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第82話 終始、最強

───「世界は選択された、もう誰も止められない」

薄暗い部屋の中、テトはそう呟くと手に持っていたお皿を机の上に置いた。

机の上には綺麗に彩られた料理が並べられており、シャンパンまで用意してある。

「それなら残り僅かな時間を有意義に、幸せに……過ごそうじゃないか」

食事の準備が出来たテトは隣の部屋に向かうと、ベッドの上でシーツに包まり小さく震えるフィリオの肩にそっと手を置いた。

するとフィリオは条件反射のように肩に置かれた手を叩き自分の肩から退けた。

「触らないでッ!」

目に涙を浮かべるフィリオ、その表情を楽しむかのようにテトは見つめると、そっと口を開いた。

「どうしてだい?昨日の夜はあんなにも僕を───」

次の瞬間、テトの言葉を遮るようにフィリオがテトの頬を叩いた。

「フィリオ……」

冷たく呟かれた名前、自分のしてしまった事と、その声を聞いて小さく身構えるフィリオだが、テトはその場で立ち上がると隣の部屋に体を向けた。

「人間って、どうしようもない程愚かで、哀れな生き物と思わないかい?」

楽しそうに笑みを見せるテトに、フィリオはゆっくりと、そして小さく頷いた。

「そうですね……特に、貴方は私が見てきた人の中で一番可哀想な方です」

震えているのを悟られないように必死に体に力を入れ、力強い目でテトを睨みつけるフィリオ。

だがテトは動じる事なく小さく笑って見せると、食事を用意した部屋へと歩いていく。

「へぇ、僕が可哀想か……食事でもしながらゆっくり聞かせてほしいなぁ、その訳を」

綺麗な料理が並べてある机の前にテトは座ると、じっと自分が来た部屋を見つめる。

思ったとおり、フィリオは部屋から出てくるとテトと向き合うような形で椅子に座った。

「貴方については以前から知っていました。テト・アルトニア、百年程前から数多くの世界を巡り、その凶悪な力を使っては世界を、人々を弄んできた男……」

「ふーん、君はそうやって僕の事を教えられたのか」

「違うのですか?」

「いや、その通りだよ」

平然と言ってのけたテトの顔をじっと見つめ続けるフィリオに、テトはシャンパンの入ったグラスを手に取ると言葉を続けた。

「仕方ないよ……人は力があると、己の欲に忠実になるのだから」

テトの手からグラスが滑り落ちる。硝子で出来たグラスは床に落ちると簡単に砕けたが、テトの目線はずっとフィリオに向けられたまま離れない。

「本当、力の無い人達は可哀想だよね。この世界の人間もそうさ、人生の半分以上を仕事に費やし、生きるだけで精一杯の人間が山ほどいる。世界に、社会に、人に、虐げられるだけの人生。君にはわからないと思うけど、僕は見てきたよ、この目で」

そう言ってテトは目を見開いたが、すぐに目を閉じるとテーブルの下から割れたはずのグラスを手に取りそのグラスにシャンパンを注いでいく。

「力に限らず哀れな人間は沢山いる。正義が馬鹿を見て、善人が苦しむ世界の中でね」

グラスに注ぎ終えたシャンパンをテーブルの上に置くと、テーブルに肘を着きフィリオの様子を窺い始める。

するとフィリオはその言葉に答えるかのように口を開くと、哀れむような表情でテトを見つめた。

「貴方は見ようとしていない……正しく、優しい世界の姿を」

「無いものをどうやって見るんだい?正しい世界、優しい世界、平和な世界?そんな世界、一つも無いよ」

そういい終えた後ようやくグラスに告いだシャンパンを一口飲むテト、フィリオは未だ目の前の料理には手をつけずそっと口を開いた。

「そうかもしれません……でも、だから私達は作ろうとしているのです、人々が平和で安心に暮らせる世界を……貴方はそんな世界が嫌いですか?」

フィリオの質問にテトは首を小さく首を横に振ると、まだシャンパンが残っているグラスをじっと見つめた後、それを壁に投げつけた。

鮮やかな模様をしていた綺麗なグラスは無残に砕け散り、それを見てテトは笑みを見せた。

「大好きだよ、こうやって平和な世界が崩れ散っていくのを見れるんだからね」


「善に悪、人間の心と集団、組織や世界……力は己の欲を果たすために存在している。その力をどのように、何の為に、どうやって、なぜ使うのか……それはその人次第」


「人は弱いからすぐ集団になりたがるし、力の強いものに縋ったりする。それで自己防衛を果たすのさ、でも……僕みたいに強い力を持つ人間は。そんな必要が一切無い」


「そう……きっとあの男もそうだったはずさ。力の無い人間が突然神と同等の力を手に入れたんだ、誰だって気が狂う。だから僕はあの日に気付かされたんだ、人は力がなければ何も出来ない、けど力さえあれば何だって出来るってね」


