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第80話 希望、集結

───「ん……?」

BNの艦に保護されたのはNFだけではない、SVの兵士達も保護されていた。

葵やエコもそうだったが、NFの本部にいたアリス達もこのBNの戦艦に乗り込んでいた。

目を覚ましたアリスがベッドから起き上がろうとしたが、すかさず横にいたシャイラがアリスの肩に手を掛け、優しく寝かせていく。

「大丈夫ですよアリスお嬢様、今は安全な場所におります。だから安心してください」

「安心……できない!シャイラ、神は、神はどうなったの!?」

胸騒ぎが収まらない。あの時神は光を放ち、見えるもの全てが吹き飛んでいく光景を気を失う前に見てしまったアリスには、どうしても確認する必要があった。

「神は起動なされました、ですがその力は……」

シャイラが次の言葉を躊躇っていると、部屋の扉が開き頭に包帯を巻いたゼストが部屋の中へ入ってくる。

「ゼスト!?その怪我は───」

「かすり傷だ、それより話しがある。神についてだ」

頭の怪我には気にも留めてないゼストは椅子に座っているシャイラの横に立ち、話しを進める。

「神は起動し、周辺のERRORは一掃できた。だが、その力は人類にも牙を向いた」

「そんなっ……私は神に伝えたのよ!それなのに、どうして……!」

ERRORの脅威、そして人類絶滅の危機を神に伝えたはずのアリス。

だが神の力は人類にまで及んだ、それはこの混乱した状況でも唯一事実と言える事。

「私が何か儀式で間違ったんじゃ……ああ、お姉様が、お姉様がぁ……!」

自分の身を犠牲にしてまで神の起動を優先したフィリオ、そして神を信じた故に起きた現実。

神を使い人類に希望を与えるはずの神、その為にフィリオは身を捧げたというのに、この有様はアリスにとっては厳しい現実だった。

「落ち着いてくださいアリスお嬢様、今は───」

「悲しみに浸る時間など無い、対策を練らなければ取り返しのつかない事が起こる」

同情も無くその余りにも厳しい言葉にシャイラは椅子から立ち上がると、険悪な表情でゼストの前に立つ。

「お待ちくださいゼスト様、今のアリスお嬢様にそのような事は……」

「今のSVの当主はアリスだ。それにこれからBNの指揮官との話し合いもある。辛いのはわかるがこんな所で泣く暇があれば対策を───」

室内に響く叩かれた音で、俯いていたアリスが咄嗟に顔を上げた。

ゼストは頬を叩かれ横を向き、シャイラは叩いた手を下ろした。

「何故ゼスト様はアリスお嬢様に冷たく接するのですか!?お嬢様はゼスト様のように悲しみや辛さを溜め込める方ではありません!アリスお嬢様は一人の女の子です、私達のような大人でもなければ兵士でもない。しかし、だからこそお嬢様は私達の分まで悲しみ、涙を流してくれているのではないのですか!?」

