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第81話 人々、神々

長期間の更新停止、本当に申し訳有りませんでした。

県外へ引越したのですがインターネットを繋ぐのに多少時間がかかってしまい更新が遅れてしまいました。

小説を書く環境も変わりましたが、これからもしっかり更新していけるよう頑張ります。

───「甲斐斗、どうして貴様がここにいる」

紳はそう言うと腰に付けられている鞘からサーベルを抜き取り身構える。

周りにいたBNの兵士達も戦闘の準備は既に出来ていた、通路からも銃を持った兵士達が現れ前後を囲まれていた。

「お前に用は無え、用があるのはそこにいる女だ」

アリスに向けて指を指す甲斐斗、するとその場にいたシャイラとゼストは立ち上がりアリスの前に立ち甲斐斗からアリスの姿を見えないようにする。

そして更にその前には葵とエコが盾になるかのように立ちふさがった。

だがそれが気に食わない甲斐斗は右手をゼスト達に向けると、閉じていた手を大きく開いた。

「邪魔だ」

それと同時にアリスの側にいた兵士達は全員吹き飛ばされ勢い良く壁に叩きつけられる。

そして次の瞬間には甲斐斗がアリスのすぐ目の前にまで来ていた。

すぐさま兵士達は照準を甲斐斗に合わせるが、壁に叩きつけられ床に跪くゼストが声を荒げた。

「撃つなッ!今撃てばアリスに当たる!」

兵士達はその言葉に引き金に置いていた指を放す、だが銃は構えたままで甲斐斗を見つめていた。

「なあ、神を起動させるにはミシェルが必要だって聞いてたんだが……利用したのか?」

「え、あの。それは……」

甲斐斗の問いに動揺して答えられないアリス、すると甲斐斗は右手でアリスの顔を掴むと、アリスと顔の距離を近づけていく。

「答えられないなら見せてもらうまでだ、お前の頭の中にある全てを」

甲斐斗の額に黒く輝く小さな陣が現れると、その額をアリスの額に当てる。

目を見開いたまま動くことの出来ないアリスだが、ふと意識が飛び全身の力が抜ける。

その場に倒れるアリスを瞬時に受け止めるシャイラ、必死に呼びかけるものの全く反応が無い。

「気絶してるだけだ、殺してねーよ」

そう言うと甲斐斗は元いた場所に悠々と歩いて帰り紳の方に向き直る。

「さて、大体の状況は把握できたが……傑作だな、お前等人類が今更組んだ所で、一体何が出来るんだ?」

紳を挑発するかのように首を傾げながら尋ねる甲斐斗、だが紳は冷静な表情を保ったまま口を開く。

「化物の貴様には関係無い。用が済んだなら今すぐ消えろ」

紳にとっても出来れば戦いたくない相手だった、貴重な戦力をこの男につぎ込む訳にはいかない、だから戦わずに済むのならそれでいい。

すると唯は徐に紳の前に立つと、甲斐斗に向けて手を伸ばした。

「お待ちくださいお兄様!甲斐斗様の言う通りたしかに人類だけでは力不足かもしれません、しかし私達には甲斐斗様がいます!甲斐斗様の持つ力は我々人類にとってとても偉大で貴重なものです!聖戦を甲斐斗様に手伝ってもらえればきっと人類は救われます!」

甲斐斗の登場に不安や恐怖など微塵も感じない唯はそう言うと目を輝かせながら甲斐斗を見つめる。

周りにいた兵士達はその言葉と唯に驚きを見せたが、一部の兵士達は唯の言葉に納得できた。

この男の力はEDPの時に立証されている、人知を超えた強烈な力を持つ男が人類の味方に加わればこの上ない戦力増加になると共に頼もしい存在になる。

「ああ、もう世界救う為に戦うーとか、そういうのは嫌だから。お前等人間だけで精々足掻け」

唯の期待をあっさり裏切る甲斐斗、元々甲斐斗は人類を救う気など無い。

「そ、そんな……甲斐斗様お願いします!私達には貴方の力が必要なのです……!」

「んな事言われてもねぇ、俺はさっさと破壊し損ねた神破壊してミシェル連れ戻して過去に帰りたいんだよ。まぁそのミシェルが神の中にいるかもしれないって事が今わかったから、これで戦闘に集中できるんだけどな」