テトは全てを言い終え、ようやくナイフとフォークを持ち食事をしようとした時、突如部屋の扉が開くと一人の女性が現れた。

「ただいまー、あ、これ美味しそー」

平然とした表情で部屋に入ってくるアビアはテーブルの上に飾られている料理を見て一口サイズに切られているステーキを指で摘みそのまま口の中に放り込む。

「丁度良い所に帰って来てくれたねアビア。早速甲斐斗の首を出してフィリオに見せ付けてあげようじゃないか」

その言葉にフィリオの表情が強張りアビアから顔を背け目を瞑る、だがアビアは甲斐斗の首を一向に出さない、というか両手には何一つ持っていない。

「それがねーテト、甲斐斗が力を取り戻したんだよ」

短調なアビアの言葉にテトの手が止まる、そしてゆっくりとナイフとフォークを机の上に置くと俯きながら口を開いた。

「甲斐斗が……力を取り戻した……?」

「うん、それで逃げられちゃった。それでー今は神と戦ってるらしいよー」

「神と?……そう」

落ち着いた様子でまたナイフとフォークを手に持つと、手馴れた手つきで料理を食べ始める。

「あれれ?てっきり怒られると思ってた」

「いや、むしろ好都合さ。奴が神に勝っても負けても……結局最後に笑うのは僕になる」

「ふーん、じゃあアビアは隣の部屋にいるね」

最後にもう一口ステーキを食べようとアビアは手を伸ばしステーキを摘まむと、それを口の中に放り込んで部屋から出て行ってしまう。

その時ふとフィリオは思った、何故彼女は彼と共に行動し、彼もまた彼女と行動するのか。

「貴方と彼女は、もしかして……」

「アビアの事かい?別に特別な感情なんて無いよ。ただ彼女が勝手についてきているだけさ」

そう言うとまたテトは食事に戻るが、フィリオは一向に手をつける気配が無い。

……何かが矛盾している、テトの言葉と行動、そして今。何かがフィリオの中で引っかかっていた。

「どうして……どうして貴方はそれだけの力を持っているのに……平和の為に使わなかったのですか……?」

フィリオの言葉にテトは表情を曇らせると、呆れたように溜め息を吐いた。

「フィリオ、君は何も分かっていない」

残念そうな表情を浮かべるテトに、フィリオはただ見つめ続け質問の答えを待つ。

するとそれを見たテトはからかうような笑みを見せた後、その黒く濁った目でフィリオと目を合わした。

「正義の英雄ヒーローに憧れるのは、子供だけさ」


───「か~いとかいと~、は~やくはやく~」

「あ、あの。アビアさん?一体何を……」

隣の部屋では埃の被った装置を必死に弄くるアビア、後ろにいたロアは近くにあったソファに座り込むと小さく溜め息を吐いた。

「甲斐斗の戦いを見ーるーの!ここからなら安全で寛ぎながら見れるもんねー」

「見るって、甲斐斗さんは戦場ですよ。どうやってここから……」

「アビアだってちゃーんと考えてるんだからぁ……ほら!モニターに映った!」

先程からやけにテンションの高いアビアは大きなモニターに映る神の姿を見るや否やすぐさま近くにあったソファに座り興味津々でモニターを見つめる。

「すごい甲斐斗、すごい、すごい!すごい!!アビアに見せて、見せて!甲斐斗の力を!真の姿を!」

もはやアビアの眼中には甲斐斗の乗るMD姿しか映っていない、それはまるで子供が自分の好きなテレビを見ているかのように心をときめかせ、可愛らしい笑みを浮かべながら見つめていた。