今まで見たことのないシャイラに態度に圧倒されるアリスだが、ゼストは顔色一つ変えずただ話しを聞いている。

「今がとても深刻な状況だという事ぐらいお嬢様だってわかっています。それはゼスト様にもわかっているはずです、なのに、どうして……」

肩を震わせながら必死に涙を堪えるシャイラ、そんな彼女の顔を見てゼストは後ろに振り返り背を向けて部屋の出口まで歩いていく。

「待って!」

そのアリスの声に扉の前にまで来ていたゼストの足が止まる、そして背を向けたままのゼストにアリスは言葉を続けた。

「私も行く。こんな所で、泣いてられないから……!」

ベッドから出ようとシーツを退けるアリスだが、シャイラはそれを止めにかかろうとした。

「しかしお嬢様、今は……」

「私は大丈夫。ありがとねシャイラ、私シャイラの言葉で気付いたよ」

シャイラは何もする事が出来ぬままアリスはベッドから降りると壁に掛けてある清楚な洋服に手を掛けた。

「この世界、そしてお姉様の為にも。私が頑張らないといけないって、だから今、私の出来る事は精一杯しないと、ね!」

そう言ってアリスは勢い良く服を抜き出すと、急いで着替えを済ませようとする。

それを見たシャイラはすぐさま部屋の敷居になるカーテンを引っ張ると、アリスの着替えを手助けしていく。

ゼストが後ろに振り返ると、既にカーテンが引かれ何も見えない状況になっていた。

それを見てまた後ろに振り返り部屋の扉を開けると、そっと一言呟いた。

「急がなくてもいい、会議までにはまだ1時間ある」

「は……はぁっ!?何よそれ!まさかゼスト、また私を───」

そこで扉は閉まり、怒り口調のアリスの言葉の最後がゼストに届くことはなかった。

扉の前に銃を持ち見張りを務める香澄はその声に首を傾げていたが、ゼストは気にすることなくその場を後にした。


───その頃、機体が収容されている格納庫に葵は来ていた。

自分の機体を見つけると、ワイヤーに足を掛けそのまま胸部まで上がっていき、操縦席の中に入る。

そこには目を瞑り深呼吸するエコが後ろの座席に座っていた。

「どうだエコ、何かわかったか?」

「黙ってて……うるさい……」

「な、黙れって何だよ!?人がせっかく様子見に来てやったっていうのに!」

そこでエコは表情を曇らせると、目を見開き目の前にいた葵を睨んだ。

そんなエコの表情に驚く葵、するとエコは溜め息を吐き操縦席から離れる。

「集中が切れた、葵のせいだからね……」

不機嫌な様子のままエコは機体から下りようとワイヤーに足を掛けると、一緒に葵もワイヤーに足を掛け機体から下りようとする。

「まーそう怒るなってー。謝るから、な?」

エコは機体から下りた後格納庫からそそくさと出て行こうとするが、その後ろからは両手で手を合わせ必死に謝りながら葵がついてくる。

だがエコは気にせず通路を歩いていくと、後ろにいた葵がエコの前に立ちはだかる。

「エコ、お前今何処に向かおうとしてるんだ」

「愁の所、心配だから……葵も来る?」

「いや、俺はいかねえよ。勿論心配してるけど、今のあいつとは会いたくないからな」

「何で……?」

エコは恐らく葵もついてくると思っていたが、行かないと言う返事にエコは疑問を抱き聞いてみると、葵は表情を曇らせながら視線をエコからそらした。

「似てんだよ、昔の俺に……。っま、エコだけで行ってこいって、まだ会議まで時間があるし俺は腹ごしらえでもしてくるぜ!」

一瞬暗い表情になった葵だったが、また一瞬にして明るい表情を取り戻すとそのままエコの横を通り抜けどこかに行ってしまう。

「昔の、葵……」

僅かに見せた葵の暗い表情が脳裏から離れない、エコは葵の通り過ぎていった通路を振り向くが、既にそこに葵の姿は無かった。

昔の葵と言っても、エコが知る葵は一人しかいない。まだエコが葵と出会う前は一体どんな人だったのか、エコには予想もつかなかった。

今までずっと二人でいるが、まだ自分の知らない葵がいると知り何故か不安な気持ちになってしまう。

「いいから二人は戻って!愁とは私とアリスで話しをしてくるから!」

「アリス……?」

エコが通路を曲がると、部屋の前で4人の兵士が何やら言い争いをしていた。

アリスという名を聞いたが、その部屋の前にエコの知っているアリスはどこにもいない。

「なんで俺達は駄目なんだよ!?話しがあるのはお前だけじゃないんだぞ!」

「どーせ今愁と会っても喧嘩するだけでしょ二人は!ここは私達二人に任せて今は大人しくしててよ!」

そのエリルの言葉に羅威は小さく頷いたが、穿真はまだ納得が出来なさそうにその場に留まっていた。

「もういいだろ穿真、エリルの言う通りだ。まずは二人に任せればいい、その後俺達が行けばいいだろ」

