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第77話 伴う、損失

───「君がここにいるって事は、どうやら決心がついたみたいだね」

その青年の言葉に後ろに振り返るフィリオ達、そこには平然とした表情のテトと、体を震わせ怯えた表情をした第1MGが立っていた。

真っ先にゼストがアリスとフィリオの前に立つと、テトは小さく手を振り出す。

「やぁゼスト、こうやって会うのは久しぶりだね。今日は君が大切にしていたフィリオを貰いに来たよ」

ゼストの怒りに震える眼差しを受けながらもテトは余裕の笑みを浮かべていた。

そしてテトは震える第1MGの頭を掴むと勢い良く突き飛ばしその場に転ばせた。

「い、たっ……」

すぐに起き上がろうとする第1MG、だがテトはその小さな背中を踏みにじる。

それを見ていたフィリオは我慢しきれずゼストの前に移動すると、テトに手を向け振り払った。

「今すぐその足をどけなさい!」

声を荒げるフィリオを楽しそうに見つけるテト、第1MGの背中を踏みつける足をそっとどけると右手をフィリオの方に向けた。

「うん、いいね。今君はSVの創始者フィリオ・リシュテルトだ。でもこの子を渡せば、君は僕のものになり全ての地位が消え、ただの人形になる。遊ばれるだけの、一人の人形に」

「私はどうなっても構いません、神が起動すれば全て済むでしょう。だから───」

フィリオは右手を伸ばしテトの右手に触れると、テトは勢い良くフィリオの腕を掴み自分の方へ引き寄せると、ゼストとアリスのいる前で無理やり口付けを交わした。

「ふふっ……これで君は僕の物。ほら、第1MGは君達に上げるよ、それで精々頑張るんだね」

そう言うとテトはフィリオの腕を掴んだまま後ろに下がっていく、すぐさまゼストが第1MGを抱きかかえると、巨大な陣が描かれている中心へと運ぶ。

アリスはゼストや第1MGは眼中に無く、悲しげな表情であの男の下に行く姉をじっと見つめていた。

「アリス、すぐに儀式だ……アリスッ!」

ゼストが呼びかけるとアリスは後ろに振り返りゼストの所へ向かう。

「さて、それでは僕と共に来てもらうよ。文句は無いよね?」

「はい……ありません」

フィリオの返事を聞いて満足なのか、テトは機嫌良くその場から離れ部屋から出て行きその後ろをフィリオは無言でついていく。

今のフィリオはそれしか出来ず、今のアリスは神を起動させる儀式を行なう事しか出来ない。

それしか、人類と、姉を助ける方法は無かった。

テトはフィリオを連れてNFの格納庫に止めてあった黒薔薇トラディスカントに向かうと、一人胸部にある操縦席に座りハッチを閉めると、機体を動かし足元で立ち尽くすフィリオを掴み、腹部にあるハッチを開きその中にフィリオを誘導した。