アビアとロアが今見ている映像、それと全く同じ映像見ている人達がいた。


───会議場の一番奥にある巨大なスクリーンに映し出されるMDと変形した神の姿に、その場にいた人間が全員息を飲んだ。

「これが……神……」

その場にいた赤城がそう言葉を漏らすと、隣に座っていたエリルも口を開いた。

「甲斐斗もいる。まさか、本当にたった一人で戦いに行くなんて……!」

無人偵察機からの映像、今流されている映像はBN、SVに限らずNFも見ていた。

甲斐斗と神が接触した今、人類は見届けなくてはならない、この戦いの結末、結果を。

全世界の兵士が見守る中、神と甲斐斗の戦いが始まる。

……が、別に甲斐斗は人類の為に戦っている訳ではない。

ほんの小さな理由、たったそれだけで全人類を滅ぼそうとした偉大かつ強大な神の前に立ちはだかる。

戦う理由は人それぞれ、愛の為、金の為、力の為、人の為、自分の為、世界の為……色々あるが、どれも間違いでなければ正解でもない。

甲斐斗……現実を正当化する事ができず、理想は不当化に辿りつくそんな今と過去と未来に、何を望み、何と戦うのか。


───「あースッキリした。これで胸にあったもどかしいものも取れた事だし……行くぜ?」

眩い青空の下で甲斐斗の乗るMDが神に腕を向けると、手の平に黒く光りを放つ塊が一瞬で現れるとそれを神の右肩に向けて放った。

その衝撃で空間は歪ませながら神に触れようとした時、神に触れる手前で見えない壁に全て防がれていく。

「シールドか、しかも何十層にも圧縮して固めてやがるとは、余程俺に嬲られてえみたいだなぁッ!」

次にMDが剣を構え神の元に行こうとした時、神の両肩、両腕、両足から一斉に砲門が出てくると、一斉に甲斐斗に向けて放ち始める。

何百発もの光が甲斐斗に向けて放たれるが、MDは回避をしながら瞬時に剣で光を盾にし突き進んでいく。

だがその時、巨大な神の巨体は軽々と動くと、その巨大な両腕を高速で動かし接近してくるMDを飛んで来る害虫を叩き落すように吹き飛ばす。

一瞬で吹き飛ばされ神との距離が離れていくMD。

それを見た神は両腕をMDに向けると、真っ白い閃光を、神の巨体を包み込むほどの光の塊を放ちだした。

射線上にある物という物は全て掻き消されていくが、光は止まる事を知らず一直線に進んでいく。

機体の体勢を立て直したMDは瞬時に上空へと飛び上がり何とか光をかわす事に成功したが、光は数十キロ先も離れている森や町までも飲み込み一瞬にして塵と化していく。

しかしその状況と光景に神と甲斐斗は動揺などしない。今度は神の全身から放たれる無数の光の線が一斉にMDに向かっていく、回避しようと高速で動くが、光もまた高速で動き逃げるMDを追っていく。