「へいへいわかったよ!全く……んじゃ、お前等に任したからな」

羅威の言葉に渋々引き下がる穿真、だが羅威も穿真と同じく位に愁と会いたかった。

それと同様に不安もあった、今の愁と会う事で、もう自分達の知る愁が消えているかもしれないという不安に。

二人が部屋の前から離れていくのを見てエコは愁の部屋へと向かうと、部屋に入ろうとしていたエリルはエコを見つけて足を止めた。

「あれ、貴方はたしかSVの───」

「私はエコ……愁の様子、見に来たの……」

そう言った後、エコはエリルの横にいる女性の顔をじっ見つめはじめる。

その視線に答えるかのようにアリスは手を指しのばすと、エコと握手を交わす。

「初めましてエコちゃん、私はアリス。よろしくね」

余り馴染みの無い呼ばれ方にエコは戸惑いを見せつつ、エコは差し出された手に握手をせずに愁のいる部屋の扉の前に立ちふさがる。

「私はSVの兵士、貴方達の仲間を殺してきた……それでも、貴方は私と握手をするの?」

エコの問いにアリスの横にいたエリルが戸惑いを見せる、だがアリスは笑み見せて先程と同じように手をのばした。

「うん、するよ」

意外な反応にエコは驚きながらも気付けば手を出し握手を交わしていた、エコはその理由も気になったが、アリスの笑顔に何故か何も言い出せない。

すると扉が開き部屋の中にアリスとエリルが入っていく、エコも遅れないように部屋に入ったが、その部屋には一つしか明かりが灯っていなかった。

愁の寝るベッドだけ、その周りは薄暗く家具もほとんど置かれていなかった。

「愁、起きてる?」

アリスはそう言って愁のベッドに近づいていくと、そこには目元にアイマスクをされ何も見えない状態の愁が寝ていた。

白いシーツが体にはかけられ、頭だけがシーツから出ている。

「アイマスク?どうしてこんなもの愁に……」

すぐに取り外そうとするアリスだが、頑丈に固定されており容易に取り外す事が出来ない。

「その声、アリスか……久しぶりだね」

突然の愁の声に驚き、アリスは咄嗟に手を放してしまう。

「う、うん。久しぶりだね、愁」

ベッドの横にある椅子に座るアリス、その後ろにも椅子があった為エリルもエコもその椅子に座ると、視線は愁に集まった。

二人は黙ったまま様子を見ており、それを承知した上でアリスは愁に問いかけた。

「愁、教えて。皆が知りたがってる、どうして……どうして愁はSVに行ったの?」

エリルが一番聞きたかった質問をアリスが変わりに聞くと、愁は黙ったまま喋ろうとしなかったが、ゆっくりと語り始めた。

「家族を、BNに殺された……。だから俺は、SVに行った……」

弱々しい声から聞かされた衝撃の事実にエリルもアリスも驚きが隠せなかった。

「BNが愁の家族を?そんな、ありえないよ!」

「嘘じゃない……本当、さ。紳に聞けば、わかる……」

今まで共に戦ってきた仲間、その仲間が愁の家族を殺す事等到底考えられる事じゃない。

だが、信じたくなくても。今目の前の愁を見れば嘘かどうかは明白だった。

「裏切られた……今まで信じてきたBNに、守ってきた人、母さんや、幼い弟と妹まで。殺されたんだ……」

「だ、だから愁は、BNに復讐をしようとしたの?」

「復讐……そうかもしれない、俺は許せなかった、BNを。だから……」

「彩野を殺したの?」

感情を押し殺し今まで黙っていたエリルがついに口を開いた。

「エリル……」

「答えて愁、たしかにBNに家族を殺されたら私だって許せない。でも、どうしてその矛先を友達の私達に向けたの?どうして仲間だった彩野を殺したのよ!」

エリルの感情が段々と高まっていく、恐らくこの場に羅威と穿真がいればこれだけではすまなかったであろう。だからこそエリルは二人のこの場に連れようとはしなかった。

「……俺はSVの兵士、彩野はBNの兵士。……敵の兵士を殺すのは、当然の事だ……」

愁の言い放った冷たい言葉はその場にいたエリルとアリスは目を見開き寝ている愁を見つめていた。

「愁、それ、本気で言ってるの?彩野は仲間だよ?友達なんだよ……?」

「それがどうした……友達なんて、どうでもいい」

前までの愁とは別人のような口調に凍りつく二人、もう目の前には自分達の知っている愁はいなかった。

「俺にはフィリオがいればそれで良かった……けど、今はいない」

愁の寝ているベッドが小さく揺れ始める、愁は必死に体を動かし起き上がろうとした。

だが起き上がる事も動く事も愁にはできなかった。両手両足、膝や腹部にまでベルトが巻かれ完全に固定されているのだから。

「もう、間に合わない。今頃フィリオは、あの男に。っふ、くく……っはは!あはははははははははは!あはははははははははははははははは!!」

部屋中に響き渡る愁の不敵な笑い、今まで聞いたことの無い愁の声と表情に恐怖が沸き起こるエリルとアリス。