真っ暗な、操縦席とはまた違う席にフィリオは戸惑っていると、前方にモニターが現れ操縦席に座るテトが映し出された。

「NFとBN、そしてSVの戦闘が始まる、それを今から僕と一緒に見に行こうじゃないか」

「戦場に向かうおつもりですね……」

「そうだよ、しっかり目に焼き付けるといい。君の仲間たちが死ぬ姿、そして……神が起動する瞬間を」

「てっきり逃げると思っていました、幾ら貴方でも神には敵いませんからね」

「神……ねぇ。本当、君は今まで何を見てきたんだい? ああ、怖い怖い……温かい希望なんて幻影に過ぎないのに、それを必死で信じる君達人間は、本当に馬鹿で、愚かだ」

「貶したいのなら好きに言ってください、私は神を、未来を信じます」

「うん、そう言ってくれる方が僕も君に教えがいがある。さぁ、行こうか。SV最後の戦場へ……」

テトの言い放った言葉に疑問を持ちながらも、フィリオはただ黙って祈り続ける。

そんなフィリオを見てテトは笑みを浮かべながらもじっと見つめ目にその姿を焼き付けていた。

無理もない、天国のような温かく豊かな場所で暮らしをしてきた可憐で清楚なお嬢様が、後に永遠の地獄を味わうと思うと、自然と笑みが零れてしまうのだから。


───戦闘が開始された、NF軍の艦隊のハッチが全て開くと、BNの艦隊に向けて一斉に夥しい量のミサイルが放たれる。

その様子を見ていた紫陽花は艦隊の最前列に向かうと、紫色に光る花びらを散らしながら巨大な2枚の翼を作り出す。

「そんな物、私と紫陽花には通用しないわよッ!」

エリルはそう言うと操縦桿の引き金を引き、紫陽花の両翼に溜めていたエネルギーを解き放つ。

巨大な光の翼はNFが放った全てのミサイルを飲み込み次々に爆発させていく。

空は巨大な爆風に包まれるが、その爆風の中から今度はBNの放ったミサイルがNFの艦隊に降り注ぐ。

急いでNFの部隊がミサイルの迎撃を行なっていくが、その隙に戦場にいる全BN機がNF本部に向けて加速し始める。

「相手の前線は崩れた、各機……俺に続け」

紳はそう言うと待機させていた白義を発進させ、凄まじい速さでNFの部隊に向かって行く。

地上から僅かに浮き、低空飛行をしながら白義は敵の前線へ切り込み、前方に並んでいたギフツを次々に斬り捨てていく。

それを見て、聞いたBNの兵士達は白義に続き一斉にNFの前線に流れ込んだ。

「エリル、NFの空を制圧しに向かうぞ。羅威、地上は任せた」

紫陽花と白義は急浮上を初めると空に浮かぶ巨大空中空母へと向かい、前線には黄金の機体と、両手にドリルを装備した機体の2機が姿を表した。

「羅威、俺達はこんな所で立ち止まる訳にはいかねえ。俺達が誰よりも先に向かうぞッ!」

エンドミルは両手のドリルを回転させながらギフツやリバインに突っ込んで行き、次々に敵機の胸部に穴を開けていく。

数発のミサイルがエンドミル目掛け放たれるが、巨大な両腕のドリルを盾にするとものともせずに敵を破壊しに向かう。

それを見ていた羅威も操縦桿を握る手に力が入る、ラースがくれた新しい力を手に入れた今、自分の信念を貫くが為に機体を走らせた。


───羅威が基地から出る前、格納庫で新型の機体を渡されていた。

見るも無残だった神威が姿形を多少変え、全く別の次世代機となって蘇っていた。

「エリル、これは……?」

「羅威の新しい機体よ、ラースが考えててくれたの。設計図と資料書が机の上に残ってた……」

「ラースが、俺の為に……」

「わかんないわよー、ラースの事だからもしかして趣味の一環で作ったのかもしれないわね」

笑いながら冗談交じりでエリルはそう言うと、羅威も小さく息を吐き目を閉じて頷いた。

「そうかもしれないな。でも、あいつは口下手だから……こんな形でしか俺達にメッセージを届けることができなかったのかも、な」

そう言うと羅威は用意された自分の機体の元へ歩いて行く、エリルは羅威の後ろ姿を見つめた後、また小さな笑みを浮かべてエリルはその場を後にした。


───「生まれ変わった神威の力、試させてもらうッ!」

『─SRC発動─』

SRCが発動した瞬間、その場から一瞬にして姿を消す神威。

周りにいたギフツは困惑しすぐに辺りを確認しようとするが、いつの間にか神威はギフツの目の前に立っていた。

「なッ!?」

兵士はただ驚く事しか出来ず、神威の振り下ろした拳がギフツの胸部を貫く。

近くにいたギフツが神威に照準を定め小銃を撃つが神威は特化された両足を使い驚くべき速さで弾丸を交わし間合いを近づける。

そして両腕に帯電させていた電気をギフツの胸部に放つと、機体は瞬く間に電流が流れ動力源が爆破を起こし機体諸共吹き飛ばす。

その隙を狙い神威の背後を狙おうと3機のギフツが小銃を向けるが、神威は背後を見せたまま跳び上がると、華麗に機体を回転させると同時に両腕の電撃を一斉に放ち2機のギフツを破壊する。