破壊し損ねたという言葉を聞き唯が反応すると、驚いた口調で甲斐斗に質問する。

「甲斐斗様は神と戦ったのですか!?」

「ああ、戦ったよ。速攻で破壊できると思ったが俺の力もまだ小指の爪程度しか解放できないからな、まだ完全に破壊は出来てねえんだよ」

その言い様から見て甲斐斗の実力がどれ程のものなのかがわかる、その自信に溢れた甲斐斗を見て唯は笑顔になると大きく甲斐斗に向けて頭を下げた。

「ありがとうございます!……お兄様、甲斐斗様は神との戦いに協力してくれます。これで私達はERRORとの戦いに専念できますね!」

「おいおい、別に俺は協力するとは……まぁ、結果的にはそうなるけど」

甲斐斗は床に突き立てていた剣を引き抜くと、それを片手に紳達に背を向ける。

「もうお前等に用は無いし、会う事もないだろう。精々ERRORとの戦い頑張るんだな、あーばよ」

甲斐斗はそう言ってその場から立ち去ろうと振り向いた時、視界を横切る赤城の姿を見て足を止めた。

そしてもう一度赤城の方を向くと、甲斐斗は何かを思い出したかのような様子で口を開いた。

「あー……赤城、お前には少し話がある。来てくれ」

そう言って会議室から出て行く甲斐斗、兵士達は銃を甲斐斗に向けたまま道を明けると、赤城はその甲斐斗の後についていく。

兵士達も甲斐斗の後を追おうとしたが、それを止めるように唯が命令を下した。

「お止めなさい!甲斐斗様は我々に危害を加えるような事はしません!」

紳も黙って頷くと、自分の座っていた席に腰を下ろす。

そしてシャイラが抱きかかえていたアリスも目を覚ますと、辺りを見渡し何が起こったのかを必死に確かめようとする。

「シャイラ?あれ、私は……」

「アリスお嬢様、どこか体に痛みなどありますか?」

体調を心配しながらアリスを地面に下ろすシャイラ、アリスの足はしっかり床に立ち、意識もはっきりしていた。

「特に無いわね、それにしてもあの男。私に何をしたのかしら……」

腕を組みながら会議室から出て行く甲斐斗の後姿を見つめるアリス、その場にいた由梨音も赤城がいなくなりどうしていいのかわからずただ呆然と椅子に座っていた。


───「通路で話も嫌だし、この空き部屋で話するか」

部屋の扉に手を当てた甲斐斗はそう言って扉を開けると、部屋の中に入っていく。

そして赤城も部屋に入ると、扉は自動的に閉まり鍵がかかる。

「こんな所に連れ出して何の用だ、私にも何か聞きたい事があるのか?」

赤城は腕を組んで壁にもたれ掛かると、甲斐斗は手に持っていた剣を消して赤城と真正面に向き合う。

「赤城、俺がミシェルを預けていた時の事。憶えてるか?」

その時甲斐斗の瞳は赤く濁ってはいなかった、心配するような目つきで赤城をじっと見つめている。

赤城は小さな溜め息を吐くと、壁から離れ甲斐斗に背を向ける。

「その事か……ああ、全て思い出した」

「やっぱりな、お前を見た時ふとその事が脳裏を過ぎってな……」

すると甲斐斗は赤城に近づいていくと、肩に手を置き赤城を振り返らせる。

「でも安心しろ、その時の記憶は全部消してやる。もう思い出すことはない」

甲斐斗の額に消えていた陣が現れる、そしてその陣をそっと赤城の額に重ねようとした。

だが赤城は甲斐斗の腕を掴むと自分の体から甲斐斗との距離を離した。

「赤城?」

甲斐斗は抵抗されるまま体を離し額の陣を消すが、納得はしていない。

「甲斐斗、もういいんだ。私は決めた……自分にあった全ての出来事を心に刻み、背負っていくと。だから、消さなくていい……」

「おいおい、それとこれとは話が違う。お前は耐えられない程の屈辱を受けたはずだ、それは俺の責任でもあるんだよ。せめてもの罪滅ぼしの為に、お前の辛い記憶を取り除かしてくれ」

