがるんだ!?人が突然化物に変わりやがった、それもこの基地に前からいる連中ばかりだ!」

「やはり基地全体で起きていたか……ERRORについては俺にもまだわからないが、今は安全な場所に避難している所だ。お前達も俺達と合流し格納庫に止めてある艦へと急ぐぞ」

命令された兵士達は羅威達と共に先頭に立ち通路から歩いてくる人間の体から異物が溢れ出ている化物が次々に歩いてくる。

咄嗟に羅威達は銃を構え引き金を引こうとした時、一匹のERRORの目から止め処なく涙が溢れ始めた。

「助ケ……テ……」

人間の声ではない、だが人間の言葉だった。羅威達は引き金を引こうとした指を止め驚いた表情でERRORを見つめる。

「喋っただと……?まだ人間の意識があるのか……!それなら今すぐ止まれ!」

「苦シィ……痛イ……助ケ、テ……ッ……」

羅威の言葉にERROR達は止まろうとしない、呻き声を出しながら必死に羅威達の元へ進んでくる。

引き金を引くのを躊躇う羅威だが、後ろに立っていた香澄は次々にERRORの頭部を撃ち抜いて行く。

「何躊躇ってんのよ馬鹿!殺さないと死ぬわよ!?」

「す、すまない。だが奴等にはまだ人の意志があったんだ……」

息を引き取ったERRORの死骸を見つめる羅威、そのERRORの眼からは涙が零れていた。

「なんで人間がERRORに……。まさか、あの女が……?」

ふと羅威の脳裏に玲と神楽の顔が過ぎったが、我に返るとすぐさま銃を構え通路を走っていく。そしてついに格納庫への扉を開け到着すると、そこでは生き残った兵士達が迫り来るERRORを必死に応戦していた。

と、そこに後ろから唯を抱きかかえたダンが格納庫へ到着する。

「どうやらまだ落とされなかったみたいだな、全員艦に乗らせろ。今すぐ基地から脱出する」

「ちょっと待て!穿真達はまだ戻ってきてないんだぞ!?」

ダンの言葉に羅威は声を荒げるが、ダンは面倒臭そうに事の事情を説明する。

「安心しろ、俺が奴等に愁を助けた後司令室に来いと伝えておいた、艦は基地から離すが俺達が機体に乗って助けに行けばいいだろ?わかったなら走れ、急がねえと皆死ぬぞ」

ダンはそう告げた後一人唯を抱きかかえたまま艦へと向かっていく、羅威達も続いて艦に乗り込んでいくと、羅威達が真っ先に向かった場所が自分達の機体が乗せてある場所だった。

羅威が機体に乗り込もうとすると、SVの葵やゼストも自分の機体に乗り込み始める。

「お、おい!何勝手に機体に乗り込んでるんだ!?」

羅威が止めようと口を開くが、葵は颯爽と機体に乗り込み電源を入れた。

『許可は煙草のおっさんからもらってる!加勢するぜ!』

アストロス・ライダーは艦のハッチが開いた瞬間に発進すると、基地の格納庫内にいるERRORを踏み潰していく。

羅威達も自分の機体に乗り込み発進すると、ERRORと化した人間が次々に通路からこちらに歩いてきているのがわかった。

「基地内でこの有様だ、香澄、雪音。二人は今すぐ市街地に向かい民間人の救出にあたってくれ」

「ちょっと待ちなさいよ、あんたは何処行く気なの?」

当然香澄は何も話されていないので納得出来ない、通路から現れるERRORを狙撃しながら質問をしてくる。

「俺は基地の司令室に向かい穿真達を助けに行く。SVとNFの兵士も出撃しているんだ、後は任せたぞ」

そう告げた後羅威は一人神威で基地の格納庫から出て行き司令室がある基地の最上階部分まで浮上しようとした時、基地周辺の光景に言葉を失った。

基地周辺には残骸と化した無数の機体や戦闘機が散乱していた、戦艦は炎上して停止し、我雲は原形を止めておらず、戦車や戦闘機までもが無残にも破壊されている。

その余りの多さに目の前の出来事が信じられなかった、たった数分の間でこの基地周辺で何が起こったのか何も予想がつかない。

異様な光景が広がる中……神威はただ格納庫の前で立ち尽くしたまま動けなかった。

だがその時、神威のレーダーが反応を示す。一体の機体が上空から神威目掛けて急降下してきていた。

すかさず神威は両腕に電流を溜めるとそれを急接近してくる機体目掛けて放つが、機体はその電撃を全て交わし長刀を振り下ろしながら降下してくる。

「速いッ!?」

神威は地面を強く蹴り一瞬で後方に下がったと同時に、その機体は長刀を振り下ろしながら地面へ着地したが、右肩についている大砲が神威目掛けて照準を合わせると神威に反撃させる隙も与えず徹甲弾を放つ。

その砲弾も何とか横に飛び跳ね交わしたが、砲弾は神威の後ろにあった格納庫の扉を貫き止めてあった戦艦を掠めると基地の内部まで貫き通り爆発を起こした。

基地での爆発、戦艦に傷、そして目の前に現れた機体に動揺する羅威に、敵機は隙を与えず攻めてくる。

その機体に羅威は見覚えがあった、恐らく兵士なら誰もが知っているであろう英雄的存在……。

「大和!?どうしてこんな所に……ッ!」

砲弾を避け横に移動した神威の胸部を狙おうと手に持っている長刀を大きく横から振り下ろす大和。

神威はその長刀を蹴り上げると大和の両手は大きく上がり懐に隙が生まれる、それを狙った神威は右手に電流を溜めると同時に大和の懐に入り右腕を突き出した。

すると大和は手に持っていた長刀の刃の向きを変えると、神威の右腕を回避すると共に長刀で神威の右腕を斬りおとす。その攻撃の速さに羅威は状況を理解することだけでしか頭が回らない。