何百本という光の線が甲斐斗を追い、甲斐斗は近づいてくる光を剣で弾き、防ぎ、何とか光の直撃を免れている。

神の攻撃はまだ続く、神の周りにある空間に次々に光輝く陣が浮かびあがると、その一つ一つの陣の中から次々に天使が舞い降りる。

驚異的な神の力、そして神の周りを取り巻く百機を超える天使の数に、神との戦いを見ていたNF、BN、SV達の兵士は息を呑んだ。

『無駄です甲斐斗、貴方の力では私に勝つ事は出来ません』

「俺が勝てない相手なんていねえ。それにな、今目の前で涙を流して俺の助けを待ってる女がいるんだよ」

ニヤリと笑みを浮かべる甲斐斗に、第1MGもそっと微笑む。

そして天使達は一斉に甲斐斗にランスを向けて飛んで行く、それをMDは片っ端から斬りおとしながら神の元に近づいていく。

「洒落た事言うだろ?俺の最強の力は俺の為に動く時が大半だが今は違う。一人の女の未来の為にも動いてんだぜ?」

複数の天使がMDに盾を向け光を放つが、MDは全ての光を回避すると、左手に空高く突き上げる。

上空に黒き巨大な陣が浮かび上がると、一斉に天使と神に向けて赤黒いいかずちが降り注ぐ。

一撃で天使は破壊されていき、神の周りに浮いていた天使は次々に四散し、崩れ落ちていく。

その攻撃を会議室で見ていた唯は開いた口が塞がらなかった、同様にアビアもそうだった、神の圧倒的な力にも負けず戦うMD、甲斐斗の姿を見て感動している。

雷は神にも落ちるが、天使とは違い幾ら神に落ちようとも傷一つ付ける事が出来ない。

MDは剣を構えると爆発していく天使の影に隠れながら神の元へ近づいていくと、神はその巨大な右腕を甲斐斗に向けて振り下ろした。

巨大な拳はMDに当たる事なく地面に当るが、その拳が地面に触れると同時に空間が歪む程の衝撃が全範囲に広がっていく。

地面には亀裂が無数に走り、その場にある塵を舞い上がらせる。

MDは衝撃に耐えながらも間一髪拳をかわすと、振り下ろされた神の右腕にそって飛び上がろうとしていた。

だがその時、神の右腕に無数の砲身が現れると、目の前にいるMD向けて無数の光が放たれる。

「んな攻撃が俺に効くかぁあああああッ!」

右腕に向けて剣を振り下ろすMD、周りに張られていたシールドを簡単に破壊すると、その衝撃が腕一面に伝わり次々に砲身を破壊していく。

その隙に神の右肩へと上がっていくMD、だが次は神の右腕からは先程よりも遥かに巨大な砲身が現れると、時間をかけることなく一瞬で巨大な光をMDに向けて放つ。

「しまっ────!?」

一瞬にして光に飲み込まれるMD、砲撃が終わり光が消えた後に、MDの姿は何処に無い。

それを見て第1MGは小さく微笑んだ。だが次の瞬間、第1MGの目の前の映像にMDの姿が現れた。

『そんな……直撃のはず……ッ!?』

第1MGの驚きを余所に甲斐斗は余裕の笑みを浮かべると、何かに気付いたように口を開いた。

「そういえばまだお前には言ってなかったな……」

神の頭上まで来ていたMDは神の脳天に右手を付けると、甲斐斗の額に黒く光る陣が浮かび上がった。

「俺は甲斐斗、最強の男だ」

MDの右腕に光り輝く模様が現れると、神の頭を掴んでいた手から渾身の一撃が放たれた。

神の全身を一瞬で包み込む黒き光、神はその力に身動きを取ることが出来ず、MDは更に力を強めていく。

黒き光は神の全身を守っていたシールドを全て剥がしていき、その強固な装甲に亀裂を走らせていく。

するとMDは手を放し更に上空へと飛ぶと、剣を背中に背負い今度は両手を神に向けた。

先程と同じ力を両手から放つMD、その衝撃は神の内部にいる第1MGにも伝わっていた。

天空、大地、そして神を揺るがす甲斐斗の力に、第1MGは驚きの表情を浮かべたまま固まっていた。

『これが魔神の力……ですが───』

崩れかかる神の体、その内部にいる第1MGが両手を空高く上げると、神の頭に付いてある白き宝石が光り輝き始める。

強烈な光りはMDを照らすと、機体の内部にいる甲斐斗をも照らし出していく。

「俺と力で張り合おうってか?面白れえ、やってやろうじゃねえか───ッ!?」

甲斐斗は眼を見開き更に力を強めていくが、神の頭部に埋め込まれた宝石から放たれた一閃の光によりMDから放たれる力を全て掻き消していった。

「この……力は……───」

小さく呟いた瞬間、一瞬で光に飲み込まれていくMD。光の中で甲斐斗の機体、力を掻き消していく状況の中、脳裏に一人の女性が映し出された。


───光が消えた後、その場にMDの姿はあった。

だが機体全体に亀裂が走り、装甲がボロボロと崩れ落ちていく。

「てめえ、まさか……」

苦しそうな表情を浮かべる甲斐斗に、第1MGは目を瞑ると小声で語りだした。