赤城に詰め寄りながら甲斐斗はまた記憶を消そうとしたが、赤城は俯いていた顔を上げ口を開いた。

「わかった……だが今じゃない」

その言葉に甲斐斗は足を止め黙ったまま赤城を見つめると、赤城は小さな笑みをみせながら答えた。

「この戦争が終わった時……その時に私の記憶を消してくれ。それまで死ぬんじゃないぞ」

それを聞き終えた甲斐斗も笑みを見せると、軽く笑ってみせる。

「俺が死ぬ訳ねーだろ?……にしても、お前って奴は本当に───」

突然甲斐斗の言葉が止まる、何かが見えたかのような表情で固まっていた。

「甲斐斗?」

「ああ、なんでもない。っま、この世界は俺様が変えてしまう事になるが。それまでお前こそ死ぬんじゃねーぞ」

甲斐斗は軽く手を振りながら赤城の横をすり抜け扉を開けて部屋から出て行く。

すると赤城も部屋から出ると、甲斐斗の振っていた腕を突然掴む。

「いいか、約束だからな……絶対に死ぬなよ」

何時にも増して真剣な目つきの赤城に、甲斐斗は赤城の顔を見つめたまま自信満々に笑みをみせた。

「任せろ、これでも約束を破った事は一度もないんだぜ?」

そんな甲斐斗の言葉を聞いても、赤城は安心する事が出来ずただ甲斐斗を見つめる。

腕を掴んでいた手の力が抜けていく、甲斐斗は腕を放されると赤城に背を向け歩いて行った。


───神の出現により人類が混乱する中、別れていた人類の力は段々と集結しつつあった。

神とERRORを前にした人類は戦いを選択せざるを得えない、もし甲斐斗が神を殺せば人類の敵はERRORのみとなる。

ERRORを排除しない限り人類に未来は無い、何としてでも人類はERRORを絶滅させるしかなかった。


会議は甲斐斗の登場により一部荒れたが、再び続行され何とか無事に終わった。

赤城達は艦にいたNFの兵士達を集め現状と事の成り行きを伝えていき、SVは既にBNと共闘する事を約束したためSVは自由の身となり兵士達に監視される事もなくなっていた。

BNの羅威達は会議の終わった後、部隊の皆でこれからの事を話し合っていた。

「まっさか甲斐斗が現れるとはな、しかも神を殺すだってよ。すげぇ事言いやがるな」

缶ジュース片手にソファに座りながらくつろぐ穿真、それ以外の部隊のメンバーは皆不安と緊張で表情を曇らせていた。

「あの男が甲斐斗……奴に神を倒す程の力があるとは思えないね、私は……」

始めて見た甲斐斗の印象を香澄が話しだす、たしかに強そうな気配を感じたが。だからと言って人類を滅亡させかけた神と一人で戦いに行くのは余りにも無謀すぎる、それは誰もが感じていた。

だが不安はそれだけではない、同時にERRORについての問題も出てくる。

雪音も不安そうに俯くと、体を小さくしてソファに座っている。

「ERRORって、どうすれば倒せるんでしょうね……やっつけてもやっつけても、いつもいっぱい押し寄せてきますし……」

雪音が言葉にした事は恐らくERRORと戦った事のある兵士達は誰もが思ったに違いない。

殺しても殺しても現れるERROR、謎の多い生命体だが、これも一つの謎だった。

その謎を解明しない限りERRORの数は瞬く間に増えていくだろう、それを人類は何としても阻止しなければならない。

そんな雪音の心配に、羅威もまた俯きながら答える。

「直接ERRORの巣を破壊するしかないないだろうな、まぁ俺からすればERRORに巣があるのかもわからんが。EDPの時は地下都市がERRORの巣だったみたいだが、ERRORはまた増え始めたからな」

「って事は、ERRORの巣が一つだけじゃなく無数にあって、それが世界中にあったら……私達はそれを全部消せるのでしょうか……」

「消していくしかないわよ、だってそうしないと人類は滅亡しちゃう……だから私達が戦うのよ、この世界の為に!」

そう言って力強く立ち上がってみせたエリル、それに続いても穿真も缶を握り締めながら立ち上がった。

「よく言ったエリル!お前等もしけた面してんじゃねーぞ!この展開はむしろ燃えるべき所だろッ!人類の力を結集させ、地球を狙う化物との対決!これ程燃えるシチュエーションはねーぞ!」