「俺を殺せ」

笑いは突然消え、呟やかれた一言。

「殺せ」

何も言い出すことが出来ない。手や唇が小刻みに震え、愁に声を掛ける事が出来ない。

「殺せ!」

愁の耳に部屋の扉の開く音が聞こえる、そして扉が閉まると。部屋はまた静寂に包まれた。

一人取り残された部屋の中で愁は耳を済ませる。

「頼む……誰でもいい、俺を……殺してくれ……」


───愁の部屋から出たエリル達三人、エリルは涙を流しアリスに抱きついていた。

「信じられない、どうして愁が、あんな……」

仲間だと思っていた愁はもういない、もうあの頃には戻れない。

人一倍正義感が強く心優しい愁が、今では見るも無残な人間と化している。

アリスも動揺が隠せない、泣き続けるエリルを見ながら自分の涙も零れ落ちようとした時、今までずっと黙っていたエコが口を開いた。

「愁、泣いてた」

「えっ?」

エリルは涙を拭いながらエコの方を見ると、エコは愁のいた部屋の方を向いて更に言葉を続けた。

「愁は酷く後悔してる、自分の仲間を殺してしまった事に……だからもうBNには戻れないと感じてる」

エコにはアイマスクの下にある愁の目が見えていた、涙を流しながら苦渋の決断をした愁を。

「二人とも、よく聞いて……どうして愁が変わったのか、教えてあげる……」

それからエコは二人に語り始めた、愁がSVに来てからどのような人間になっていったのかを。

「壊れた心、不安定な精神。それを癒していたのが、フィリオなの。そのフィリオがいない今、愁の心は……壊れかけている」

「それじゃあ、愁が彩野を殺したのは本心じゃなくて……」

「貴方達BNが一番知ってるはず、愁がどのような人間なのか……それじゃ」

エコは伝えることだけ伝えると二人に背を向けどこかへ歩いていってしまう。

もう戻れないかもしれない、だからといって諦めてしまえばそこで全てが終わる。

エコの話しを聞いて困惑する二人、これからどうすればいいのか、何をすればいいのか。

仲間を救いたい。その気持ちはエリル達だけとは限らない、エコ達だってそうだ。

愁の部屋の後にエコの向かった場所、それは葵のいる食堂だった。

壁の影から顔を少しだけだし葵を探していると、そこには葵と羅威と穿真の三人がテーブルに座っていた。

真剣な顔で机の上には水の入った硝子コップしか置いていない、エコはそのまま様子を窺おうとした時、BNの二人は席から立ち上がると食堂から出て行ってしまう。

隠れながらその様子を確認したエコは食堂の中に入ると葵の元へ歩いていく。

「お、エコじゃねえか。話しは済んだのか?」

エコに気付いた葵はそう言うとコップに入った水を飲み始める。

「うん……葵は何を話してたの?」

「見てたのかよ、まぁあれだ。愁についての話しだよ。

 やっぱり何だかんだ言ってBNの連中は愁が心配なんだな。全く、あいつは幸せもんだぜ」

葵が水がまだ入ったコップを机の上に置くと、今度はエコがそのコップを掴み口元に近づける。

「そう、私と同じね」

そう言ってエコが水を口に含んだ瞬間、目を見開いた葵がいきなり椅子から立ち上がるとエコの手を掴んだ。

「ばか!お前それ酒だぞ!?」

葵の言葉にエコは慌てふためきすぐさま元のコップに吐き出そうとした時、段々とエコの表情が戻っていく。

「あはは!騙されてやーんの!それただの水だっての!」

一人腹を抱えて笑い出す葵をエコは口に水を含んだまま睨みつける。

「しかもその顔───」

次の瞬間エコの口から勢い良く出た霧状の水は葵の顔面に直撃すると、エコはハンカチで口元を綺麗に拭いていく。

「そろそろ会議の時間、行こ」

エコは自分の口元を拭いたハンカチを葵に手渡し食堂から出て行くと、葵も少し湿ったハンカチで顔を拭きながら食堂を後にした。


───続々と指定された会議室へと集まる人々、その中にはNFの赤城と由梨音、SVのアリス達の姿もある。

丸く巨大な机が部屋の中心に置かれ、兵士に指示された席へと座っていく。

だが何れも銃を構えた兵士が背後に立ち、常に警戒と監視を行なっていた。

「赤城少佐〜、一体これから何の話しをするんでしょうか〜……」

小声でそう言いながら挙動不審に周りを見渡す由梨音、無理も無い。周りに重い空気が漂い、同じ部屋にSVとBNを纏める司令官達が集っているのだから。

「BNは私達NFやSVの兵士を生かしている、となると目的は……」

会議室には三つの組織の兵士達が集まった、そして部屋の扉が開かれ最後に紳達が姿を見せた。

白いマントに身を包み堂々と自分の席へと向かう紳、そしてその隣には妹の唯が付き添い、後ろにはダンがついてくる。

三人が席に座ると、場はより一層静寂に包まれた状況の中で、紳は呟いた。