『100年前、神はこの世界で復活を遂げ、そして絶望しました。緑に囲まれたあの美しかった世界が、人間の手によって侵食されていたからです』

第1MGの語りと共に亀裂が走り傷付いていた神の体が徐々に修復されていき、第1MGは更に言葉を続けていく。

『この世界にとって人間は害と判断された神は、人間をこの世から排除していこうとしました。ですがその時、一番最初に抗ったのは、たった一人の少女でした』

神の全身に付いていた傷は全て消えていた、完全に復活を遂げた神、周りからは次々に天使が舞い降り、太陽の眩い光が神々を照らす。

『今の貴方と同じですね。たった一人で神に抗って散っていく……それが貴方達神に抗った者の結果』

神は両手を高らかに上げると、上空にいるMD目掛け手を開いた。

周りに浮かんでいる天使達も全て盾をMDに向けると、構えた盾が発光し始める。

『安心してください。貴方が散った後、立派なレジスタルにしてあげますよ。それは私達神の手で大切に使わせていただきます、この世界の為に』

太陽の様に力強く、神秘的に輝く白い光。その光は神の両手にも集いはじめる。

四方から照らされるMD、装甲には亀裂が入り今にでも崩れていきそうな姿で空に浮かび続けている。

「やっぱりてめえの仕業だったか、なるほどな……んじゃ、最後に教えてくれないか?お前は人類を滅ぼそうとしたが百年前に百年の猶予を人間に与えたんだろ。何故だ?」

今目の前にいる神が人間の為に猶予を与えたとは到底思えない甲斐斗、第1MGは黙ったまま甲斐斗を見つめ神の両手には極限まで光を溜めている。

その様子を甲斐斗は面白そうに見つめている、この圧倒的な立場に立たされている今も、久しぶりの激戦を楽しんでいるかのように。

そして甲斐斗は口を開いた、力強くハッキリと、神に向かって。

「お前さ……負けたんだろ、そのたった一人の女に」

甲斐斗が目を見開いたと同時に神の両手から光が放たれる、光は一瞬でMDを包み込むと、周りに飛んでいた天使達もそれに続いて光をMDに向けて放ちはじめる。

神と甲斐斗の戦いを見ていた会議室は映される眩い光に何が起こっているのか把握できない。

部屋で見ていたアビアはモニターに映る真っ白な光を小さく口を開けたまま見つめている。

MDが光に包まれたのを見て第1MGは安堵の笑みを浮かべると小さく深呼吸した、もうこれで邪魔は消えた、後は世界の為にERRORと人間の両方を排除するだけ。

そう、世界の為に。人間が汚してきた世界をまた一から綺麗にしなければならない。

ERRORについてもそうだ、今から作る世界にとっては有害な存在、だから神に抗う者を全てを消していく。

現に百年前神に抗った女も消えて今では神の一部となっている、全ては神の、世界の為。今度こそ平和な世界を作る、誰も傷つけ合わない、平和な日々が永遠に続き、皆が平等に笑って暮らせる優しい世界を。

「……それで、たった一人の女と相打ちになったお前は、肉体が完全に完治するまで眠る事にしたんだろ。そして全ての力を取り戻した時、それが丁度100年後、今だった訳だな、だが俺の力を止める為に放したミシェルが帰ってこなくて再起動する事が出来なかった、全くもって無様、自分だけじゃ何も出来ないただの人形だな」

甲斐斗の声に第1MGの顔から安堵の表情が消える、平和な世界を作ろうとするのに、それを邪魔する悪魔の化身、邪悪で恐ろしい力を振るいこの世界を終焉に導いている者。

『どうして、どうして貴方は消えないのですか!?人々は光を求めているのです!貴方のような闇は必要無い!世界はまた一から光と神の元で創造されるのです!』

身を乗り出して第1MGが声を荒げると、神達から放たれた光を掻っ切り、勢い良く中からMD飛び出してくると、そのまま勢いに任せ神の頭部に着地する。

「何故消えないのか?さっきも言っただろ、俺が最強だからだ。何も驚く事は無い、俺が最強なのは前もって伝えてあるだろ」

MDは高らかに剣を振り上げると、その黒剣が黒く光り輝き力が溢れだしていく。

「そろそろ終わりにするぞ、俺も暇じゃない。約束を果たさなきゃならないからな」

目を赤く光らせ、勝ち誇った顔をしている甲斐斗に第1MGは恐怖に震え驚愕していた。

神の攻撃をものともせず、たった一人で神と天使達と互角以上に戦っている。

嘗て世界を滅ぼしかけた神、何千何万という人間達が立ち向かっても神に触れる事すら敵わなかった。

だが今、ここに神を、全てを超越した存在がいる。

『ありえない……ありえない、ありえない!神が、そんな、簡単に、負けるなんて、そんな事、絶対ありえない!』

「ありえなくねーよ、俺がこの世界に来て名も無き美少女と出会った時点でこうなる事は決まってた。そう、まるで世界を守る為に死ぬみたいな在り来たりな展開と同じだ、俺が戦いに勝利する事もまた、在り来たりな事なんだよ」