ガッチリとポーズを決め、穿真は闘志を燃やしながら高らかに飲み終えた缶を天井へと伸ばす。

「カ、カッコイイです穿真君!私も頑張ります!頑張ってこの世界を平和にします!」

雪音は目を輝かせながら穿真を見つめるが、それ以外のメンバーはどこか遠い目で穿真を見つめていた。

すると羅威もふと立ち上がると、熱く決めた穿真を見ながら口を開いた。

「そう、穿真の言う通りだ。人類が力を合わし、死んでいった仲間達の為にも俺達はこの戦争、絶対に勝つ」

それを聞いて香澄も立ち上がるが、相変わらず穿真には冷たい視線を送っていた。

「そうね、でも簡単に勝てる相手じゃない……そんな事は百も承知でしょうね」

香澄の言葉に皆が頷く、絶望的な状況だとしても、人類は戦う事しか選ぶ道は無い。

そして戦い選択をすれば、必ず勝利を掴み取るしかない。


───皆が夫々話し合っている内に、紳達を乗せたBNの戦艦は無事に軍事基地へと到着した。

紳はすぐさま艦から降りると基地の最上階に向かい本部との連絡を取り掛かった。

『風霧総司令官、現在本部での異常は無し。各基地からもERRORが出現したとの報告はありません。そして神についての事なのですが、現在ゆっくりと歩きながら北へと向かっています、このままではNFの北部の基地が……』

「わかった。北部にいるBN及びNFの兵士達全員に伝えろ、BNはNFと協力し民間人を避難させると。NFも事の状況を掴めているはず、此方が攻撃しない限りNFも攻撃はしてこないはずだ……もし攻撃された場合は戦闘を行なわず直ちに離脱しろ、いいな」