残されたギフツが困惑しているのを見て神威は急降下をしながら回し蹴りをギフツの胸部に当て吹き飛ばす。

「これがSRCか、予想以上の動きだな……これならあいつを止める事も……」

その時、一機の機体が神威の横を擦れ違い駆け抜けていった。

見覚えるのある機体に羅威は後ろに振り返る、それは愁が乗っていたあの機体だった。


───「戦闘を早期終結させる……それが可能なのは、俺のアギトしかいないッ!」

BNの艦隊の中心部に走るBNの主力巨大戦艦、狙いはその艦だけだった。

その周りの機体と艦隊は眼中に無い、狙いはただ一つ。

ただ1機敵陣に突っ込んでいくアギト、レーダーを見ればそれが一目瞭然だった。

アギトの進行を止めようと艦隊の周りにいる我雲が小銃を構えアギトに向けて発砲していくがその程度の攻撃で怯むアギトではない。

次々に弾丸はアギトに命中するが、アギトの装甲に傷一つ付ける事も出来ず進行を止める事が出来ない。

それならとLRSを片手にアギトに近づく我雲だったが、アギトは我雲の攻撃を避けると同時に左腕を使い我雲の胸部を貫きながら速度を変えず走り行く。

そう、眼中に無かった。ただ目の前を遮るものを払うかのように、簡単に我雲を、嘗ての仲間を破壊していく。

アギトは止まらない、BNも止められない。一直線に真正面から向かうアギト、その進行上にあるBN艦が対戦艦兵器の三連装砲塔をアギトに向けていた。

「撃てぇッ!」

艦長の声と共に45口径の砲弾が一直線にアギトに向けて放たれた。

砲弾はアギトに直撃、強烈な爆発と爆風が一瞬にしてアギトを包み込む。

「所詮は機体、幾ら頑丈であろうともこの威力の前では木端微塵だな」

モニターを見ていた艦長はそう呟くが、オペレーターは異変を感じていた。

「レーダーに反応有り!?まだ敵機は存在しています!」

「……驚いたな、では……反応が消えるまで撃ち続けろ!」

BN艦のハッチが開き次々に放たれるミサイルは全てアギトに向けて放たされる。

爆煙の中に次々に入っていくミサイル、たった1機に艦にある武装のほぼ全てを使い攻撃をしかけていく。


……だが、それでも。アギトが足を止めることはなかった。

艦の攻撃をものともせずにアギトは巨大な右腕を振り上げ、目の前まで迫ってきた艦に向けて振り下ろした。

戦艦の装甲に亀裂が走り巨大な穴を開けると、強引に突き破りながら艦内へと侵入していく。

しかしそれは一瞬の出来事だった、気付けばアギトは艦から出ており、後ろを振り向けば煙を上げて強烈な爆発を起こす艦の残骸がそこにあった。

「俺はこの力でフィリオを助けるはずだった、でも助けられなかった……力の差だ。

 力の差を見せつけられ、俺はフィリオを助ける事が出来なかった」

幾ら足掻いても敵わないなら、どうすればいい。

無駄死にすればそれで終わる、それで終われて本望ならそうすればいい。

だがそんな事誰が望む?自分も周りも死など望んではいない。

だから歯を食い縛り耐え続ける、涙を流し、拳を握り締め、ただひたすら。

それが結果的に、光ある未来になるのならそれも出来るかもしれない。

かもしれない、未来の為に犠牲になった人は尊い犠牲になるのか、それとも名誉ある犠牲になるのか。

人を犠牲にして、本当に幸せな未来を築く事が出来るのだろうか。

戦争で、世界は平和になるのだろうか。

……そんな事わからない、だからこそ不安だった。今自分のしている事は、本当に正しいのか。


───「愁、今君はどんな気分なのか。僕が当ててみようか」