力は溜まった、もういつ黒剣を振り下ろしてもいい状態となったMDに、第1MGはただ呆然と口を開き動揺を露にしていた。

『神、私は、誰もが望む平和な世界の為に、私、神は……皆は、光をっ───』

突如第1MGが俯くと、全身を脱力させていく。そして徐に顔を上げると、先程までとは違う冷静な面持ちになっていた。

『聞いて甲斐斗……』

第1MGの呟きに甲斐斗も何かを感じた、同じ第1MGではあるが、先程までとは別人のように雰囲気が変わっていたからだ。

「観察者……じゃなさそうだな、誰だお前は」

『私は……ミシェル。聞いて甲斐斗、貴方は私を救おうとしている。でもね、私が貴方の元に帰ると、私はまた貴方の力を封じ込めてしまうの。貴方が取り戻した力が全て消えてしまう。それでも貴方は私を救いますか?』

悲しい表情を浮かべながら甲斐斗に告げたミシェル、その言葉に甲斐斗の表情が曇ると、大きく溜め息を吐いた。

「……わかった、じゃあ救わない。なんて、今ここで俺が言うと思うか?」

やる気に満ちた赤い眼で小さくと笑う甲斐斗を見て、ミシェルは大きく首を横に振った。

「大丈夫、安心しろ。力が無くても俺は……最強だぁあああああああッ!」

その言葉と同時に剣を振り下ろすMD、神の額を切り開いていくと、そのまま神の内部を一直線に降りていく。

切り裂かれた場所からは眩い光が放出されていく、ミシェルのいる部屋にも亀裂が走っていくと、轟音と共に天井が崩れ頭上からMDが迫ってくる。

するとMDの胸部に着いてある扉が開き、その中からは両手を精一杯伸ばしミシェルを抱きかかえようとする甲斐斗の姿があった。

ミシェルの目から涙が零れ落ちる、そして悲しい表情から笑顔に変わると、ミシェルもまた甲斐斗に向かって手を伸ばした。


───MDは地面に着地すると、手に持っていた剣を地面に突き刺した。

真っ二つにされた神は左右に体が分かれ崩れ落ちていく、切り開かれた場所からも光は消え、神の体が塵へと変わり風に流されていく。

甲斐斗の胸元に顔を埋めたままのミシェル、そっと顔を放して見上げてみると、そこには優しい表情をした甲斐斗がしっかりと体を抱きしめていた。

「おかえり、ミシェル」

そう言いながら頬についている涙を指で優しく拭き取る甲斐斗に、ミシェルはにっこりと可愛らしい笑みを見せた。

「ただいま!かいと!」

もう一度甲斐斗に抱きつくミシェル、甲斐斗も一安心したのか安堵の表情を見せると優しくミシェルの頭を撫でていく。


───その頃甲斐斗の戦いを見ていた唯達のいる会議室では、歓喜に満ち溢れていた。

「うぉおおおおおおお!?甲斐斗が神に勝ったぞぉおおおおおッ!」

穿真の言葉に続き会議室にいた人達が席から立ち上がり思わずガッツポーズをとる。

会議室……いや、軍の基地でその戦いを見ていた兵士達は皆は歓声を挙げていた。

エリルと雪音は嬉しさに抱きしめあい、穿真も羅威に抱きつこうとしているが必死に突き離している。

葵は嬉しさの余りエコを抱きしめ持ち上げると、体をグルグルと回転させて踊りながら笑っていた。

「やめて葵、やめて……」

「なーんでだよ!喜べ笑え祝え〜!神が負けて甲斐斗が勝ったんだぞ〜!」

「やめて、気分悪い……吐いちゃう、葵……やめ……」

喜びに分かり合う人もいれば、その現実離れした光景に固まったまま動けない者もいる。

「紳、どうやらお前の言った通りになったな」

煙草を吹かしながらMDの映るモニターを見つめ続けるダンの言葉に、紳は固まっていた肩の力を抜いた。

「……正直今でも信じられない、人類が100年前束になっても敵わなかった神を、たった一人で倒すとは……恐ろしい奴だ」

認めざるを得ないその力に、紳も納得する他無かった。

隣では唯が涙を流しながら喜び、甲斐斗を神と崇め称えはじめる。

今の唯にとっては姿形の無い神等には興味の欠片も無かった、神なら目の前にいる、神ならすぐ近くにいる。そして行動して結果を出している、今もそうだ、人類を滅ぼそうとしていた者を倒し、世界を救ったのだから、今の唯にとって甲斐斗は神の他ならない。