『了解しました、我々はこれより直ちに北部にある基地に連絡をとります』

兵士はそう言って敬礼を済ませると通信を切り、命令通りに動き始める。

命令を告げ終えた紳にはまだ山ほどしなければならない事が残っていた、その一つを片付けに行こうとした時、紳のいる部屋に書類を持ったダンが現れた。

「紳、どうやら俺達が思っていたより状況は悪いみたいだ」

煙草を吹かしながら片手で書類を手渡したダン、紳はその書類に目を通していくが、ある一枚の写真を見て目を見開いた。

「これはっ……」

「一人の兵士が最後に撮った写真だ、最後にその写真のデータを送った後に連絡が途絶えたらしい」

「そうか……だが、これでわかったな。ERRORの本拠地のある場所が」

「場所は特定済みだ。さて、ここからが知恵の見せ所だ、後はどうやってERRORを消す」

「それについては後で皆と話し合うつもりだ、BNが開発した新型兵器についてもな……」

書類を机の引き出しに入れると紳は部屋から出て行こうとした時、擦れ違い様にダンが口を開いた。

「紳、お前はあの男、甲斐斗に神を止められると思うか?」

その言葉を聞いて紳は足を止めると、振り返ることなく答えた。

「止める?無理だな。奴は力の加減が出来そうにない」


───NF本部の次に大都市の北部にはまだ何十万人もの人間が町にいるが、既に町としての機能は果たしていなかった。

NFの人間達は落胆していた、今まで信じてきた神が人類に猛威を振るい本部を一瞬で掻き消した事に。

その神の起動の日からNFの各町は荒れ始めていた、人々は軍と国に反感、暴動、デモ……。

今更気付いても遅い、神を信じた人間が馬鹿なだけだ。

NFは良く知っている、神の力は絶大であり誰も神を止める事は出来ないと。

だから神が人類側につけばこの世界は救われると信じていた。しかし、もしその神が人類の敵と化したとわかったら……。

もうじき人類は滅びる。町では犯罪が多発していた、強盗に放火、暴行、殺人、強姦……。

犯罪を取り締まる警察や軍人でさえもその犯罪者の一員となっていた。自暴自棄になる人間は少なくない、むしろ殆どのNFの人間はそうだ。

小さい頃から神を信じてきたからこそ、その思いを裏切られた時の反動では相当のもの。

人が死んだ所で警察は動かない、人が怪我をした所で救急車もこなければ病院にも行けない。

力の無い人々は家に篭ることしかできない、外に出ればそこは無法地帯、いつ殺されてもおかしくない状態だった。

店は銃を持った市民が占拠し、町の至る所で銃撃戦が行なわれている。

開いている病院や店があれば薬や食料、金欲しさに銃を持った男達が押し入り邪魔な人間を殺していく。

警察に通報しようとしても繋がらず、その場にいる若い女性は体を弄ばれ、連れて行かれる。

犯罪を止めようと僅かな市民が武器を持ち立ち上がるが、皆次々に殺されていった。

……誰が予想できただろうか、神の起動によりNFがこれ程までに杜撰になっていくことを。

一般の人間ならこうはならなかったかもしれない。神を信じてきたNFだからこそ、このような有様になったのだろう。

「各部隊に告ぐ、現在神は北部へと移動中、神が到着する前に北部にいる民間人を全員避難させろ!」

BN指揮官の命令にBN、NFの部隊の兵士が一斉に動き始める。

その荒れ始めた北部の町に到着したBNの艦隊とNFの艦隊、すぐさま兵士達が町へと下りるが、そこは既に戦場と化していた。

『こちらはBN、現在神がこの町に近づいてきています。民間人の方々は艦に乗り込み避難してください!』

BNの戦艦は拡声器で広範囲に伝えていき、各兵士達は家に訪問し生存者を見つけていく。

艦の周りには数機の我雲が立ち並び周囲を警戒し、逃げ惑う人達を誘導していた。

人々が我先にと走る道路には無数の死体が転がっている、その中には子供の死体も多々あった。

泣き叫ぶ子供を押しのけ、倒れている人間を踏み台にし、人間達は自分の為に走る。

だがその時、BNの艦が止まっている頭上に1体の機体が現れた。

『か、艦長!突如艦の上空に機体が現れました!今モニターに機体を映します!』

映し出されたその姿に誰もが息を呑んだ。白い2枚の翼を広げる白い機体、右手にはランスを持ち、左手には美しく長い盾を握り締めており、その姿はまるで天使を思わせる程だ。