アギトの動きが止まる、あれだけ猪突猛進していたアギトがピタリと動きを止めたのだ。

その男の声、そして顔を見れば愁の心に怒りが込み上げくる、自分から守るはずの人を奪った男。

黒薔薇はアギトのすぐ前に浮かんでいた、武器も持たずにただアギトの方を向いて止まっている。

「テト……ッ!」

「うーん、その態度から見てまず。君は僕を殺したい程に憎んでるねぇ、正解?」

「ああ正解だ!どうしてお前がここにいる、まさかフィリオもそこに!?」

「ああ、フィリオも一緒だよ。見せてあげようと思ってね、この戦場を」

「だったら俺に何のようだッ!」

怒りを露にする愁にテトはいつも通り不敵な笑みを見せながら口を開く。

「ねえ、君は悔しくないのかい?悔しいんだろ?愛する人を他の男に奪われて」

「な、何が言いたい」

「君はあの場にいなかったよね、情け無い男だ。その事から考えて君はフィリオを愛していない……僕よりね」

その言葉が愁の怒りに触れた。素の感情を曝け出し、止まっていたアギトがまた動き始める。

「ふざけるな……ふざけるなぁあああああッ!」

声を荒げながら愁は停止している黒薔薇の元へと走りアギトの拳を突き出そうとした。

だが、アギトの拳は黒薔薇の胸部に届くすぐ目の前で止まった。

「おやおや、あと少しで君はフィリオを殺していたよ」

黒薔薇にはフィリオが乗っている、その事を最初に聞いておきながら今愁はフィリオの乗る機体に向けて拳を突き出そうとしていた。

「愛する人を君は殺そうとした、君は愛より、目の前の憎しみを見ている、実に愚かだ」

黒薔薇に鮮やかな紅色の模様が浮かびあがると、赤い光を放ちアギトを吹き飛ばす。

アギトは吹き飛ばされながらも何とか踏み止まり衝撃に耐えると、黒薔薇はゆっくりと浮上していく。

「それに僕は神よりフィリオを取った、君はフィリオより神を取った。僕が君よりもフィリオを愛していると思わないかい?」

「そ、それはっ……!」

「それは……何だい?」

愁は何も言い返せない、テトの言っている事は全て事実なのだから。

テトの言葉に罪悪感が押し寄せてくる、自分のしていた事は間違いだったのか、本当はフィリオを助けるべきではなかったのか、と……しかし、それは既に遅かった。

「可哀想な男だねぇ、君は。これ程まで無様な人を見るのも久しぶりだよ」

「何とでも言え!俺は馬鹿で無様かもしれない、だが俺はフィリオを───」

「うるさいよ」

テトの力が篭った声で呟いた一言は、簡単に愁を黙らせた。

笑みを浮かべていないテト、真剣な顔でただ愁を睨み続けている。

「……言い訳は聞き飽きた。君はここで精々世界の為に戦うんだね、それじゃ」

そう言い残しテトの乗る黒薔薇は浮上していき愁の元から離れていく、愁にはそれを追う事すら出来なかった。

「俺は……何の為に、戦っているんだ……」

強烈な爆発と共に吹き飛ぶアギト。

レーダーを見ればBNの機体が辺りを囲み、アギトに向けて集中砲火が行なわれていた。

……涙が止まらない、ボロボロと自分の足元に零れ落ちる涙を見つめる愁。

今まで何を学び、何を教えられ、何の為に戦い、何故自分は戦場に立っているのか……。

仲間と共に戦い、裏切られ、失い。仲間を裏切り、仲間を殺し、失い。

思い返せばいつも失ってきた、何を……全てを……。

家族を失い、親友を失い、仲間を失い、愛する人も失った。

自分の元から皆離れていった……いや、離れていたのは愁自身なのかもしれない。

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