そして椅子に座ったままの赤城はモニターに映る映像を見つめていたが、小さく笑うと俯き呟いた。

「本当に一人で神に勝つとは……さすがだな、甲斐斗。ありがとう……」

「ばんざい!ばんざーい!赤城少佐!もっと喜びましょうよ!」

赤城の後ろでは喜びに一人ぴょんぴょん飛び跳ねる由梨音の姿があった。

「喜んでばかりもいられんさ、甲斐斗は世界を守ったんだ。今度は私達が守る番だ」


───操縦席に座っていた甲斐斗はミシェルを抱きかかえたまま外に出ていた。

太陽からの光が燦々と降り注ぐ中、地上にはその光を反射させ煌く無数のレジスタルが散らばっていた。

「レジスタル……これだけあれば過去に帰れるかもしれない!早速拾い集めていくか」

戦闘後だというのに甲斐斗は終始笑みを見せ機体に戻ると、再びMDを動かし始め辺り一面に散らばっているレジスタルを回収しようとした時、一発の砲弾がMDに向けて放たれた。

攻撃に気付いた甲斐斗はすぐに黒剣を出そうMDの両手を前に出したが、剣は出る気配が無く砲弾がMDの両腕に直撃する。

爆発と共にMDの両腕は吹き飛び、甲斐斗はミシェルを抱きしめたまま必死に衝撃に耐えていた。

「大丈夫かミシェル、どこか怪我はないか?」

「うん、わたしはだいじょうぶ、でもかいとが……」

「大丈夫、俺も無事だ。が……まさか剣も出なくなるとはな」

爆発の衝撃でハッチも吹き飛ばされ、仰向けの状態で倒れているMDの中からはその様子がハッキリと見えた。

「NFの空中戦艦!?レジスタルを独り占めする気かよ……!」

急いで機体を立ち上がらせようとした甲斐斗、だがMDは既に限界を迎えていた。

両腕を失い、装甲も朽ち果て、動力源も底を尽いているこの状態で、力の無い甲斐斗には何も出来ない。

必死に操縦桿を動かし体勢を立て直そうとしていたが、その時既にもう一発の砲弾がMDに向けて放たれていた。

「何も出来ないッ!?」

操縦席に近づいてくる砲弾に何もする事が出来ない、甲斐斗はただミシェルを抱きしめると、迫り来る砲弾に背を向けた。

「か、かいと!?」

「大丈夫だ、耳塞いでじっとしてろ。絶対に俺が守る……!」

今は我が身を犠牲にするしかミシェルを守れる方法が無い、甲斐斗は目を瞑ると静かに直撃を待った。

……しかし、一向に爆発する気配が無い。甲斐斗はミシェルを抱きしめたままゆっくりと後ろに振り向くと、目を疑うような光景が広がっていた。

「と、止まってる……」

砲弾は回転をしながらもMDの目の前で止まっていた、そして回転も徐々に遅くなり動きが止まると、砲弾は向きを変え空に浮かぶ戦艦に向けて飛んで行く。

「なっ、一体何が起きてんだ……って!?」

突如MDを覆い隠すように上空から現れた1機の機体、両手を広げると辺りに散らばっていたレジスタルが宙に浮き機体の背部に開いていた所へと次々に入っていく。

そして甲斐斗の目の前にある一つのモニター、一人の女性が映し出された。

『ふふっ、驚いた?これがNFの最高傑作機、羽衣の力よ』

赤髪に眼鏡を掛けた女性の笑みを見て、甲斐斗はすぐに操縦者が神楽だとわかった。

「か、神楽!?お前どうしてここに、って今度は何だ!?」

動けるはずのないMDが軽々宙に浮き始める、甲斐斗は足で踏みとどまり自分の体を固定すると、レジスタルと一緒に羽衣の背部へ入れられてしまう。

『話しは後でたっぷりしてあげる、だから今は静かにしてなさい』

上空の戦艦から無数に放たれるミサイルを、羽衣は片手を翳すだけで全てのミサイルは軌道を変え戦艦に向かって戻っていく。

戦艦は弾幕を張り自分達が放ったミサイルを必死に撃ち落していくと、その隙に羽衣は戦艦から離れていく。

『神が消えたからって何も変わらない。貴方が変わっても、世界は変わらない……』

状況は何も進展していない、むしろ悪化したのかもしれない。

甲斐斗は力を失い、神も消えた。ERRORに対抗できるの戦力が二つ消えた事になる。

今、残された力は人類のみとなった。

弱く、愚かな、人類だけに。

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