考える隙を与えない、反撃の隙を与えないだけではない。相手の動きと思考を読み、全てを神速でこなしている。

右腕を斬りおとされた神威は右足を軸に左足で大和目掛け蹴りを当てようとするが長刀で簡単に薙ぎ払われると体勢を崩した神威の左足を斬りおとし。続いて胸部を貫こうとしたが、神威は残っている左腕に電流を溜めると、目の前にいる大和の胸部目掛けて電撃を放った。

青白い強烈なプラズマが左腕から拡散し、夥しい程の電流が大和を包み込む。

放電された大和の動きは段々鈍っていくと、動く事も出来ずただ感電し機体内部が破壊されていく。

「近づきすぎたな……Dシリーズならこの攻撃には耐えられない。勝負有りだ」

更に出力を上げていく神威。感電した大和の手から長刀が零れ落ち、羅威は勝利を確信した時。その手から落ちた長刀を空中で掴み取ると大和、気付いた時には既に大和は長刀を一振りしていた後だった。

「えっ……?」

強烈な閃光と共に爆発を起こす神威、だが大和はまだ仕留めきれていなかった。

電流の影響で刃の向きが傾いてしまい神威の腹部を斬りおとす事しか出来ていない、爆発で吹き飛ばされた神威の上半身を見つけた大和は身動きの出来ない神威に向けて右肩の大砲から徹甲弾を放った。

だが一体の機体が神威の前に出ると盾を構え徹甲弾を弾き飛ばす。

『運が良かったな、本当なら先程の太刀で死んでいたぞ』

アストロス・ナイト、ゼストの乗る機体が神威の前に立っていた。

倒れたままの神威をアストロス・ライダーが持ち上げると、既に格納庫から発進した艦へと走っていく。

すると葵からゼストに乗る機体に通信が繋がると、葵は声を荒げて忠告する。

『ゼスト!相手はあの大和だ、気をつけろよ!俺もすぐに向かうからな、それまで持ちこたえていてくれ!』

『来なくていい、お前達は艦の護衛に専念しろ。これは命令だ』

そんな葵達の気持ちを裏切るような発言を無表情で伝えるゼスト、

『ったく……わかったよ!艦の護衛も専念する、けど基地内にはエコ達がまだ残っているんだ、艦周辺の安全を確保したらすぐ行くからな』

それだけ伝えると葵は通信を終える、ゼストは横目でライダーを見送った後、ナイトは剣と盾を握り締め身構える。

先程まで動きのぎこちなかった大和も既に動きを取り戻し、傷ついた機体の装甲が修復されていく。

『大和……嘗ての英雄が乗っていた機体。EDPの時ERROR諸共破壊されたはずの機体だが、今はこうしてERRORと共に行動しているとは……邪魔だ』

盾を前に突き出しながら颯爽と大和との距離を縮めていくナイト、大和も長刀を構えると迫り来るナイトを待ち構えていた。

そしてナイトが大和の目の前にまで近づこうとした時、大和の右肩にある大砲の砲身が突如地面に向くと砲弾を放ち目の前の地面を爆発させた。

轟音と爆風に巻き込まれた煙が一瞬で大和とナイトを包み込む。

だがナイトは煙など気にもせず剣を振り上げると大和目掛けて振り下ろした、大和は煙に隠れる前に長刀で剣先を弾くと、ナイトの胸部目掛けて長刀を振り下ろす。

それをナイトは待っていたかのように盾を構え長刀に当てると、大和の握り締めていた長刀は盾に流れる高圧電流により一瞬で手元から弾き飛ばされる。

大和に完全に生まれた隙、ナイトは剣先を大和に向けると胸部目掛けて剣を突き刺した。

確実に胸部に突き刺さり操縦席をも貫いた剣先、大和の眼からは光が消え肩の力が抜けていく。全身脱力状態となり、ナイトは胸部から剣を引き抜くと大和は力なくその場に倒れこんだ。

身動き一つしない大和、だが突き刺された胸部から突如赤い血が噴出し始めると、大和だったはずの機体が色を変え腐食していく。

『これが亡霊の正体、ERRORか。……ん?』

ふとゼストが前方を見ると、瓦礫の上に一体の機体が立っていた。

背中に長刀を背負い両手には刀を握り締め機体の肩に大きく『大和』と書かれている機体。

『ERRORは大和を量産する気か?……哀れだな、機体は性能だけでは勝てない。根本的な事が奴等には理解できないようだな』

ナイトは前方にいる大和目掛け剣を構えると、先程と同じように颯爽と突き進んでいく。

『亡霊に興味は無い。邪魔をするな、我々は明日に進まねばならん。世界の明日の為にな』

ゼストはそう呟くと、大和目掛け剣を振り下ろす。

すると大和は両手に持っていた刀を瞬く間に2回振り終えると、二本の刀を鞘に収めた。

剣を大和に振り下ろす寸前で硬直したまま動かないナイト、それを見た大和は後ろに振り返るとその場から立ち去っていく。

その去っていく後ろ姿を見ていたゼストの額からは汗が滲み出ていた。そして徐に自分の体を見つめると、ふと口から言葉が漏れた。

『まさか……な───』

そうゼストが呟いた後、アストロス・ナイトの原形が綺麗にズレ始める。

そして斬られた跡から激しく放電しはじめると、眩い閃光と共に巨大な爆発を起こした。


……四散した機体の破片が辺りに散らばり、周辺に散乱している機体の残骸数々。

そこにはアストロス・ナイトの姿もあった、もう二度と動く事は無い無残な残骸の一つとして。

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