艦内にいる兵士達はその姿に魅了されていると、天使はBNの艦に盾を向けた。

盾の表が上下にスライドし更に長くなると、その中心に付いている宝石のような物が光り輝き始める。

艦の装置は強い反応を示し警報音が鳴り響くが、それに気付いた時にはもう遅かった。

『あっ───』

盾から放たれた一閃の光は一瞬で艦を包み込むと、その場にいた人間達を全て掻き消した。

巨大な跡が地面に残り、そこにはもうBNの艦や機体、人間のいた面影は一切無くなっていた。

別の場所でも同様の事が起きていた、BN、NFの戦艦は次々に上空から降りてきた天使に破壊されていく。

透き通るように綺麗なレジスタルの眼で人間を確認し、容赦無く攻撃を仕掛けてくる。

3機の我雲が小銃を向け天使に向けて発砲するものの、天使はランスを突き立て瞬く間に全ての我雲の胸部を貫いていく。

破壊し終えその場から去ろうとした天使だったが、近くから少女の泣き叫ぶ声が聞こえてくると一瞬にしてその声のする方へ向かう。

そこには一人の少女が地べたに座り倒れたまま動かない人間の体を必死に揺すっていた。

天使は少女の前に降り立つと、それに気付いた少女は涙で濡れた顔を上げ天使に向かって口を開いた。

「お願いします神様……助けて……皆を、助けて……!」

声を震わせながら少女を手を組むと祈りを捧げる、それを見た天使は右手に持つランスの先を少女に向けると、躊躇い無く突き出した。


───「神って何だ?」

率直な質問だった、少女は閉じていた目蓋をゆっくりと開けていくと、そこには左手で簡単にランスの先端を掴む甲斐斗が立っていた。

少女は驚きで声が出せない、天使はランスを押し出そうとするが甲斐斗に掴まれたまま微動だに出来ない。

「困った時に助けてくれる便利屋さんか?ま、そうだとしても。この世界に神はいない」

そう言って甲斐斗が右手を天使に向けた瞬間、右手に集わせた黒い光を放ち一瞬で天使を掻き消した。

「いるのは弱者と、強者だけだ」

甲斐斗は後ろに振り返ると涙で顔をぬらした少女に手を差し伸べ、少女はゆっくりとその手を掴んだ。

そして少女の手が甲斐斗の手に触れた時、少女はBNの戦艦の中に来ていた。

「ここはっ……」

少女が辺りを見渡すと、町から逃げてきた人達が大きな部屋に集まり震えていた。

「唯一脱出に成功した艦だ、ここにいればあの町よりは安全だろ」

少女の手から男の手が離れる、急いで声のしていた方に振り向くが、そこにはもう彼の姿は無かった。

甲斐斗は先程まで町にいた場所に立っていた、周りを見渡せば空からは次々に天使が舞い降り町を破壊している。

「天使?神の手先か?どっちにしても邪魔だ……消えてもらうか」

赤く濁る瞳で空を睨み、不敵な笑みを浮かべる甲斐斗は右手は高らかに天へと突き出すと、右手の平に一瞬にして巨大な闇が凝縮されていく、そして瞬く間に甲斐斗の体よりも巨大な闇の球体を作り出すと、それを天に向けて勢い良く放った。

広範囲に広がっていく闇は上空にいる全ての天使を飲み込み次々に破壊していく、闇は留まる事を知らず町の上空に浮かんでいた雲をも全て掻き消した。

「弱すぎる……いやまて、俺が強すぎるだけか」

そう言いながら余裕の笑みを浮かべる甲斐斗。

穴の開いた雲からは太陽の日が照らされ町は神々しく照らされている。

「神は世界を守る者なら、何故人間を攻撃するんだ?明らかにERRORの方が……ん?」

町を照らし出す光が段々と強くなっていく、異変に気付いた甲斐斗は軽く首をかしげながら空を見上げた。

その瞬間、一本の巨大な光が町全体を飲み込むと、その場にあった全ての物を破壊していく。

凄まじい轟音と地響きに、既に北部から離れたBNの戦艦にもその振動と衝撃が伝わってきていた。

北部の町があった場所には巨大な穴が開き、周辺には白い塵が積もっている。

巨大な穴、その穴の中から一人の男が浮き上がってくると、平然とした様子で空を見上げたままだった。

「こんな短時間でこれだけの魔力を蓄えたか……まぁ、それは俺も同じだけど」

その言葉の後、突如天空から神が舞い降りた。着地した地面は巨大な亀裂が走り大地を揺らしていく。

全長五百メートルは軽く超える神の巨体、それを見て甲斐斗は指を鳴らすと何処からともなくMDが姿を現した。

そして颯爽と機体に乗り込むと、甲斐斗は機体を浮上させていき神の胸元辺りで機体を止めた。

「ミシェルは何処だ。胸部か頭部、いや腹部か?……まぁいい、両手両足切断した後にゆっくり探すとするか」

MDは瞬時に黒剣を出すとそれを両手で握り神の元に飛び立とうとした時、突如モニターが砂嵐に変わると一人の少女が映し出された。

「ミシェル!?」

光り輝く部屋の中に様々な文字は模様が光を放ちながら円になり少女を囲っている、少女はその中心に浮いており、閉じていた目蓋をゆっくりと開けた。

「待ってろ!今すぐ助けてやるからなッ!」

その甲斐斗の言葉にミシェルを首を横に振ると、虚ろな瞳で甲斐斗を見つめる。

『助けはいりません、私は居るべき場所に戻られたのだから』

頭の中に直接聞こえてくる声、その声はミシェルと似ていたが口調が余りにも違うが、どこかで聞いた事のある声だった。

「この声、俺とミシェルが始めて会った時に聞こえてきた声……てめぇ一体何者だ、答えろ」

『……私は、この子の観察を任されていた者』

「観察?何の為にそんな事しやがる」

『その質問には答えられません。ですが甲斐斗、この子に笑顔をくれた貴方にはとても感謝しています。楽しい日々も過ごせてこの子も満足したはずです、ありがとうございました』