「神が起動した……。NFとSVに聞きたい、世界は救われたか?」

紳の問いに答えるものはいない、SVのアリスも俯きながらじっと紳の言葉聞き続ける。

「これを見ろ」

会議室の照明が暗くなくなると、奥に取り付けられた巨大なモニターに電源が入りある映像が映し出された。

一面に白い砂のような塵が広がる大地、空は薄暗く曇り、物という物が何一つ無い。

「ここがどこかわかるか?NFの本部があった場所だ」

次の映像が切り替わる、だがそこにも先ほどの映像と同じような風景が映し出されていた。

「ここはその本部の近くにある都市だった場所だ……見ろッ!」

声に力が入り、拳を机に振り下ろす紳。静かな会議室に机の叩く音が響く。

アリスはその声と音に反応してじっとその映像を見つめる。

「貴様等SVとNFのせいで、数十万人もの罪の無い人間達が死んだ。これからも更に増え続ける、百万、千万……そして、人類は滅びるだろう」

そこで映像は切られ、部屋に明かりが戻る。

「我々が、何もしなければの話だがな」

「我々……?」

アリスの呟きに答えるかのように紳の隣に座っていた唯が立ち上がると、口を開いた。

「今この艦にいる全てのNF、SVの兵士は。全員BNと共に活動してもらいます」

指揮下に入るのはでなく、共に行動という言葉にその場にいたBN以外の兵士達がざわめく。

「活動目的はERRORの完全排除、神の破壊です。今こそ我々の力を集結させる時、そして世界を、人類を救う聖戦を行ないます!」

唯の言葉に紳も続いて口を開き言葉を続ける。

「まだ遅くない、今からでも我々が手を組めば世界を変えられる……いや、変えなければならない。近い日に俺達は世界中に中継を繋ぎ人々に呼びかける……もう、人間同士の戦争は終わりだ」

紳はわかっている、今人類が何をしなければならないのか。

最終的にどうすれば、どうなれば人類が救われるのかを。

BackNumbersを率いる男の目的は最初から一つだけ。世界を、人類を救うことだ。

紳の言葉を聞いてアリスは立ち上がると、紳の方を向いて口を開いた。

「Saviorsの代表として貴方の意見に賛同します!ゼスト、文句は無いわよね?」

アリスは横を向きゼストに問いかける、その目は力強く、先程まで見せていた弱々しい面影はどこにもなかった。

「今SVを率いているのはお前だ、お前がそうすると言うのならSVに属す俺達はお前の遣り方に従うだけだ」

ゼストの言葉にアリスが微かに笑顔を浮かべ、紳達の方を向いて頷いた。

それを見て紳はNFの兵士達のいる方に顔を向ける、由梨音はどうしていいかわからず赤城に目を向けると、赤城は何の躊躇も無くその場に立ち上がった。

「NF代表ではないが、私は協力させてもらうつもりだ。由梨音、お前はどうなんだ?」

「わ、私は赤城少佐についていきます!」

「そうか、ありがとう。……それと艦にいるNFの兵士達には私から伝えておこう、それで良いか?」

赤城の言葉に唯は安心した表情を浮かべるが、相変わらず紳は鋭い目つきで顔色を一切変えない。

「構わない、数時間後BNの基地に到着する。その時に詳しい作戦内容を───」

紳の言葉を遮るかのように鳴り響く警報機、その数秒後に艦内に衝撃が走る。

すぐさま艦の司令室に連絡を取る紳、現状報告を済ませる兵士の声は、驚きと戸惑い入り混じっていた。

「か、風霧総司令官!未確認機体が突然姿を現した後、艦に張り付き甲板に穴を───」

そこで通信が切れてしまい現状を確認できなくなる、衝撃は収まり皆壁や手から手を放すが、今度はけたたましい銃声が扉の向こうから聞こえてくる。

だが銃声はすぐに止むと、閉められている扉が勢い良く開いた。

その場にいた羅威や穿真達は懐に入れていた銃を取り出し扉の方に向け、小銃を持っている兵士達も同様に銃を構え銃口を扉に向けた。

開かれた扉から一人の男がゆっくりと部屋の中に入ってくると、数歩歩いた所で足を止めその場にいる人間の顔を見渡していく。

「おやまぁ、人類代表の人間達が大集合してるじゃねえか。雑魚どもが集まった所で、何もできやしねえのになぁ」

そう言ってからかうように笑ってみせる男の顔は、その場にいた兵士達は誰もが知っていた。

だが知っていた人達でも驚きが隠せなかった、今まで見てきた男とか明らかに雰囲気が違う。

その場にいた多くの兵士達は男の顔を見て声を出さずに動揺した表情で銃を構えており、その様子を見て男は首を傾げる。

「おいおい、お前等俺を忘れたのかぁ?全く……」

男は瞬時に巨大な黒剣をその場に出すと、その剣先を床に突き立て赤く濁る目を見開き口を開いた。

「俺は甲斐斗、最強の男だ」

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