第1MGは礼を言い終えた後、顔を俯かせるが、次に顔を上げた時虚ろだった瞳には光が戻っていた。

「かいと……!」

泣き顔で甲斐斗の名を呼ぶミシェル、それを見て甲斐斗はMDの出力を最大にすると両手に握る剣を高らかに振り上げた。

「大丈夫だ、すぐに終わらせる」

悲しむミシェルの姿を見て甲斐斗は神を睨みつけ、神の胸部目掛け剣を突き立て突進しようとした時、ミシェルは涙を零しながら大きく首を横に振った。

「きちゃだめッ!」

今まで聞いた事の無いミシェルの叫び、甲斐斗は瞬時に機体を止めると驚いた様子でミシェルを見つめ続ける。

「ごめんねかいと、こんなこといって、でも……えっ!?」

「うぉらぁああああああッ!」

MDの右腕に瞬時に黒い光を放ちながら魔力が集うと、それを神の右肩に向けてぶっ放す。

放たれた力は停止している神の右肩に直撃すると、巨大な神の肩が簡単に崩れ落ちた。

「聞けミシェル!俺はまだお前に生きる楽しさと喜びを見せちゃいねえ!だから俺はこんな所で死ぬつもりも無い、お前を失うつもりも無い!……だが、お前が俺を拒否するなら俺は手を引く、だがもし俺を信じてくれるなら、必ず俺が幸せにしてやる。約束したからな」

恥じらいも無く言い放つ言葉、力を漲らせているその甲斐斗の眼は真っ直ぐミシェルを見つめていた。

「その為には聞いておかなくちゃならねえ……ミシェル、お前にとって、幸せって何だ?」

「しあ、わせ……」

ミシェルの脳裏に今までの思い出が蘇る、それと同時に自分の立場、力、存在、神、様々な思いと記憶が駆け巡る。

……今、自分にとって一番の幸せ。今、今……幸せ……でも……。

視線を反らし躊躇う表情を見せた瞬間、力強い甲斐斗の声がミシェルに耳に届いた。

「ちなみに俺の幸せは……ミシェル。お前の側にずっと一緒にいることだ」

その言葉に恥じらいも無ければ迷いなんてものも無い。

今の甲斐斗の本心は揺るぐ事は無い。後悔なんてしたくないから、本音を伝えたまで。

状況や立場もわきまえている、だがそれで甲斐斗の思いが変わることは無い、何故か。

力があるからだ。

ミシェルは顔についた涙を振り払うと、涙で濡れた手を一生懸命甲斐斗に向けて伸ばした。

「わたしも……かいとと、ずっと!ずーっといっしょにいたい!」

ミシェルの本音が聞けた、その言葉は紛れもない事実。

だからもう迷わない。今どうなろうと、何が起ころうとも、甲斐斗は少女の言葉を信じ約束を守りきる。

お互いが優しい笑みを見せ一瞬緊張が解れたその時、突如ミシェルの両腕が広げ苦しい表情を浮かべる。

「はぁっ!あ…ぅ……か、い……と……ぁあ────ッ!」

ミシェルの眼からは光が消えていた、そして周りを取り巻く文字や紋章が光輝きはじめると、右肩を失った神の全体に巨大な陣が光を帯びて浮かび上がってくる。

桁違いの魔力が神から込み上げて来ると、神は形状を変えていき丸みを帯びた体では消えていき、より鋭く硬く大きく、破壊に長けた神の形に近づいていく。

その光景を眼に焼き付ける甲斐斗、自分の想像していた以上の出来事がそこでは起こっていた。

『悪しき魔神よ、神聖なるこの世の神に平伏しなさい。世界は、私達の力で救います』

「観察者か。にしても人殺して世界救うのかよ……だったら俺は、神を殺してお前を救う」

MDの眼光が赤く鋭くなると、MDの足元に何重もの魔方陣が集いはじめる。

その陣はMDの背部にも現れると、より一層黒く光り輝き始めた。

『私はもう観察者ではありません、私は第1MG。役目を果たす者』

すると神の足元にもMDとは比べ物にならない程巨大かつ精密な陣が描かれると、白き光を放ち黒き光を掻き消していく。

ミシェルは小さく微笑むと、壮大に広がる綺麗な青空を見上げた。

そして視線を下ろし前を向くと、ゆっくりと口を開いた。

『それではこれより、Deltaプロファイルを開始します』

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